戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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[少女友愛の章]の最終話です。


伯爵は容赦無用に雑魚を討つ…

 空は太陽が沈もうとしており、大使館に戻るリムジンの中でアーカードを“マスター”と呼ぶ巨乳の女性が自己紹介を始めていた。

 

「大英帝国王立国教騎士団ヘルシング機関“現ゴミ処理係”にしてマスター…アーカード様の眷族のセラス・ヴィクトリアです。

よろしくねみゆき…と、小夜…さん?」

「はい、よろしくお願いします♪♪」

「よろしくクル~、セラスからは怖い感じがあまりしないクル♪」

 

 みゆきとキャンディの笑顔にセラス・ヴィクトリアはニコリと微笑む。

 

「そっか、怖くないか。

ありがと、キャンディ♪」

 

 セラスはみゆきとキャンディ…向かいの席に座る小夜の事は大使館より送られてきた資料によって既に知ってはいたが、思った以上にフレンドリーなのでかなり嬉しく感じていた。

 走行中、みゆきとキャンディはセラスと色々と喋りご満悦となるが…、ふと周囲に緊迫感が張り詰めてきた事に気付いた。

 

「みゆき、どうしたクル?」

「キャンディ、わたしにシッカリ掴まってて。

アーカードさん、小夜さん!」

 

 みゆきに呼ばれる前に小夜は日本刀を引き抜こうとして臨戦態勢となっていたが、既にアーカードが二挺の大型拳銃…白銀の銃身“カスール改”と漆黒の銃身“ジャッカルmarkⅡ”を引き抜き、その姿も赤の外套を着極した戦闘スタイルになっていた。

 

「この場はわたしが請け負おう。

お前達は黙って寛いでいろ。」

 

 言うが早くアーカードの姿は忽然と消え、リムジンの上に移動したのか屋根がボムッと鳴り沈んだ。みゆき達は窓越しに車外を確認すると、黒猫マークの配達車両四台が後方左右よりスピードを出して付いて来ていた。みゆきは向かいの席に身を移して運転席のレイチェルに尋ねた。

 

「レイチェルさん、今車のスピードってどの位出てますか?」

 

 不安げなみゆきにレイチェルは強張った表情で答えた。

 

「いっ、今は“120km”は出しています。」

「ええっ、アーカードさんが落っこっちゃうよ!!

車止めて!?」

「NON!!

今止めたら彼奴等に殺されてしまうわ!!!」

 

 今この車内で一番恐怖を感じているのはレイチェルである。本来英国大使館の末端職員であった筈の彼女は時折セクハラ紛いな言動を吐く上司に無理矢理本国から吸血鬼と同盟を組んだか知らないが何故か日本の女子中学生達の世話をさせられたかと思いきや、何時の間にかヘルシング機関のエージェントの一人に数えられてセクハラ上司を顎で使う立場にされていた。

 彼女としては軽いセクハラなら耐えられたし、それなりに給料の良かった末端職員の方が気楽で良かった。

 …しかし今は考えられない高収入を約束された代わりに同僚の死体を見て吐いたりそれが原因で“PTSD”寸前と診断されたり、そして現在…命のやり取りに巻き込まれる状況であったりと彼女の人生は正にロシアンルーレットの如く回っていた。

 

「ジーザス~ッ、ヘルプミーママン!!」

 

 恐怖が頂点となり泣き喚きながらレイチェルはアクセルを踏んだ。

 みゆきは突然の加速で座席に圧し倒れ、キャンディがその反動でみゆきの肩から飛び出してしまうが咄嗟に小夜が両掌でキャンディを受け止めた。

 

「キャンディ、大丈夫!?」

「大丈夫クル、小夜が助けてくれたクル。

ありがとクル、小夜。」

 

 掌の上でキャンディは屈託な笑顔で小夜を見上げた。

 

「あ…、あぁ。」

 

 無邪気に自分を信用仕切ったその笑顔に小夜は戸惑ってしまう。そしてそんな小夜を見てみゆきは顔を綻ばせていた。

 …だが其処にとうとう機関銃の銃撃音とその着弾音が響き始めた。リムジンの後部に被弾しているのだ。“カンカンカン…ッ”と云う金属音が止む事なく続きみゆきは後ろに向き直ると、其処には目を疑う光景があった。

