小夜は目の前にある光景に戦慄していた。今彼女はかつて着極していた“私立三荊学園”の制服を着て眼鏡をかけており、見覚えのある“喫茶店”のカウンター席に座っており、その向かいで喫茶店のマスターと思しき男性が珈琲を淹れていた。マスターが振り返り、顔立ちの良い笑顔で小夜に静かに薫りの良い珈琲を差し出すが…その顔を見た途端に小夜は憤怒を刻み込み珈琲カップを払い落とした。
「文人おっ!?」
喫茶店のマスター…七原文人の胸倉へ手を伸ばそうとした時、隣からとても懐かしい男性の低い声が聞こえた。
「どうした小夜、突然珈琲カップを落とすとは…?」
文人の手前で手が止まり、フルフルと痙攣する。ぎこちなく首を動かし、小夜は隣の人物に目を向け…その眼差しは釘付けとなりワナワナと体が震えた。
白装束に青い袴姿に長い黒髪を首の後ろで一束に纏めた中年の男性…、かつては父親と呼び慕った心優しかった近しい存在…“更衣唯芳”であった。
「とう…さま…!?」
…違う、彼が此処に居る筈がない。何故なら彼は半年前…“浮島地区”で小夜によって斬り殺されたのだから。
其処へお店の扉が開き、鈴の音がお客の来店を知らせる。入って来たのはウェーブのかかったボリュームのある長髪に抜群のボディラインを持った美女…筒鳥香奈子でその入口の隙間から二人の同じ顔をして小夜と同じ制服を着た双子の美少女…求衛ののと求衛ねねが割り入って来た。
「ああ、小夜ちゃんだ♪」
「本当だ、イケメンのお父様もいるね♪」
人懐っこく可愛らしい笑顔を振り撒き筒鳥香奈子を押し退けて二人で更衣親子を挟んで座り、香奈子は小夜の隣の求衛ねねの隣に座った。
そして店の扉が閉まらぬ内に鈴の音が新たな来店を教え文人が「いらっしゃい。」と声を掛ける。
入って来たのは大人びた三荊学園の女生徒…網埜優花と眼鏡をかけた大人しげな男子生徒…鞆総逸樹。そして最後に不良っぽさを醸し出した男子…時真慎一郎だった。
「こおら、三人共早い!
置いてかないでよ全くもうっ!」
「ねねちゃんののちゃんは兎も角…筒鳥先生も足早いですね。」
優花と逸樹がボヤくと求衛ののとねねがケラケラと笑い、二人は香奈子の隣に並んで座ると時真慎一郎も仏頂面で端に座った。小夜は眩暈がする程にこの有り得ない光景に混乱し、思考が回らなくなっていった。
(何が起きている!?
わたしは…、わたしは確か…!?
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わたしは……何をして…“何をしていたのでしょうか”!?)
記憶が混濁していく中で父…唯芳の声が響いてきた。
「小夜、疲れているのであれば家に戻りなさい?」
そして喫茶店のマスターである文人の声が脳裏に届く。
「小夜ちゃん、みんなも心配しているし良ければ僕が送って行こうか?」
小夜は頭を右手で抱えるも少し間を置いて答えた。
「いえ…大丈夫です文人さん、父様。
皆さんも御心配おかけしてしまって申し訳御座いません。」
三荊学園の同級生はホッと胸を撫で下ろし、香奈子先生も笑顔に戻り紅茶に口を付けた。
小夜は自分が今まで何をしていたのかを思い出し、落ち着いて席に腰を下ろした。
(そうでした…。
今日は文人さんが新作のデザートをご馳走して下さると言われたので父様とギモーブに来たのでした。
どうかしてますね、私…。)
小夜は新しい熱々の珈琲を文人より頂いて啜り、その苦味を愉しんで改めて気持ちを落ち着かせた…。
巨大な古きもの…野鎚のジャンボ機すら蚊蜻蛉の様に叩き墜とすであろう掌がさやかとマミに物凄い勢いで迫って来た。巴マミはリボンで編み上げた黄色の大鷹を操り此を回避。そして美樹さやかは大鷹から野鎚のうねりを上げる大きな腕に飛び移る。
「丁度良い足場が来てくれたわ~、助かるう♪」
「美樹さん、気をつけてね!」
「マミさんもーっ!」
マミがさやかから離れると次はプリンセスマーチの天馬が近付いてその後ろに乗っていた佐倉杏子が同じく野鎚の腕へと飛び移った。
