戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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GREAT DEVOTION…

 小型無線インカムから真奈の答えが返ってきて彼女が言っていた側の壁が開いた。真奈の言う通り隠し扉になっていたのである。

 

『小夜、早くっ!!』

「みゆき、行くぞ!」

「はいいっ!!」

 

 小夜とハッピーは開いた隠し扉に入り、狭い道を抜ける。階段を降りた其処には円筒形に作られた大きな立坑があり、うっすらと見える地の底深くからは不気味な声が吹き上げる緩やかな風に乗り運ばれてきた。

 キュアハッピーは戦き怯むが、毅然と底を見据える隣の小夜を見習い、気を引き締めた。

 

「飛び降りるぞ。」

「ハイッ、…えっ、ぇええ!?」

 

 思わず聞き返すが小夜は手摺を越えて穴の底へと言葉通りに飛び降りてしまった。ハッピーも急ぎ手摺を乗り越え飛び降りる。冷たい風圧が頬を叩き、落下速度が上がる。そして奇妙な機械機器が見え、小夜とハッピーは着地した。目の前の鉄扉を開き、無言の二人を出迎えたのは赤いライトの灯りと無機物である無数の分電機器。そして無数の怪物の様な死骸をホルマリンに漬けたカプセルであった。

 小夜は僅かに顔を歪め、キュアハッピーは眉をひそめ…どんな顔をしたらいいのかが分からなかった。只々不快感極まりない薬品の匂いが籠もる空間でハッピーはホルマリン漬けの死骸から目を背け小夜の後を追う。…その先には大きな鬼神のレリーフがあり、それは光の線が縦に現れて割れた。鬼神のレリーフは部屋の扉であったのだ。

 二人が部屋の中へ入ると案の定扉は自動的に閉まり、小夜とハッピーを閉じ込めた。そしてその部屋の“異常さ”にハッピーは驚愕した。壁四面が全てモニター画面となっていて其処には小夜の驚きを隠せない“今”の表情が映し出されていた。その小夜とハッピーの向かい先にはウィスキーを入れたグラスとボトルを乗せた一本足の長い小さなテーブルに椅子…、そして若く背の高い白服を着極した青年がいた。彼は優しげな人懐っこい笑顔で二人を迎え、声をかけてきた。

 

「久しぶり、小夜。…やっと会えたね…。」

「文…人。」

 

 宿敵が相見えたその空間の中、キュアハッピーは前に立つ小夜に並ぼうと一歩前に出た刹那、“パンパンパンッ”と三発の銃声が部屋に反響した。

 

「あ…、れ…?」

 

 キュアハッピーは背中を何かが通り抜けた感触を覚え、自身の胸元を見た。…すると胸元二ヶ所と腹部に小さな“穴”が空いており、其処から血が滲み出てコスチュームを赤く染めた。

 

(後ろから…撃たれた!?)

 

 アーカードと初めて出会った夜に体験した銃による痛みが今度は胸と腹部に広がり苦悶が顔に滲み出て両膝を床に落とした。小夜の向こうで七原文人は優しい笑顔を此方に向けてこう言った。

 

「ごめんね、みゆきちゃん。

でも、さすがに君まで此処に来られちゃうのは…ちょっとお邪魔さん過ぎたね。」

 

 更に後ろからも男性の…聞いた事のある声が文人に同意し、ハッピーはその男の顔を見て…その悔しさに歯を食い縛る。

 

「ちょっと所じゃないだろ。…だからこうして俺が手を汚してやったんだ。」

 

 その声の主はハッピーを撃ち、真奈達に自分は味方であるとずっと偽ってきた裏切り者。サーラッドのリーダー…殯蔵人であった。

 

「もがり…さん、なんで…!?」

 

 絞り出したキュアハッピーの問いに殯蔵人は冷たい視線でハッピーを一瞥して答えた。

 

「何でも何も…、俺は始めから文人側の人間だ。

サーラッドの連中は俺の正体は知らない。彼奴等は放って置いても良かったんだが、万が一の事が起きたら面倒なんでね。パトロンになって傍で飼ってやっていたんだ。」

 

 卑怯極まる蔵人にキュアハッピーは自分の浅はかさが悔しくて涙を流し、蔵人はそれを見て一笑に臥した。

 

「本当に馬鹿な娘だな~。

泣く位ならあの吸血鬼の言う事をちゃんと信じてやれば良かったんだよ。

他の小娘共は生意気にもかなり俺を疑っていたと云うのにな。」

 

 そう言って蔵人は自動車椅子を操作して文人の隣に付く。そして小夜と向かい合い、彼女を見てほくそ笑んだ。

 

「やっと“効いてきた”みたいだよ、蔵人。」

「全く、何でこの俺があんな真似をしなきゃならないんだ?」

「君の所の子達はみんな良い子だから、“悪い薬”なんか仕込んでくれないだろ?」

 

 彼等の会話を聴いたハッピーは何の事だか分からなかったが、先程から小夜の様子がおかしく思えた。

 

「ぅあぁ…っ!!」

 

 激痛が全身を支配し、ハッピーはその場に倒れ伏し、考えも纏まらず…目が霞んできていた。

 

「さよ…さん…?」

 

