デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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バトルジャンキー(タチの悪い人たち戦)

 

「まあどれを選んだところで結局戦うんだけどな?」

「結局それかよ! このバトルジャンキーがっ!」

 

 戦闘開始(回避不可)を宣告し。嬉々として仲魔を召喚し始めたキョウジを前に、俺はGUMPを引き抜いた。

 相変わらずのバトルジャンキーめ。

 一方。背後では、唐突な理由なき戦闘突入についていけないネミッサが置いてけぼりの顔をしている。

 

「ええ……? 何、この人味方じゃないの……? 敵なの……?」

「おそらく味方で旧知の人間で、しかも三年ぶりに再会した相手だが、まずーー戦わないといけない。

 ちなみに三年前もそうだった」

「ええ……なんで戦うの……?」

「わからん」

 

 長い付き合いだがキョウジの行動原理は未だにわからない部分が多い。

 単純に難敵と戦うのが好きなのかも知れないが、成長を示すのが再会の挨拶代わり、くらいに考えてる節もある。戦闘民族かな?

 ともあれネミッサも構えくらいは取ってくれた。あんまりやる気はなさそうだが。

 

「さあーーウラベ。お前の番だぜ?

 召喚が終わるくらいは待ってやる」

 

 見ればキョウジは仲魔五体を既に揃え、ポケットに両手を突っ込んで待機見物の構えである。

 げんなりしつつ、俺は奴の陣容を観察する。

 前列中央のキョウジを中心に。鬼女ランダと天使ソロネが両脇を固め、後列は霊鳥ヤタガラスを中心に魔王バロールと妖精オベロンが配置されている。

 うわあ前列に物理反射と魔法反射が一体ずついるよ。列攻撃や全体攻撃が必ず一部跳ね返ってくる、実にやりにくい陣形である。

 あと、この仲魔たちは一見まるで統一性が無さそうだが、実はふたつほど、強烈な共通点を持っている事に気付く。

 それは、全員がマハラギオン持ち。

 そしてーー全員が、キョウジより後の行動順になるよう配置されている点である。

 

「キョウジスペシャル」と呼称される、奴の必殺コンビネーションはーーまず符封術シャッフラーで相手全体を符に封じ、そして全体炎術マハラギオンで焼き払う、といったものである。

 これを1ターンで完結させるため。キョウジはまず自分がシャッフラーを唱え、続く行動順で仲間たちに5連続マハラギオンを唱えさせることで、1ターンキルを実現しようとしているのだろう。殺意高すぎでは?

 仮にシャッフラーが効かなくても大ダメージは必至だろう。また、火炎無効の相手でも、符に封じられた状態なら火炎が弱点になるから関係なしである。かかるまでシャッフラーを唱え続けておけばいつかは死ぬ。

 問題は、魔法無効や魔法反射の敵が相手だとこの戦法が使えない点だがーー実際に三年前、こいつは一度、魔法反射持ちの魔人シドに破れているーーこのパーティメンツなら別に、物理攻撃に切り替えたところで普通に戦えるだろう。

 もちろん、シドのやり口を真似る事はできる。速30近い俺が毎ターン先制で魔反鏡使い続けさえすれば「キョウジスペシャル」は封殺できるのだが。キョウジは確かレベル60で、ほか五体の仲魔たちも40〜50辺りである。殴り合ったところで普通に物理で殴り負けするだろう。あとこれだと俺がまったく動けない。

 反射ダメージ覚悟で、ネミッサの全体魔法で全員を削っていけばダメージレースで競り負けることも無いんだろうが。キョウジは全体回復術メディアラマとかも使えるんだよな。普通に全快される未来しか見えない。

 うーん。隙がない。

 

「……どうした? サレンダーは認めないぞ?」

 

 認めないのかよ。

 俺は楽しげに笑うキョウジのステータスを確認する。

 

:スケロク LV60

:HP613 MP212

:力20

:魔12

:知14

:耐18

:速16

:運10

:天蓬釘把

:バスターショット

:通常弾50

:ドルフィンヘルム

:テトラジャマー

:ジャミングアーム

:レッガースラム

:使用魔法 ディアラマ メディアラマ ポズムディ マハラギオン マハブフーラ マハジオンガ マハザンマ マハサイオ メギド メギドラオン マハムドオン シャッフラー サバト

 

 

 ーー確かに強いのだが。

 

「……あれ……?」

 

 俺はその違和感に気づいた。

 ひょっとして……対策して、ない……?

