…10:57…。【塔】による見滝原中学校教師及び生徒への殺戮行為は一時間半にはバッドエンドプリキュアによる人間狩りへと移り変わっていた。その状況をセブンスヘブンの最上階でモニターから見ていた七原文人…。そして少佐は愉しげに口の中の噛み潰したハンバーガーを飛び散らせながら大笑いをしていた。
「ァアッハッハッハッハッ!!
コイツは愉快痛快、此処で君達が“横殴り”をして来るとは思いもしなかったよ、“ジョーカー”?」
少佐の視線の先には白い仮面を付けた道化師…バッドエンド王国のジョーカーがニタニタと嗤いながら少佐と一緒にモニターを見ていた。
「いえいえ、私は何もしてはおりません。
プリキュアと魔法少女とは休戦協定を結んでいますから。
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…只、東京を呪い続ける独りの怨霊を目覚めさせ、私の造り出した娘達を里親に出したりはしましたが…。」
不気味に嗤うジョーカーを少佐はとにかく感嘆する。
「いやいや、まさか“あの男”を復活させるなど思いつきもしなかった!
嘗ての我が上官カール・ハウス・フォーファーはあの男を“友達”と呼んだ!
彼の生涯で後にも先にも友達と呼ばれた人物は只一人だ!
…“加藤保憲”。
日本古来の呪術、陰陽道、中国の仙術、韓国の道術、その全てを極めんとした東洋きっての大魔術師!!
わたしは一度でいいからあの“軍人”に会ってみたかった…。」
更に活き活きと活気づく少佐。今、彼は一つの目的を見つけ出した。三十年前に打倒アーカードの為に千人の人造吸血鬼と三千人のヴァチカン十字軍…そして三百七十二万人のロンドン市民を生贄にして一度は最強の吸血鬼を葬った。
しかし今の少佐は今のアーカードに興味を示さない。何故なら最早彼にとって彼は既に打倒し尽くした存在…過去その物、そして自分自身もまた過去の産物でしかない筈であった。
その筈の自分がモニター越しで二転三転と好転するキリングフィールドに心を躍らせ、自分と同じ外道であり全くの対局に位置する“目的の為なら手段を選ばない”伝説の魔人の復活に彼は生き甲斐を見出してしまった。
「あの男に会いたいですか…?
しかし加藤保憲は確実に第三勢力…彼女達にとっても、貴方方にとっても無視出来ない“敵”となるでしょう。」
「構わない!
いや、そうでなくてはならない!!
嘗ての同盟国の元で戦い、今は袂を別ち合い見えるなど…よくある事だっ!」
愉快げに笑う少佐と腹に一物を隠したジョーカーの会話を七原文人は珍しく無言で聞き入る。
(加藤保憲か…。
三十年前、ロンドン壊滅と同時期に起きた東京大震災…。
その未曽有の大災害を引き起こしたのが大魔術師にして日本最強の陰陽師。
…しかし何故彼が見滝原中学校を襲う必要があるのか?
気になる所だね…、そうは思わないかい、小夜?)
文人は手に持つグラスに入った高級ウィスキーを一口含み、またモニターに目を向ける。
「コレはどうやら予想以上に見応えのある殺し合いになりそうだね?
少佐…、ジョーカー。」
三人の狂いし繰り手は互いに愉悦を帯びた笑みを見せ、最後まで見滝原中学校の最悪の末路を見届ける事とした。
見滝原中学校は周囲の全ての道を見滝原警察と警視庁機動隊によって封鎖されていた。公園からの小道も、ビルの狭い路地裏にも置ける場所にはほぼ警官が配置されていた。
しかしそんな中でサーラッドの本拠地で中学生ながらも凄腕のハッカーである月山比呂は険しい面立ちでパソコン画面を見ながらキーボードを細い指で叩き、足下でもニーソックスを穿いた足の指で位置を確認する事なく素早くキーボードを叩いて見滝原警察署と警視庁のコンピューターをハッキングしていた。
彼女の後ろではサーラッドの実質的リーダーである矢薙春乃が無線インカムを付けて比呂と一緒にモニター画面を睨む。
「ダメ、見滝原中学への道何処も警官が配置されてる!
これじゃあ真奈達が捕まっちゃうよ!?」
侵入通路を見つけられない比呂に焦りが生じ、キーを叩く指に力がこもる。
「月ちゃん、落ち着いて。
藤村君、其方の様子は!?」
春乃は松尾のミニバンの助手席に乗っている筈の藤村駿を呼び出すが…、返事は返ってこない。
「藤村君、聞いてる?
