デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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お客様患者デー(アルゴン本社)

* * *

 

“こちらは現場です! つい先ほど「暴動が起きている」と通報のあったこのーー天海市あかね台の『あかねモール』では、店内で暴れる大勢の人影が確認できます!

 現場に居合わせた利用者の話によると「買い物していたら急にたくさんの人が暴れ始めた」とのことで、これは現在も続く物価高騰への怒りが噴出した形でしょうか……? その原因は未だ不明です。

 現在、このように地元警察が封鎖線を張り、敷地内への立ち入りは禁止されています……”

 

 現場へ向かうというカツオとヒトミに、護衛役としてシックスとユーイチをつけ送り出すと。

(もちろん俺が護衛役を務めるべきだったが、俺とネミッサはファントムのお尋ね者のため、暴動が起きていて報道陣まで集まっててしかも昼日中のスーパーという目立ちそうなとこ行ったらまた刺客に絡まれ逆に足手まといになると判断して避けた)

 俺たちはアジトで情報収集を開始した。

 テレビの報道をチェックしながら、ネット掲示板に流れる生きた最新情報を洗ってゆく。

 桜井とランチは手分けして、パラダイムX含めあちこちのローカル掲示板のチェックに勤しんでいる。

 俺とネミッサはニュースメディア担当だ。アジト内のテレビとラジオをいじり回していると、急報を受けいち早く現場にかけつけた局が居たらしく、中継をしている局が見つかった。

 ガラスの割られたスーパー前にびくびく背を向ける現場リポーターから画面が切り替わり、ニュース番組のセットに腰掛ける二人が映る。

 アナウンサーがひとつ頷いてから、特徴的な格好をした隣席の男へと尋ねる。

 

“この平和な日本で暴動とはーーどう思いますか、コメンテーターの助六さん?”

“いわゆる米騒動ですね。

 終わらない物価の上昇についに我慢出来なくなった人々が、あかねモール、大規模ショッピングセンターで値段表示を見て暴れ始めたのでしょう。

 これはもう現代における大塩平八郎の乱ですね”

“そうですね助六さんありがとうございました一旦CMです"

 

 ニュース番組は慌ただしくCMに入った。

 なんかコメンテーターが無茶苦茶言ってたけど放送事故とか大丈夫なのか。

 あのコメンテーターCM中にしばかれてそう。

 俺はネミッサと顔を見合わせた。

 

「さすがに、米価値上がりで暴動が起きたとは思えないが……」

「そもそも。無気力症になったカツオの父親が、急に暴れ出してあかねモールへ突っ込んでいった、って話じゃなかった?

 物価上昇は関係ないんじゃない?」

 

 まあ市民が暴れ出すのも納得の、昨今のとんでもない物価上昇ではあるのだが……。

 俺は。自分がそもそもファントムから離反したきっかけであるーーマニトゥの干渉実験を思い返していた。

 垣間見た実験結果のデータを思い出す。

 マニトゥの干渉を過剰に受けた人間は、漏れなく廃人と化す。

 その様は生ける屍といったような、ごく無気力なものだったが……

 ……確か。

 何か刺激を与えるとーーきわめて凶暴に暴れ出す、という実験結果も出ていたのではなかっただろうか?

 

「この暴動は、無気力症患者たちが暴れ出した可能性が高いな……」

「えっ? 無気力症ってーーまるで動かなくなるのに?」

「……。

 俺も中間報告を盗み見ただけだから、詳しいことまではわからんが……。

 マニトゥの干渉を受け過ぎた被験体は。何かがトリガーになって急に暴れ出すーー確か、そういう実験結果が出ていたはずだ。

 ファントムでは、な」

 

 俺が袂を分かった古巣の名を挙げると、桜井やランチの視線がほんの僅かに細められるのが分かった。

 その反応の真意はどうあれ……まあ、俺が元々、敵側の人間だったのは間違いない事実だ。

 

「じゃあ、カツオのお父さんも……?」

「恐らくはそうだろう。無気力症に罹患し、そして回復しないまま、急に暴れ出した。

 あかねモールに何があるのかはわからないが……暴れ出した罹患者たちがそこに集まっていると推定するならば。

 ーーかれらを狂わせる何かが。

 そこにあるのだろう」

 

 俺がキメ顔でそう断定した瞬間。

 ちょうどタイミング悪く、テレビから某チェーンのCMが流れ始めた。

 

“ジュネスは毎日がお客様感謝デー!

 来て、見て、触れて下さい!