 

「ーーお。何か思いついた、って顔だな?

 いいぜ、やってみろよ」

 

 ーー試す価値はある。

 俺はアイテム袋に手を突っ込み、底を漁った。

 買ったんだか敵が落としたんだか忘れたが。とにかく、ちゃんとあった。

 そりゃそうだ。滅多に使わないんだから。

 

「item:せがき米」

 

 俺はアイテム袋から取り出した白米をキョウジにぶつけた。

 

「うーーぐあああああっ!?!?」

 

 効果は覿面だった。

 地獄で飢え苦しむ餓鬼への施し米は、破魔の効果を持つ。

 他人の身体を乗り換えて生きる、いまの葛葉はやっぱりアンデッド認定のようでーー破魔術の効果は抜群だ。

 全身にぶち撒けられたお米のひと粒ひと粒が白い光を放つと、キョウジはおのが身を抱いて悶え苦しみ、そしてーー全身から黒い影のような何かが離れてゆくと同時に、身体は力なく倒れ伏した。

 やつの五体の仲魔達も召喚を解かれ、マグネタイト光を散らして次々と雲散霧消してゆく。

 戦闘終了である。

 

「ーーえっ。えっ……?」

 

 事態についてこれていないネミッサの眼前で。

 倒れたその身体は、もう二度と動くことはない。

 安らかな歌舞伎役者の死に顔は、まるで大往生を遂げたかのようだ。

 

「葛葉。ーー安らかに眠れ」

 

 手に取った黒帽子を胸に当て。沈痛な面持ちで旧友に黙祷を捧げているとーー案の定。

 目の前の旧友の亡骸が、むくりと起き上がる。

 

「……ええっ!?」

 

 当然の驚きを示すネミッサの前で、やつはフロアに胡座をかいた。

 そのまま、いつもの不遜な瞳で俺を見上げてくる。

 

「おいーー本当に死ぬかと思ったぞ」

「やっぱり普通に生き返ってくるんだな、お前……」

「カロンももう、顔見るなり乗船拒否してくるからな」

「三途の川を出禁になるのはお前くらいだよ……」

 

 こいつどうやって死ぬつもりなんだろう。

 いやそうじゃない。問題はそこじゃない。

 俺は旧知の相手として、またプロの一人として、どでかいセキュリティホールを指摘した。

 

「葛葉……。お前いま実質、人に取り憑く亡霊みたいなモンだろうが……。

 なんで少しも、破魔対策とかしてないんだよ……」

 

 こいつ、防具が生前(?)の頃と何も変わってない。

 そのため最大の弱点が属性防御もなく放置されている。素人か。

 奴は平然と答えた。

 

「ーー生きてる人間に破魔術かける奴なんていないだろ?

 俺の見た目は普通の生者だから、そもそも破魔が効くなんて考える奴はいないんだよ。事情を知ってるお前以外。

 それに実際ーー破魔かけられても、死ななかったろう?」

 

 不死に胡座をかくな……。というか単に、もう死そのものに嫌われてるだけじゃないのか……。

 もうこいつほとんど人間やめてないか?

 

「……。それでも、一時的に戦闘不能には陥っただろうが……。

 サマナーの基本である、弱点属性の防御対策くらいはしろよ……」

「やれやれ。本家よりもうるさい奴だな。お前は俺のおふくろか」

 

 と、そこで奴はネミッサを見た。

 

「だいたい、そっちの憑依者だって同じだろう?

 見た感じ破魔対策なんて何もしていないだろ。

 呑気に人の事を言ってる場合か」

「……はぁ?」

 

 俺はアイテム袋から同じ米を一粒取り出し、ネミッサへ投げつけた。

 当然、白く光ったりはしない。

 

「この通り、ネミッサに破魔なんて効かないぞ?」

「ーーは? 何でだよ?

