意外と明るい:1
いつもはクール:1
結構セクシー:1
ま、まさかの同数……!?
ゲームでは絶対に選べない選択肢か。いいですね〜。
やってやんよ……!
フィネガンとは親しくはなかったがーー
俺は考える。
なんか、意外と明るくて、いつもはクールで、結構セクシーな感じ、といったイメージだった……か……?
俺はネミッサの問いに答えてみた。
(いつものフィネガンか……。
やつは、そうだな……。意外と明るくてーー)
(うん)
(いつもはクールでーー)
(うん……?)
(結構セクシーな感じ、だな。これでわかるか?)
(わかるか! 余計わからなくなったわ!)
(いいからホラとりあえず何か答えろ)
(えええーー)
「え、ええと……。
ーーオッスお疲れ!時間かけて悪いな!」
「フィネガンさん……?」
「私のことは捨て置け。
お前はただ、命じられた任を全うしろ」
「え、はいーー勝手に持ち場を離れすいません」
「ウッフゥン……。今は少しだけ、標的の死を悼ませてくれ……。
敵対したとは言え、長い付き合いだったのでな……。ウッフゥン……」
「あーーすいません、気が利かず」
意外と明るくていつもはクールで結構セクシー。
これがネミッサの考えるフィネガンの人物像か……。
ぶっちゃけただの人格破綻者である。
(……プッ)
(笑うなぁ!そもそもコレ、アンタが指定した人物像でしょうが!)
しばらくの窺うような沈黙の後。
ーー返ってきたのは、妙に優しげな声だった。
「……そうですよね。
裏切り者とは言え、かつての同僚が標的じゃあーー
いつも落ち着いてるフィネガンさんでも。そりゃ、冷静でいられない時くらいありますよね。
わかりました。俺、すぐ下の踊り場に居ますんで。
落ち着いたら……声をかけて下さいね?」
気遣うような声を最後に、足音は階段を下っていった。
(え!? 今のクソ演技が通用したってのかアイツ!?)
(クソ演技って何よ!
それに今の反応って、単にーー相手がメンタルやられて混乱してるからしばらくそっとしておこう、って距離を置かれただけでしょ!?)
そうなのか……。
いつもフィネガンに張り付いてた割に、思ったよりも冷たい奴だな。冷湿布かよ。
まあ時間稼ぎという目的は達成できたからよしとする。
しかし、時間は稼げたもののーー
「ラプンツェルを塔から連れ出すまでが、依頼なんだがな……」
俺はとらわれの姫君(壮年男性)を見る。
ん?という顔で見返してくる様は無邪気なものだが。
そもそも邪気の無い悪魔なんて最弱以外のなにものでもない。
コイツを守りつつ、敵召喚士を突破しなければならないのか……。
腕組みをする俺へ、ネミッサは不思議そうに尋ねてくる。
「今降りていった男より、ウラベはずっとーー召喚士として格上なんでしょ?
苦戦するようには思えないんだけど?」
「戦えば俺が勝つだろうがーーそもそも戦いの後に、お前が立っていないと意味がない。
相手はすぐ目と鼻の先にいるから、お前を戦いに巻き込まずにおくのも難しそうだしな」
敵が低レベルだとしても、ネミッサはもっと低レベルだ。
それに、召喚士の戦いは数でもある。数にものを言わせて戦闘目的を達成することだってできるのだ。
俺は慎重に音を殺し、屋上扉を開いた。
薄く開いた隙間から階下の様子を窺うとーーすぐに閉める。
緑の非常灯に照らされる中階に、男とそれを取り巻く悪魔の異形が見えた。
俺は扉を背に屋上へ向き直り、今見た情報画面を思い返す。
:冷湿布 レベル4
:HP75 MP0
:力4
:魔3
:知3
:耐4
:速3
:運4
:戦闘特技 狙い撃ち ショートジャブ
:召喚悪魔 フェイスバインド スライム ポルターガイスト ガキ ドラッグクイーン
名前が冷湿布になってるが。まあいい。
やつはダーク悪魔ばかりを手持ちに携える、典型的なダークサマナーだ。
レベルは低いがパーティバランスは悪くない。
スキル構成的におそらく、フェイスバインドとスライムとガキが前衛、冷湿布のやつとポルターガイスト、ドラッグクイーンが後衛だろう。(というか所有スキルがどいつも少なすぎて選択肢が他にない)
