戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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全てを呑み込む狂気を切り裂く…

 セブンスヘブン日本支部本社ビルは倒壊し、代わりに巨大な人型の“古きもの”が其処にそびえ立っていた。その足元では瓦礫を払い退け這い出て来た四人のプリキュアは周囲を見渡し、仲間達の姿を探す。キュアマーチは三人の無事を確認するとバッドエンドプリキュアの四人について尋ねた。

 

「みんな、彼奴等はどうなった!?」

 

 険しい表情のキュアビューティが荒い息遣いをしながら彼女に答える。

 

「分かりません、戦闘中に突然地下が崩壊しましたから…。

自分が這い上がるだけで精一杯でした。」

 

 キュアピースもへたり込みやはり荒い息遣いをしてみせる中で、彼女はずっと上を見上げるキュアサニーに気付いた。

 

 「何なんや、この“デッカい足”はっ!?」

 

 まるで“ジャックと大きな豆の木”にでも出て来る様な大きな豆の木を連想させる“足”は周囲のタワークレーンよりも大きく、そのずっと上空に胴体らしき陰を見て四人のプリキュアは理解する。…この巨大な何かは“古きもの”なのだと…。そして頭上より群れなして降りて来るモノ達がいた。それを見てキュアマーチは目を疑う。

 

「古きものの大群…!?」

「そんな…、まだハッピーと…、みゆきちゃんと合流してないのにぃ!?」

 

 キュアピースはみゆきの身を案じ、それは焦りとなり彼女の口から零れる。四人は翼手の古きもの共に囲まれてしまい、背中を合わせ守りに入る。キュアサニーはこの倒壊したビルと古きものの群れの中でみゆきと同じくらいにアルフォンスが逃げられたのかと彼の身も案じていた。そして古きもの共がプリキュア達に飛びかかろうとした刹那、瓦礫の隙間より突如血柱が彼方此方と噴き出して古きもの達に覆い被さった。血の柱からは血の涙と血反吐を流し続ける様々な姿の亡者達が具現化し、古きもの達に噛みついては噛み千切り、目に指を突っ込んで眼球を潰し…或いは抉り、顎を掴んでは頬を裂いて砕き、翼手の膜もビリビリに引き千切って腕や足をもぎ取り地獄の攻め苦を味わわせた。

 サニー達は英国で見せられた三十年前の地獄と化したロンドンを脳裏に浮き上がらせ蒼白になるが、喉まで込み上げた胃液を呑み込みこの惨状を凝視した。亡者の中には背広姿に拳銃を持った者、何処かの軍服を着た兵士、一般人と思われる者…、そして見滝原中学の制服を着た少年少女もいた。

 プリキュア達はこの亡者の群が自分達を助けてくれた事で誰の仕業かを理解し、その人物の声が四人の頭に響いた。

 

《何をもたもたしている?

星空みゆきは小夜、マギカ達と共にこの“古きもの”の頭上を目指しているぞ!》

 

 アーカードの声は頭に響けど姿は何処にも見えず、四人は大きな足のずっと上を見上げ戸惑う。

 

《迷うな、貴様達の敵もまた上にいる。地上は我が下僕と亡者共が請け負った。

この埋め立て地の外もインキュベーターが他のマギカを喚び寄せ市街地を守っている。

己が役目を忘れるな…、プリキュア。》

 

 アーカードの声は途切れ、周囲は亡者達がどんどん溢れて来た。しかし古きものもまた黙ってやられる訳もなく一体で10体もの亡者を相手にして鋭い牙と爪で引き裂いた。

 サニーはその光景から一度目を瞑り、意識をまとめると三人に叫んだ。

 

「行くでえ、みんな!

