戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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災厄は過去より来たれり…

 三十年前、イギリス・アメリカで起きた同時バイオテロ事件。

 別名・飛行船事件。

 被害者、米国・全閣僚含む“六万四千三百名。

 被害者、英国・“三百七十一万八千九百十七名”。

 その年、日本もまた…かつてない大災害に見舞われていた。

 第二次関東大震災…。

 通称“東京大地震”。

 死傷者、約“十八万七千六百五十人”。

 この年、三国に起きた大災厄により世界は再び大恐慌に陥るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殯邸別宅のとある一室でふわふわな髪をした少女…月山比呂は三十年前に起きた出来事をパソコンで検索していた。

 そのパソコン設備は個人で所有するにはかなり高価な物で、彼女の足下にはキーボードがもう一つ置かれていた。

 画面と向き合いタタタタ…と両手と両足でキーボードを素早く、そして正確に指を滑らせていた。

 

「月ちゃん、何見てるの?」

 

 後ろから声をかけたのは矢薙春乃である。

 

「殯さんに頼まれてた三十年前の世界事情。」

「そう、もう直ぐ例の娘達が来るわ。

此方は後にして一緒にお迎えしましょう?」

「…わたしは、いい。」

 

 少し俯いてまたキーボードを弾き始める月山比呂。彼女は軽度のあがり症で少々人見知りをする少女である。

 矢薙は彼女の肩にポフッと手を置いて顔を覗き込む。其処には不安を面に出した内気な少女の顔があった。矢薙は年上相応に優しく彼女に微笑む。

 

「前にも言ったけど、月ちゃんと同い年の子達だから…きっと大丈夫。

何時までも松尾君や藤村君みたいなむさ苦しい男相手は月ちゃんの将来に“毒”なんだから、良い機会だから此処で友達を作っちゃおう♪」

 

 しかし其処にソファに寝そべっていた松尾伊織が反論に出た。

 

「あー、それマジで傷つくなーっ春乃さん!

俺達ムッチャ月ちゃん大事に思ってるんですよ!」

「…それ、聴き方によってはかなりヤバいっすよまっさん?」

「てめぇ、言いやがったな!」

「っちょ、やめっ、いだだだっ!?」

 

 藤村駿に突っ込まれヘッドロックをガッチリ決める伊織。

 

「全く…、いつまでお子様でいるつもりなのよ貴方達はっ?」

 

 お馬鹿な二人はほっといてとばかりに放置を決め込み、あまり乗り気ではない比呂を半ば無理矢理に連れ出す矢薙であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殯邸別宅の門を抜けてみゆき達はサーラッドの本拠地に訪れていた。本日のメンバーは星空みゆき、日野あかね、黄瀬やよい、暁美ほむら、巴マミの五人。

 緑川なおと青木れいかは学校の部活と委員会で来れず、美樹さやかと佐倉杏子は魔法少女としての夜の見回りと魔獣狩り…。今回は互いを合わせた五人の訪問となった。

 玄関に辿り着くまでの間、ほむらはアーカードについてみゆきに聞いてみた。

 

「インコグニートの戦いの時も少し顔を出して直ぐにいなくなってしまったけど、あれから全く会っていないの…?」

「あはは…、実は何度か大使館のレイチェルさんに聞いてみたんだけど…、

此処何日か大使館にも姿を現してないって…。」

 

 その声からは少々不満が見え隠れしていた。

 

(本当にあの吸血鬼を気にかけているのね…。)

 

 ほむらはみゆきとアーカードの関係をとても不思議に感じていたが、前回のインコグニート戦でアーカードはみゆきの危機には一切手を出さずに傍観を決め込んでいたのは間違いない。

 そして彼はインコグニートへのトドメをみゆきに任せ、無言で見届けると何も言わずに姿を消した。

 ほむらにはアーカードが何かみゆきに向ける期待の様なモノがあるのでは…と、不安に感じていたのである。

 

「暁美さん、もう館の前よ。」

 

 マミに声をかけられ、ふと顔を上げるほむら。みゆき達も不思議そうにほむらを見ていた。そして…、館の玄関前で五人は立ち尽くしてしまった。

 

「呼び鈴…何処?」

 

 みゆきは此方を向いているテレビカメラを恨めしく見つめ呟いたが、悩む時間もなくドアは開いて中からは背の高い美人な女性…矢薙春乃が顔を出し、その傍らには小さな美少女…月山比呂が矢薙の上着の裾を掴み、みゆき達を警戒していた。

 

「いらっしゃい、私はこの館の主である殯の秘書をしてる矢薙と言います。

私の後ろに隠れているのが月山比呂ちゃん。」

「つ…、月山…比呂です。」

 

 オドオドした比呂にみゆき達は笑顔で接し、順番に自己紹介を始める。

 

「星空みゆきです、よろしく♪」

「ウチは日野あかねゆーねん、よろしゅうな。」

「わたしは黄瀬やよいだよ、よろしくね。」

 

 一息置いてほむらとマミは矢薙に向けて自己紹介をする。

 

「暁美ほむらです、よろしくお願いします。」

「巴マミと云います、どうぞよろしくお願い致します。」

「えぇ、よろしく。此から殯さんの書室まで案内するわ。

さっ、どうぞ?」

 

 五人は矢薙に館内を案内され、比呂は途中で別の部屋に逃げる様に離れてしまう。しかしみゆきはその時に手を振って比呂へ大きな声で言った。

 

「月山さん、また後でねーっ?」




この小説はHELLSING(原作終了)時間を基準に帝都物語(原作終了)の三十年後の時事設定で進んでいます。原作を知っている人には少々“あれっ?”と思う空白時間があるかも知れませんが其処は脳内で辻褄を合わせて下さい。
他力本願…。
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