 ♪エブリデイ・ヤングライフ・ジュ・ネ・ス♪

 

 車内に沈黙が落ちた。

 

「……。毎日がお客様患者デー?」

「……。少なくともエブリデイヤングライフジュネス以外の何かだな」

 

 ジュネスのセールのせいで暴動が起きたみたいな雰囲気になった。

 そんなわけがあるか。

 小学生女児を定期的にジュネスへ連れて行かないと暴れ出すとでもいうのか。父親は早く警察から帰ってくるべきではないのか。

 というかこんな時にふざけるなネミッサ。

 

「うん?ーーメールが届いたな。

 なんだこの添付ファイルは……滅茶苦茶重いな……

 ウィルスチェック問題なし、ただの動画ファイルと……

 ハァ!? なんでこの長さの動画ファイルが、送り付けられるくらい軽いんだ!?」

 

 メールソフトへの着信を確認していたらしい桜井が何やら騒いでいる。

 

「どうした?」

「いや……チームメンバーしか知らないはずのアドレスに。

 なぜか、部外者からメールが……」

 

 メールの送信者欄を見て、その口元から煙草がぽとりと落ちる。

 

「!?ーー門、倉……?」

 

 驚きに手を止めている桜井の前の画面では。

 メールに添付されていたらしい動画ファイルが、再生を開始していた。

 

“やあーー友よ。桜井、久しぶりだな?"

 

 画面の中では、高級そうな応接セットを背景に立つ、半分銀髪にグラサン、デザイナーズスーツの男がーー口元に笑みを浮かべ、シャンパングラスを掲げていた。

 アルゴンソフト社長、門倉だ。

 

“マニトゥシステムの防衛構築のみならず。

 天海の平穏を脅かすハッカーどもを集め、こうして検挙の機会まで用意してくれた事、礼を言いたい。

 おかげで犯罪者どもは一網打尽だ。“

 

 親しげな口調で語りかけ、満足げにグラスを煽る門倉。

 こいつは何を言っている……?

 

“スプーキーズの連中が無事片付いたらーーまた、共に祝杯を上げよう。

 ご苦労だった……報酬を振り込む。ゆっくり休んでくれ“

 

 グラスを掲げる門倉の姿を最後に、動画の再生は終わった。

 

「「「「…………。」」」」

 

 誰も何も言わなかった。

 門倉の発した言葉の意味がじわじわと理解をもたらすと共に、無言の緊張がアジト内を埋め尽くしてゆく。

 煙草を取り落としたまま、桜井は沈黙する皆を見回す。

 うわずった声で否定する。

 

「! 違う。こんなのは、デタラメだーー」

 

 ーーその時。

 ♪ポロポロン、ポロポロン。

 テレビからニュース速報の通知音が流れた。

 機械的に振り返る俺たちの前でーー

 

“えー、番組の途中ですがただいま緊急速報が入りました。

 現在発生中のあかねモール暴動を扇動した疑いで、都市計画庁は特定のハッカー集団を検挙しました。

 天海市条例に基づき。以下の検挙対象者は、氏名公表の上、市民IDが剥奪されます。

 北川 潤之介。

 迫 慎吾。

 芳賀 祐一。

 遠野 瞳。

 五十野 賀津夫ーー“

 

 速報が流れ続ける車内。誰も動かない。

 恐らくは全員の頭の中を、今叩き込まれたばかりの情報がぐるぐると回っている。

 やけに親しげな門倉からの、桜井への礼。

 そして。

 スプーキーズの面々が、暴動を引き起こしたとして検挙されている。

 最初に立ち上がったのはランチだった。

 

「な、何だこれは!

 どういう事だ……リーダー!」

 

 食ってかかるランチに、桜井は首を横に振ることしかできない。

 

「僕にもわからない……!

 だが。これはきっとーー嵌められたんだ!」

「嵌められた……?」

 

 ランチは怒りに震え、テレビの画面を指差した。

 

「検挙対象者に!リーダーの名前だけ無いじゃないか!

 さっきの門倉からのメールといい……

 リーダー! まさか、俺たちを売ったのか!?

 いや……

 はじめから、敵側の人間だったっていう事なのか!?」

 

 桜井も立ち上がった。それを見て、ランチは唯一の出入り口へと立ちはだかる。

 

「防衛構築……アルゴンから仕事を受けていたのは本当だ。でもそれは、このアジトのローン返済の為、請け負ってた仕事のひとつに過ぎない! 信じてくれ、僕は門倉と個人的な繋がりなんか無い!」

「そんな話今初めて聞いたぞ!? アルゴンが深く関係していると早くから分かっていたのに、どうして今まで話さなかったんだ!?

 門倉の言った通りーー裏で手を結んでいたからじゃないのか!?」

 

 激しく言い合う二人に、俺は抑えた声量で話しかける。

 

「ーーやめろ、ランチ。

 恐らく桜井は敵じゃない」

「!? ウラベさん!? なぜリーダーを庇うんだ!?