みゆきがウチ等が来るのを絶対待っとる!!」

 

 ピース・マーチ・ビューティはサニーの言葉に強く頷き、四人は大きく跳躍して巨大な古きものの足を駆け昇って行った。サニーはアルフォンスの事が気に掛かってはいたが、今はみゆきを助ける事のみに集中する。

 全てが終わった後に彼が微笑む光景を楽しみとし、サニーはキュアハッピーの元へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な人型の古きものの頭の天辺に加藤保憲と暁美ほむらはいた。スカイツリー…東京タワーよりも高くそびえ、多くの高層ビルの街を眼下に見渡す。

 加藤は邪悪な嘲笑を浮かべながら胸元のポケットから暁美ほむらのソウルジェムを取り出し、五枚の黒紙に五芒星を染めた式札を放つ。式札は巨大な古きものの額に飛んで行くと五芒星を形作って貼り付いた。…と、ほむらの姿が消え額の五芒星の中心に式札と同じく背中から貼り付いてその身をかたまらせた。

 

「ほむらよ、我はお前を古きもの…“野鎚”への供物として捧げる。

それにより“野鎚”はお前の中に流れる我が血と怨念を吸い上げて魔獣共の苗床となる。そして野鎚の養分を鱈腹吸った魔獣共は増殖してこの帝都東京に放たれ、生きとしりける全てが魔獣共の餌食となるのだ!

さぁ我が娘よ…、

最初にして最後の役目を果たすのだ!!」

 

 加藤はほむらのソウルジェムを眼前に浮かせ、印を結びタントラを唱え始めた。

 

“オンバザラシャケウンソワカオンバザラシャケウンソワカオンバザラシャケウンソワカオンバザラシャケウンソワカ…”。

 

 加藤のタントラに紫のソウルジェムとほむらの体は激しく反応し、見開いた目が降りしきる雪の一粒一粒をスローモーションに映し込む。自身の身体に何が起きているのか…ほむらには理解出来ず只雪の結晶を瞳に映すが、雪の結晶は五芒星と変わり瞳に焼き付いた。

 

「あ…、ああ…、

あああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

 

 ほむらは金切り声を上げて苦痛を訴えその身を痙攣させ、其れと同時にほむらの周囲に貼られた五枚の式札が燃え盛り火を走らせて五芒星を古きものの大きな額に刻み込んだ。

 

「オンバザラシャケウンソワカ

オンバザラシャケウンソワカ

オンバザラシャケウンソワカ

オンバザラシャケウンソワカ

オンバザラシャケウンソワカ…ッ!!

我が元へ来たれ御霊、

我が元に跪け怨霊、

全ての悪意なる意志よ、我に組し力を与えよ!!!!」

 

 加藤保憲の掛け声に巨大な古きもの…野鎚は呼応して飛行機すら一呑みにしてしまいそうな口を大きく開けて咆哮を上げた。そして暁美ほむらの体はまるで野鎚と同化していく様に額の中に沈んでしまった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 野鎚の腰の位置で上へ上へと駆け昇る者達がいた。キュアハッピーと小夜、魔法少女三人は真っ直ぐに野鎚の表皮を疾走し、その後を五人のバッドエンドプリキュアが追う。

 マミが後ろを振り向き、さやかと杏子にアイコンタクトをすると三人共踵を返してBEプリキュアに向かって行った。

 

「みんなっ!?」

「行きなさい、此処は私達が引き受けたわ!」

 

 マミがキュアハッピーにそう返すと、BEハッピーが駆けながら胸元にハートを形取り構えた。

 

「絶対に御父様の邪魔はさせない!!」

 

 BEハッピーが必殺のBEシャワーを放ち、マミ達を散らして二人の背中に迫るが、キュアハッピーは振り向き同じくプリキュアハッピーシャワーを構えると小夜に叫んだ。

 

「小夜さんわたしに掴まって!!」

 

 小夜は彼女の考えを即座に読み取りハッピーの背に回り肩に捕まる。

 

「プリキュア・ハッピーシャワーッ!!」

 

 二人のハッピーの必殺技がぶつかり合い相殺するかと思いきや、ハッピーと小夜の体は必殺技のぶつかり合った勢いに乗っかり更に高く打ち上げられた。

 

「このおんなあああっ!!!!」

 

 余りの悔しさに叫ぶBEハッピーを下方に見降ろし、ハッピーは“ベーッ”と舌を出してアカンベエをして見せ、小夜はハッピーを掴んだまま日本刀を野鎚の表皮に刺してぶら下がった。…かなりの高さまで上がった筈であったが古きものの腰から脇程の距離しか稼いでおらず、キュアハッピーは野鎚の顔を見上げた。

