少年はゆめをみている

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第1話

少年は落下していく。

 

もう終端速度には到達している。この命が助かることは無いだろう。

 

逆さになった体と、ゆらゆらと揺れる髪と制服。

 

彼の目は開いていた。

 

なぜ?と聴いてみる。

 

怖くないから。

 

目にしておきたいから?

 

うん。

 

けれど、目を開くのであればなぜ、君は自分の命を終わらせてしまうの?

 

しょうがなかったんだよ。僕は言葉を持たなかった。現実と戦えない。戦えない人間が存在できるほど都合のいい場所じゃないんだ。だからこれでいい。

 

それでも、この世界を見ていると?

 

そう。

 

と口にして彼が手を伸ばすと、朝焼けの光と指が重なり、指が明るく透けて見える。

 

綺麗だねと語りかける。

 

ありがとう。君と僕は友達だった。

 

僕には小説しか無かった。会話も行動も、全てが小説だった。小説というシステムでしか世界を観測できなかった。だから君が隣にいるようになった。けれど、ここで終わりなんだよ。そう、決めたから。

 

後悔が、あるんじゃないか。

 

戦えなかった事が?

 

これは"僕"だから言うんだ。本当は悔しいんじゃないかって。

 

悔しいよ。けどね、満足もしてるんだ。この世界の形を知れたから。

 

じゃあ、もっと世界の形を知ろうとは思わないの?

 

それは思わないよ。もう十分見たもの。世界の形がどうであれ、戦えないならもうこの場所にはいられない。

 

そうかな。戦う事ができなくても、味わうことはできたと思う。

 

・・・それはどうだろう。やっぱり僕は、戦う中でしか世界を味わえないと思う。小説家になるにしても、映画監督になるにしても、その歓びは戦うプロセスにしか無いんだよ。きっと。

 

じゃあ、せめて戦う事ができない君のために、夢を見せたい。

 

そうして僕は彼に夢を見せた。

 

空中にいる彼の周りに、今まで見てきた小説のヒーローや、美しい女性たちが現れる。

 

冒険譚の勇気ある青年。推理劇の洞察の鋭い探偵。宇宙服を着たパイロット。月夜に光る黒髪の乙女。

 

君は僕であり、僕は君だ。

 

だから、こうやって夢を見せる事もできる。

 

凄いね。こんな事もできるんだ。

 

太陽の光がプリズムとなって角ばった形になるのは、何の雫が元だろうか。

 

人はゆめをみている。

 

ずっとずっと、ただゆめを見ている。

 

それは夢を追って生きる人間も、飛び降りる人間もそうなんだろう。

 

どこか、現実ではない夢を見て、夢想しながら生きている。

 

ひとが現実を見ている時間など、きっと無い。

 

だから、ひとは好きなように夢を見てもいいのだ。

 

そして、全ての夢は終わる。

 

目の前の人は消えていき、太陽の光が目に焼けていく。

 

でも、これで良かった。

 

ありがとう。

 

それじゃあね。

 

おやすみ。


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