* * *
ソワ…。
「? ウラベ何よ急にモジモジし始めて」
市庁舎での後処理を葛葉たちへ託し、今俺たちが居るのは二上門のとあるビルの地下。
アルゴン精工系列のビルで、どうやら秘密裏に設けられていたらしい例のcryptチップの搬入口前である。まあチップ搬入口とは言っても、実際にはチップの中へ仕込むあの「スポア」をマニトゥから採集して、由良島のアルゴン精工本社工場まで運ぶため使用されていたものだろう。
ゲートの入退記録から察するに、どうも門倉はここを通って例の、俺らがナオミとかつて潜った遺跡地下、マニトゥ本体の移設予定地へと向かっていったらしい。
目の前には入出庫の管理用か、一台の端末が置かれており、その画面にはパラダイムXのロゴが踊っている。
俺の目はその画面が表示するある施設を捉えて離さない。
そういえば。マニトゥも本来の鎮座地である北米から動かしたわけだが、動座にあたっては遷座祭とかやったんだろうか。うっ頭が…。破城槌にしか見えない御木曳き…。少ない休日まで駆り出されて…。なんでよりによってあの年だけダライラマも皇太子も(以下略)
俺はうわの空で答えた。
「いやーー俺がかつて、一族の故地である島を飛び出した……って話はしただろ?」
「あー。不良でやんちゃしてた、ってヤツ? 若い頃の武勇伝ならものすごく聞きたくないけど」
「違うわ。あのときは島を飛び出してみたものの、食うに困ってな。仕方なく、得意なことをして食い扶持を稼いでいたんだ」
「得意なこと? それって何よ?」
ソワソワ…。
「こんな俺にもーーどうやら、才能だけはあったみたいでな。
悪所とはわかっていたが。当時は通いつめたもんだ」
「不良が悪所に通うのは普通じゃないの? だいたいどこよ、悪所って?」
俺の見つめる端末画面には。とある施設の、氷雪系悪魔を模したトレードマークが浮かんでいる。
この手の施設に行き慣れた俺からすると、随分とファミリー向けなデザインだ。
おいおい。うっかり良い子が紛れ込んだらどうするんだ。
「あまりに稼ぎすぎてイカサマを疑われ、用心棒どもに襲い掛かられては返り討ちにしていてな……。ファントムから声がかかったのもその頃だった」
「……うん? 何これ、『カジノ・ブリザトン』?」
ネミッサが画面から読み上げたのは、パラダイムX内のアトラクション名である。
ちなみにその存在に俺が気付いたのは今である。
サマナーネットに転がる情報を軽く漁り、改めて思う。
もっと早く……知っていれば……!
「ネミッサ。
ここに俺を……連れてってくれないか……?」
ソワソワソワソワ…!
「ちょっと!?この状況でカジノ遊びとか、正気!?」
* * *
ーーカジノ・ブリザトン前。
氷雪系悪魔ジャックフロストを模した着ぐるみを纏う、案内役のお姉さんは。
軽快に歩み去る俺たち利用客の背中に向かい。
血を吐くような声で、客商売にあるまじき暴言を放つ。
「ッ……!
二度と……! 来るなホー……!」
案内嬢の罵言にも上機嫌で会釈を返す俺は、満面のホクホク顔である。
その身に纏う煌びやかな最高級装備一式はそれなりに重く。
その背に負う大量の景品の詰まった袋も重いはずだが。
俺の足取りはどこまでも軽やかだ。鼻歌すら混ざる。
「〜♪ いやあーー大漁だったな!」
後方から猫背でついてくるのはげんなり顔のネミッサである。その足は重い。
ネミッサの全身もまた新品の最高級装備に包まれ。
その手に持て余すのも高価そうな宝石杖である。
「……。アンタ、本当に博才あったのね……」
すっからかんのオケラにしてやったブリザトン景品交換所の傍ら。
ホーホーと泣き崩れる着ぐるみお姉さんから気まずそうに視線を離すと、ネミッサは俺が合法的に手に入れてきた装備一式を眺めやる。
失礼だな。今日はちょっと運が良かっただけだぞ。
:ウラベ LV60
:HP687 MP325
:力11(9)
:知9
:魔4
:耐19
:速39
:運7
: 使用魔法
:キョウ シ・キョウ ハ・キョウ メタモディ
:
:エンペラーソード
:ナンブ百式
:神経弾99
:ワールドアーマー
:ホイールヘルム
:ラウリンの指輪
:チャリアトレッグ
当然、最強防具のもう一つ、ジャッジフィストも入手済みではあるのだが、呪殺耐性のないノーマル防具なのでラウリンの指輪から取り替えていない。
いやあカジノの景品に銃や弾がないのは残念だったなあ。
「ちょっと運が良かっただけで説明つく稼ぎ方じゃないのよ…!
