砂塵を撒き、瓦礫を飛ばし、コンクリートの壁や天井に大きな亀裂を作り出す放電の中でキュアピースとバッドエンドピースは互いの肩を掴み合い、爪を食い込ませて睨み合う。周囲の放電の嵐は二人が放つ電撃によるものであった。その華奢な体から放たれた電撃は絡み合って融合し、増幅されては周囲を破壊し尽くさんと溢れ出んとしていた。
「ほ~ら、もっとボルテージ上げちゃうよー♪♪
だからサッサとくたばれブスッ!」
「負けないもん、貴女なんかに絶対負けないんだからっ!」
二人の電撃がどんどん強くなるかと思いきや、突然バッドエンドピースに異変が起きた。ビクリと肩が弾むと、魔少女の先程までの高飛車な顔が何かに驚いて下に視線を落とす。電撃も弱まり、キュアピースは彼女から手を離し距離を取った。バッドエンドピースは完全に電撃を収めると腹部に手をあて…その表情は絶望に染まっていた。
「どうして…?
わたしまだ負けてないよ…??」
“グギュリ”とバッドエンドピースの腹部が波立ち、彼女はお腹を押さえたままペタリと廊下に座り込んでしまった。
「ど…、どうしたの…?」
とても拍子抜けな声をかけるピースに魔少女は泣き顔を見せて助けを請う。
「お願い、助けて…?
謝るから、“みんな”に一杯謝るから…!」
そう言って黄色の魔少女はキュアピースに手を伸ばし、キュアピースは迷う事なく魔少女のその手を握った。
…だが次の瞬間、バッドエンドピースはキュアピースに強力な電撃を喰らわせ、ピースはその衝撃で跳ね飛ばされた。
「あぐあっ!?」
ゴロゴロと転がされて仰向けになるが直ぐにキュアピースは立ち上がるバッドエンドピースを見る。…その顔は先程までの傲慢な表情ではなく、何処か憂いを帯びたものであった。
「ばっ…、馬鹿じゃない、何本気にしてるんだか…!
…わたしの事許さないとか言っといて…。
・
・
・
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…でも、ありがとう…。」
その笑顔はとても愛らしい少女のものだった…。そして、“黄色いカード”が少女から抜け出て消えると、突如少女の背が裂けて血飛沫が上がり、その“中”から異形で黄土色の大きな虫が現れ、蟷螂の様な前脚を見せると“キイーッ”と鳴いてピースを威嚇した。そして少女の姿はバッドエンドピースのものではなく、やはり見知らぬ制服を着た女子校生の物に変わりまるでゾンビの様に歩き出し、生気を失った虚ろな瞳にキュアピースを映した。
キュアピースは金縛りにあったかの様に動けなくなる。今動いている“アレ”は何なのか…。背骨を砕き、筋肉と表皮を破き現れた“異形”が不快極まる鳴き声を上げ前脚をワキワキと神経を逆撫でするかの如く動かし、少女であった物が両腕を日本の幽霊画に似せるかの様にダラリと持ち上がる。
「い…、いやだ…。
こんなのいやだよ……。」
あの少女は自分に笑ってくれた筈であった。…なのにその笑顔は死人の顔になり果て、異形の虫に操られているのか…ゆっくりとピースに近付いて来る。キュアピースの目には涙が溢れると同時に強い“力”が隠る。両手に拳を作り、足に重心を落とし、少女の亡骸を操る異形の虫を睨めつけた。
「今、助けてあげるね…?」
身を屈み、全身のバネをしならせるキュアピース。
そしてダッシュ。異形に向けてストレートパンチを繰り出して叩き飛ばす。異形は二~三度転がり起き上がると上体を倒して仕返しとばかりに走り出し、“ブシュッ”と少女の口から溶解液を吐き出した。ピースは散らばる溶解液を避けて二度突進、膝蹴りを異形本体へ喰らわせて鉄拳の連続攻撃を浴びせた。
「うわああああああああああああああああああっ!!!!!」
異形の外骨格に“ヒビ”が走り、その隙間から白い体液が漏れる。後一撃入れれば少女の亡骸を解放出来ると悟るキュアピースだが、異形のずっと後ろに人影を見る。
背の高い…、大日本帝国陸軍の軍服を着た男の影は白手袋をはめた右手を胸にあて、手の甲をキュアピースに向けていた。
「…五芒星…、
“ドーマンセーマン”!?」
以前、黄瀬やよいが読んだ“陰陽道”に関わる本に書いてあった日本での五芒星の名…。
日本では平安時代に五芒星による呪符を二人の高名な陰陽師が扱いこの呼び名が広まった。ドーマンは芦屋道満、セーマンは安倍晴明とされている。
そして確かに聴こえた。低い男の声で唱えられた呪文…。
“ドーマン…セーマン!”