 俺と同じ、憑依者なんだよな? そいつも」

「何でも何も……」

 

 ネミッサは何というか、可哀想なものを見る目でキョウジを見る。

 

「ーーアタシは別に。

 死体に取り憑いて動かす、悪霊とかってワケじゃないし……」

 

 ゾンビ扱いである。キョウジはやれやれと首を振る。

 

「おいお前それは俺が悪霊と変わらないって言いたいのか」

「実際やってること一緒だろうが……」

 

 心外といった様子で、キョウジは俺らに指を突きつけた。

 

「いいか勘違いするな。俺は、死んでなんかいない。

 ーーただ、元の身体を長く離れすぎて、戻れなくなってしまっただけだ。

 こうして動かせる身体さえあれば、普通に活動できる」

 

 破魔術が効果ある時点でもう諦めろよ……。

 世間一般ではそれを死んでるって言うんだよ……。

 

「ふっーー俺は、悪魔召喚士。

 世の常識になど囚われはしない」

 

 胸を張るな。だいたいその胸も人様からの借り物だろうが。

 

「外聞が悪いな。不用品の再利用と言ってくれ」

 

 ゾンビがエコ活動を主張している。

 まあ三途の川を反復横跳びするようなやつと生の定義について話しても無駄だろう。

 俺は話を戻した。

 

「で? 結局、葛葉はどうするんだ?

 このアルゴン本社に来たのは、レイとギンコが駆けつけるかも知れないと踏んだからだろ?

 あいつらならーー芝浜の、客船業魔殿にいると思うぞ」

 

 俺の息子も未だ、そこに匿われているはずだ。

 合流が目的なら、葛葉はそちらへ向かった方が早いだろう。

 葛葉は少し思案するような素振りを見せ、やがて首を振った。

 

「いやーー向かえば、また行き違いになるだろう。

 俺はこの手の運に本当に欠けていてな。

 ここはお前たちと共に、この事態を解決するため動こう」

 

 運がない自覚はあったんだな。

 

* * *

 

 そんな訳で三人で社屋内の探索を開始する。

 AとB、二つに分かれていると思っていたサーバルームだったが。

 実際にはさらに上の階、3階にメインサーバルームが存在しているらしい。

 システムを乗っ取った電霊はおそらくそこだろう。

 ただし3階へ至る道は封印が施されていて、赤青2種の封印を解かないと先へは進めない。

 赤と青の封印は、サーバルームAとBにそれぞれあるらしい。

 手分けして封印解除に当たっても良かったのだが、それほど大人数でもないし一緒に行く事にした。

 それにキョウジがいると道中がとても楽である。

 行く手を遮る敵が現れても、

 

「Shuffler」「Maha-ragion」

 

 俺たちは燃え尽きた符のカスを踏んで進むだけである。

 闇の中、結界の封印を手順を踏んで解除してゆくのだが。

 あちこちでフラフラうろついているファントムサマナー達と出くわす。

 どいつもこいつも、仲魔全部狩られて本人も傷だらけという酷い有り様である。

 

「! う、裏切り者ども……ッ! それに謎の侵入者……!」

 

 俺たちを見るなり身構えるが、既に戦闘不能らしく襲っては来ない。

 俺はキョウジを振り向いた。

 

「さっきから見かけるファントムの連中、全員ボロボロだが……こいつら全部、お前がやったのか?」

「ーーまさか。おおかた、勝てない相手に命令で突っ込まされて全滅した、ってだけだろ」

 

 キョウジは肩をすくめる。そうか。

 マニトゥによる大規模な魂の収集をファントムの計画の柱と考えるのなら。

 市民が利用するパラダイムXのサービス提供元である、ここアルゴン本社のメインサーバは、例えるなら城の本丸みたいなものか。

 そりゃあ、電霊に乗っ取られたらファントムサマナー総出で取り返しにくるはずである。

 でも、歴の長い俺とかフィネガンは離反してるし、マヨーネは謎のCMタレント扱いされたまま入院してるし、ユダはさっきその辺に転がって呻いてたし、もう所属サマナーの層が薄すぎて社屋の奪還・確保すらできないのだろう。神社界の社頭の現状と何も変わんねえな(以下略)

