戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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少女達の無垢なる畏怖…

 星空みゆきの家の二階の部屋では千歳ゆまがキャンディと一緒に佐倉杏子が迎えに来るのを待っていた。今回みゆきの家にゆまを預けた理由は特に無く…、杏子曰わく。

 

《ぁあ、何となく…みてえな?》

 

 …だそうである。家を預かるみゆきの母親、星空育代には勝手に魔法による暗示を掛けてゆまが家を出るまではその姿は見えない様にされている。…取り敢えずゆまがみゆきの部屋を出るのはトイレを借りる時だけなので隠れながら行く必要はない様である。

 部屋の中ではキャンディと絵を描いたりキャンディのアクセサリーコレクションを付けたりして楽しく遊んでいた。

 

 “きゅるるる~”と…ゆまのお腹の虫がなり、まるで共鳴したかの様にキャンディのお腹の虫も鳴る。

 

「お腹空いたクル~。」

「ゆまもお腹空いた…。」

 

 時刻はまだ“10:00”を回ったばかりで、みゆきがお昼にと置いていってくれたのは二本のバナナと六枚入りのクッキーである。しかし今食べてしまえばお昼食べる物が無くなってしまうので二人は鳴り続けるお腹を抑え項垂れる。

 しかし其処で何かを思いついたのか、ゆまはスクッと立ち上がりキャンディを見おろした。

 

「キャンディ、今ゆまは育代ママに姿が見えない筈だから…

ゆまが下へ行ってお菓子持ってくるよ?」

 

 ゆまの提案はキャンディにはとても魅力的ではあったが、其れは所謂泥棒行為であり、佐倉杏子が彼女に教えた“活き抜く方法”の一つである。

 

「ゆま、それは駄目クル。

此処にあるクッキーだけを今食べてお昼にバナナを食べるクルよ。」

「え~、お昼バナナだけじゃ足りないよ~?」

 

 二人は“う~ん”と唸り腕を組んで考えるが、鳴り続ける空腹の音には耐え切れず…キャンディはゆまの提案に乗った。

 ゆまはテテテテ…と階段を駆け降り、居間を通り過ぎてキッチンに辿り着いた。ゆまはキョロキョロと見回り、直ぐに食べられそうな物を探すが…、此がなかなか見つからない。

 

「ムゥ~、お菓子何処にあるの!?」

〈ゆま、杏子の命が危険だ。

君の力が必要になるから直ぐに見滝原中学校に来てくれないかい?〉

 

 突然の念話にゆまは肩を跳ねられせて念話を送ってきた主を探し回る。

 

「いた…、キュゥべえ…!」

 

 ゆまは居間の窓を開け放ち、その先に見える赤い屋根の家で座り此方に視線を向けるキュゥべえを見つける。

 

〈さあ、ゆま。

君の魔法力が最大限に発揮出来る戦場だ。杏子達を君の力で助けてくれないか?〉

 

 キュゥべえの念話から聞かされた杏子の危機にゆまは迷う事なく応えた。

 

「行く!

ゆまはその為に強くなりたくて…、杏子を助けたくて魔法少女になったんだ。

杏子達の役に立ちたいんだ。

ゆまは…、“ゆまは役立たずなんかじゃないんだから”!!」

 

 その叫び声と同時に千歳ゆまの小さな体が緑の光に包まれ、其処から放たれた強力な魔力は二階にいるキャンディにも届いた。

 

「えっ、コレ何クル!?」

 

 キャンディは部屋から出る事が出来ずオロオロしてしまうが、部屋の窓から素速く家々の屋根を跳ね進む影を見つけた。

 

「……ゆま…クル??」

 

 別にキャンディは目が良い訳ではない。しかしその小さな姿は何故か千歳ゆまなのだと、キャンディは感じてしまった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不思議図書館から見滝原中学校への侵入を試みたみゆき達だが、出てみれば其処は何処かの会社の資料室の様な室内であった。不思議図書館は世界中の本棚に繋がっており、例え其れが一棚しかなかろうと使用者が思い描き望む本棚へと道を繋げてくれる“力”を有している筈であった。

 プリキュア達なら兎も角キュゥべえは見滝原中学校の内部を熟知しており、本来なら学校の図書室に出られる筈だったのだ。

 

「どうして学校の図書室じゃないの、キュゥべえ!?」

 

 みゆきは狼狽えて抱き抱えたキュゥべえに強く問う。

 

「どうやら何者かが学校の敷地を“空間遮断の結界”で隔離した様だ。

物理的な侵入は可能だけど超常的な移動方法ではもう無理な様だ。」

 

 キュゥべえの答えを聞くと、みゆきはキュゥべえを床に降ろし、みゆき達五人はスマイルパクトを構えた。

 

『プリキュア・スマイルチャージ!!』

 

 五人の掛け声が重なり、室内は目映い五光で一杯になってみゆき達はプリキュアへと変身をする。

 

「不思議図書館で行けんゆうならプリキュアになって跳んで行けばええねん!」

 