 小さく消え入りそうな声で小夜を呼ぶが…、突如彼女にも異変が起きた。前のめりに倒れ込み、小さく痙攣を始めたのである。文人と蔵人の話から、殯蔵人が小夜に対して毒か何かを飲ませたのだ。小夜は額に汗を溜め込み、視点の合わない瞳をキュアハッピーに向けた。唇も痙攣しており、文人の言う“悪い薬”は彼女を完全に麻痺させていた。キュアハッピーは更に歯を食い縛って口の中から血が出るのを省みず、弾痕から血が溢れるのを省みず上半身を起こし、足腰に鞭打ち立ち上がった。

 

「小夜さん…、今行くからね!」

 

 ハッピーはよろけながら小夜を助けようと歩を進める。…だが蔵人がそれを見過ごすつもりはなかった。先程撃った拳銃を構えて三発撃った。銃弾は二発外れて一発がハッピーの左腕に当たった。

 

「あぐうっ!?」

 

 血が飛び散り、歩が止まるハッピーだが…また歩き出し蔵人を睨む。その眼力に気圧された蔵人はハッピーに向け銃を乱射、何発も銃弾を浴びたキュアハッピーは膝をつき…小夜の傍らに倒れ込んだ。小夜はハッピーの光が消えかけた瞳を見て何も出来ない自分を責める。決戦前に飲んでしまった“珈琲”が前もって殯蔵人が淹れた物だと分かっていれば口になどしなかった。

 真奈達を騙し、自分達を罠にはめた上に目の前でキュアハッピー…星空みゆきを…。

 

(みゆきを助けなければ…!!)

 

 その時、“ドーン”と大きな音が地下一帯に鳴り響き、モニターの部屋を大きく揺らした。

 

「一体何だこの揺れはっ!?」

 

 狼狽える蔵人とは反対に文人は冷静で笑顔を絶やさないまま天井を見上げ言った。

 

「“彼”が来たのかも知れないね。

最強最悪の“VAMPIRE”が…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブンスヘブン日本支部本社ビルの屋上ヘリポートに一人の男が降り立った。赤いロングコートとざんばらの髪を風になびかせ、男は下にて戦う者達の息遣いを感じていた。

 そしてその男の姿をモニター越しに見つめる少佐は覚悟を決めた笑みをしてフォークとナイフを置いた。

 

「来たね…、我が最後の戦友(カメラード)よ。

三十年前より衰えたお前の力は何処まで“朱食免”に通じるのか…、見てみたかった。

この地の魔術師とも会ってみたかったが、どちらも叶わぬ願いであったな…。」

 

 次の瞬間、最上階フロアの天井に亀裂が幾つもの走り…まるで釜の底が抜けたかの如く抜けて天井が雪崩れ落ちた。

 砂埃が収まらない中で瓦礫に埋まり動けなくなった少佐は何処かで火花が弾ける薄暗がりの中で“揺らめく幽鬼”を見た。…アーカードである。

 

「堕落しようと…、やはりお前は強いな…、“伯爵”。」

 

 幽鬼は少佐を見下ろして口を開く。

 

「喋るな…、お前はもう人間ではないのだからな。」

 

 左手に握られた黒い銃が少佐の額へ定められ、白い手袋の人差し指が引き金を引いた。バッと血の様に“オイル”が飛び散り少佐の頭を吹き飛ばした。その残骸からは機械が覗き、火花を散らす。そしてオイルに引火をして少佐の残骸を焼き始めた。アーカードは憂いを帯びた目で燃える彼の残骸を見て無言のままその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブンスヘブン日本支部本社ビル敷地内では魔法少女とセラスが吸血鬼面兵の部隊を全滅させた所であった。マミが最後の鬼面兵を撃ち倒し、一掃されたかと思われたが…まだ一体が残っており其奴はぐったりとした血塗れの美樹さやかの胸ぐらを吊り上げ、此方に近付いて来ていた。

 杏子はそれを見るやその鬼面兵…いや、上半身が裸の男に突撃。厚い胸板を槍で貫き通した。

 

「さやかを放しやがれ…っ!!」

 

 その“男”は効いていないと言うかの様に杏子を見下ろすと吊り上げていたさやかを振り回して杏子に叩き墜とした。

 

「ッグゥ!?」

 

 更に重なる二人に追い打ちを…仰向けのさやかの腹部に踵を踏み落とした。二人は悲鳴すら出ずに血を吐いて動けなくなった。マミはあまりの光景に敵にマスケット銃の銃口を向けて二人の名を叫んだ。

 

「佐倉さん、美樹さん!?」

 

 長身にして無駄のない筋肉質の身体を晒した金髪の男はその見開いた三白眼の瞳をマスケット銃を向ける巴マミ…ではなく、其奴を見たまま動かないセラス・ヴィクトリアを見据えていた。

 

「…昔のわたしだったら、生きている筈のないお前を見て狼狽える所なんだけど…、

今は意外に落ち着いて推測出来るよ。

お前は“彼奴のクローン”か何かなんだね、“人狼”!!!!」

 

 人狼…、三十年前のロンドン襲撃で本当の意味で不死族(ノスフェラトゥ)となったセラスが戦った“ミレニアム”の強敵…。かつて“大尉”と呼ばれていた人狼が再びセラスを阻む。彼の出現はセラスと魔法少女達を窮地に立たせるのであった。

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