戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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道化師は屈辱に歪む…

「なっ、何を企んでいるの…ジョーカー!?」

 

 思わず彼の思惑を聞いてしまうハッピー。それに対しジョーカーは傲岸不遜に答えた。

 

「企みだなんて…、

一っ杯ありすぎて答え切れませんよ。」

 

 いけしゃあしゃあと吐き捨てるジョーカーをウルフルンを入れた全員で睨みつける。油断出来ない上に何を企み実行してくるか解らない男…それがジョーカーである。

 キュアハッピーは休戦協定を持ち出した事を僅かに後悔してしまう程に彼の存在は邪悪であった。

 

「それでは皆さん、貴女方の勝利を…願っておりま…」

「あら、“まだ話は終わっていない”わよジョーカーさん?」

 

 立ち去ろうとしたジョーカーを呼び止めたのは意外にもプリキュアではなく、魔法少女である暁美ほむらであった。

 彼女はキュアビューティと挟む様にハッピーの隣に立ち、溜め息を吐いて横目でハッピーの顔を微笑んで見せる。

 

「ほっ…ほむらちゃん?」

「貴女って本当に詰めが甘いのね。

折角休戦協定を結べるんだから条件をハッキリさせないと駄目じゃない?」

 

 1テンポ、間を置いて後ろの少女達から“おーっ”…と歓声が湧き、反対にジョーカーは目を細め、笑みが消える。

 ほむらは右手で長い黒髪をかき上げ、バッドエンド王国の使者を見据えた。

 

「貴方…、さっきこう言ったわよね…

皇帝ピエーロ様の御意志は絶対だって…?

なら、わたし達が休戦協定を受け入れなければ貴方は皇帝ピエーロ様とやらのお使いを果たせない事になるのよね?」

 

 それを聞いたジョーカーの表情が一変、口元はへの字になり僅かに開いた奥からはギザギザの歯が見え隠れする。

 

「言葉に気を付けなさい、魔法少女さん。

貴女方には関係ない話…」

「そうかしら、貴方…、

キュゥべえとはついこの間まで裏で通じていた筈よ。関係ないとは…虫が良すぎないかしら?」

 

 ほむらの話は更にジョーカーを焦らせる。確かに彼は魔法少女達をサポートしているキュゥべえと裏で情報交換をしていた。

 キュゥべえからは魔法少女達の全データを、ジョーカーからは【塔】を動かす者達の大まかな情報を手にしていた。そしてギブアンドテイクを理由にした裏の繋がりは今現在も進行中の筈なのである。

 

(裏切りましたか、インキュベーター!?)

 

 憎々しげにほむらを睨めつけるジョーカーだが、彼が皇帝ピエーロより受けた命令は只一つ…、

“プリキュア達と休戦せよ!”

 …コレのみなのだ。其れ以上の命令はなく、もしプリキュアから自分達が不利になる条件を出されても皇帝ピエーロの命令こそが優先される。

 

(プリキュアだけなら誤魔化しが出来たのですが、

魔法少女…特に“暁美ほむら”と言う娘は侮れませんね~!)

 

 ジョーカーが悔しがりほむらを睨んでいる間、キュアハッピーは休戦する為の条件を考えていた。

 

「ん~、さすがはほむらちゃん!

でも休戦の為の条件って言われても思いつかないよ~!?」

 

 頭を抱え出したハッピーだが、ビューティが一つ案を聞かせてくれた。

 

「ハッピー、この様な場合は【塔】との戦いの間は一切の悪事を禁ずる…と言った禁止事項が良いかと思います。」

 

 それを聞いてサニーも話に入る。

 

「…つうか、そのまんまジョーカーに言ってやればええんちゃうか?」

「ええ、もう少し…

意地悪な条件にしたいな~?」

 

 …などとピースが言い出し、マーチがピースに突っ込みを入れた。

 

「こらこら、正義の味方が悪人に意地悪したらマズいでしょ!」

 

 しかし更には佐倉杏子が割って入りまたもや物騒な事を言い出す。

 

「人質一人寄越せってのはどうよ、協定破ったら…“ブッスリ”と…?」

 

 しかし杏子は皆から送られる冷たい視線で言葉を詰まらせ、さやかが彼女にキツい一言を送った。

 

「アンタって…、本っ当に悪党よね?」

「…うっ、うるしぇっ!」

 

 気付けば女子会宜しく井戸端会議が其処にあった。ほむらは頭を抱え、ジョーカーとウルフルンも呆れがちに少女達を見つめる。

 

「…私も忙しい身です、出来れば今直ぐに決めて貰いたいものですね。」

 

 嫌みを言ってはみるが立場の逆転は返せる訳がなく、右足でペシペシと踏み叩いていた。ほむらもまた仲間達の無駄話に耐えかね、ジョーカーに対して言い放った。

 

「休戦の条件を言うわ。

…わたし達が【塔】と戦っている間…、

全世界に対してのバッドエナジーの搾取を禁じるわ、バッドエンド王国!」

 

 ジョーカーは忌々しいと言わんばかりに激しく奇声を発し、普段は絶対に見せない筈の鬼気迫る形相をさらけ出した。

 そのけたたましい奇声にプリキュアと魔法少女達は驚き、ウルフルンもジョーカーから離れる様に後退る。

 彼にとって、ほむらの提案は最も恐れていたもの。バッドエナジーの回収が出来なければ悪の皇帝ピエーロの復活が事実上の頓挫となりかねないのである。

 

「ムキイイイイイイイイイィァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

(屈辱だあっ!!

こんな小娘の言いなりになるなど、有り得ない!

有ってはならない!

…しかし、しかししかししかしっ!?

コレはピエーロ様の御意志、ピエーロ様の言葉は何よりも、我々の命よりも優先される大命なのです!!

…そうです、あのお方の為に付き従う事こそが…、私の誇りにして喜び!

何よりきっとピエーロ様にも相応のお考えがある筈です!!)

 

 ジョーカーは悔しげな奇声を上げ終えると、またも急に静かになり…何時もの不快な笑みを浮かべていた。

 

「宜しいでしょう、その提案を呑みましょう。それこそ“無条件”で。」

 

 “ククッ”と含み笑いをしてジョーカーはほむらから視線を離さず睨めつける。ウルフルンが彼に文句を言おうとしたが、たった一睨みでウルフルンを黙らせた。

 ほむらは彼が一瞬でも此方にぶつけてきた凶悪な殺気に全身が凍てつく感覚に襲われる。

 

「魔法少女暁美ほむら…、覚えておきましょう。

…そして楽しみです、貴女達が絶望に打ち拉がれるその日がねえっ!!」

 

 不安な言葉を捨て台詞にし、ジョーカーはウルフルンを引き連れて彼女達の前から姿を消した…。

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