セブンスヘブン日本支部本社ビルの最上階では少佐が外の戦闘の様子を観ながら最高級品神戸牛の分厚いステーキにナイフを入れていた。
「ほう、存外にやるじゃないかヴァルキュリア共は…。
其れに引き換え…、我等の兵は弱いな~!
此では全く楽しめないじゃないか。
・
・
・
・
…仕方ない、もう少し後にと思っていたが“今”出すとしよう。」
少佐はそう独り言すると…切り分けたステーキをフォークで刺し口に運んだ。
小夜とアルフォンス…プリキュアはセブンスヘブン日本支部本社ビルへと一直線に疾走していた。セラス達と別れた場所から一直線…左右を大きな壁に囲われた一本道は敵の待ち伏せには恰好の場所ではあるが、そんな様子はなく寸なりとビル内の広いエントランスまで辿り着けた。二階までふき抜けた高い天井を支える大理石の柱が並び、エントランスの中央には獅子の石像が天を仰ぎ睨む。その奥には上へと続く階段があり、そのまた奥には大きな扉があった。もしかしたら上階へと上がるエレベーターがあるかも知れないとハッピーは思い皆に声をかける。
「みんな、行くよ!!」
ハッピーに応えプリキュア達が扉へ向かおうとした時、突然小夜がキュアハッピーを掴まえ、声を張り上げた。
「駄目だ、動くなっ!!」
其れと同時に上から銃の発射音とマズルフラッシュが閃きハッピーの足元に火花が散った。キュアハッピーは青醒めて二~三歩忍び足で後退り、幾つも赤い線と光点が現れて小夜とハッピー、そしてプリキュアとアルフォンスに注がれた。アルフォンスも大きな声を上げて皆に指示を出す。
「散開しろ、敵は既に俺達を包囲しているぞ!!」
プリキュア達は即座に散り、アルフォンス、小夜とハッピーも大理石の床を蹴った。その後には光点と同時に銃撃音と壁や床に銃痕が刻み付けられる。気付けばエントランスは銃弾が飛び交う槍衾と化し、二階部分の通路などに隠れていた鬼面兵達がアサルトライフルのみならず台座固定のガトリングガンまで使いプリキュア達を襲う。
彼女達は敵の思惑にハマり物の見事に離れ離れにされてしまったのだ。この広いエントランスでは孤立に等しい程に敵の数も多く、彼女達はたった独りでこの人海を抜けなければならなくなった。
しかしアルフォンスはこの不利な状況を“好機”と取り、ミニバンよりサポート中の真奈達に連絡を入れた。
「柊、七原文人のいる場所を割り出せ!!」
『了解っ!
月ちゃん、ビル内の敵の配置は解った!?』
真奈の連絡は殯邸の月山比呂に行き、彼女は敵の無線通信の電波を傍受して敵の数を割り出したそのデータを真奈のノートパソコンに送った。
『真奈、敵の数は上に行く程多いよ!!』
『ありがとう月ちゃん。
アルフォンスさん、小夜、きっと七原文人は最上階にいるわ!!』
真奈は上階に行く程敵が多くいるデータを見て七原文人は最上階にいると判断した。…しかし小型インカムで聴いていた小夜は鬼面兵を峰打ちで倒しながらそれを否とした。
「…違う。」
『えっ!?』
小夜の否定に真奈は驚くが自分に見落としがあると考えて小夜の言葉を聴き、プリキュア達も闘いながら耳を澄ます。
「七原文人は人間より“強いもの”を知っている。
吸血鬼共は外に、ビル内は人間のみで固められている。
吸血鬼には“少佐”と言う男が…、
人間達には“九頭”と言う男が無線を使い指示を出している筈。
…だが文人の操る“奴等”には無線など必要ないんだ。
古きものには…っ!」
皆、合点がいった。キュアピースは鬼面兵を電撃で懲らしめ、小夜の言葉に繋げる。
「じゃあ、七原文人は無線がない場所っ!」
鬼面兵の腹部に膝蹴りを喰らわせたキュアビューティもピースの後に繋げる。
「そして人が少ない場所ですね!」
二人の結論を聴き真奈はノートパソコンのキーボードを素早く叩き比呂から貰ったデータを解析した。
『無線電波もなく人の少ない場所…、
七原文人はきっと地下最深部にいるわ!!』
「地下の入り口を探してくれっ!」
『分かった!』
真奈は小夜の指示で再度ハッキングにより手に入れたビルの見取り図を解析する。その時、ミニバンの助手席で小型無線インカム通信の調整をしていた藤村駿があからさまに曇った顔で真奈と運転席の松尾伊織に伝えた。
「今、矢薙さんから連絡があったんスけど…
殯さんが邸からいなくなったらしい…っす。」
「はあっ、何でこんな時に!?!?」
訳が解らないとボヤく松尾だが真奈はノートパソコンのディスプレイから目を離さずキーボードを叩く。
「みんな、今は自分のやる事に集中して!
