戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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雪降る街の少女達…

 夜の帳が下りた渋谷の街を五人の少女がウキウキ顔をしながら練り歩き、その真ん中にいたチョココロネを二つ頭下に付けた様な髪型の少女が御満悦な笑顔で星空に向かって手に持った紙袋をかざした。

 

「やっと…、

やっっと手に入れました

〈吸血鬼の涙〉!

流石は大都会東京っ!

んん~、初めまして、わたしのバンパイアさん♪

ンフ…、

ンフフ…、

ンフフフフフヒヒ…♪♪

ムチュウウ♪♪♪」

 

 浮き足立った少女…星空みゆきは紙袋に入れた絵本にブチュウっとキスをして頬ずりを何度も繰り返した。

 

「みゆきちゃん、読み終わったらわたしにも読ませてね?」

 

 フワフワな髪を弾ませた同じく笑顔の黄瀬やよいにみゆきは快くOKの返事を返して二人並んで絵本にまた頬ずりをした。

 そんな二人の背中を呆れがちに見て苦笑する日野あかねと緑川なお、青木れいかは三人横並びになって付いて行く。

 れいかはストレートの長い黒髪を軽く左手で整えて腕時計を気にする。

 

「そろそろ20:00になります。

早めに別の本屋に行って不思議図書館に戻らないといけませんね。」

 

 彼女の言葉を聞いたみゆきとやよいは『えーっ!?』と声をハモらせ、れいかにブーイングを送る。

 

「仕方ないやろ、時間も遅いし…東京は今青少年なんたらかんたら…」

 

 …と、あかねは言葉を詰まらせてショートヘアの頭を掻き始めたのでなおが話を継ぐ。

 

「青少年保護条例で未成年の外出時間は夜8時までで9時以降は……」

 

 ポニーテールの先をいじりながらなおもまた引っ掛かり、れいかに戻って話を続ける。

 

「夜9時までに帰れない未成年はパトロールをしているタウンガーディアンと言う監視員さんに保護されて保護施設で更正カリキュラムを受ける事になります。」

 

 れいかの完璧な説明を聞いてみゆき達四人は『おおーっ。』と声を洩らして拍手を送り、れいかも恥ずかしげに笑顔を返した。

 そしてみゆきはみんなと向き直って笑顔を崩さず高らかに声を張り上げる。

 

「それじゃあ、また本屋さんへ行って不思議図書館へ戻って解散しよーかっ!」

『オーッ!』

 

 みゆきに続いてあかね、やよい、れいかが声を上げるが…なおは目を見開いて斜め上の方を向いていたので気になったみゆきはなおに尋ねる。

 

「どしたの、なおちゃん?」

 

 なおは視線を動かさず、自分の見ている方向を指差した。

 

「みゆきちゃん、みんな、アレ…“人”…だよね?」

 

 なおの指差す方向をみんなで視線を移すと、電線を歪ませて渡る猿の様な影が見えた。

 しかし猿と云うよりゴリラ…、そして何やら左腕に何か大きなモノを抱えて電線を綱渡りし、電柱の先から物凄い跳躍で建物に飛び移った。

 

「アカン、“あれ”が抱えとるの女の人や!!」

 

 突然のあかねの言葉に四人は険しい顔付きとなって視線を交わして頷き合うと、みゆきの背負っていたピンク色のミニリュックから白毛の小さな動物が頭を出し、みゆきの右肩から顔を覗かせると短い腕と黄色毛の長い耳をピンッと立てて声を張り上げた。

 

「みんな変身して後を追うクルーッ!!」

 

 それを見てやよいがその動物…ではなく妖精のキャンディを見てクスリと笑う。

 

「キャンディったら静かだと思ったら今まで寝てたんだね?」

「みゆき達本ばっか読んでたりお店出入りばっかりしてつまんないんだもんクル~。」

 

 にこやかに話すやよいと背中のリュックに入ったキャンディにみゆきが困りげに声をかけた。

 

「おーい、変身するよーっ。」

 

『プリキュア・スマイルチャージ!!!』

 

 掛け声と同時にみゆき達の体が桜・赤・黄・緑・青と5つの光に包まれ、彼女達は伝説の戦士…プリキュアとなってあの電線を渡っていた怪しい影を追いかけた。

 そしてまた別の場所よりまた影を追う厚手のコートを着た少女が一人…、右手に小太刀を握り締めて街灯に照らされた夜道を駆け抜ける。長く首の後ろで二つに束ねた黒髪を風に乗せて走る少女は鋭く光る赤い瞳で影を捕らえタンッと靴音を立てて飛び上がると建物の屋根を飛び移りながら影を追いかける中、闇の街より突如現れた五光に一瞬だけ目を向けるが…直ぐに視線を逸らして更にスピードを上げて捕まっているあの女性の安否にその表情を険しくさせる。

 

(必ず、救う!)