戦法としては、前衛が引っかき二枚と体当たりで敵前衛への物理攻撃、そして後衛がザンとブフの魔法攻撃、冷湿布の銃撃で敵前衛後衛どちらへも遊撃可という形なのだろう。
今回の場合だと……後衛がやっかいだ。ネミッサを俺の背後に配置すれば敵前衛の攻撃は完全遮断できるが、敵後衛の遠距離攻撃までは防げない。倒し切るまでの間にネミッサを道連れにされる可能性が高い。
“call to goumaden“
見下ろした俺のGUMPには、そんな赤い警告表示が踊っている。さっきの無茶な召喚起動の代償だろう。
いま俺のGUMPは使えない。
一度電源切って再起動かければ使えるようになるかも知れないが……そもそも仲魔達の召喚プログラムを削除済みなのでメモリには悪魔が一体も入っていない。意味がない。
高レベル召喚士とは言え、今の俺は剣と銃で攻撃するしかない、ただの物理攻撃おじさんである。
視線を移し、俺は唯一の仲魔をじっと見つめる。
「……なに……?」
この外道スライム並みの能力を誇るネミッサを俺の背後、後列に置いて防御に専念させたとしても……
スキアヴォーアの前列切りを使っても、おそらく俺が敵を全滅させるまでに最低3ターンはかかる。
その間に、最低でも四発は魔法なり銃撃が飛んでくるはずだ。
これにネミッサを持っていかれる可能性を消したい。
「…………。」
ーー敵前衛は無視して構わない。どうにかして、遠距離攻撃を飛ばしてくる敵後衛を真っ先に沈黙させるか、それかあるいは手数を減らさせることはできないだろうか。
俺は頭を捻る。
俺の装備するスキアヴォーアによる剣攻撃は列全体に及ぶが、その対象は敵前列に限定される。これじゃダメだ。
銃……AKS74ならば後列も狙える上に、まだ十分に弾も残っているがーーいかんせん単体攻撃だ。後列全体を無力化するには時間かかりすぎるだろう。(あとポルターガイストは銃撃無効だ)
何か。何か、手はないものかーー
携行道具を探る手が……"それ"を引き当てた。
「!……コレだ……!」
* * *
音高く、屋上扉を引き開ける。
「ーーフィネガンさん、落ち着きましたか、……っ!?」
蒼い月光を背負う黒帽子の男。
現れたのがフィネガンでない事に気づいた相手は、すぐさま銃口を持ち上げる。
「お前は……!ウラベ……っ!?」
常に付き従い、その強さをよく知るフィネガンの敗北などーー露ほどにも想像していなかったのだろう。
動揺している階下の相手へ、俺はそれをやさしく放る。
ーーナパーム弾。
業火に包まれる中階。
「「ギャアアアアアッ!?」」
俺が携行していたナパーム弾は、敵一列に火属性のダメージを与える……まあ言うなれば火炎魔法マハラギの効果をもたらす攻撃アイテムだ。
低レベル悪魔は耐久も低い。敵後列のポルターガイストとドラッグクイーンは、今の一撃であっさりと消え去った。
冷湿布のやつはーーさすがに耐えたか。火傷を押さえ……呆然とこちらを見上げている。
いや……俺の後ろに立つ人間を見ている。
「!……フィネガンさん……なんで……?」
けたたましく鳴り始める火災報知ベルの中。発せられた問いにーー男は答えない。
ただピーカブースタイルのまま、無言で防御を固めているだけである。
引っかき、引っかき、体当たり。階段を登って殺到する敵前衛の攻撃を受け切って……俺はAKS7を抜いた。
「フィネガンさんまで裏切ったって言うんですかっ!?」
男が絶叫とともに放った弾丸は、フィネガンの肩を貫き。
「……すまんな。
すべては運が悪かったーーそれだけだ」
そして俺の応射を浴びーー裏切られた男は崩れ落ちた。
召喚士が倒されたため。俺の眼前、再び爪を振り上げていた悪魔達が消える。
「ーー大丈夫か?」
「……。ええ」
傷跡を押さえ魔法光を放つネミッサには、もう出血はなかった。回復魔法ディアで癒したのだろう。
ーー作動したスプリンクラーの雨に打たれる、かつては仲間だった男の顔を見下ろし。
その脇を足早に駆け抜け……こうして俺たちは、非常ベル響き渡る伏魔殿からの脱出を、ようやく果たしたのだった。