殯さんの事は心配だけど、七原文人はもうわたし達の“目の前”にいるんだよ!」
柊真奈の言葉に藤村は即膝上のノートパソコンに向かい、松尾はジャンパーの裏に隠した拳銃に手を添える。今ミニバンは海を挟んで本社ビルが見える海沿いに停めている。敵に気付かれればあっと言う間に捕まりそうなギリギリな距離で皆のサポートをしている。万が一の時は彼が二人の身を守らなければならない。
松尾は脳裏に大好きな女性の顔を過ぎらせる。
(…矢薙さん、ぜってーにみんなで生きて帰るぜ!!)
そう強く誓い、松尾は雪降る闇の中にそびえる超高層ビルを睨んだ。
青空市の夜空も雲に覆われ、雪が降り積もってきていた。みゆきの部屋の窓の隙間から夜の雪を眺め、キャンディは不安に押し潰されそうな心と戦っていた。余りにも命の保証が出来ない危険な最後の戦いには連れて行けないとされて置いて行かれたのである。
「みゆき…、みんな…。」
真っ赤に腫らし赤くなった目尻を擦り滲む涙を何度も拭いていたキャンディは只皆の無事を祈るしかなかった。
「絶対に帰って来てクル…!!」
キャンディは強く今までにない程に強くみゆきや皆が元気な姿で帰ってくるのを願うのだった。
エントランスの中央にあった獅子の像が突然爆発し、崩れ落ちた。アルフォンスは寸での所で落下した瓦礫を避けたが鬼面兵の何人かは下敷きになってしまった。その隙間から流れる血を見てキュアマーチは戦慄と怒りが込み上がる。
「くそ、また仲間を巻き込んで…っ!!」
その爆発を引き起こしたのは鬼面兵の長にして七原文人の側近である忍装束の男…九頭であった。
「待っていた、更衣小夜…アルフォンス・レオンハルト。
お前達の望み通りに、全てを此処で終わらせるとしようか。」
一時的に銃声が止み、冷酷で自信に満ちた九頭を見たプリキュア達は強い憤りを感じて彼に向かい構える。…しかしアルフォンスは彼女達を制して九頭を睨んだ。
「お前達は小夜と行け。
此処からは俺個人の戦いだ!」
そう言い捨て、対戦車ライフルと小太刀を構える。…が、その隣にキュアサニーが立ち、アルフォンスを見つめる。
「あかんよアル、敵はあの男だけやない。いくらアルでも彼奴と鬼面兵全部は無理やで。
だからウチはアンタの“露払い”を引き受けたる。“ウチ等”の役目は小夜さんを地下へ向かわせる事や!」
そしてサニーはキュアハッピーに強い眼差しで視線を向けた。
「ハッピー、小夜さんと一緒に行きいや!」
それを聞くや…ピース、マーチ、ビューティもハッピーに向き直る。
「行って、ハッピー。」
「此処は任せな?」
「私達も直ぐに向かいますわ。」
四人の決意は固く…反論は許されないとキュアハッピーは理解し、キッと表情を強めて頷いた。
「分かったよ、みんな!」
プリキュア達の強い信頼を九頭は鼻で嗤い、右手で射撃を指示。再び槍衾を作り上げた。プリキュア達はもう一度散開し、小夜とハッピーは互いに背を任せて真奈の解析を待つ。
『小夜、地下の入り口はエントランスのライオンの像が向いてる先にあるわ!』
ライオン…獅子の像が向いている方角、像は九頭によって崩れてしまったが向いていた方を小夜は覚えていた。しかし…。
「壁しかない。」
『隠し扉があるのかも…?
ちょっと待ってて、此方で開いてみるわ。』
「分かった!」
返事をしてハイキックで一人を昏倒させ、キュアハッピーも片腕で相手を振り回して壁に叩きつけた。
「小夜さん…っ!」
「真奈から連絡が合ったら突入するぞ!!」
「ハイッ!」
二人は互いを守り、真奈の連絡を待った。キュアサニーがアルフォンスより習ったにわか拳法が相手をいなし、キュアピースの電撃が数人を一気にスタンさせ、キュアマーチの蹴撃が次々と敵を蹴り飛ばし、キュアビューティの剛を制した合気が襲い来る鬼面兵を返り討ちにした。
そしてアルフォンスは一度ライフルを置いて九頭と対峙した。
「見滝原では及ばなかったというのに懲りないな、アルフォンス…。」
「もう…終わりにしようか、義兄さん…。」
二人同時に間合いに入った瞬間、九頭の忍者刀とアルフォンスの小太刀が重なり刃鳴を鳴らした。鍔迫り合いかと思えば九頭がデザートイーグルを抜いて引き金を引く。しかし咄嗟にアルフォンスはデザートイーグルを蹴り飛ばして銃弾を反らした。刀同士は直ぐに離れ九頭が銃口をアルフォンスに向けるが先に彼の暗器…苦無が九頭のデザートイーグルを弾き落とした。
「チッ、やるな。」
そして二人は二度ぶつかり合い、刃鳴と火花を散らせた。