なんなのよ、ほぼ元手ゼロから25万枚までコイン増やすとか!?
あの景品交換所の惨状見てみなさいよ!? もう交換できるものほとんど残ってないじゃない!? これからしばらくは営業停止よ多分!?」
ネミッサの指し示すほぼ空っぽの棚を見て俺は、やってやった、みたいな顔をする。
「やってやったじゃないのよ!?
やり過ぎなのよアンタは!?」
「俺たちが持ち切れる分しか交換しなかったんだぞ。良心的じゃないか?」
「……。まあ、この後の再アタックを考えるなら、必要なんだろうけど……」
ネミッサが溜息混じりで言うのは、これまで幾度となく挑み、その度に敗退してきた二上門地下遺跡のことである。
装備更新もアイテム調達も。すべては単独踏破のため。
別にいきなりカジノで遊び始めたわけではない(説得力)
業魔殿内のPCを通じて現実世界へ帰還した俺らは、いつものスイートルームで戦利品の入った袋をひっくり返す。
俺は上機嫌で、だいぶお見限りだったアイテム類をさする。
なんたって。これまでは金がいくらあっても買えなかったんだからなあ。
「いやあーー前に居た平崎では。魔反鏡も物反鏡も、安く売ってたんだけどな?」
「え!? こんな強力なアイテムが普通に店売りしてたの!? どんな魔境よそこ!?」
ネミッサは驚いているが、そもそも芝浜コアのオートマタでも核爆弾とか売ってるって噂が一応ある。
そういえばあそこってレベルで売るもの変わるらしくて、低レベルの内に初入店すると……
なにやら業の深そうな店内BGMと共に、大勢の操り人形に囲まれ見下ろされる薄暗い店内。人形と喋る小柄な白髪老女(ゴスロリファッション)店主が、幼女喋りで接客してきて、しかも火炎瓶しか売ってくれないというーーまるで高熱を出した時に見る悪夢みたいなシュールな経験をさせてくれるらしい。
もう二度と行かないってサマナーも多そうだ。
あの店に比べたら平崎市なんて全然魔境じゃないわ。
「魔境て。ちょっと市内全域の地下水道から、悪魔が湧いてるくらいだぞ?」
「想像以上の魔境だった……」
本当に大丈夫なのその土地?滅びてない?と訊いてくるネミッサは世紀末都市でも想像してるのか。
「あー。平崎はもともとはあの、キョウジの担当してた場所だったんだが。
……いろいろとあってな。
地元出身の学生が、あのキョウジの元の身体に入ってーー凄腕の悪魔召喚士をやってるよ。
レイの話じゃ、今も多分な」
「何その学生!?幽体離脱学科かなんかの学生なの!?」
「いや普通に史学科とかのはずだが……」
「歴史を勉強しただけでサマナーの肉体を乗っ取れるの!?」
確かにそうなんだが。お前が言うな。
あと、なんか郷土愛に溢れる地元出身の若者が戦いに名乗りを上げ一人で守り続けてますーーみたいな話になった。
実際のところはキョウジが勝手に身体を入れ替えて、しかも戻れなくなった、ってだけなんだが……。
まあいいか。話がそれた。
俺は卓上、並べたアイテムを指差し確認してゆく。
「……1ターン反射の、物反鏡に魔反鏡。
MP回復のチャクラドロップにチャクラポット。
HP最大値を一戦闘に限り上昇させるテオメトル。
HPMP状態異常すべて全快、ソーマ。
ダメージゾーンを永続的に無効化、妖樹洗顔クリーム。
一歩歩くたびに仲魔HPを永続的に回復、歓喜の寝具。
いやもう……ここまで揃えるともう、撤退するビジョンが見えんな」
「まあ確かに反則級の品揃えだったけど……(過去形)」
ネミッサは、まるでフラグを立てた登山家を見るような目でこちらを見てくる。
まあ慎重に慎重を重ねても、けして重ね過ぎる事はない。
できる準備はすべてしておこう。
よし。ここまできたらもう全部買い尽くすか。
商店街ごと。
「……芝浜コアにも寄っていくか」
俺たちは豪華客船のタラップを降り、暮れなずむ芝浜商店街へと足を向ける。
* * *
ドラッグギアで回復薬・状態異常解除薬を上限まで買い。
オートマタで(やっぱり売っていた)ニュークリアボムを始めとする戦闘アイテムを補充し。