 目指すはあの醜悪な顔面…。小夜は野鎚の体内に居るであろう七原文人を…、キュアハッピーは先程感じたほむらの気配を目指す。

 

「みゆき、暁美ほむらは古きものの頭の天辺だ。」

「うん、上に着いたら小夜さんは文人さんを…っ!」

 

 小夜はハッピーに頷いて見せ、また共に野鎚の崖の様な表皮を駆け昇った。

 

「今行くよ、ほむらちゃん!!」

 

 二人が急ぐ中で野鎚の周辺に魔獣共が集まり始め、翼手の古きもの共に取り憑きその姿を大きく変える。そして野鎚の体にも数え切れない程の魔獣が入り込んで行く。

 野鎚は自身の異変に気付き、身悶えるが…心臓部に位置する朱食免は黙して魔獣達を何もせずに受け入れていた。七原文人は朱食免の胎内で愛しき女性の事だけを想い、たゆたう…。

 

“浮島にいた時の君も好きだったけど、

やはり僕が惹かれていたのは紅い瞳の君なんだ。

ああ、こんなにも僕は君を欲している。

とても、とても欲しいよ…小夜!”

 

 己が想いに身を浸し、文人は小夜が来るその時を待ち、巨大な人型の古きもの…“野鎚”は暁美ほむらを吸収してからは沈黙を続け、その右肩では四人のバッドエンドプリキュアと巴マミ・佐倉杏子・美樹さやかが激突し、野鎚の口内より侵入した小夜は体内に潜り込んだ魔獣の群に阻まれ、そして顔面ではキュアハッピーとBEハッピーが互いの思いをぶつけ死闘を繰り広げていた。

 BEハッピーは両拳にバッドエンドパワーを溜めてキュアハッピーに向けて魔弾を撃ち出し、ハッピーはそれを紙一重に躱して野鎚の鼻面を駆け走りBEハッピーに強烈なパンチを打ち込んだ。しかしBEハッピーは両腕で此を受け切り、互いに間合いを離した。

 

「いい加減諦めな!

暁美ほむらはもう“コイツ”に喰われて終わってるんだよ!」

 

 BEハッピーはキュアハッピーにほむらが加藤によって野鎚の生贄とされた事実を口にするが、何故かハッピーにはまだほむらが生きていると云う確信があった。

 

「ほむらちゃんは死んでなんかいないわ!

感じるんだから、何でか解らないけど解る。

ほむらちゃんの想いをわたしは感じるの!!」

「知った事かよっ!!」

 

 二人のハッピーが二度ぶつかり合い、その波動が野鎚の鼻先で広がり弾ける。その状況に野鎚はまるで鼻先で羽虫が飛んでいる感覚で左腕を動かした。大型コンテナ程の指が二人に迫りキュアハッピーは咄嗟にBEハッピーから離れるが、それが隙となりBEハッピーは見逃さず離れる所か飛び跳ねてキュアハッピーを追い右手から魔弾を放ち、キュアハッピーの脇腹に命中した。

 

「ガハッ!?」

「アッハハハ、そのまま落ちてトマトみたいに潰れてしまええっ!!」

 

 野鎚の顔面から真っ逆様に墜ちるキュアハッピーをBEハッピーは見えなくなるまでゲラゲラと笑い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 野鎚の口内…喉元では小夜が大量の魔獣と熾烈な戦闘を繰り広げていた。肉の天井…壁…足下と場所を選ばず這い出ては小夜に向かって行き斬り捨てられる…。それを幾度となく繰り返され、小夜は朱食免に辿り着けずにいた。

 

(こんな所で足止めなど…、しかしこの尋常ならない魔獣の数は見滝原学園の時と同じか其れ以上!

この古きものを苗床にして増殖していると云うのか!?)

 

 刀を振るい一歩一歩を踏み締めて進む小夜だが、魔獣達の腕が触手の様に小夜に注がれ小夜は捕まってしまう。

 

「しまっ、フグウッ!?」

 

 目と口…鼻まで塞がれ雁字搦めに拘束された小夜。その耳には微かにほむらの声が届いていた。

 

“おねがい…、わたしをころして…!”

 

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