 まさか、アンタも……!?」

 

 俺に対しても身構えるランチ。俺は構わず続ける。

 

「落ち着け。

 本当に桜井が裏切り者ならーー

 あの女……マヨーネがこのアジトに何をしに来たか。思い出してみろ」

「……ハァ?」

 

 唐突な質問に、ランチは武器を探る手を止めた。

 相手に冷静さを取り戻させるには、相手の頭を使わせるに限る。

 

「あの女はーー確か、このアジトを丸ごと爆破しようと、爆弾を仕掛けに来てたんだろう? それが何だよ?」

「そうだ。

 桜井が裏切り者ならーー桜井ごと吹っ飛ばそうとするはずがない。

 大体、わざわざ爆弾仕掛けに来るより、内側に裏切り者がいるんだからもっとラクな手が幾らでも使えたはずだ」

 

 それができないから、ハッカーの機材ごと爆発で始末しに来たんだ。

 そう言うと、ランチは身動きを止めた。

 怒りを引っ込め、何か考え込むような顔をしている。

 もう一押しか。

 

「それに……

 自分たちにとって目障りなスプーキーズを。

 無気力症にできなかったから、爆弾を仕掛けに来た。

 だが爆弾でも仕留められず、さらに工場長ーー魔王シェムハザまで倒されたから、でっち上げで犯罪者に仕立て上げた。

 加えて内部分裂を起こさせるため、桜井に内通者の疑いがかかるように仕向けた。

 敵の書いた筋書きとして考えると、しっくりくる。

 ーーそうは思わないか?」

「……それは……、」

 

 ここまでの桜井の献身を考えれば、裏切り者とはとても思えない。

 内輪揉めを起こさせようとするセコい策だ、と告げると……ランチはようやく冷静さを取り戻したらしく、席へと戻った。

 気まずげに。桜井へと頭を下げる。

 

「すまん、リーダー……。

 つい疑っちまった……」

「ーーいや。きみの疑いももっともだ。

 だが、どうか信じてくれ」

 

 二人を忙しく見回していたネミッサが、ようやく口を開いた。

 

「ーーでもどうするの? これから。

 この次世代情報都市じゃ。市民ID剥奪されたら何もできなくなって、死人同然……って聞いたけど」

 

 市民の生活はすべてIDにタグ付けされているため、買い物ひとつ満足にできなくなるらしい。

 

「……決まってる。

 さっさと門倉を倒してーー濡れ衣を晴らさないと」

 

 煙草に火を付け直す桜井の言う通りーーここから先は短期決戦だ。

 

「その、門倉のヤサなんだが……。

 ゴタゴタしてて言うのが遅れた。

 どうも少し前から、あちこちで騒ぎになってる」

 

 ランチが向けてきたノートPCの画面には、サマナーたちが情報交換を行う、サマナーネットのスレッドのひとつが表示されている。

 どうやら今なお書き込みが多発しているらしく、見る間に高速でスクロールしてゆく。

 

「この書き込みによれば。

 “アルゴン本社のシステムが、新たに出現した電霊に乗っ取られた“ーーとある」

 

 思い出すのは、かつて天海空港で発生した管制システム乗っ取り。あの時は電霊ウィンペだったか。

 死の歌から切り離されたマニトゥシステムは、いよいよ人の制御すら外れーー暴走し始めている。

 俺とネミッサは顔を見合わせた。

 

* * *

 

 アルゴン本社。

 社員で溢れ返るはずのエントランスには既に人影ひとつなく。

 真昼ながら不気味な暗さに静まり返っている。

 

 社内システムを乗っ取られた社屋ビルは、天海空港同様に、何が起こるかわからない。

 桜井とランチをアジトに残し。俺とネミッサはふたりきりでアルゴン本社ビルへと踏み込んだ。

 階段そばにフロア案内板を見つけ、俺たちは標的を再確認する。

 

「サーバルームA・Bだと? 二つもあるのか?」

「さすがは、あのパラダイムXの運営会社ね……」

 

 システムを乗っ取った電霊が居るだろうサーバルームが二つ、社屋の東西に対になるよう別々に存在している。

 まあ当然、どちらも改めないといけないだろう。

 エネミーソナーもまあまあ赤い。

 苛烈な道行を予想し、思わずため息をついたところで……そいつは現れた。

 

「よう。久しぶりだな。

 ーーそっちの麻薬王は初めまして、か」

 

 この伏魔殿でとても気さくに声をかけてきたのは。

 まるで歌舞伎役者のような服装と化粧に身を包んだ、ひとりの男だった。

 まったく知らない相手である。こんな奴に知り合いはいない。

 

「……は? 誰だお前?」

「えっ? ウラベの知り合いじゃないの?」

 

 だがこの頓狂な格好。どこかで見覚えがある。

 俺は必死に記憶を辿り……つい先程見たテレビの中に、その姿があったことを思い出した。

 

「ーーああ! さっき見たニュースのコメンテーター!