 

 少女は黙したまま走り、瞳がより赤く光り暗い闇夜を照らし星の見えない夜空から降り始めた雪を浮き上がらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンシン…と真白の雪が降る闇夜をその怪物は左腕に少女を一人抱えて駆け抜けていた。ボロボロのコートをバタバタとはためかせて建物から建物へと飛び移り、電線を伝い走り、建築工事区域にそびえ立つタワークレーンをよじ登り天辺にで夜の街を見下ろした。

 腹が空いていた…。喉が渇いていた…。何より全身を引き裂かれる様な激痛が駆け走っていた。だからこそ左腕に少女を抱え、怪物はひたすらに逃げていた。

 先程の地下鉄車両内では二人程喰い殺していたが、飢えは満たされず…それ所かとんでもない相手に怪物は目を付けられてしまった。

 其奴は今もこの怪物を追っているだろうが、先程まいてからは気配を感じない。怪物にとって少女を食らうなら今がチャンスであろう。

 …だがしかし、怪物は少女の顔を見つめ…金縛りとなり身体を硬直させる。

 怪物は剥き出しの歯茎に並んだ吐血した血で汚れた歯をカタカタと合わせ、心の底に埋もれた少女の名前を口にしようとしたその時、突如真ん前に桜色と白のコスチュームで着飾った女の子が飛び出してこう叫んだ。

 

「こおらあーっ、その人を離しなさーいっ!!」

 

 その女の子は勢いに任せて怪物に掴みかかろうと手を伸ばす。…が、怪物は蛙の様に飛び跳ねてコレを避け、そのまま急降下をした。

 

「ハッピー、大丈夫か!?」

 

 怪物を捕まえられずにタワークレーンの鉄骨にダラリと引っ掛かった女の子…星空みゆきことキュアハッピーは日野あかね…キュアサニーに心配されて「タハハ…。」と苦笑いをして見せる。

 

「ほら、マーチ達は怪物の後追いかけたで。

ウチ等も行こっ!」

「うんっ!」

 

 キュアハッピーは両手で頬をピシャンッと挟み打ちしてサニーと一緒に怪物とキュアピース、マーチ、ビューティを追う為にタワークレーンを飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い影を黄・緑・青の光が追い掛け、場所は煉瓦畳みの公園へと移り黒い影…少女を抱えた怪物は全身を走る激痛に耐えかねて勢い余って倒れ込み、少女をその手から離してしまう。そして少女を護る様に黄瀬やよい…キュアピース、緑川なお…キュアマーチ、青木れいか…キュアビューティが囲い込み、怪物に立ちはだかった。

 怪物は荒い息遣いをして立ち上がり、異臭と血の匂いを漂わせてゆっくりと歩みを進ませてプリキュア達に近付いて来る。

 相手の姿が見えて来るに連れてピース、マーチ、ビューティは身体が総毛立つのを感じていた。

 ボロボロのコートに裸足で雪で白くなり始めた煉瓦畳みを歩き、両肩は常人よりも広く長く太い両腕…。

 ボサボサの髪の毛に歯茎を剥き出しにした裂けた口からは涎と血をポタリポタリと垂らし、血走り黄ばんだ眼球は何処を見ているのかも分からなかった。

 ピースは怖じ気づいて一歩下がってしまい、ビューティも不快感極まる異臭に顔をしかめて思わず鼻を押さえてしまう。

 そしてピースとビューティは怪物の出で立ちから有り得ないであろう推測を頭に浮かべてしまっていた。

 

「マーチ、ビューティ、あの怪物…もしかして…?」

「ピース、私も貴女と同じ事を考えてます。

マーチは…どう思いますか?」

「解らない。

…でも、此の場を引く事は出来ないよ!」

 

 キュアピース…ビューティとは違い、キュアマーチは相手の正体よりもその滲み出たリアルな不快感とその瞳が示す狂気に畏怖し…正体の事など考える余裕を棄てて集中力を高めようと必死であった。

 この怪物が今自分達が戦っている宿敵バッドエンド王国の先兵である“あかんべぇ”とは明らかに異なる存在なのは解る。

 しかしその外見は彼女達が対峙するにはあまりにも“人間”に近く似過ぎていた。

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