「そんな、何でよ…っ!?」
「クッソ~、こんな時にっ!?」
「止めえや、“ピース”!
気をシッカリ持ちい!!」
三人の足を止めたのは何と外でキュアビューティと待っている筈であったキュアピースであった。その瞳は三人を凝視しているが、何処か虚ろな表情であった。先程加藤に呑まされた蠱毒に操られているのである。彼女に気を取られていた三人は何時の間にか魔獣達に取り囲まれ、完全に道を塞がれてしまっていた。
そしてバッドエンドハッピーを前にした小夜は彼女に真剣を振り下ろさず、刀を逆に持ち変えた。
「其処を退け!!」
小夜が日本刀をバッドエンドハッピーに振り、彼女は紙一重でコレを躱す。だが二撃目の素早さに追いつかずバッドエンドハッピーは右腕に喰らい、押し飛ばされた。しかし背後から魔獣達の腕が小夜を捕らえ地面に圧し潰し動きを止められてしまう。
「小夜さん!?」
後から追いついたキュアハッピーが小夜を助けようとするが彼女はそれを拒む。
「わたしに構うな、あの男を止めるんだ!!」
立ち止まり躊躇するキュアハッピーだが、何十体もの魔獣に折り重なれてしまった小夜を背に加藤保憲に向けて走る。…が、またもやバッドエンドハッピーがキュアハッピーを阻み睨み合いとなった。
「虫唾が走る良い子ちゃんを御父様の所へ行かせる訳ないじゃない!」
「退いてよ、ほむらちゃんを助けるんだから!!」
互いに拳を振り上げ、交差。互いの顔を打ち仰け反る。しかし地を踏む足は一歩も動かず更に拳が交差し、連打の嵐がぶつかり合う。
「どけええええっ!!!!」
「潰れろおおおおっ!!!!」
どちらも引かず、ぶつかり合う二人。まるで対極に位置するかの様に否定し合っている事に二人のハッピーは気付いてはいなかった。
誰にも邪魔出来ない中で加藤保憲と暁美ほむらは対峙し、互いを瞳に映し合う。しかし其処に親子としての情はなく…ほむらは加藤に弓矢を向けて固まったまま動かず、加藤は鋭い三白眼でほむらを見下ろす。今二人の間にあるのは複雑怪奇に絡み合った忌まわしき繋がりだけであった。
「ほむらよ、ようやくお前に辿り着いた。…さあ、父の下へ来るんだ。」
魔人の声にほむらは応えない。…いや、恐ろしくて応えられないのだ。この男を前にした途端に先程以上に動けず、鼓動が乱暴に早くなり息苦しくなる。血はまるで自分を裏切るかの様に突き動かすかの様に熱くなり彼女に呼び掛ける。
“彼に従え!!”…と…。
構えていた光の矢が消えてしまい、漆黒の弓を手元から落とし、やはり消える。無防備のほむらを加藤はマントで包み、不敵な嘲笑を浮かべた。最早誰も間に合わない中、軍服の魔人はマントの中でほむらを抱き抱えてその身体を宙に浮かせた。
それを見たキュアハッピーは渾身の一撃を拳に込めてバッドエンドハッピーに叩き込んだ。バッドエンドハッピーの腹部に拳がめり込み、魔少女は悲鳴は出ずもエビぞりになり胃液を吐く。
「オグエ…ッ!?」
バッドエンドハッピーが倒れ込むのを待たずにほむらを追おうとするキュアハッピーだが、バッドエンドハッピーの右手首の袖が伸びてキュアハッピーの足を絡め捕りその場で倒れてしまう。
「離してよおっ、ほむらちゃんが連れて行かれちゃう!?」
「ウルッサい…、お前なんかに、御父様の、邪魔は…させない!!」
バッドエンドハッピーは体を起こして立ち上がり、キュアハッピーを捕らえたフリルの袖を掴んで引っ張る。そして魔獣達もキュアハッピーに群がっていき、幾本もの伸びる手が掴み絞め上げた。
「あ…っ、ぁがっ!?」
「いいわ、そのまま蹂躙されて死んでしまえ!!」
バッドエンドハッピーの呪詛を聞いたキュアハッピーは苦しげに声を絞り出す。
「ど…して、そんな…、ひど、いこと…、が、いえる…の?
な…んで、ひとを…ころ、せる…っ、の!?」
キュアハッピーの問いにバッドエンドハッピーは沈黙し、彼女に一言のみで答えた。
「…全部の人間が…“憎い”から!」
その言葉を吐き捨てると、バッドエンドハッピーは飛び跳ねて既に頭上まで上がっていた加藤に抱きついた。
「ミッションコンプリートですね、御父様。」
「…何故戻って来たのかは問わん。
結果的に助成となったのだからな。」
魔人の言葉を聞いたバッドエンドハッピーは褒め言葉と取って嬉しく思い、彼に抱きついた手に力を込めた。
加藤保憲はそんな少女を無視して眼下で戦っている者達を見る。
「聞くがいい、踊らされし愚か者共よ!
我、加藤保憲は今此処に復活を遂げた!
“我が娘”を使い、必ずや帝都東京を灰燼に帰す!!
…二千年に渡る怨念は血塗られた歴史を通して更に膨れ上がった。
“平将門”も亡き今、最早誰にも我を阻む事は叶わぬっ!!」
正に宣戦布告であった。
それはアーカードに、小夜に、そして魔法少女…プリキュア達、そして【塔】に向けられた挑戦状であった。
此処に三つ目の勢力が出現したのである。加藤保憲は眼下の者達に告げると暁美ほむらを抱き、バッドエンドハッピーと共に宙に消えた。
術者が居なくなり結界内の魔獣達は増えず、アーカードは式神の縛縄を引き千切って魔獣を蹴散らしキュアハッピーを救い出し、小夜もまた魔獣共を小間切れにし、キュアサニー達は操られたキュアピースを捕まえて抑えつけていたが、加藤が去って少しして意識を失った。
彼女達を囲っていた封鎖結界も魔獣共と一緒に消えてしまい、また見滝原中学校へと戻る。
キュアハッピー達は外へ生存者達と共にいた巴マミと美樹さやか…キュアビューティにアルフォンス・レオンハルト、そしてセラス・ビクトリアと合流。彼女達に千歳ゆまの死と暁美ほむらが拉致された事実を報告した。
見滝原中学校襲撃による生存者は僅か生徒25名、教師はたったの2名。犯人は東南アジア系列の武装グループで世界的企業セブスヘブン…そして日本支部会長に対してのテロ攻撃であると18:06に警視庁より発表された。
鬼面兵の殺戮行為と死体については一切が隠蔽され、替え玉として用意されていたアジア系の男性二名が連行される場面がテレビで流され、残りのテロリストは射殺及び逃亡と報じられた。故に見滝原市、七色ヶ丘市と云った周辺地区は限界態勢が解かれず自衛隊をも投入してありもしないテロリスト達の捜索が開始された。
【塔】による魔法少女とプリキュア達の挑発と炙り出しは鬼面兵一個中隊の犠牲により成功し、それに便乗した加藤保憲なる魔人の暁美ほむらの拉致もまた阻む事は出来なかった。
合流後、星空みゆきは皆の前で両目に涙を溜め、両膝を地面に付いて拳を力一杯地面に何度も殴り付ける。皆も同じであろう悔しさを心に満たし、敵の嘲笑する顔を想像してその憎らしさに唇が千切れるかと思える程に強く噛み締めた。
「…絶対に、絶対に助けるから…ほむらちゃん!!」