 となれば。強力な悪魔うごめくアルゴン本社を堂々と歩き回れるのは、

 

「あらーー貴方たち」「ナオミ……やはり雇われたか……」

 

 多分また緊急に雇われて派遣されたであろう、腕利きのフリーサマナーか、

 

「ーーウラベ? どうしてここに? その連れはーーあ」「レイ……。ようやく捕まえたぞ……」

 

 ファントムの不倶戴天の敵、クズノハのエージェントくらいのものである。

 

「……全員集合、だな」

 

 たぶん内部連絡なのだろう、物陰に引っ込んでこそこそ話し合うレイとキョウジを放って。

 俺はナオミに話しかけた。

 

「メインサーバルームへの封印なら解除したぞ。

 戦力が過剰すぎるし、もう俺ーー寝てていいか?」

「ダメに決まってるでしょう。前衛くらい務めなさい。

 それにーー、私の受けた緊急依頼には。社屋に侵入する不審者の排除も、含まれてるんだけど?」

「そこは融通を効かせてくれよ。報告なら『事態が沈静化してから侵入者を排除しました』でもいいだろ」

「あぁ。正面入り口から穏便に出て行ってもらう、ってワケね。

 ……ハァ。相変わらずの不良ねえ」

 

 ため息をつき、ナオミは俺の羽織るフライトジャケットを見た。

 

「正直ーーいつもの黒スーツよりも。

 そっちの不良ファッションの方が、よほど似合ってるわよ?」

「やめてくれ。歳を考えろ。

 だが……フリーの水ってやつにも、少しは慣れてきたのかも知れないな」

「まだまだよ。後輩さん?」

 

 下らない談笑を交わす俺とナオミを、ネミッサが少し離れた場所から珍しそうに見ている。

 

「……どうした?」

「いや、入っていっていいのかな、って」

「?」

 

 話しかけるのを遠慮するなんて、物怖じしないこいつらしくもない。

 と。そこで、ようやく話がついたのかーーレイが片手を上げつつ歩み寄ってきた。背後にキョウジもいる。

 

「ーーだいたいの事情はわかったわ。

 ウラベ、迷子を連れてきてくれてありがとう」

「誰が迷子だ」

「さて、じゃあ……ここにいる全員の目的が、システムを乗っ取った悪魔の退治、って事でいいのよね?」

 

 顔を見合わせ頷く俺らとナオミに、レイは両掌を合わせて提案した。

 

「ここはひとつーー手を組んで共闘、といきましょう」

 

* * *

 

 アルゴン本社3F、メインサーバ室前。

 

「どう? 準備はいい?」

 

 三節棍をゆったりと構えたレイに、俺たちは肯定の頷きを返す。

 即席のパーティである俺たちは、五人で陣形を組んでいた。

 まず前列中央にキョウジ。そして左側前列に俺、その後列にネミッサ。また右側前列にはレイ、その後列にはナオミ……という構成である。

 まあ前衛が務まる三人を前に出してあとの二人は後衛、というだけである。レイとナオミはステータス的には前後衛逆でも良いのだが、レイは通常攻撃が全体物理のため前衛、そしてネミッサとナオミは後列からでも攻撃可能なので後衛に回した。

 行動順としては俺、キョウジ、レイ、ナオミ、ネミッサの順に回るだろう。俺がターン頭のアイテム使用係で、ネミッサがターン末の回復役としてうまく機能すれば、他三人が攻撃専念して高火力を叩き出し、安定したパーティ構成になり得るだろう。

 残る一枠、空いた後列中央にどの悪魔を召喚しておくべきか……これについてはちょっと、議論となった。とはいえ

一行の中に悪魔召喚士は俺と葛葉しかいないから、実質二人でのディベートだ。

 攻撃担当を増やすべきと主張する葛葉と、回復補助担当を入れるべきと主張する俺。両者の主張は真っ向から対立した。ええいこの火力ジャンキーめ。ボス戦でまで短期決戦を狙おうとするな。ボス戦くらい慎重策を取りに行けよ……。

 社屋3階メインサーバルーム前で激論を交わす俺らを、他三人は呆れた様子で見ていた。まあもっともである。ボス部屋前まで来て今さら、どの仲魔で戦うべきか口論を始める連中も珍しいだろう。

 黙って見ていたレイが口を開いた。

 

「ーーじゃあ、造魔は?」

「「えっ」」

「二人が普段使いしてる造魔のどちらかであれば、いつもの戦い方にも合うって事でしょ?