 あかね…キュアサニーが拳を握り胸を叩く。ハッピー、ピース、マーチ、ビューティもサニーに同意を示した。

 

「場所的には見滝原中学校は目と鼻の先だ。だけど注意してくれ、校舎内は既に“学徒達の死体”で一杯だから。」

 

 彼の言う通り…既に学校内は地獄となり、それを聞いた途端にプリキュア達…特にピースの表情が青醒め、彼女は無意識に数歩後退ってしまう。

 

「ピース…?」

 

 ビューティが彼女の様子に気付き手を差し伸べようとしたが、ピースはその手から逃げる様にまた後ろに後退した。

 

「…やよいちゃん。」

 

 みゆきは理解した。キュアピース…黄瀬やよいは今キュゥべえが言った校舎内の惨状を想像して恐怖したのだ。ヘルシングの局長…インテグラにより見せられた三十年前のロンドン市街に溢れる累々たる屍の山…動く死体である喰屍鬼(グール)が生きている人間を喰らい、吸血鬼兵が嗤いながらロンドンの人々を殺戮するあの映像をやよいは思い返し、見滝原中学の惨状と重ねてしまっていたのである。

 

「ごめん…、みんな…。

わたし…行けな…ぃ…っ!」

 

 涙を溢れさせ、その場に座り込んでしまうキュアピース。その哀れみを帯びた姿にサニー、マーチ、ビューティは何も言えず…キュゥべえは軽い溜め息を零す。

 しかしキュアハッピーはピースの前に屈み、視線を同じくする。

 

「みゆき…ちゃん?」

「違うよ、今はキュアハッピーだよ!」

 

 眉をつり上げ、キュアピースの瞳を見据えるハッピー。ピースはその目から逃れようとソッポを向こうとするがハッピーはすかさず彼女の顔を抑えて瞳を合わせた。

 

「逃げないでっ!!

わたしを見て…っ!

今の貴女は何者なの、黄瀬やよいちゃん?

それともキュアピース?」

 

 キュアハッピーは問う、彼女に戦士か否かを…。そしてやよいは答えられない、今の自分が戦士であり続ける自信が持てないのである。

 

「わたし…、きっと何も出来ない!

一杯ある死体を見たら動けなくなる、みんなの足手纏いになっちゃうよ…っ!!」

 

 キュアピースは大粒の涙を流しながら自分の不甲斐なさを自傷し、ハッピーに懇願をするが…、ハッピーはそんな彼女を強く抱き締めた。

 

「…ハッピー!?」

 

 抱き締められたピースは気付く。ハッピーの体が小刻みに震えているのである。

 

「ハッピー、みゆきちゃんだって怖いんじゃない!

どうして…っ!?」

「そうだよ、わたしだって凄く怖い。今までだって…、バッドエンド王国だって怖いって感じてる。

でも其れ以上にわたしは大好きな人達を助けたいから、戦えている。

ピース、わたしはピースが…やよいちゃんが大好きだよ。」

 

 キュアハッピーのその一言が…、キュアピースの心に優しく響く。彼女もまた、ハッピーが…星空みゆきが大好きだ。その事実は今も…此からも変わりはしない。

 

「…みゆきちゃん、わたしもみゆきちゃん大好き。」

 

 キュアピースは抱き締めてくれたハッピーの手を解き、二人で立ち上がる。

 

「…サニー、マーチ、ビューティ…ごめんね。

わたし…、わたしはもう大丈夫だから!」

 

 キュアピースの顔はまだ恐怖を拭い切れずにいるが、それでも自分が何の為に戦っていたのかを再確認し、立ち上がる事が出来た。ハッピー、サニー、マーチ、ビューティもピースと同じ気持ちなのだ。だからこそ、プリキュア達は【塔】の卑劣な行為に屈したくはなかった。

 …だが、其処でキュゥべえは周囲の異変に気付き、伝えた。

 

「改めて結団を高めた所悪いけど、どうやら“先手”を打たれた様だ。

もう直ぐ此処に魔獣達がかなりの数で押し寄せてくるよ。」

『えっ!?!?』

 

 突然の出来事であった。頭上より激しい破砕音が響き、プリキュアとキュゥべえのいた“ビル”はドス黒い巨大な不定形の塊に圧し潰され、みゆき達は砂塵が荒れ広がるビルの瓦礫に埋もれてしまった。巨大な黒い塊からは次々と法衣を纏ったスキンヘッドの人型…魔獣が現れ、其れ等が離れていく度に塊は小さくなり…最後の一体を残して消えてしまった。

 その状景を見つめる独りの影があった。旧日本軍の軍服を着極し、五つの角を持った星をシンボルとした軍帽を深々と被り其処から覗く鋭くつり上がった三白眼…凶相がビルの成れの果てである瓦礫の山を睨めつけた。

 

(此で多少の時間稼ぎになる。

残る懸念は“英国の吸血鬼共”か…!)

 

 軍服の魔人は瓦礫から視線を逸らすとまるで背景に溶け込む様に姿を消した…。

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