もう買うもののなくなったビデオ・マッスルと画廊ラダーを素通りし、タイ料理サワムラで甘酸っぱい料理に舌鼓を打つ。
八角酒店でいざという時の為に性格変化用の酒を買い揃え。
以前に桜井から紹介されていたものの一度も足を運ばなかったクラブEL-115で、ずっと後回しにしていた……COMPのインストールソフトの最終ラインナップを決める。
(「エネミーソナー」は俺のトレードマークみたいなものだから外せない。あとは専ら交渉という可能性を広げることを念頭に起き、元ダークサマナーとして「ダーク・マン」、満月時にも対話できるよう「ムーン・アダルト」、そして戦闘対策として、先制確率を上げてバックアタック率を下げる「Mr.サプライズ」と「百太郎」をともに入れるとーー後は。
一体いつからインストールしていたのか俺も知らない、謎ソフトーースペックを見て驚愕していた店主兄弟によると、このとんでもないソフトは悪魔合体のレベル制限を外すという異常性能らしい。そう言えばここまででも俺のレベルを超えた悪魔を作れていたから常々おかしいとは思っていたーー「スティーブン」をそのまま残せば。これで6メモリは一杯だ)
金が足りなくなった分は、生体エナジー協会でマグネタイトを売って支払いに充てると。
ーーもう、この街で出来るすべての準備は整ってしまった。
業魔殿の甲板デッキへ戻り、海風に吹かれながらビル群へ沈む夕日を眺める。
芝浜から見て西、オフィス街の集中するあの辺りが目指す二上門だ。
俺は髪をおさえるネミッサを見た。
ーーマニトゥに死を届けたら。それで終わるのは、マニトゥだけではない。
ーーマニトゥを中軸に据えたファントムの恐るべき計画も。そして。その隠れ蓑とするための、次世代情報都市計画もまた……終わりを告げる。責任者の西はすでに死んだ。
ーーそうなればこの街も。今、目の前にある姿のままではいられない。
大勢の人の営みを詰め込んだ街並みを眺める。
政府の計画にあわせ急速に整備された、まだ真新しい都市を見やる。
次世代情報都市構想など。結局はファントムの甘言がもたらしたまやかしに過ぎない。その実態はただの魂の収奪地だ。
しかしそれでもーー
目的は、一部の腐った連中による搾取の為でしかないのだとしてもーー
ーーそのお題目を真に受けて。何も知らぬまま、真面目に努力している人間も大勢いるはずなのだ。
ーー明日の。もっとより良い、より便利な社会の建設を目指して、ただ邁進している人間もいるはずなのだ。
そうして、無辜の人々の志を無惨にへし折ったその後で。
果たして俺はーー正しいことをした、なんて顔ができるだろうか……?
ビルの谷間へ消える残光へ、ひとつ頷く。
ーー俺は。
自分を信じたように。人を信じる。
俺が妻のもういない世界をそれでも歩き続けたように。
杖を折られた漁者が泥沼を這い回り、みっともなくもがき苦しみ、そしてーーきっと再び、自らの足で立ちあがろうとする……その意志を信じる。
* * *
すべての準備を終え、街が闇に沈んでから再び訪れた二上門。
小さなビルの地下、チップ搬入口前で姿を現したのはーー意外な伏兵だった。
「おっ。やっと来よったなぁ。
ーー待っとったで?」
見覚えのあるおかっぱ頭の鼻のでかい男は、身を預けていた机から腰を離した。
そのまま、神経質そうに指で額を叩く。
「なんや?ジブンら。
上に噛み付いて、幹部連中片っ端から始末して回っとるそやないか?
研究費払ろてくれるスポンサー潰されたら。こっちは、かなわんなあ」
その男ーーファントム所属の造魔研究者のDr,スリルは、反逆者たる俺たちと敵対する理由をまず明示した。
湾岸倉庫で戦ったガルガン・ゼロもそうだが。こいつは三年前の平崎でも、様々な強力な造魔を試作して(そして全部あの学生に倒されて)いた。
「今さらファントムに義理立てでもないがなぁ……、
研究成果の定期報告くらいはせんとなぁ!予算切られてまうさかいに!