 両方この場に喚んでみて、比べて決めたらいいんじゃない?」

「「……。」」

 

 一斉に押し黙る俺ら。レイの提案は至極真っ当だったが、俺らにはどちらも頷けないだけの理由があった。

 まず葛葉が、苦々しげな顔で喚びだした造魔はシノダミョウジンと名付けられていたのだが。

 そのきつねうどん和風テイストな名前とは裏腹に、背に両翼を持つ巨漢のマッチョな西洋天使風の外見をしており。

 しかもーーその天使風の外見を裏切って、なぜか魔法は一切使えず物理スキルしか継承していないという、ゴリッゴリの前衛タンクだった。後列では明らかに暇を持て余すタイプである。

 名前と外見と能力がまるで一致していない。というかどういう局面で投入することを想定した造魔なのかまるでわからない。

 純粋に疑問を覚え、これは一体どういう設計思想で作られた造魔なんだ?と尋ねると、葛葉はめまぐるしく表情を変化させた後、しぶしぶ自白した。

 なんでもーー見た目を天使風にしているのは破魔術が無効だろうと相手に思わせて破魔術を使わせないためであり、そして術の一切を継承させなかったのは万が一その破魔術でも敵に使って反射されたら自分が死ぬから、らしい。身体を乗り移ったばかりで装備が整わず、防御が紙だった頃は自分の代わりに前衛役もさせていたらしい。こいつもそれなりに苦労してんな。というか破魔対策は、こういった形で一応やってはいたのか。

 あと思い出したけど、そういえば信太明神ってのは葛葉とまあまあ縁のある社でもあったわ。まあ守り神というには程遠いが。

 そびえ立つ物理天使を見て皆が微妙な表情になったところで、じゃあ次はウラベの造魔を見てみようか、って流れになったが、俺はただ首を振り、そして道中で拾った速さの香を自分へ使っていた。

 俺の造魔ーーツクヨは。亡き妻の魂を無理やり繋ぎ止めているとは言え……ネミッサが乗り移らないと、動く事さえままならない。よって今、召喚は無理だ。

 今は理由あって召喚不能だ、と告げると、レイが呆れる。

 

「どっちの造魔も使えないとか。じゃあ、何を喚ぶのよ……」

「そりゃ当然、回復と補助魔法持ちの」

「いや、やはりここはさらなる高火力を」

「ーーオ前ラッ! 我ガ部屋ノ前デイツマデモ、ベラベラト! 少シハ静カニセンカッ!」

 

 俺と葛葉が再び激論を交わそうとしたところで突然メインサーバルームの両扉が開き、激怒した電霊マルスムが襲いかかってきた。

 あ……。そっちから来るんだ……。まあ、あれだけ自分の部屋の前で自分の攻略について話し合われたら、いい加減キレもするか。

 結局残る一枠に誰も召喚しないまま、なし崩し的にボス戦へ突入してしまう。実に無駄な造魔お披露目会であった。

 

「食ラウガイイ……“沈黙のささやき“」

 

 前述の激怒内容通り、まず電霊マルスムは俺らの口を封じることにしたようだ。

 足元から生える盾のようなものに取り囲まれた独特のフォルムのマルスムは、重くなった空気が音の伝達をやめ、一切の術行使が不可能になったのを見てーーニヤリと笑う。

 魔法が使えなくなった相手にひたすら技をぶち込んで勝つのがこいつの戦略なのだろう。というかこいつもバリッバリのフィジカル系かよ。さっきのシノダミョウジンとやたら相性いいじゃねえか。

 とはいえ魔法が使えないと火力は落ちるし、それに何より回復ができない。全体回復術が使えないのは継戦能力を大きく損なう。

 なんとかしなければ……と思ったところで、仲間たちが全員一斉に俺の方を振り返り、笑顔でポンと肩を叩いてくる。

 

