デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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デビルサマナー・桜井雅宏(他認)

 

 その「黒幕」という言葉に、桜井が返したのは苦笑だった。

 

「黒幕って。……おいおい、勘違いしないでくれ。

 僕の契約業務はあくまでも、アルゴングループのシステムセキュリティ保守全般だからね? 前も言ったような気がするけど、アルゴンのシステムサーバをクラックしてダウンさせるのが仕事ってわけじゃない。むしろ逆だよ?」

.

 仕事にはプロ意識を持って臨んでいる、と語る桜井。

 じゃあどうしてその仕事の障害となったマルスムの名を知っていたんだよ……。

 急に押し黙り耳を澄ませ始めた背後の皆を代表するように、俺は受話器へと尋ねる。

 桜井は一瞬沈黙しーーやや気まずげに答えた。

 

「回線を利用した外部からの不正規アクセス、すなわちクラッキングに対して防壁を構築するのが僕の仕事だった。

 それが……システム内部からの攻撃なんて。誰も想定していないよ……」

 

 外部ではなく内部。どういう意味だろう。

 トロイの木馬?と訊くと、桜井に否定される。

 

「トロイの木馬はそもそも、敵が持ってきた置き土産だろう?

 あれら、攻性プログラム群ーーウィンぺ。ムーウィス。マルスムは、そもそも守備対象であるはずの、基幹となるマニトゥ・システム内部で生成されたんだ」

 

 まるでプログラムの名称のように。桜井は三体の悪魔の名を挙げた。

 ウィンぺは前に天海空港の管制システムを乗っ取ったという悪魔らしい。

 ムーウィスは俺らもよく知る通り、あの星空博士や自動車変形人型ロボの身体を得てネミッサを襲ってきた。

 そしてマルスムはーーアルゴン本社のサーバそのものを乗っ取った。

 桜井とて悪魔は直に目にしているはずだが……どうもハッカーの視点からすると、悪魔をハッキングプログラムのように捉えているらしい。

 

「もちろん。最初はね、思ったさ。パラダイムXに引き続き、また門倉がとんでもないものを作ったなーーって。

 前にも一度話したろう? あの、ヒトの脳構造みたいに複雑で、目指すところのまるでわからなかったマニトゥシステムは。

 こんな高度なプログラムを自動生成し、AIで擬似自我まで与えて、とんでもない学習速度でシステム攻撃性を獲得する、まさに『悪魔』のような化け物を生み出す為のものだったんだ」

 

 桜井にとって悪魔とは固有名詞ではなく、あくまでも形容詞であるらしい。あくまだけに。

 下らないことを考えていたらネミッサに頭をはたかれた。考えを読むな。悪魔め。

 

「モニタリングを継続しながら。僕は門倉のーーあの新たなものを次々に生み出す才能の。その源泉を、ついに見つけたーーそう思ったんだ。

 門倉はただマニトゥという『子宮』を設計するだけで。そこから自動で産み出される高度なプログラム群は、回線を利用して外部の情報を参照、あるいはクラッキングで盗み出してまで高速学習を続けーーやがて新商品としてリリース可能なレベルにまで勝手に育つ。あとはそれを次々売り出すだけで何の苦もなく億万長者だ。

 凄いよね、商品開発にプログラマもデバッガーも誰一人として必要としないんだ。これは革命だよ。

 そう、喩えるなら……産んだだけでろくな教育もせず放っておいた子供が、自ら勉強を重ね、高収入になって逆に親を養ってくれるーーようなものかな」

 

 喩えの悪意がひどい。門倉を毒親みたいに言うな。ネグレクトかよ。

 とーーそこで桜井の声音がワントーン落ちる。

 

「ただ。

 手の届かない才能だーーそう諦めていられたのは、……『悪魔』たちが内部システムを攻撃し始めるまでの事だった」

 

 ネミッサ・プログラム。

 唐突にその名を呼ばれ、隣でネミッサの肩がびくんと跳ねる。

 

「ちょうどーーそう呼ばれていたプログラムが、物理ハックで盗み出された頃からかな?