それと同時にキュアピースの拳が異形の虫に届き、その外骨格が割れようとした瞬間…異形は膨れ上がり大爆発を起こした。
爆風と大量の白い異形の体液はキュアピースに被さりその圧力により校舎は更に破壊が広がった。
全身を強打し、動けなくなりキュアピースは蹲るが、其処に現れたのは先程ピースが見た軍服の男…加藤保憲であった。
軍服の魔人は蹲ったままのキュアピースを見おろし、日本刀の切っ先をピースの頭に定め、それを突き降ろすかと思いきや、向こう先から助けに来たキュアサニーとキュアビューティが魔人に向かって駆け走り、二人同時による飛び蹴りで攻撃を仕掛けた。
加藤は咄嗟に日本刀の鞘で此を防御、しかし鞘は粉々に砕け、二人の飛び蹴りを胸板に喰らった。
「グフッ!?」
キュアサニーとビューティがキュアピースを守る形で割り込み、蹴り飛ばされた加藤は仰向けに倒れ、動かなくなる。
「大丈夫ですか、ピース!?」
キュアビューティが倒れている筈のピースに振り返るが、其処には今蹴り倒した筈の軍服の男が居り、キュアピースを抱き起こして無理矢理丸薬の様な物を呑み込ませていた。
「ピースから離れろっ!!」
飛びかかろうとしたサニーに加藤は捕まえていたキュアピースを投げ、サニーは慌ててピースを抱き止める。…だが気付けば加藤保憲の姿は何処かへ消えてしまっていた。
「な…んや、今のは…!?
軍人の幽霊かなんかか!?!?」
「解りません…。
でも今は得体の知れない“物”を呑まされたピースが心配です!」
ビューティはサニーの腕で気を失っているキュアピースを不安げに見つめる。するとサニーはビューティに言った。
「ビューティ、ピースを頼む。
まだ戦いは終わってへんねん。だからウチはハッピー達と合流して決着つけたる!」
此処で二人が別れてしまうのは得策ではないが、あの軍服の男に何をされたか解らないキュアピースを放っておく訳にもいかず、ビューティは少し間を置いてサニーに頷いた。
「ピース…やよいさんは任せて下さい。
気を付けて、サニー…。」
「おうっ!」
キュアビューティはキュアピースを抱き抱えて壁が無くなった場所からまた外へと戻る為飛び降り、キュアサニーもまたハッピー達との合流を急いだ。
闇に潜み、サニーが走り去った後でまた軍服の魔人…加藤保憲は姿を現す。
「小娘と侮ったが、なかなかどうして…。だが、我が妨げとなるなら殺すまでだ。
そして我が偃王の呪法より生まれし忌み子…暁美ほむら、今“父”である俺が迎えに行ってやる。」
偃王の呪法…、満月の夜に男女の営みを施す事で必ず懐妊する古代中国にて皇帝の後継ぎを作る為に使われた秘術…。
加藤は地下深くで“桜”の根に封じ込められていた際、満月の夜にその魂を“魔獣”に変えて一人の女を犯した。
女の名は暁美美千代、旧姓は大沢…。三十年前に加藤保憲と対決した神女であり、ほむらを産み育てた女性である。
「我は求む。大願成就の人柱…、我が娘よ!」
此処でオリジナル設定が入ります。
暁美美千代は帝都物語の原作…未来宮篇からのヒロインで目方恵子の後継者。此方の二次クロスでは暁美ほむらの母親となります。