その日の放課後、見滝原中学校門前で巴マミは意外な人物が二人を待っていたので少し驚いていた。
「えっと…、貴方方は確かサーラッドの…?」
マミは頭から二人の名前がなかなか出て来ないのでこめかみを人差し指で押さえ、頭を傾げて思い出そうとする。
すると背の高いニット帽を深く被った男性が焦れったそうにして彼女が思い出す前に名乗った。
「んだよ、覚えてねえのか?
ついこないだ会ったばかりなのによう。
俺は松尾伊織だよ。そんでアメ舐めてんのが藤村駿だ、忘れんなよ、ったく。」
マミは背の高い男性…松尾のガラの悪さに少し眉をひそめると、彼に紹介された藤村はチュッパチャプスを加えながらマミに拝み手を見せた。
「こんちゃ、只今御紹介にあずかりました藤村駿です。
いきなり押し掛けてゴメンね、今お暇かな?」
マミは二人の男を前にして周囲を気にする。…案の定周りの生徒達は好奇心を滲ませてチラチラと横目に見て三人の傍らを通り過ぎて行く。
(もう、まるで押し掛けナンパみたいじゃない!)
…みたい、ではなく正にナンパであろう。二人の男性が女性を誘い連れ出そうとしているのだから、事情はどうあれ…結果的にはそうなる。
しかし彼等の本拠地は渋谷で、見滝原町まではそれなりに距離がある。マミ達魔法少女はプリキュアの秘密基地のある不思議図書館を彼女達と一緒に通って殯邸や英国大使館の距離を縮めてはいるが、彼等サーラッドは自動車か電車と云った通常の交通手段を利用するしかない。
そんな彼等が魔法少女にわざわざ会いに来た理由が少しだけ気になり、周りの生徒達の目も気になったのでマミは松尾と藤村を喫茶店に誘う事にした。
静かなモダン風の喫茶店で巴マミは松尾伊織…その隣りの藤村駿と向かい合い、注文をする。
「ダージリンティーとシナモンケーキをお願いします。」
「あ~、俺カツカレー。」
「僕は抹茶パフェで。」
そしてマミは“カツカレー”を頼んだ松尾に冷たい眼差しを無言で送る。
「…んだよその目は…?」
「まっさん…、幾ら“矢薙さん一筋”だからって、他の女の子と喫茶店でカツカレーって…。
マジ痛いっす。」
「そーゆーテメエだって男のクセにパフェとか注文しやがって、男のプライドってもんがねえのかよ!?」
「男のプライドで注文考えてたら本当に食べたい物が食べられないっすもん!
まっさんは女心が解らな過ぎっすよ!」
男同士の痴話喧嘩を聴きながらマミはこう思う。
(デリカシーのない男の人とは絶っ対に付き合わない!!)
そして本題はサーラッドの二人がマミ…正確には魔法少女に会いに来た理由に話は行くが、松尾がカツカレーを夢中でガッつき食べているので藤村から彼女に話した。
「魔獣の取材…ですって!?」
「そう、今や【塔】や“古きもの”はその存在が明らかになる日も近い!
だから君達が戦っている魔獣もまた、その情報をネットに詳しく流したいんだ。そうすれば魔獣に出会さない方法なんかもあれば、それをみんなに知らせられると思うんだよ。」
藤村は笑顔でマミに提案をする。彼の表情からは明らかに好奇心が先立っているのが理解出来た。
「お断り致します。
遊戯半分で関わられると困ります!」
マミは怒りを表面に出し、藤村を睨む。
「えっ、でも君達の噂だって結構ネットに流れてるんだよ。
だったらネットを通して僕達みたいに協力者を作ってもいいんじゃないかな?」
「そう言う問題ではありません。“魔獣”と関わりを持つ事自体が危険なんです!
魔獣と私達は呼んでいますが、言ってしまえば彼等は“怨霊”そのものなんです。
彼等は神出鬼没で時に人に取り憑いてその相手を取り殺してしまう事だってあるんです!」
魔獣は古きものと同じく危険な存在であると教えるマミだが、藤村は成る程と言わんばかりに首を縦に振り端末機を使いメモを取り始めた。隣りではまだ松尾がカツカレーを黙々と食べている。
二人の緊張感のない…そして自己主張の強い様に巴マミは彼等と関わった事を後悔する。この二人には確実に足りないものがあったからだ。
いや、恐らくはこの二人だけではなくサーラッドのメンバーの殆どが直ぐ傍の“死の世界”を感じ取っていないのかも知れない。あまりにも簡単に死の危険に首を突っ込もうとする松尾と藤村を前にマミはそう確信を持った。
端末機を弄っていた藤村が俯くマミに気付き、その顔が曇っていたので彼女に聞いてみる。
「…どうしたんだい、マミちゃん?」
「まっ、“マミちゃん”て…っ!?
貴方方に“ちゃん”付けで呼ばれる程親しくした覚えはありません!」
マミは“ちゃん”付けで呼ばれた事に気恥ずかしさを感じて立ち上がってしまう。ビックリした藤村と口一杯にカツをほうばった松尾は目を丸くしてマミを見る。
「とっ、兎に角…、魔獣の取材には一切協力はしません!
ハッキリ言ってしまえば、いざという時自分の身を守るのが手一杯なんですから貴方方の安全は保証出来ませんから、諦めて帰って下さい!!」
マミは一方的にまくしたてると、注文したダージリンティーとシナモンケーキに手を付けずに喫茶店を出てしまった。
松尾と藤村は彼女の去り行く背中を呆然と見送り、残されたダージリンティーとシナモンケーキ視線を向けた。
「…誰が払うんだよ、つうか誰が食うんだ?」
「…いいっす、僕食いますよ…。」
そう言って藤村はシナモンケーキを取り自分の席に移動させると…、其処に出て行った筈の巴マミが戻って来てまた二人の向かいに“ドスンッ”と座った。
「…マミ…さん?」
藤村に名前を呼ばれたマミはギッと彼を睨みつけた。
「そっちの方が年上なんですから“さん”とか付けて呼ばないで下さい!!」
未だ怒っていたマミは藤村の席にあるシナモンケーキを取り上げてパクパクと食べ始め、クッ…とダージリンティーに口を付けた。
藤村駿は怒りながらシナモンケーキとダージリンティーを平らげるマミから目が離せなくなり、惚けた顔を只マミに向けていた。
…結局マミは“協力はしない”と捨て台詞を残して会計を済まし松尾と藤村を残したまま喫茶店を後にした。二人は暫くマミのいた席を見つめ、松尾が素朴な疑問を藤村に振った。
「なぁ、アイツ何怒ってたんだ…?」
返事が返ってこないので眉間をひそめ傍らの藤村を横目に睨むが、当の藤村駿は頬を染めて…とろんとした目でマミのいた向かい席を見つめていた。
「どうかしたか、藤村?」
「…まっさん?」
「何だよ?」
「彼女…、
何かすんごく可愛いかったですよね~♪♪」
松尾は突然の公言に呆れ、藤村駿のデレデレしただらしのない顔を冷たい視線を向けるのだった。