 あいつらの作動負荷が際限なく増大を始め、そしてーーその攻撃対象にも見境がなくなり始めたのは」

 

 マニトゥからネミッサがいなくなった事があの電霊たちの暴走のきっかけだった、と桜井は語る。

 だがネミッサの正体、それがマニトゥの死である事を既に教えられた俺に驚きは無い。

 

 もし仮に、生命に死というエンドマークが無くなれば。

 生とは、際限なく自己を拡大させ肥大させ続けるだけの、どこまでも続く自我の垂れ流しにしかなり得ないだろう。

 もはやそこには理性も知性も存在せず、ただーー単核生物アメーバのように、周囲を取り込み膨張を続けるだけの存在になり果てるだろう。

 死を失って、マニトゥの指先たる電霊たちも同じ道を辿った。恐らくそれだけの事である。

 

「……。つまり。

 その結果、発生したのがーー天海空港の管制システム乗っ取り。

 機械の身体を獲得した上でのネミッサ襲撃。

 そして、この……アルゴン本社全システムダウンだと。

 桜井はそう言いたいのか?」

 

 俺の確認に、桜井は短く肯定を返す。

 まあ保守屋としての職責は果たしたと言いたいのだろう。

 確かに、自動生成された電霊たちが内側から勝手に攻撃を始めたのなら。それはもうどうしようもないだろう。

 だが一点……追及しなければならない点が残っていた。

 

「……桜井。ひとつだけ、確認させてくれ」

「ああ。なんだい?」

「あいつらは……ウィンぺ、ムーウィス、マルスムは。

 いずれも、機械を乗っ取るすべを身につけていたが。

 その技術はどこからーー学んだんだ?」

 

 わずかな沈黙。

 

「……。さあね。電霊を名乗っていたし、生来の能力なんじゃないかな? アレが悪魔というのなら、僕よりも専門家の君達の方が詳しいだろーー」

「さっき。お前は言ったよな? システム内部から生み出されてきたそいつらは、恐るべき速度でシステム攻性を獲得し、やがて回線を通じ外部からも学習すべき情報を盗み始めた、と。

 マニトゥはもともとーー北米で発見された、ただの観測生命体のようなものだ。

 そのシステムの中に、なぜクラックの教材となる情報が転がっている?」

 

 俺がまず疑問に感じた点はそこだった。

 もちろん。これまで見てきた通り、マニトゥは、他者へ強く干渉し得る存在ではあるのだがーー

 

「……。大勢の天海市民が無気力症に陥っているのは、君たちも見ただろう? そこから察するに、マニトゥってのはーー魂とか、精神エネルギーを収集する性質や能力があるんじゃないのか? いや、よく知らないけどさ」

「ああ。時を越えて生命から魂を収奪し、やがて巡ってくる大いなる存在を待つ……確かファントムではそう分析していたな。俺もよくは覚えていないが」

 

 互いにうろ覚え同士の会話なのでふわふわしている。

 が、着目すべき点まで煙に巻かれはしない。

 

「つまり。マニトゥが干渉する対象は、生命に限られるはずなんだ。なぜなら機械に魂はない。

 マニトゥから生まれたものが、わざわざ機械を取り込む技術を有する理由がないんだ」

「…………。」

 

 そう。乗っ取った機械の先に、魂持つ人間という標的がいるならばいざ知らず。

 ただシステムを乗っ取るだけ、という挙動は本来あり得ないのだ。

 あのスナッピーやエリカの行動理由ならまだ理解できるが、マニトゥから生まれたはずの電霊たちの動きは比較するとどうもおかしい。

 沈黙した桜井に、俺はダメ押しとばかりにーー傍証を積み重ねてゆく。

 隣のネミッサへ目を向ける。

 

