戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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溢れ出る希望の光…

 七色ヶ丘市のみゆきの家で彼女達の帰りを待ち続けているキャンディはみゆき達が出てからずっと雪の降る夜空を窓から見ていた。心配な気持ちは不安に変わっており皆に大変な危機が迫っているのだと…、何故かそう思えてしまった。

 

「みゆきぃ…、みんなぁ…。」

 

 瞳を潤ませるキャンディだったが、ふと雪降る夜闇に一冊の本が此方に飛んでくるのが見え、キャンディは目を見開き直ぐ様窓を開けた。

 

「お兄ちゃああああああんっ!!!!」

 

 キャンディが叫ぶと本はキャンディより少し大きな妖精の姿に変わり、雪と寒風と一緒に部屋に飛び込んで来た。

 ライオンの様な鬣と狐の様な尻尾を生やした妖精…キャンディの兄ポップである。

 キャンディは勢い良く飛んで来たポップに飛びついて受け止めるがポップの勢いに負け床に落ちる。しかし咄嗟にポップが下になりキャンディのクッションとなった。

 

「キャンディ、無事であったか!

…良かった…。」

「良くないクル!

みゆき達が危ないクル!

でも、キャンディはみんなの力になれなくて…、ふええぇ…」

 

 大好きな兄の顔を久し振り見たせいでキャンディの緊張が緩み、不安を吐き出した。ポップはそんな妹を抱き寄せて優しくなだめた。

 

「すまないでござる…。もっと早くに此方に来れたら良かったでござる。

でも安心するでござる、力強い援軍を連れて来たでござるから!」

 

 ポップは胸を張り、意気込む。キャンディは援軍が誰なのか想像し、曇らせていた表情を輝かせた。

 

「お兄ちゃん、まさか!?」

「そのまさかでござるよ。

さあ、拙者達もみゆき殿の所へ行くでござる!!」

 

 キャンディはポップに強く頷き返し、二人は部屋の本棚の前に立ち、不思議図書館を通りみゆき達が戦う戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くよりセブンスヘブンの超高層ビルが崩れ、その中から巨大な人型の“古きもの”が出て来たのを松尾伊織はミニバンから降りてその凄まじい光景に心を奪われていた。

 人型ではあるが岩肌そのものの体に頭部より生やしたドレッドヘアの様な器官が蠢き、体の彼方此方には様々な“木々”を生やし、赤く見開いた四つのつり目をギョロつかせ、耳まで裂けた大きな口をバックリと開いていた。

 爪先まで現世に顕現した巨人の古きものは街一帯に響き渡る程の咆哮を上げてゆっくりと立ち上がり、その岩肌に取り付いていた両手が蝙蝠の羽根である古きものの群がやはり赤い目を次々と灯らせ、頭をもたげて羽根をはためかせ、バサバサと飛び始めた。ミニバンの車内では藤村と真奈が小夜達の途切れたインカム回線を何とか復旧しようと躍起になりノートパソコンを叩いていた。

 

「藤村君!?」

「駄目っす、回線が全部死んでます!!」

 

 二人ではどうにもならないと解り本拠地の比呂に応援を頼むが、此方でも復旧するのは不可能であった。

 

『ごめん真奈、コッチでも無理…。』

「ありがとう、月ちゃん…。」

 

 あの山の様に大きな古きものが出現する前より無線インカムの回線が途切れ通信不能に陥っていた真奈達。藤村と二人で頑張る中で松尾は運転席に戻りエンジンをかけた。

 

「松尾さんどうしたんですか、まだ小夜達と連絡が取れ…」

「“逃げる”ぞ!」

「何言ってんスかマッさん!

俺達が逃げたら…!?」

「向こうから古きものの群れが空飛んで押し寄せて来てんだよ!!」

 

 松尾の怒鳴り声が車内に響いたのと同時にボンネットに“ドスン”と古きものが降りて来た。悲鳴をあげる真奈と藤村だが、松尾は胸元から拳銃を取り出し両手で持ち古きものの顔に三発撃ち放った。至近距離から銃撃でガラスに三発の銃痕と内二発を顔に受けて古きものは悲鳴をあげるが、右腕でガラスを砕いて松尾の頭を鷲掴みにして引っ張り出そうとする。

 

「マッさん!?」

「松尾さん!?」

 

 真奈は蒼白となり藤村は古きものの腕を叩いて松尾から引き剥がそうとするが、古きものの力は人間など足元にも及ばない。松尾の頭も力を入れれば握り潰してしまうだろう。

 

「お前等、車降りて逃げろ…!」

 

 頭を万力で挟まれたかの様な苦しさを我慢しながら松尾は真奈と藤村に言った。…自分はもう無理だと、二人に告げているのだ。

 

「そんな…、いやだ…。」

「やめてくれよぉ、置いてける訳ないだろおっ!!」

「うるせぇ、早くしねえと別の奴等が…」

 

 しかし彼の言葉も虚しく、車両の左右に別の二匹が降り立ち、窓ガラスを覗き込んで来た。

 最早真奈は声も出せず震え、藤村も絶望した表情となり、席にもたれ込む。松尾を掴んだ古きものの手にも力が加わり三人共死を覚悟したその時、松尾を殺そうとした古きものの首が赤い糸を引いて宙を舞った。指の間からそれを見ていた松尾は突然の出来事に悲鳴を上げ、他の二匹も何者かによって殺された。

 驚きの連続でもうどんな顔をして良いのか分からなくなった真奈と藤村…松尾は車を降り、改めて外の状況を確認した。

 

「何…、どういう事なの!?」

 

 真奈は今目の前で起きている“古きもの”と“少女達”の命を賭けた大混戦に立ち尽くす。藤村と松尾も呆けた顔付きで瞬きもせずに彼方此方で激戦を繰り返す双方を見つめていた。

 

「危なかったね、お兄さん方。

大事ないかい?」

 

 何時の間にか松尾の傍らに一人の少女が立っていた。右目を眼帯で多い、黒いゴスロリ風の上着に広い袖からは左右に大きな鉤爪を三本装備していた。

 

「お前が俺達を助けてくれた…のか?」

「そーだよ。わたし“呉キリカ”って言うの、よろしくね?

