戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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悍ましき狭間の攻防…

 キュアハッピーは不安を露わに二人を見上げる。

 

「サニー…、マーチ…。」

「ウチ等も本気でいかなアカンな、そう思うやろ…マーチ?」

「うん、そうだねサニー。

それにこんな時まで杏子ちゃんやアーカードさんに頼り切りなのは流石に癪だな、あたし!」

 

 二人は視線を合わせ振り返り際に言った。

 

「必ず勝つよ、ハッピー!」

「必勝確実やで、ハッピー!」

 

 キュアサニーとキュアマーチもまた魔獣の群に突撃し、炎と突風が吹き荒れた。日野あかね、緑川なお、佐倉杏子、アーカードを見送ったキュアハッピー…星空みゆきは泣きそうになるのを堪え、隣で小さく震えるほむらを優しく抱き締めた。ほむらは言葉なくみゆきの顔を覗く。

 

「ほむらちゃんはわたしが守るからね。」

 

 手を解いて立ち上がるキュアハッピーは拳を作って握り、前を見据えた。彼女の視線の先に現れたのは…、さっきまでバッドエンドサニーであった髪の短い少女の亡骸…。その背中を内側から引き裂き成虫となった蠱毒であった。ワキワキと蟷螂の様な前脚を動かすと前のめりになってハッピーに向かって突進してきた。

 ハッピーもまた怒りと決意を拳に込めて駆け出した。

 

「ウワアアアアアアアーーッ!!!!」

 

 互いに間合いに入った瞬間、蠱毒は両の前脚の鎌でハッピーの首を跳ねようと伸ばすがキュアハッピーは上方へ飛び上がり、本体である蠱毒の蓋骨格を急降下右パンチで突き破って粉砕した。正に一撃必殺の右拳であった。少女の赤い血と蠱毒の白い体液に汚れたハッピーはそれを拭う事なく新たに現れた魔獣達をキッと睨むと両手で大きくハートを形取り両掌でもハートを作り右脇へ引いた。そして掛け声と同時に前方へと突き出した。

 

「プリキュア・ハッピー・シャワーーーッ!!!!」

 

 キュアハッピーが放出した光は一直線に伸び十体近くの魔獣を一瞬にして消滅させる。そしてハッピーは力任せに放出中の聖光を振り回した。

 

「うおりゃああああっ!!!!」

 

 聖光はそのまま横薙ぎに魔獣を巻き込み、それこそ二十体は確実に滅していた。

 その小さく華奢ながらも誰よりも力強く感じるキュアハッピーの背をほむらは目を見開き、視線が離せなくなる。

 

「…みゆき。」

 

 ほむらは彼女の背を見ながら杏子に言われた言葉を思い返す。“…くやしくねえのか!?”…と…。

 自分はこんな所にへたり込み何をやっているのか、敵を前にして何を怖じ気づいているのか、ほむらは自問自答する。多くの人達が目の前で殺され、自分もその手を血に染め上げ、新たに現れた敵は自身の父を名乗り…、杏子からは千歳ゆまの死を知らされた。

 

(わたしは何をやっているの!?

学校の人達と千歳ゆまの敵を取らなければならないのに…!

その敵が父親を名乗ったから何なの?

例え本当だとしても忌まわしい血の繋がりが仲間との絆に勝る訳がない!

…そう、今わたしがこんな所にへたり込んでいる理由なんて一つだってないわっ!!)

 

 暁美ほむらは地面に爪を立て唇を噛み締めて顔を歪ませた。そして立ち上がり漆黒の弓を握り光の弦を張る。光の矢を構え、切っ先をキュアハッピーに迫る魔獣の一体に合わせた。

 放たれた一矢はキュアハッピーの横を通り過ぎ魔獣の胸を貫き通して消滅させた。その威力はハッピーの必殺技に劣らない浄化力を持っていた。

 キュアハッピーは後ろを振り向いて弓矢を構えるほむらに笑顔を送る。

 

「ほむらちゃんスゴい、一発必中だね!!」

「余所見しないで、みゆき!