「「「「……。(よろしく、アイテム係!)」」」」

「……。」

 

 俺たちに言葉など要らなかった。

 

「item:ディクローズの石」

 

 敵奇襲後、最初の行動順はもちろん速31の俺だ。

 俺は既に上限一杯まで持っているディクローズの石を取り出し、使用した。

 重くのしかかる空気がひび割れ、音を堰き止めていた壁が雲散霧消すると、無音だった世界に音の洪水が再び押し寄せてきた。

 

「やったわねディクローズの石!」

「ありがとうディクローズの石!」

「おい!?人をアイテム名で呼ぶなっ!!」

 

 仲間からの感謝に罵声を返す。速が高いサマナーはだいたいこうなる。アイテム係の悲しいところである。

 

「グヌ……、小癪ナ真似ヲ……」

 

 術不能をあっさり解除されてマルスムがぐぬぬしている。

 まあ自分なりの必殺戦法を無効化されて戦略ぶち壊しだろうからな。

 マルスムはこの窮地を招いた俺を睨みつけ、ぶっとい手指を突きつけた。

 

「許サンゾォ! ディクローズノ石ィ!」

「お前もアイテム名で呼んでくるのかよ!?」

 

 誰からも人間扱いしてもらえない戦場である。

 一応、その名で呼ばれた通り、ディクローズの石はまだまだ沢山持っていますよ……とばかりに指に手挟んだディクローズの石をいくつも示すと、マルスムは再び使おうとした沈黙のささやきを諦め、技攻撃へとシフトする事に決めたらしい。心理戦は俺の勝ちである。

 ディクローズの石は10個しか持てないので、意地になったマルスムが11ターン連続で沈黙のささやきを使ってくるようなら正直ヤバかった。まあそれだとマルスムも11ターン丸々攻撃できなくなるけど。

 自分のしたい事をして、そして、相手にしたい事をさせないというのが戦術の基本である。無論それには相手の選択肢を極限することも含まれる。相手の応手が限られていれば対策も容易というわけである。

 俺は黒帽子を直し、鐔越しにマルスムを見た。

 

(相手が技しか使ってこなくなったこの状況で。

 毎ターン頭に物反鏡立てれば、完封なんだろうけどーーおっ?)

 

:使用特技

:沈黙のささやき

:バイツァ・ダスト

:火砕烈風波

:アルガ・ゾーナ

:木端微塵斬り

 

 どうやらマルスムには別の選択肢もあるらしい。

 バイツァ・ダストは前列を対象に、相手を爆弾化させるという状態異常技だ。状態異常BOMBへと変じた対象は、その状態で火炎攻撃に晒されると爆発を起こして大ダメージを受け、しかもその爆発で周囲の味方にまでダメージを与える。

 バイツァ・ダストで爆弾化させた後に火砕烈風波で爆発させる、というえげつない必殺コンボを持っているのかこいつは。正直キョウジよりもえげつない。

 とは言えーーそのバイツァ・ダストが前列の俺ら三人に当たらなければ意味はない。俺らは全員が素早く、一番低いレイの速ですら13ある。回避は余裕だったし、一度だけレイが回避し損ねて爆弾化されたがーー

 

「Metamo-dhi」

「え、爆弾化が解けた!?ーーありがとうウラベ!」

「グヌ……火砕烈風波ァ!」

 

 次ターン頭、俺がマルスムよりも先に唱えたメタモディによって、やつの火砕烈風波がレイを爆発させる事はなかった。

 メタモディは変化を伴う状態異常を解除する術だ。封鏡だけでなく符封、それにこうして爆弾化も解除できる。

 封術をあやつる術者には習得必須の術のように思えるのだが……ちなみにキョウジはこの術を覚えていない。この一点だけ見ても、やつがいかに前のめりかであるかがわかろうというものだ。

 再び、ゆとりあるステップでバイツァ・ダストをかわした俺にーー逆Vの字の衝撃波が襲いかかる。アルガ・ゾーナだ。

 

「……くっそ!的確に後衛狙ってくるな、お前っ!」

 