出てこいやぁ!サマナー・ロメロ!」
その声に応じて、搬入口の扉が開きーー
中からは。造魔ではなく、召喚士と呼ばれた……一体のおサルが歩み出る。
頭蓋骨を透明ケースに換装しているのか脳味噌が丸見えで、しかも両目はヘッドギアに接続する眼鏡様のグラスに覆われている。
てっきり改造人間みたいなのを想像してたが。おサルかよ。
「どんな造魔を作ったかてサマナーには勝てん。
そこで天才のワシは、サマナーそのものを作ったっちゅうわけや!
このロメロ君をな!」
「キキキッ!」
ビシィ、と指をつきつけるスリルに、ロメロと呼ばれたそのおサルはパンパンと拍手している。割と無感動だ。
スリルはロメロの肩へと手を回した。
「フフン。ただの実験動物のサルと思たら大間違いやで?
このロメロは凄いでぇ〜。
なんちゅうても、これまで無敗を誇るクイズ王やからな!
そら、お前らアホどもよりよっぽど賢いおサルさんやで!」
「キッキッキ……」
猿と並んで胸を張り、でかい鼻を突き上げる研究者は。
己の研究成果たるクイズ王の猿を誇り、俺らサマナー相手によくわからないマウントの取り方をしてくる。
だから何で知識を戦闘力にカウントしようとするんだお前らは。
「もちろんサマナーとしても超一流やで〜。
やったれや!ロメロ、いてもうたれやっ!」
「キキッ!はい!わかりました!」
「「喋ったァ!?」」
突然の人語に驚愕する俺らの前でサルの両眼がぎらりと光り、そして悪魔召喚の暴風が吹き荒れる。
喋れるんなら最初っから喋れや。
戦場から飛び退きながら、スリルがなおも叫ぶ。
「ロメロ!お前喋れたんか!?なんて賢い子や!」
「お前も知らなかったのかよ!?」
研究成果の精査が甘い研究者を放り出して。
俺たちは戦場に対峙する。
召喚した妖魔たちに取り巻かれ、口角を裂くサルの笑み。
なるほどな……。敵ステータスを確認した俺は理解する。
おサルの手招きと共に周囲へ現れた五体もの妖魔ロウルイは、自爆技である「肉弾」の特技だけを持つ特別製だ。
つまりーーこいつらは爆弾なのだろう。
こいつらが五連続で肉弾を使用し、弱った敵にロメロがとどめを刺す。
サマナーとしては三流以下のじつに脳死な戦い方だが(クイズ王の優秀な脳みそは何処へ行った)、1ターンで無視できない打点を叩き出してくるのは事実である。
少し格上の相手くらいなら、この五連続自爆で初見殺しぐらいはできたかも知れない。
だが……。
:召喚士ロメロ LV45
:妖魔ロウルイ LV36
「流石にーーいくら何でも、格下過ぎる!
Si-kyou」
ロウルイの肉弾突撃に先んじて放った俺の封鏡術が、レベル差の著しいーー敵全員を古い銅鏡へと封じ込める。
当然、ロメロもである。
「なんやて!?」
研究成果を過信しすぎていたギャラリーから驚愕の声が上がるが、お前はベテランサマナーというものを舐めすぎだ。
葛葉にしても俺にしても、長年この稼業を続けている人間は、格下からワンチャン感覚でジャイアントキリング狙いされる機会なんてそれこそいくらでも経験している。
当然、雑魚散らしの手段ぐらいは常時用意していて当たり前なのである。
俺の振るう宝剣ーーエンペラーソードが前列後列関係なく一薙ぎすると、ふよふよ浮いていた六枚の鏡は破砕音とともに砕け散る。
後には……召喚を解除され次々消えてゆくロウルイ達と、そして鏡から解放され地に伏すおサルだけが残った。
「そない、アホな……!
あのロメロが一撃で……!
