前回の選択肢結果:
「ーー決着をつけよう」3
「ーー悪いが。今さらお前と戦う気はない」3
意外……。同数……。
ーーネミッサの憑依から解除された後も、無言のまま背景に徹していてくれたのだろう。
まるで番兵の有翼魔像のごとく。
「ーー決着をつけよう」
名を呼ばれ、戦いのため動き出すフィネガンだったが……
「ーー悪いが。今さらお前と戦う気はない」
……その、仇敵たる俺の返答に。
やつのサングラスの奥の表情がーーわずかに歪むのが見えた。
* * *
ーーどうやら、死に場所くらいは選ばせてくれるらしい。
俺はやつに促され、地下墓所の出口……封鎖された工事現場の入り口前まで戻ってきた。
谷底のように周囲から一段低くなったその場所には、ビル壁の先にかろうじて覗く曇天より淡い光が差し込んでいる。
その丸い光の中に足を止め、俺は振り返った。
地下へと続く黒い口は泣くような風音を奏で、黄色い封鎖テープを揺らしている。
かつて、護衛の仕事でナオミと合流した場所だった。思い出す。あの時も俺と不機嫌なこいつ、二人で待っていたんだった。
先に立ち去ったマダムと怜一郎はおそらく、俺たちも来る時に利用したーーチップ搬入口、隣のビル地下から出て行ったようだ。
ここなら銃声も聞こえまい。
曇天の照らすスポットライトの中、俺たちは向かい合う。
フィネガンが音もなく胸のガンベルトから愛銃を抜き。
向けられた銃口の前に。俺はフライトジャケットの内側を探り、煙草を取り出す。
見上げた空はーー灰雲を孕み、今にも一雨降らせそうだ。
「……もう足掻くのはやめたのか」
一切の戦意を見せぬ俺に。不可解そうに眉を上げ、銃を構えるフィネガンは問う。
俺は苦笑する。そう言えばこいつには、みっともなく生を掴み取ろうとするところばかり見られていた。
抗う必要はもうない。すでに復讐は果たされ、請け負った任も完遂しーーそうしてすべてをやり遂げた。
俺の番は終わったのだ。次は、別の誰かの番だろう。
答えぬ俺に。フィネガンはなおも問う。
「……あのガキはどうするつもりだ」
おや、と黒帽子の奥より片眉を上げる。
常に冷徹なフィネガンらしからぬ踏み込みだ。あるいはこれもーー俺に戦意を思い出させる為の、挑発のつもりなのかもしれないが。
役者が足りてない。
というより……役目を終えている、という方が適切か。
俺は煙草を咥えるままポケットに両手を突っ込む。
「ーー教育は済んだ」
俺はそれだけを言った。
たとえ生を弄び、死を返す悪魔召喚士であっても。
失われ、去った人間はもう二度と戻らない。
父親である俺の背中もまたその列に加わりーー
ーーそうして、最後の教育は完了する。
俺に教えられることはすべて教えた。
父親として出来ることは……もう無いのだ。
「…………。」
ーーフィネガンにはわからないかもしれない。
だがそれでもかまわない。
やり遂げた俺の。静かな表情に何を読み取ったか。
フィネガンは両手で愛銃を保持し、俺の頭へ狙いを定めた。
にわかに暗くなった頭上から遠雷が響くと同時に。空からは、大粒の雨が降り注いできた。
季節外れの驟雨に打たれながら……俺たちは動かない。
その時ふとーー俺は笑う。
「……なにがおかしい」
土砂降りの中。鋭く見咎めたフィネガンが、死に臨み笑う理由を訊ねる。
湿気た煙草を口から離し、俺は答えた。
「ーーいや。フィネガン。
俺は、悪魔召喚士として歴史ある家系の出身とはいえ……
所詮は不良あがりに過ぎん。
同じ組織には居たが。そもそもお前の方が年上だし、腕利きだ。くぐった修羅場の数も違う。
俺がお前に何かを教えることなんて無いーーそう、思っていたんだがな?」
どうやらひとつだけ、教えられることがあったらしい。
そう告げると。フィネガンは銃を向けるまま、遺言を聞くような表情で先を促す。
「……なんだ」
煙草を指揮棒のようにさまよわせ、俺は答えを教えてやる。
「ーーーー“復讐“」
俺の返答を聞き。
サングラスの奥の表情が、明らかに歪んだ。
ーーここまでの俺たちの足跡はすべて。傷なき男へ傷を与え、そうして復讐を追体験させる、魂の旅路だったとも言える。
そしてフィネガンがその引き金さえ引けば、復讐は完了する。
対峙する俺たち。銃を向けるフィネガン。アルゴンNSビル屋上ーー奇しくもあの夜と同じ状況だ。
そこからやり直すことで。フィネガンはすべてを奪われたあの夜以降を、ようやく取り戻すことができるのだ。
何よりも完璧な形で……復讐は成る。
「…………。」
フィネガンは苦虫を噛み潰したような顔で。搾り出すように言葉を紡いでゆく。
「……。ウラベ……。
お前のそういうところが……。
昔から、気に食わなかった……」
心の底から嫌そうに、それだけを告げ。
降りしきる雨の中、フィネガンはその手中の愛銃を回転させガンベルトへと収めると。
腰の後ろよりもう一挺、見慣れぬ銃を引き抜き……俺に向かって引き金を引いた。
倒れ伏す俺の指から。煙草が零れ落ちる。
ーー雨はいつまでも降り続いていた。