「このネミッサもまた、マニトゥから生まれ出でた存在だが……

 人の魂に干渉こそできても。機器を支配する事はできなかった」

 

 ネミッサはCOMPに収められても、別にそれを乗っ取ったりはしなかった。(まあ故障はしたけど)

 むしろ、そこから飛び出して乗っ取ったのは人間の体だったのだ。

 マニトゥの目的を考えるなら、むしろそれこそが当たり前の在り様だと言える。

 それなのにーー電霊たちが自我を拡大してゆく先が、いずれも機械の中ばかりであった理由は。

 

「……桜井。

 お前ーー

 意図的に、電霊へ技術を与えたな?」

 

 俺の指摘に、桜井は何も答えなかった。

 

「…………。」

 

 電話口の向こうの沈黙は、弁解の必要性を感じていないのか。

 まあーーこいつの考えとしては。理解できなくもない。

 俺は想像し得た筋書きをぶつけてみる。

 

「おおかた……アルゴン社のデータベース防壁越しに、顔も見えない有象無象のハッカーどもと散々やりあっていたんだろ? アルゴン社の知的財産を盗ませない、それが本来の請負業務だったろうしな。桜井。

 ーーしかしそのクラッキング技術を。システムの内側から見ていた電霊どもがコピーした」

 

 厳密に言えば。その業務上で発揮されただろう桜井の技術のみに留まらず、マニトゥシステムの設計者とされる門倉のテクニックや、データを盗みに来たハッカー連中の手口なんかもそのコピー対象には含まれているはずである。

 

「コピーした技術を駆使して。電霊どもはマニトゥシステムという母体から出、飛び出した野に自らの領域とも呼べる場所を築き始めた。

 まさにそれこそがーーこの一連の、電霊を主犯とする事件の正体だった、って訳だ」

 

 受話器の向こうも、背後の皆も、みな一様に押し黙り俺の推理を聞いている。

 俺は最大の疑問点を口にした。

 

「素人の俺らにはわからないが……お前の技術もまた使われているということは。クラッキングの痕跡に、お前の署名がしてあるのと同じ、って事になるんじゃないのか?

 現実に……スプーキーズは市民ID剥奪という形で、検挙を公表されている」

 

 行政側がファントムやアルゴンに掌握されていたとしても、検挙を公表するからにはプレスリリースのためにも相応の証拠や根拠くらいは必要となるはずである。

 まあその検挙対象に桜井の名前だけはなかったんだが。

 

「自分の技術を使って幾度も、電子機器損壊、偽計業務妨害が繰り返されている。

 ならばお前は本来、心中穏やかではいられないはずだ。

 だがーーお前からそんな打ち明け話をされた事は無い。

 いずれ掛かる疑いを晴らすべく、カラクリの内訳を話して弁解のひとつでもしておけば良さそうなものなのに。それすら無かった。

 お前をハッカーとして知っていて。また、アルゴンが主導している次世代情報都市計画がファントムの計画の隠れ蓑に過ぎない、と知っているはずの。俺たちにさえーーだ」

 

 隠すからには必ず理由がある。

 それもかなり後ろめたい理由が。

 俺は冒頭の指摘へ戻る。

 

「桜井。お前はーー

 あえて電霊たちに偏ったクラッキング技術を見せる事で。

 攻撃対象、攻略対象を限定させ……そうやって。

 ヤツらの犯行を『誘導』してみせたんじゃないのか?」

 

 天海空港、レオン自工、そしてアルゴン本社。

 俺の指摘に、背後の誰かが息を飲む。

 受話器の向こうは黙して語らない。

 が、桜井がそんな行為に及ぶ理由ならば……さっきの言葉にも現れていた。

 

「目的は……“巨人殺し“(ジャイアントキリング)か。

 いや、それだけじゃ無いな? お前はーー」

「ーーああ。そうさ。

 全部、僕がそう仕向けた。

 “大きすぎる神像は自重で倒壊する“って知ってるかい?」

 