仲魔の一体も呼ばん、サマナー1人にやと……!?」
スリルの賞賛に、剣を仕舞いつつ俺は肩をすくめる。
研究室にこもりきりの奴は知らんだろうがーーこの手の跳ねっ返りの相手なんて慣れたものである。
しかし。よく知らない敵を実力者と認めるよりも、よく知る味方を無能と断ずる方がよほど容易い。
その法則に基づいて、研究者から「この期待はずれめ」みたいな視線をありがたくも下賜された実験動物のおサルはーー痛む体を引きずり、ふたたび立ち上がる。
その獣面に悲痛な表情を浮かべ、告げる。
「……ドクター。
貴方の敗因は。
相手を"モノ"としかーー思わなかったことです」
なんかサルが賢者みたいな事言い始めた。
まあ森の賢者とか言うか。(オランウータン)
「なんやて!? それはどういう意味や!?」
「……。結局のところーー」
おサルは悲しげに己が前足を見下ろしーー
その指先で、己自身を作り出した主を指す。
「造魔も、召喚士も。
貴方にとっては研究対象の“モノ"でしかなかった。
そうーー
自身が勝利を得るための!手段に過ぎなかったのです!」
「!!! な……!」
があん、とショックを受けているDrスリル。
一方、ドヤ顔を決めている召喚士ロメロに俺は思う。
仲魔五体を肉弾自爆させようとしたお前が言うな。
「ロメロ……お前もやっぱり……。
ワテの忠実な僕じゃあなかったんか……」
「こういう時ーー貴方の地元じゃ、こう言うんでしたね。
"もうあんたとはやっとられんわ“」
「ぐっ……。"ほな、さいなら“」
やたら地域色の強い、別れの挨拶を済ませる両者。
けどたぶんそいつ大阪出身ではないと思う。
「飼い犬に、いや飼い猿に手を噛まれるとはこの事や。
ようく覚えておくでぇ……。
どかんかい!アホゥ!」
人望のない桃太郎かよ。
悔しげなDrスリルは離反ザルに恨めしげな眼差しを残すと、行く手を遮る俺を八つ当たりで怒鳴りつけてから、普通にビルから出ていった。
憤然と立ち去るその後ろ姿を、淡い微笑みで見送るおサル。
え? あれ? 俺勝ったんだよね、今のバトル?
サルは背を向け、両前足を後ろで組む。
「これでいい……。
ファントムに、一定の研究成果は提示し得た。
今後の予算も安泰だ。
これでドクターはーー研究を続けさせてもらえるでしょう」
何をちょっと「優しさがわかりにくいタイプのいい人」ぶってんだよ。このサル。
おサルーー召喚士ロメロは、俺へと振り返った。
訳知り顔で微笑むと、搬入口へと視線を送る。
「……さて。組織への一応の義理は果たしました。
ドクターにももう、猿回しのサルは不要でしょう。
事情は知っていますーーすべてを終わらせる刻でしょう」
え。何をしれっと仲間に加わろうとしてんのコイツ。
そして申し訳程度にサル要素を強調すんな。
俺別にキビ団子とか持ってないんだけど。
「この召喚士ロメロ……微力ながら。
必ずや! 事態の解決にお役立ち致し」
「ーーいや。
仲魔を爆弾扱いするようなやつは。
いらない」
ロメロは目に見えてしょんぼりすると、ビルから去っていった。
* * *
「けっこう厳しいこと言うのね、ウラベ……」
おサルが肩を落として出て行った階段と俺とを交互に見ながら、ネミッサが意外そうな表情をしている。
俺は肩をすくめた。
「仲魔を使い捨ての爆弾扱いするようなサマナーはな。
外道って言われて忌避されるだけだ」
「元ファントムのダークサマナーが何か言ってるわ……」
やかましい。
召喚対象を大切に扱わない召喚士の末路など決まっているのだ。
そもそもそんな奴は長生きできない。
……というか。
ファントムソサエティ。マニトゥ。天海市次世代情報モデル都市計画。
すべては、そうーーそもそも召喚者と被召喚者の関係が歪んだことをキッカケとして発生してしまった諸問題のように俺には思える。
俺はふと、自嘲の笑みを浮かべた。
その懐へ闇を抱く、搬入口の奥をみつめる。
「何? 急に笑ったりして」
「いや何でもないーー前座は終わりだ。
そろそろ行くとしよう」
俺も結局。ロメロを外道と罵れはしない。
肉弾自爆突撃と何も変わらない。
「そう? わかったわ」
なぜならーー今から行おうとするのも。
ネミッサ……死の歌という爆弾をマニトゥへぶつけ。
仲魔もろともに葬らんとする自爆戦術でしかないのだ。
涼しい顔で頷くネミッサ。
死の歌とはおそらく、その存在の終末にして終端にして死ーーそのものであるのだろうが。
人へ魂を融合させその存在を安定させている以上、ネミッサ本人も今のままではいられないはずだ。
十中八九、マニトゥの死と共に去りゆく存在でしかない。
死の訪れを告げるタイマー役の死神は、自身をも巻き込む死については。
一体どのように捉えているのだろうか……?
悟り切ったようなその横顔には、微塵の揺れも無く。
ふと俺は……そんなことを思った。