戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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汚れた手を取り前を見据える…

 見滝原市見滝原町…市立見滝原中学校は都内でも名門となるマンモス校である。数年前に大改装をして近代技術を取り入れた校舎となり、実験的な試みも相まって校舎内の全教室は四方全てが硬壁ガラスの使用となっていた。

 …09:24。見滝原中学校の校庭には10tの箱トラック五台が無造作に停められ、一台に一人見張りの様な人影が着いており、大きな校舎からは銃声の様な音と男女の悲鳴が彼方此方で飛び交っていた。

 

「お願いします、助けて下さい…!

何でも、しますか…っ!?」

 

 廊下でしゃがみ込み泣きながら命を乞う男子生徒の額にアサルトライフル…FNスカーの銃口があてられ、引き金が引かれる。数発の弾丸は男子生徒の頭部を吹き飛ばし、その体は糸の切れたマリオネットの様に背中から倒れ込み、それを見ていた生徒達がまた悲鳴を上げる。既に校舎内は殺戮領域と化してしまっていた。

 時刻が“09:00”になったと同時に五台の10tトラックが校門を破壊して校庭に侵入、トラックからは数十人の全身プロテクターを装備した鬼面の兵士達がアサルトライフルを構えて校舎内を占拠すると同時に職員室にいた教員全てを殺害したのである。最早生き残っている教員…いや、大人はクラスを受け持っていた担任教師のみである。だが、その存在も生徒達と同じ“獲物”に過ぎなかった。

 学級教室の階はほぼ全て硬壁ガラスで隠れる場所などなく、生徒と教師は通常建築の第二~第三校舎へと続く二階と三階の渡り廊下へ殺到。しかし渡り廊下は完全に鬼面の兵士達によって塞がれ、反対に集まり動けなくなった生徒達を挟み打ちにしてFNスカーを乱射した。

 男子生徒も女生徒も…そして男性教師も女性教師も例外なく槍衾に晒されバタバタと倒れていった。

 

「いた…い…、おか…さ…」

「だっ、だれかぁ…」

 

 “パンッ、パンッ…”と息のある者達に無慈悲な鉛玉が頭部に撃ち込まれていき、誰も動かなくなるのを確認した鬼面兵達はその場を離れる。まだ生きている獲物を求めて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美樹さやかと暁美ほむらは志筑仁美、上条恭介。担任教師の早乙女和子や三人の女生徒達と一緒に第二校舎へ逃げ延びていた。さやかとほむらは魔法少女となっており、二人のコスチュームには少なからず“敵”の返り血の後があった。

 仁美は松葉杖を持った恭介を気に掛けながらさやかを不安げに見つめていた。

 

「さやかさん…、暁美さん…、その姿は一体…!?

それに先程お二人はあの鬼面の人達を…っ!!」

 

 仁美が言わんとした内容には恭介と和子も信じられずも目の当たりにしてしまった以上知らなければならない事柄であった。

 今ほむらとさやか達が隠れている調理準備室までに逃げ込む途中でさやかは先陣を切って鬼面兵士を二刀のサーベルで少なくとも四名近くを斬り殺した。ほむらもまた鬼面兵士の死体から銃器を奪い敵二名を躊躇なく撃ち殺している。

 

「美樹さん、暁美さん…、幾ら私達が助かる為とはいえ貴女方が手を汚してしまう必要なんてないんですよ。」

 

 早乙女和子が不安を露わにして呟き、三人の女生徒も二人を怯えた目で見ていた。さやかはこの様な状況下で人道を語る担任教師を鋭い目付きで睨みつけ、たじろぐ彼女に罵言を浴びせようとするが…ほむらの念話に遮られた。

 

〈美樹さん落ち着いて、早乙女先生はわたし達を心配しているだけよ。〉

〈そんな事分かってる!

この人達にわたし達を理解しろとも言わない!

それでも、わたし達に助けられたクセに…何も出来ないクセに後ろで物を言うのが気に喰わないのよ!!〉

 

 彼女達の教室が襲われた時、さやかは無意識に恭介と仁美の手を引いて二人を助け、ほむらもさやかを援護してその際に近くにいた早乙女和子と彼女に寄り添う三人の女生徒を一緒に連れて来たのである。

 しかし戦える者は魔法少女であるさやかとほむらのみで二人には敵の命まで考える余裕などある筈もなく、特にさやかは初めて奪った命と罪の重さに戦慄いていた。さやかの震える手に気付いたほむらは彼女の手に自分の手を添えて握り締めた。

 

「あっ、暁美さん!?」

「大丈夫よ、美樹さん。

今、貴女の恐れはわたしも一緒に感じているモノ。

貴女が背負ってしまった罪はわたしも一緒に背負うモノよ。決して独りではないわ!」

 

 予期せぬ彼女の言葉に呆気に取られてしまったさやかは目を見開いてマジマジとほむらを見つめ…、“プッ…!”と彼女の前で含み笑いをしてしまった。

 