 不意に響く受話器の先の声は、奇妙な諺を口にする。

 

「僕はーー他でもない。

 門倉の作ったものにこそ。

 その門倉の作ったもの自身を、壊させたかったんだ」

 

 自壊という当然の結末を与えたかった、と。

 吐露されたのは、かなりろくでもない動機だった。

 続けて響く乾いた音は、受話器の向こうで拍手でもしているのか。

 

「まさかこんな身近に名探偵が居るなんてね。

 クラッキング知識のない素人に、ここまで見抜かれるとは思ってなかったよ。

 でもーー思えば。一度は防壁を突破されていたんだっけ」

 

 まあそれをやったのはレッドマンなんだがな。

 そこで真犯人は、でも別にいいだろう?と急に声色を変えてくる。

 

「……門倉がクロなのは初めからわかってたんだ。

 その足を引っ張り、次々問題を起こさせては対処させ、その計画を遅延させ続けた僕は。あきらかに敵じゃない。

 紛れもなくーー君たちの味方だろう?」

 

 確かに。結果だけ見るならば、俺たちやクズノハを利するものではあった。

 攻撃してくる敵でない以上、こちらが責めるいわれはない。

 それにね、と少し笑み混じりで付け加える。

 

「各所でクラッキングを仕掛けたのは僕じゃない。

 電霊を名乗る自律型プログラム群だ。

 それにーー勝手にコピーされた技術が用いられたからと言って、オリジナルが責められるのは理不尽じゃないかな?」

 

 犯行者は電霊、用いられた技術は不同意コピー。加えて、その程度の誘導に罪は問えないだろう。

 よって法的責任は発生せず、また誰からも追究し得ない。

 

「ほらーー完璧な仕事(クラック)だろう?」

 

 なるほどな。

 受話器の向こうという安全地帯に居る桜井は、完全犯罪、とほくそ笑んでいるのかもしれないが。

 ……俺たちが着目しているのはそこじゃない。

 

「いやーー桜井。

 俺たちが指摘しているのは別に、法的責任じゃなくてな」

 

 誰かさんも言っていたが。

 俺たちは世間の法になど縛られはしない。

 

「むしろ。

 お前のそのーー『在りかた』なんだ」

「……なんだって? 『在りかた』?

 それはーーどういう意味だい?」

 

 困惑の声を返してくる桜井。

 俺は背後の皆の顔を見回してから、ひとつ頷く。

 

「複数の電霊に、知識を与えて育て。

 獲物を見繕って誘導し、襲わせて。

 自らの手を汚さぬままーー目的を完遂する」

 

 その工程は、俺たちの日常ルーティーンと変わらない。

 

「桜井。お前はもはや、立派なーー

 『悪魔召喚士』(デビルサマナー)だ」

「ええ!? デビルサマナー!? ……僕が!?」

 

 悪魔召喚プログラムも使用しないし、そもそも悪魔への知識すらろくに無いが。

 やってる事は立派な悪魔使いである。それも相当な高レベルの。

 その所業はまさにーー悪魔召喚士と呼ぶに相応しい。

 

「さてーー悪魔召喚士・桜井よ」

 

 当惑する桜井をよそに、俺は煙草へ火を点ける。

 

「超常の力操る者として、俺たちは確かにーー法になど縛られはしない。

 だが。

 力もつ者として、果たさねばならない責務はある訳だ。

 ……お前も大人なら理解るな?」

 

 ゆっくりと吐き出す紫煙の向こうに、桜井の困り顔が何となく思い浮かぶ。

 俺は桜井の罪を数えてゆく。

 

「天海空港。レオン自工。アルゴン本社。それぞれへの悪魔汚染。

 治安低下に施設閉鎖、経済的機会損失。被害総額もさることながらーーさて」

 

 俺は受話器を持ったまま、背後の悪魔召喚士たちを振り返る。

 居並ぶ静かな瞳を見るに、もう答えは出ているらしい。

 