 何と【塔】の鬼面を付けた私兵達が120kmは出しているこのリムジンを駆け走り追って来ているのだ。

 プロテクタを纏った鬼面兵の人数は八人、凄まじいスピードでリムジン左右背後に付いてアサルトライフルの引き金を引いて追い込みをかける気でいる様だ。

 

「どうやら彼奴等、“人造吸血鬼”みたいだね?」

「えっ!?」

 

 セラスの言葉に息を呑むみゆき。インコグニートとの戦いが脳裏に蘇り、味方すら捨て駒にする非道が…そして人をモルモットの様に扱う【塔】に再び怒りを覚える。しかし次の瞬間、二人の鬼面兵の頭部が落ちたトマトの様に吹き飛びゴロゴロと転げてハイウェイの向こうへと消えた。…アーカードの狙撃である。

 

「まっ、生まれたばかりのにわか吸血鬼が元祖“ドラクル”に勝てる訳ないけどね?」

 

 激しい銃撃音を物ともせずにリラックスをするセラス。彼女は知っている、吸血鬼アーカードの強さ…恐ろしさを…。だからこそ、頼もしい味方なのだと…。

 六人に減った鬼面兵がリムジンに追いつき、左右各三人に別れて挟み込むと六つの手榴弾がリムジンに投げられる。それをアーカードは目で確認する素振りもなく腕を交差して右手に握るカスール改で左の三つの手榴弾を、左手に握るジャッカルmarkⅡで右の三つの手榴弾を打ち抜き爆風が巻き起こった。

 

 

「キャアアアアアアアアアアッ!?!?」

 

 爆風で大きく揺れるリムジンの車内でみゆきは悲鳴を上げ、セラスは彼女を抱き締め守る。小夜もまたキャンディを胸に抱いて衝撃を弱めた。手榴弾による爆煙は直ぐに払われたがその刹那にアーカードは左右六人の鬼面兵の頭部を正確に撃ち抜いて破壊した。人には出来ない早撃ち精密射撃にみゆきは絶句する。何より彼の持つ拳銃の破壊力は残忍極まる代物だと感じた。

 

「ドラクル…、“ドラキュラ”…か…。」

 

 みゆきは彼がいるリムジンの屋根を見上げる。此は彼の恐ろしさの一端でしかない。ふと気付けばみゆきの心にはアーカードの強さに対して“憧れ”の様な感情が生まれていた。

 

(わたしもアーカードさんみたいに強ければ誰も傷付けずに戦えるのかな?)

 

 そんな事を考えてしまうと、彼女の頭にアーカードの声が響いてきた。

 

「えっ、アーカードさん!?」

 

 突然の事にみゆきは狼狽えるのだが、アーカードの声は優しくみゆきの思考を否定した。

 

(みゆき、其れは違う。

私は人である事を拒否した化け物だ。化け物の力は殺戮、破壊、破滅しか出来ない。お前が強くなるには人の身で更に自身を練り上げるしかない。

…覚えておけ、化け物を殺すのはいつだって人間なのだ。)

 

 その声色はとても哀しげな響きを帯びたものであった。初めて感じたアーカードの心であった。

 襲撃は八人の人工吸血鬼を破壊しただけでは終わらず、配達車両に偽装した四台の装甲車がリムジンの前を取ろうとまた左右挟む様に並び追い抜こうとするがその刹那にアーカードの二挺の大型拳銃がまた火を噴いた。マズルフラッシュを四回散りばめ、弾丸は車両の装甲を貫き通して運転手は頭部を吹き飛ばされた。偽装装甲車がリムジンから離れるとアーカードは二度車両のタンクに大口径の弾丸をエンジンに撃ち込み四台の車両が爆発。アーカードにより敵は全滅し、みゆき達は【塔】の襲撃を逃れる事が出来た。

 しかしみゆきの心にはアーカードの言葉が深く沈み込む。

 

“…化け物を殺すのは何時だって人間なのだ”

 

 それはまるで人間と人外の間に深く口を開けた溝の様にみゆきには感じられたのであった。




次章[殺戮遊戯の章]は敵に新参入キャラ多数、残酷シーンやリョナシーン満載となり、原作キャラに死者が出ます。
読まれる際は自己責任にてお願いしまする。
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