「なっ、なに!?」

「いやぁ、何か暁美さんのキャラじゃないなって思ったら込み上げてきた。」

 

 さやかの言葉にほむらは不機嫌な顔をして見せる。

 

「怒ったならゴメン。

それと…ありがとう。」

 

 二人は互いの意志を確かめるかの様に見つめ合い、仁美と恭介…早乙女和子達に向き直った。

 

「先生、みんな…、

貴方方はわたし達が必ず救います。わたし達を信じて下さい!」

 

 強い意志を込めたほむらの言葉に和子は戸惑いを消せずとも、教師として彼女の思いに応えたい気持ちが沸いてきていた。

 

「私は本当に不甲斐ない教師ですね…。

分かりました、お二人に私の命を預けます!」

 

 和子に寄り添う三人の女生徒も狼狽えながらも和子と同じ気持ちとなり、ほむらに頷き返した。

 ほむらは和子達に微笑みかけ、「ありがとう…。」と呟くと立ち上がり、その表情は再び戦士の物となっていた。

 

(必ず守ってみせるわ!!)

 

 さやかもまた仁美と恭介に寄り添い、笑顔を見せる。

 

「仁美、アンタは引き続き恭介を守って。

わたしはアンタ達二人をこの命に賭けて守ってみせる!

…だから…約束して?」

 

 仁美はさやかの威圧感にたじろいでしまうが、彼女の強い眼差しに感化される様に自身を奮い立たせて頷いた。

 

「僕は…、足手纏いなんだね。

戦う事はおろか…みんなのお荷物にしかならない…。」

 

 未だ松葉杖を使った登校である上条恭介はこの場所に逃げ込む間、ずっとさやかと仁美に守られており、その事が彼の男としてのプライドを深く傷つけていた。

 

「そう思うんだったら…、

明日から今まで以上に仁美をシッカリ守ってやりなさいよ!

そんで…、ほんのちょっとでいいから…

わたしにも今まで以上に優しくしてよね?」

 

 さやかはそう言って頬を赤らめソッポを向いてしまった。朝、杏子から告白の話をされて“自分も”…とは思ってはみたが、今の要求がさやかには精一杯の告白であった。その時彼がどんな顔をしたのか…、自分の願いに応じてくれたのか…、さやかは確認をせずに立ち上がりほむらに念話を送った。

 

〈暁美さん、杏子とマミさんは大丈夫かな?〉

〈…分からない、だけど巴さんの傍に杏子がいてくれて良かったかも知れない。〉

〈え…っ?〉

 

 さやかにとっての巴マミは年上で自分達を纏め引っ張ってくれている頼もしい先輩のイメージが強い。しかしほむらが知っている彼女は人一倍寂しがり屋でさやかの次に精神的に脆い所を持つ少女である。恐らく彼女のクラスメイトも数人の生存…或いは皆殺しにされている可能性が高い。その惨状に彼女が耐えられるとはほむらには到底思えなかった。

 

(杏子、巴さんをお願い!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原町の上空を五枚のカードが高速で飛行していた。桃、赤、黄、緑、青…とカードは互いと交差しながら飛び回り見滝原中学校へと飛んでいく。

 

「ウフフ、聴こえるよ。みんなの不幸に満ち満ちた声がっ!

もうドキドキしちゃうわ♪♪」

「み~んなウチが焼き尽くしたるで!」

「裏切られた時の絶望した顔とか楽しみ~♪」

「弱い奴等は全て死ぬしかないのさ。」

「えぇ、醜いモノに存在する価値などありません。」

 

 愛らしくも残忍な言葉を吐き棄てる少女の声の後にカードは鬼火の様に燃え上がり、人の姿に変じたかと思えば何と其れは五人のプリキュアによく似た少女達であった。

 みゆき達と同じなのは各少女が司る色と髪型のみで彼女達はフリルが付き肢体のラインがクッキリと現れたボディスーツで目には濃いアイシャドウを塗り、首下と胸元の中心には五角の星…“五芒星”が描かれていた。

 

「さあ、みんな…

この学園の“バッドエンド”を華々しく飾りましょう。

“あの方”の為に、そしてわたし達自身の為に…!」

 

 プリキュアの姿をした五人の少女の可愛らしい顔に残酷で下卑た嘲笑が刻まれた。悪しき日常より生まれ、悪しき怨念に育てられた少女達は内に秘めた悪しき願いを思い、殺戮の園をその瞳に映し出した…。

 




『殺戮遊戯の章』本番突入です。そしてスマプリからバッドエンドプリキュアが参戦、此処から先は残酷シーン満載となります。不快に思われた方には本当にすみません。
因みにこの章は謂わば“魔法少女おりこマギカ”や“ヘルシング”、“BLOODーC”のオマージュみたいな感じです。
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