「ーー陪審員の裁定は?」

「「「「有罪」」」」

「この通り……全会一致で有罪だ。桜井」

「えええ……」

 

 俺たちは法は守らないが、逆を言えば悪魔召喚士のルールには縛られるのだ。

 力ある者の好き勝手をガイドライン無く許していたら世の秩序平穏などもたらされない。

 受話器の向こう、遠くからも声が聞こえてくる。

 

「全部聞いてたが……部外者の俺でも同じく思うよ。

 リーダー。あんたやっぱり、有罪じゃないか……?」

「ランチ!?きみまで!?」

 

 電話口の向こうに居たらしいランチからも一票入った。

 一般人の目からしても桜井はやっぱりやり過ぎである。

 振り返り、俺ら陪審員は桜井の量刑を話し合う。

 

「この場合、どう捉えるべきなんだ?」

「まあーー在野で未登録の悪魔召喚士が、三ヶ所も派手に土地を荒らした、として考えた場合……」

「そう考えるとかなり悪質ね。正直、平崎の一件とほとんど変わらなくない?」

「確かに。重罰は免れんな……」

「おい。シドは死んだが。もしもヤツを真っ当に処罰した場合、どうなる?」

「一般的には、そうねえ。まずはーー半殺し確定でしょ?」

「うんうん。半殺しにして、土地から叩き出す?」

「だな。加えてその土地には未来永劫、出禁……あたりが妥当じゃないか?」

「まあ、そんなものか」

「ええ。その辺が落としどころかしら」

「それで行きましょ」

 

 桜井の処刑が確定した。実に軽いノリで。

 

「ええええええ!?ーーちょっと待ってくれよ!?」

 

 桜井は判決に不服があり控訴の意向があるようだ。

 しかし俺たちの業界に控訴なんてトロい制度はない。

 悪即斬。それで終了である。

 

「ーーというわけで桜井。

 厳正な悪魔召喚士のルールに基づき、これからお前をボコりに行くから。ここに居るみんなで」

「そのルール絶対厳正じゃないよね!?」

 

 ガバガバだよね!?と叫ぶ桜井に、俺はいちおう処刑の回避条件を教えてやる。

 

「あ。別に抵抗したっていいからな? もし仮に、お前が処刑人連中を返り討ちにできたら……」

「……。できたら……?」

「お前を直接ボコる以外の方法で、何か罰を改めて考えるわ」

 

 それもう蛮族のルールだよね!?暴力至上主義が支配する世紀末だよね!?と桜井は喚くが。

 おとなしくハッカーの範疇に留まっておかず、悪魔を操るという分野に片足突っ込んでしまった時点で、もうそこは文化的な処罰なんてものの存在しない力の世界なのである。

 お行儀よく裁かれたいならば桜井は、お行儀の良い世界に留まっているべきであった。

 

「僕は別に君たちに敵対してないだろう!?

 それに、積極的に君たちにも協力したし、また君たちの目的に沿う行動を一貫して取っていた筈だ!

 そこは考慮されないのかい!?」

 

 自分はあくまでも味方です、と訴える桜井だが。

 

「桜井。確かにお前には世話になったし頭が切れるのも知ってるが。

 俺らが問題視してるのは。もうお前がハッカーとしてだけではなく悪魔召喚士としても有能過ぎて、ライン越えをたびたびやらかしてる件なんだ」

「……うっ……」

 

 絶句する桜井。その様子から見るに、どうやら過去にも同じような事を言われた経験があるらしい。

 有能すぎてルールまで破ってしまう味方とかもはや、ただの制御不能暴走特急である。

 ナオミがうーん、と腕組みした。

 

「じゃあ……4分の1殺しで。どうかしら」

 

 ナオミはフリーの雇われとは言えここでは一応ファントム側の人間にあたるが、ファントムがさんざん計画を遅延させられたはずの相手に、いいのかそんな甘くして? まあ本来無所属のフリーサマナーだからこの位はいいのか?