 辛口コメンテーターがこんな所に何の用だ?

 突撃現場取材感覚でうろついてると死ぬぞ?」

 

 俺の返答を聞き、そいつは肩をすくめた。

 

「おいおいウラベ。まだ思い出さないのか?」

「思い出すも何も、お前みたいな知り合いはーー」

 

 と、そこまで言ったところで。

 そのキザな仕草と喋りが似合う奴をひとり、思い出した。

 だがそいつは今はチンピラみたいな外見をしていたはずだ。

 まるで心を読んだかの如く、事も無げに答えてくる。

 

「ああーーあの身体なら、もう乗り換えた」

「乗り換えた、ってお前な。そんな車みたいに……」

 

 今はこの辛口コメンテーターの身体を使っているらしい。

 梨園なのか芸人なのかわからんが。そんな目立つ上にメディア露出の多い奴に乗り移って大丈夫なのかこいつは?

 

「ーーねえ、ウラベ。さっきから一体誰なの?この人?」

「あ……ああ。ネミッサ。紹介しよう。こいつはーー」

 

 ネミッサにどう紹介したものか悩む。

 悩む俺を、やつは両腰に手を当て片足の踵を上げた独特のスタイルで、にやにやと見つめている。

 

「こいつはーー旧い知り合いの。

 悪魔召喚士、葛葉キョウジ、だ。

 ……たぶん」

「たぶん?」

「いや、こいつは身体を乗り換えたりするんでなーー

 正直、確信が持てない」

「身体を乗り換える?そんな事できるの?」

「いやお前も散々やってるだろうが」

「アタシはそもそもベースとなる身体が無いし」

 

 そうか。ネミッサは身体を借りてるだけか。

 キョウジは身体を借りてもそのまま借りパクで、返さないだろうしな。

 そう考えるとネミッサの方が良心的なのか……いや本当にそうか?

 俺たちの応酬を見て、そのキョウジらしき人物は現状を把握したようだった。

 

「なるほどな。三年ぶりに顔を合わせてみれば。

 まさかウラベお前まで、ややこしい身体の乗っ取りに関わっているとはな。

 こういう宿命って伝染するのか?」

「するとしたら確実にお前のせいだろうが」

「違いない。ハハ。

 まあ、もっともーー社屋全体を乗っ取るのに比べたら。

 俺やそいつなんて可愛いもんだがな」

 

 言うと、キョウジーー今はスケロクと名乗っているらしいーーは、薄暗いフロア天井を見上げた。

 時折スパークの走る天井配線は、システムを乗っ取った電霊の実在を否応無しに感じさせる。

 そう言えば、キョウジはどうしてここにいるんだ?

 

「おい葛葉。どうしてお前がここに?

 この天海でのファントムの計画を潰すよう、ヤタガラスから指令でも受けたのか?」

「まだ調査、偵察の段階だったが……そいつを命じられたのはレイだ。ちょうど俺が不在の時でね。

 身体を換えてから、合流しようと急いだんだがーー」

 

 なるほど。俺はちょっと笑った。

 そもそも身体が換わってるから、レイたちにはキョウジがわからないわけか。

 それは確かに、見つけてもらえない。自力で探し当てるしかないだろう。

 

「任務の調査先へ先回りしていけば、いずれ会えると思っていたが……」

 

 キョウジは首をすくめる。

 どうも未だに会えていないらしい。

 まあこいつ、巡り合わせの運とかえらく悪そうだからなあ。

 そもそも普段の素行が悪い。

 

「ーーところで。どうする? ウラベ」

 

 急に表情を切り替え。キョウジは何だか、ウキウキした様子で話しかけてくる。

 嫌な予感しかしない。

 

「……。どうする、って。何をだ?」

 

 こいつがこんなに楽しそうにしている理由なんて、一つしかない。

 キョウジは笑顔で口を開いた。

 

「手分けしてサーバルームを攻めるか?

 それともーー、ここで俺と戦うか?」

「何でだよ!!」

 

キョウジと協力する?戦う?(物理)

  • ここは協力する(キョウジとバトル)
  • 意味なく戦う(キョウジとバトル)
  • 意味わからんし逃げる(キョウジとバトル)
  • TALKで戦闘回避(キョウジとバトル)
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