 散弾のごとく、前列の俺を貫き拡散し後列の二人を打ち据える衝撃の風。耐の高い俺は平気だしタフなナオミも余裕そうだが、スライム耐久のネミッサがあっさりと死にかけている。

 たまらずメディアラマを唱えるネミッサを横目に、俺は声を張り上げた。

 

「回復が薄い!二枚にするぞ!葛葉っ!」

「すまんがここまでの道中で俺はもうMP切れでな」

「ああそうだった!こいつMP異様に低いんだった!」

 

 なんで魔12知14もあってしかもレベル60もあるのにMP200ちょっとしか無いんだよキョウジ。術13種も使えるのに……。

 俺なんか実質二種類しか使えない上に魔4知8で明らかな前衛物理タイプでしかもレベルも十くらい下なのに、すでにMPこいつより高いぞ……。

 武器を振るいながら、キョウジが俺をちらりと見た。

 

「無意味なMPだな」

「ほっとけ……」

 

 レイもナオミも回復は使えるが単体回復術しか使えない。

 やむなく後列中央の空きスペースに女神スカアハを召喚し

毎ターンメディアラマを命じておくも、そもそもスカアハもレベル35と低く、耐久はそこそこだかHPが低い。

 マルスムは強力な全体斬撃攻撃である木端微塵斬りを連発してくるようになったので、単純に毎ターン輩出される重傷者が一人から二人に増えただけになった。

 俺は行動順がほぼ確定で一番なので、足りない回復を薬でサポートしたりとか地味ながら重要な働きができる。木端微塵斬りが来る直前に物反鏡を立てて六発全部反射した時は、さすがに仲間から快哉が上がった。

 

「「「「ナイスアシスト!物反鏡!」」」」

「だから名前で呼べっ!」

 

 俺の名はウラベ。テトラカーン係ではない。

 そうこうしているうちにーー遂に、マルスムが斃れる時がやってきた。

 俺が大般若長光で斬りつけ。キョウジが天蓬釘把ーーちなみにこいつはグラウンドならしみたいな形をしているーーを叩きつけると、マルスムは頭を抱えて絶叫を上げた。

 

「グーーグワァアアア!?

 敗レルノカ、コノ我ガ……! 

 コノヨウナ、ディクローズノ石ニ……!」

 

 俺に手指をつきつけながら、悔恨混じりに告げる。

 だから人を石扱いすんな。というか、お前的には敗因が石ころ一ヶのせいだったのか。

 大勢のファントムサマナーを戦闘不能に至らしめた程のアルゴン本社乗っ取りが石ころたったひとつで崩壊するとか、キョウジといいこいつといいセキュリティホール放置し過ぎじゃあないのか。

 いや、それを言うならポッと出の電霊にあっさりシステム乗っ取られたアルゴン本社のセキュリティがザルなのか。あれ、セキュリティ担当の契約社員て確か桜井じゃなかったか。桜井も門倉も何してんだ。

 ガバガバなやつしか居ないのかここは。

 恨めしげにこちらを睨むまま、身体を薄れさせゆくマルスムが完全に消えるとーー不意に社屋内の照明が戻る。

 どうやらシステム復旧したらしい。

 戦闘終了。そして、任務完了だ。

 明るくなったメインサーバルーム前、ともに戦った仲間?たちと肩の荷を下ろしているとーーがらんとしたオフィスに響き渡るのは、電話の呼び出し音。

 近くを見ればまた、壁掛け式の内線電話が鳴っている。

 社員なんて誰もいないはずなのに掛かってくる内線にビビる仲間達を放って、慣れている俺は歩み寄り受話器を取り上げた。

 このパターンは……。

 

「ウラベだーー桜井か? こちらは無事、片付いたぞ」

「ああ。復旧した警備カメラでも確認できてるよ。

 しかしまさか。確か……マルスムと自称してたかな? あの攻性プログラム群」

 

 うん?

 何でマルスムが知り合いみたいな口ぶりで話す?

 

「まさか……アルゴン本社全体のシステムハックまで。成功させてしまうとはねえ」

「お前が今回の黒幕かよ!」

 

 

 

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