 レイもその顔を見て頷く。

 

「天海への出禁も。10年くらいにしておきましょうか」

 

 減刑提案に、俺は桜井へとその吉報を伝える。

 

「良かったな桜井。大幅な減刑が認められたぞ?」

「やっぱりその処刑基準、ガバガバだよね!?

 それに処刑される事それ自体は覆らないんだね!?」

 

 そりゃまあ。ポンポン無罪放免を許すとそこら中が無法地帯と化すからな。

 

「……。じゃあ、門倉は?」

 

 急に静かな声になった桜井は、そんな事を尋ねてきた。

 

「自分のやった事は自分で責任を取るよ。

 それはそれとして。

 大元となるここまでの事態を招いた、門倉ーーあいつにも。

 裁きは、加えられるのかい……?」

「ーーああ。それは当然だ」

 

 門倉やアルゴンが、ファントムと繋がっているからーーという理由で裁きは逃れられない。

 裁きが遅れはすれど、裁きそのものが無くなる事はあり得ない。必ず報いは受けさせる。

 そしてそれはーー天海市全域を魂の収奪地にしようとしたファントムソサエティも同様である。

 この国を護る超国家機関ヤタガラスや、クズノハ、そしてこの俺が、必ず報いを受けさせる。例えどれだけ時間がかかろうと。

 それだけは確信を持って言える。

 

 だが。

 自分がフクロにされるとか、門倉が同じく裁かれるとか。

 そんなどうでもいい事よりーー

 桜井には。

 もっと他に、気にすべき点があるのではないか?

 

 俺は片眉を上げ、きわめて不思議そうにーー受話器の向こうへと訊ねる。

 

「門倉がお前と同じくヒドい目に遭うのは確約するがな。

 ……けど桜井。

 お前はーーそれでいいのか?」

 

 何を言われているのかわからない様子で、桜井は沈黙する。

 

「えっ……?

 それでいいのか、って。何がだい……?」

 

 事ここに及んで、まだこいつは気づいていないらしい。

 

「門倉を。

 俺たちが裁いてしまって本当にいいのか?ーー

 お前はそれで、後悔しないか?ーー

 そう訊いているんだが」

 

 その言葉を噛み締めるように……桜井は沈黙した。

 門倉を裁きたかったから、電霊どもを誘導した。

 門倉を裁きたかったから、俺たちに協力した。

 少なくとも俺には。桜井のすべての行動理由は、そのように受け取れたのだが。

 

「桜井。

 お前自身の手でーー門倉を裁かなくていいのか?」

 

 その提案をした瞬間、桜井の息を飲む音が聞こえた。

 ーーどうやら。

 お行儀の良い世界で長生きし過ぎて。

 桜井は反撃、という言葉の意味を忘れていたらしい。

 殴られたらそれ以上の力で殴り返す。

 そうせねば自分の身など守れない。

 それに大人も社会人も務まらない。

 反撃を受けて初めて、敵は自分が攻撃している相手が対等な人間である事を思い出すのだ。

 反撃は相手に知性を取り戻させる。

 

「……ああ。

 そうだね。

 実にその通りだ。

 じゃーー行ってくる」

 

 納得したような声音でそれだけ告げると、通話は切れた。

 きっと今から門倉のところへ突撃するのだろう。

 直接ぶん殴るために。

 受話器を戻して振り返ると、ネミッサとレイとキョウジはうわぁ…みたいな顔で俺を見ていた。

 俺は歴戦の復讐者として、実にさわやかな笑顔を返す。

 

 悪魔召喚士は。

 復讐を悪魔に命じることはできても。

 復讐を他人任せにすることまではできないのだ。

 それでは復讐にならないからだ。

 

 ナオミが「貴方もフリーサマナーってのがようやく解ってきたみたいね!」と言わんばかりの、輝かんばかりの笑顔でこちらを見ている。やかましい。

 

 

 

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