本当はわたしも織莉子も関係ないんだけど~、今回は特別に助けてあげたんだよ。」

 

 妙に人懐っこい口調ではあるが言っている内容はよく理解出来ず、松尾は首を傾げる。…と、キリカと名乗った少女も松尾の真似をして首を傾げた。

 

(俺、ナメられてる!?)

 

 其処へキリカを呼ぶ声と同時に真っ白なウィッチドレスを着極した魔法少女が空より降りて来た。

 

「あっ、“織莉子”♪」

 

 キリカは白い魔法少女を見るなり両腕を広げて彼女の方へ駆け寄る。

 

「キリカ、此処が片付いたならもう行くわよ。」

「うん、分かった。」

 

 織莉子と呼ばれた白い魔法少女は真奈達をチラッと見ただけで挨拶もせずその場をキリカと一緒に古きものとの戦闘に戻って行った。

 三人は少しの間惚けていたが松尾が二人の名前を呼び、またミニバンに戻る。

 

「サッサと此処を離れんぞ。

次襲われてまた助けてもらえるか分かりゃしねえからな!」

「でも…っ!?」

「真奈ちゃん!」

 

 松尾に反論しようとした真奈を遮ったのは険しく顔を歪めた藤村であった。

 

「マッさんの言う通りにしよう…。

もう此処は戦場なんだ。

みんなを…信じよう?」

 

 藤村は巴マミの顔を脳裏に浮かべ、歯を食いしばる。結局…彼は彼女に何もしてやれなかったのだと自分を心の中でなじった。

 そして真奈も悔しさのあまりに涙を流し、もう一度巨人の古きものを見据える。

 

(ごめん…、ごめんね、小夜…。

でも待ってるから。

わたし達友達だから、戻ってくるのを待ってるから…!)

 

 降りしきる雪を振り払い、真奈を乗せたミニバンはその場を去り、魔法少女達の猛攻が始まった。

 “茜すみれ”の薙刀と椎名レミの戦斧が古きものを真っ二つにしていき、“杏里あいり”の二挺拳銃と“飛鳥ユウリ”の注射器を模したガトリング砲が次々に古きものを墜として行った。

 そして七人の魔法少女が集まった“プレイアデス星団”も見事なチームワークで迫る古きものの群れを迎え討った。

 “御崎海香”は手に持つ魔導書を両端が刃の杖に変えて切り裂き、“牧カオル”は硬質化した身体と武器にしたスパイクシューズで蹴り砕く。他の四人も連携しながら古きもの共を殲滅した。

 

「スカーラ・ア・パラディーゾ!」

 

 甲高い声と共に光の糸が螺旋模様を描き小さくも高い塔を編み上げ、その天辺に一人の魔法少女が立ち、立体十字の杖を掲げた。

 

「リーミティ・エステールニ!!」

 

 杖の先端より眩き光が発せられ、その光を浴びた十体近くの古きものが蒸発してしまった。

 小さく白い魔女帽子に真っ白でフワフワな魔女服を着た魔法少女は地上に降りて御崎海香と牧カオルと合流する。

 

「キリがないね、この蝙蝠みたいな奴等!」

 

 カオルがぼやき、海香が彼女に同意する。

 

「サキやニコ達も数の多さで苦戦しているみたい。

やっぱりあの“巨人”を倒すしかないわね…。」

 

 そう言って海香とカオルは白い魔女服の少女…“昴かずみ”の意見を待った。

 

「わたし達は打ち合わせ通り此処で“敵”を抑える!

…巨人は彼処にいる“仲間”に任せよう。」

 

 かずみはあの山程に大きな巨人の古きものを見据え、向こう側にいる誰とも知らない魔法少女達の無事と勝利を強く願う。

 

「希望と勝利をその手に掴めっ!!」

 

 かずみはそう叫んでまた杖を掲げる。三人の体が光り輝くと宙に浮き、光の閃光となり古きものの群れに突っ込んだ。

 

“メテオーラ・フィナーレ!!!”

 

 光の閃光は瞬く間に何十もの古きものを撃破し、其れを遠くより美国織莉子と呉キリカが戦いながらも見つめていた。

 

「すっごーい、蝙蝠の怪物達がどんどん減ってるよ~!」

 

 はしゃぐキリカを見て微笑む織莉子だが、彼女はこのずっと先にある“未来”を見据え、口を噤む。この戦いは彼女にとって関わるべきモノであったのか未だ答えは出ない。

 しかし自分達が動かなければ失われた命を見捨てられなかった。先程キリカが助けた真奈達がそうであった。

 

(結局、私とキリカが“予知の魔法”で彼女達を助けた事がこの戦いの先にある“未来”をより色濃くしまった気がする…。

私はあの未来が全ての人々の幸せに繋がるのか全然解らない…。

…でも今は…っ!)

 

 織莉子は周囲に水晶の球体を幾つも造りだし、それを古きもの達にぶつけてその体に大穴を開け、更には水晶球で竜巻を作り出して古きものを巻き込む。キリカも負けじと鉤爪を増やして古きものの屍の山を築き上げていく。

 しかし巨大な古きものより放たれた翼手の古きものは数を増やしていき、更なる大群で押し寄せようとしていた。

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