この魔獣達を掃滅するのは不可能よ、魔獣を操っているあの軍人を倒すのがこの空間から逃れる唯一の手だわ!」

 

 ほむらの言葉にハッピーは頷き返す。

 

「それじゃ、小夜さんを助けに行かなくっちゃね!」

 

 一旦立ち止まり嬉しげに二人を呼ぶハッピー。

 

「此処はウチ等に任しい!」

「ハッピーも頑張って!」

 

 サニーとマーチにハッピーは頷き返してまた走り出す。しかし更に伸びる魔獣共の手を今度は佐倉杏子の多節槍が幾本にもなり魔獣の群を八つ裂きにした。

 

「杏子!?」

「ほむら、あたし達魔法少女の意地をあの軍人野郎にシッカリと見せつけてやれ!」

 

 杏子の助成にほむらは感謝をしてハッピーと共に駆け抜け、行く手を遮る魔獣を蹴散らした。

 そしてやっと聴こえてきた刃鳴、小夜と魔人の咆哮。

 ハッピーとほむらも負けじと哮り、魔獣共の重壁を遂に越えた。そして同時にほむらが光の矢を三本放ちキュアハッピーが突貫、それに気付いた小夜はハッピーに合わせ彼女を背に隠した。三本の光の矢は何と加藤に向けてホーミングをし、それを加藤は日本刀にて二振りでかき消した。そして小夜に視線を戻すと彼女は姿勢を低くし、その上をキュアハッピーが飛び越えて飛び蹴りで頭部を、小夜は刃を水平に構えハッピーの飛び蹴りと同時に加藤の腹部を狙う。

 

「チッ!!」

 

 刹那に加藤が判断は何と小夜と同じく身を低くして彼女の中段斬りを刀の鍔で受け流し、ハッピーの飛び蹴りは完全に回避されてしまう。そして加藤は小夜と交差してそのまま後方にいたほむらへ向けて駆ける。

 

「しまった!!」

 

 やり過ごされ加藤を追おうと切り返す小夜。ハッピーも着地と同時に地を蹴り背を向けて走る加藤を追う。

 ほむらは此方へ向かって来る魔人を睨みつけ弓矢を構えた。…が、加藤の突進は血に飢えた牙によって阻まれた。

 

「ごああああああああっ!?!?!?」

 

 突然足下より巨大で凶悪な“ブラックドッグの顎”が出現して加藤の体にその牙をめり込ませたのだ。その姿は巨大な黒い竜と言っても過言ではなく、黒犬の額から姿を現したアーカードは二挺の巨銃を加藤に向けた。

 

「王手(チェックメイト)だ、“マギウス”!!」

 

 残忍なアーカードの嘲笑が口端から血を垂らした加藤へ送られ二発の銃声とマズルフラッシュが閃く。旧日本軍の帽子が飛び、加藤の頭が下顎を残して肉片となり胸には大きな風穴を空けられ、彼の手は力無く垂れ下がった…。

 あまりに無惨な魔人の結末にキュアハッピーは両手を上げて喜ぶ事は出来なかったが、それでも戦いが終わった事実には心から安堵していた。

 …いや、何かおかしい…。

 何故この異空間は元に戻らず、魔獣達も未だ消えずにいるのか。…答えは一つである。

 頭を無くした加藤保憲の死体は正方形の黒い…五芒星を染めた和紙が重なり合った人形(ヒトガタ)に変わり果てたのだ。そして人形の和紙は何とバラバラと剥がれ落ちたかと思えばまた繋がり合って一本の黒い荒縄となりブラックドッグを縛り封じた。アーカードもまた荒縄に捕まり首や腕を完全に縛り固められた。

 

「ぐううっ!!?」

「アーカードさん!?」

 

 ハッピーは口元も塞がれたいアーカードを助けようと駆け寄るが、彼はジャッカルmarkⅡで“向こうへ行け”と振った。ハッピーはジャッカルmarkⅡが示す先を見ると其処には咬み殺されたと思われたあの軍人がほむらの眼前に立っており、追いついた小夜が彼に斬りかかろうとしていた。

 しかし小夜を遮ったのは何と逃げたと思われていたバッドエンドハッピー。そしてキュアサニー、マーチ、佐倉杏子もほむらを助けようと駆け寄るが思いもよらない相手が立ち塞がり強力な“電撃攻撃”が三人に放たれた。

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