其方の様子は…」
二度藤村を呼ぶが、返ってきた声は松尾の物であった。
『わりい矢薙さん、駿の奴あのマミっつう娘が心配で“ガチガチ”になってるんスよ。』
藤村駿は昨日の夜に巴マミにメールを送っていた。短い文章ではあったが、勇気を出して書いた内容…。
“この前会ってからマミさんの事で頭が一杯です。どうか僕と付き合って下さい。”
しかしメールの返事は返っては来ず、彼女の通う見滝原中学校は【塔】の私兵達が襲撃して中で何が起きているのか今も全く解っていない。
テレビ等のマスメディアでは国際テロリストによるセブンスヘブンに対しての篭城テロ事件として報じている。しかし此はセブンスヘブンと【塔】による情報操作であり真実ではない。
藤村駿は【塔】の卑劣な行為に巴マミが苦しめられいると考えると居ても立ってもいられないのである。
「…解ったわ。松尾君、藤村君の役割は真奈さんにやらせてちょうだい。
小夜さんにはその場所から見滝原中学校へ向かうよう伝えて?」
『…やっぱ此以上学校には近づけないですか!?』
松尾の声は暗い。解ってはいたが【塔】が本気を出せば街中と云えど二百人三百人位なら軽く闇に葬ってしまう程の力がある。
七原文人はその強大な金と権力による暴力の標的を自分が支援してきた学校施設に定めたのだ。自分の目的に邪魔になると判断した魔法少女達を消去する為に…。
「えぇ、中学校への道は全部封鎖されている。
…なら彼女の“脚力”に賭けるしかないわ!」
春乃…サーラッドのメンバーは皆、小夜が人間ではない事を知っている。故に松尾や春乃は小夜を全面的に信用している訳ではない。しかし今は一刻を争う事態である以上は何としても彼女に中学校まで行ってもらいたい。既にプリキュアチームとヘルシングが魔法少女達の救援に向かっていると聞いているなら小夜が加わる事で更に無関係な命を拾えるかも知れない。春乃はそう考えた。
『分かりました。
小夜を降ろして俺達は後方支援に着きます。』
「…松尾君…、気を付けて…?」
ふと、春乃は松尾だけに聞こえる様にそう呟く。インカムからは1テンポ遅れて「…おう。」、と小さく返事が返り其処で通信は切れた。
中学校からかなり離れた…警察の目が届かない場所に松尾のミニバンが停まり、其処で後部座席に乗っていた私服姿の小夜が左手に鞘に収まった日本刀を握りドアを開けて降りる。…と、ノートパソコンを膝に置いた柊真奈が彼女を呼び止める。
「待って小夜、小型通信器の調子はどう?」
真奈に言われて小夜は襟に付けた小さな機械に耳をすまし、 真奈に言われて小夜は襟に付けた小さな機械に耳をすまし、真奈の声を聞き取る。
「…良好だ。」
「コッチも小夜の声がちゃんと聴こえてる。
小夜、無理はしないでね?」
真奈は心配そうに小夜を見つめ、彼女もまたその視線を受け止めて頷く。真奈はそれを見て安堵とも不安とも取れる小さな笑みをして見せた。
そして小夜が真奈達に背を見せた時、何時の間にか目の前にオートバイに乗った黒いライダースーツの男がいた。小夜は険しく男を睨むが、構える様子はない。
「アルフォンス・レオンハルトか…。」
小夜は身動きせずに相手の正体を見破るも、オートバイの男…アルフォンスは特に気にせず小夜にもう一つのヘルメットを投げ寄越して声をかけた。
「後ろに乗れ、その方が早い。」
ヘルメットを受け取った小夜は迷う事なくヘルメットを被りアルフォンスの乗るオートバイの後ろに跨った。
「…行け。」
無愛想な小夜にアルフォンスは無言のままオートバイを走らせ、あっと言う間にその場から走り去った。
魔獣による奇襲を受け崩落したビルの下敷きとなってしまったプリキュア達はやっとの思いで瓦礫の中から這い出、地表に顔を出していた。…しかし五人の顔は暗く、キュアハッピーは歯を食い縛り悔しげに眉をひそめる。
「助けられなかった…、キュゥべえ!」
室内の天井が落ちてきた時、ハッピーは咄嗟にキュゥべえに手を伸ばしたが届かず、彼の姿は瓦礫の中に消えてしまった。目の前の仲間を助けられなかった悔しさにハッピーは尚も立ち上がり、後ろの四人に振り返る。
「ハッピー、もう言葉はいらんよ。」
サニー、ビューティ、マーチ、そしてピースが強い決意を秘めた瞳を向けて頷いてハッピーはキュゥべえの死に潤んだ瞳を拭う。
「うん、行こう!!」
五人のプリキュアは飛び上がり、その先に見える学校校舎…見滝原中学校へと向かった。
そしてその後ろ姿を瓦礫に潰され死んだ筈のキュゥべえが眺め、その隣にはアーカードもいた。
「理解出来ないね、君好みの殺戮空間が直ぐ側にあると言うのにプリキュア達を助けに来るなんて…。」
「今、星空みゆきに何かあっては困るのでな。
…だが無駄な寄り道だった様だな?」
アーカードは一歩踏み出すと其れ以上の会話は交わさず、姿を消して中学校へと向かった。
「度し難い戦争狂がキリングフィールドよりもたった一人の少女の身を案じるなんて…。
どういう心境の変化なのかな、伯爵…?」
プリキュアとアーカードを見送ったキュゥべえはその場に残り、座ったまま後ろ足で耳の後ろを掻いた。