「サンキュー、なお!」
マーチはグッと握り拳に親指を立て二人から離れ、さやかと杏子は互いにサーベルと多節槍を持って駆け出す。二人の行く手には数十もの魔獣と蝙蝠の様な古きものの群、さやかと杏子は互いの背中を守りながら正に無双の武勇を見せつけた。
野鎚の周囲はプリキュアオールスターズにより魔物の群れは抑えられ、そのまた周囲を抜け出た魔獣と古きものを魔法少女達が撃破した。
戦いの風向きはプリキュアと魔法少女達に傾いているかの様に思えたが、アーカードは魔獣達を撃ち抜き、古きもの共を引き裂きながらプリキュア達の体力の消耗に気付いていた。
(魔獣は暁美ほむらのソウルジェムが生み出す絶望のエネルギーを巨大な古きものが吸収し、それを苗床に魔獣が古きものより生まれ出る。
文字通りの無限増殖、それを止めるにはソウルジェムを古きものから取り出すしか方法はない。)
このままではプリキュア達はおろか魔法少女達も魔獣の物量に圧し潰されるのを待つだけだが、懸念すべきはキュアハッピーこと星空みゆきの決断である。
恐らくは…、いや、確実に彼女はほむらの命を諦めない。例え救える確率が那由他の彼方にあろうとも、星空みゆきは暁美ほむらを諦めたりはしないだろう。
「みゆき姫、お前が選ぶその先にあるのは一体何なのかな…?」
アーカードは憂いを帯びた表情でそう呟き、二挺の拳銃をクロスさせ二体の魔獣を撃破した。
巨大な古きもの…野鎚の頭の周囲にて、光の天馬を駆るプリンセスハッピーと蝙蝠の古きものを操ったバッドエンドハッピーがプリンセスキャンドルと無名の黒い剣を交え、空中戦を繰り広げていた。
「もう止めようよ、こんなに戦ったって、加藤さんは貴女に振り向いたりしないんだよ!」
「煩いっ、シネエエッ!!」
プリンセスハッピーの説得にも応じず、力任せに黒い剣を振り下ろすBEハッピー。此をプリンセスキャンドルで受け止め、弾き返してキャンドルを光のランスに変えてBEハッピーを乗せた蝙蝠の古きものを刺突…深々と貫き通した。
「クソオオオッ!?」
騎馬であった古きものを倒されて足場を失ったBEハッピーはそのまま真っ逆様に墜ちるかと思われたが、プリンセスハッピーが即座に彼女の手を取って助けた。
呆気に取られたBEハッピーと冷や汗を零し彼女の手を握るプリンセスハッピーの視線が重なる。
「………アンタって、絶対に死んでも治らない馬鹿の部類よね。」
「違うよ…。
貴女と仲良くしたいって思う気持ちをわたしは馬鹿だとは思わないわ。」
ふと、BEハッピーの顔から凶相が消えた。プリンセスハッピーは彼女を引き上げて天馬に乗せる。
「ねえ、わたしは星空みゆきって言うの。
よかったら名前を教えて?」
二人のハッピーはそのまま見つめ合い…、BEハッピーはほんの少し唇を動かすが、その後に起きたのは血に塗れた裏切りであった。BEハッピーは握っていた黒剣をプリンセスハッピーの腹部に突き立てたのである。
「どっ…、し、て?」
BEハッピーは俯き、搾り出した声で答えた。
「…仕方ないじゃない、もう、全てが遅過ぎたんだから…。
わたしはアンタが憎いんだもの、わたしも漫画が…アニメが…、絵本が大好きだった。
でも、クラスのみんなはわたしをオタクだ腐女子だと言って虐めの的にして来た。
わたし以外にオタクも腐女子もいたのに…、わたしだけを標的に…。
わたしとアンタ達と何が違ったのかな…?
結局解らないままわたしは“死”を選んだわ。」
BEハッピーは黒剣を更に押し込み、切っ先が背中を貫き通した。プリンセスハッピーは口から血反吐を吐いてBEハッピーは彼女の吐血を頭から浴びても動じず…、黒剣の柄から手を離した。
「わたしとアンタは相容れないんだ。
わたしは道を示してくれた御父様に最期まで尽くし切る!
だから…、アンタはもう休みなよ…。」
その言葉に今までぶつけてきていたみゆきへの悪意憎悪は一切……感じられなかった。