戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

76 / 76
フォレストページにはなかったハーメルンからの最新話です。


愛しきあなたに祝福を…

 死闘が繰り広げられている埋め立て地区の外で…、キュウベエこと“インキュベーター”とバッドエンド王国の道化師…ジョーカーがその一部始終を眺めていた。

 

「魔法少女達も限界が近い。一人二人と穢れを溜めてしまって戦線を離脱している。」

「その様ですね、プリキュア達も疲弊を隠せずに戦っています。何せあの“巨人”を中心に空中戦を続けているのですからね~、疲れない訳がありません。」

 

 休戦中とはいえジョーカーは交わる事のない仇敵、ニヤニヤと嗤いながらプリキュア達の苦戦を愉しげに愉快げに観戦をし、キュゥべえは戦線を離脱していく魔法少女を見てそろそろ穢れの回収時であると判断した。

 

「どうやら穢れを溜め過ぎた魔法少女達が僕を探し始めた様だから彼女達の穢れを回収しに行くよ。

それじゃあね、ジョーカー。」

「えぇ、サヨウナラ。」

 

 キュゥべえが姿を消すのとほぼ同時にジョーカーは巨大な古きもの…野槌の腹部辺りでキラリと光が瞬いたのを見た。

 

「アレは…!?」

 

 その光は徐々に強くなり、何と古きもの…野槌を激しく照らす程に輝き始めた。

 

「ヒヒヒッ、まさか、まさかまさかまさかっ!?

間違いない、あんな場所にあったなんて…、どれだけ探しても見つからない筈です!」

 

 ジョーカーの顔に今までにない程のマガマガしい嘲笑が露わになり、その姿を消す。セブンスヘブンのビルがあった場所に聳え立つ“古きもの”は凄まじい砲哮を上げ、沈黙していたその身体を動かし始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャンディの姿が虹色に輝く大きな宝石に変わり、その力に寄るものなのか…星空みゆきの体とBEハッピーであった少女の体は宙を浮いて止まっていた。

 少女は宝石の全てを清めるかの様な輝きに惚として、見取れてしまう。

 

「すごい綺麗…、この世のものとは思えない…。」

 

 少女が宝石に触れようと手を伸ばしたその時…。

 

「触れるなっ!!」

 

 突如怒声が響き、少女は手を引っ込めて後ろを振り向いた。其処にいたのは軍服の魔人…“加藤保憲”であった。

 

「その石に触れるな、貴様の体が文字通り“塵”に返るぞ!」

 

 少女は加藤の言葉を聞いてもう一度宝石に目を向けた。彼女は宝石の輝きを瞳に映し、思い老ける。中学校に入って待っていたのは陰湿な苛め…、教師は見て見ぬ振りをし、両親は娘も見ず喧嘩ばかり…。そんな少女に新たな世界をくれたのが加藤であった。

 

「“奈落”へと身を投げたお前を“反魂の外法”により新たな命を与えたのだ。

清浄なるその宝石に触れればお前は消滅する。」

 

 二度警告され、少女はまた加藤に振り返るが、その表情は憑き物が取れたかの様に清々しい…とても可愛らしい笑顔であった。

 

「ありがとう、御父様…。

御父様には感謝しています、わたしを生き返らせて“力”を与えてくれて…。でも、恨みます。

みゆきとこんな形で出会いたくなかった…。こんな優しい子と敵になんかなりたくなかった。

だから…、わたしは…、最期に貴方に逆らいます。」

 

 少女はもう一度手を伸ばし、宝石に近付ける。すると彼女の掌が瞬時に黒くくすみ、次の瞬間にボウッと火を噴いて崩れ落ちた。

 

「下らぬ情に動かされたか、愚かな娘よ…。」

 

 加藤は腰に差した妖刀…関孫六をスラリと抜き、宙を歩き近付く。彼女は殺意を剥き出しにした加藤を前に両手を広げ、その身を盾として未だ意識のないみゆきと光り輝く宝石を護る。魔人はかつての愛娘に凶刃を振り上げ、一息に真っ二つにしてしまおうとしたその時、突如宝石が眩い光を放ちBEハッピーであった少女と魔人加藤を包み込んでしまった。

その眩く広がる光に魔獣や古きもの達は怯み隙を見せ、魔法少女とプリキュアがチャンスとばかりにバタバタと倒していく。しかしその光の中心にみゆきがいるのをいち早く気付いたプリンセスサニーこと日野あかねが光の天馬を駆り急ぎ彼女の元へ駆けつけようとしていた。

 

「みゆき、今行くでえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャンディが変化した宝石が発した光の中で星空みゆきは目を覚ました。BEハッピーに貫かれた腹部の痛みは弾いており、両手で身体中を触って自身がまだ生きている事を確認すると「みゆき!!」と大声で呼ぶ声がした。振り向くと傍らには見知らぬおかっぱでブレザー服姿の少女がいて唐突にみゆきを抱き締めた。

 

「えっ、えええっ!?」

「ごめんなさい、わたし貴女を傷付けてしまった!…でも生きてる……良かった……。」

 

 少女は泣き出し、みゆきの胸に顔を埋める。みゆきはふとこの少女とBEハッピーが重なり、同一人物なのだと確信すると彼女の背中に両手を回した。

 

「大丈夫、もう…大丈夫だから。」

 

 すると二人の前にキャンディが姿を現して向こうを見る様施された。

 

「キャンディ、一体何があったの?私達どうしたの!?」

「みゆき、みんながみゆき達を助けに来てくれたクル。

“まどか”も…来てくれたんだクルよ!」

「ま……どか……?」

 

 聞いた事があるかの様なその名にみゆきは困惑するが、みゆき達の目の前で光の粒子が集まって人を形取ると純白のドレスに身を包んだ髪は長いが頭の両端は短く結んだツインテールの可愛らしい少女が神々しく現れた。

 その姿を見たみゆきは声も出ず、不思議と暖かな気持ちになり自然と涙が伝った。

 

「あ……、まどか…ちゃん……。」

「思い出してくれたね、みゆきちゃん。」

 

 純白のドレスの少女…まどかはニコリと微笑むとその手を傍らの少女に向けて伸ばした。少女も何処か恥ずかしげにはにかみ、次にみゆきの顔を見つめる。

 

「…お別れ…だね、みゆき。」

「えっ、だって友達になったばかりなのに…!?」

 

 友達と言われた少女は嬉しさで一杯の胸をグッと押さえる。

 

「あんなに非道い事を一杯したのに……、ありがとう。でも、わたし……、みゆきと会う前にもう死んでるから。」

 

 其れを聞いたみゆきとキャンディは絶句し、まどかは切なげに目を伏せる。バッドエンドハッピーであったこの少女は生前…理由のないイジメを受け、両親にも相手にされずに自殺をしていた。しかし彼女の持つ潜在的に強い霊力と更に強い無念が魔人加藤保憲の目に止まり、“反魂の外法”を受けて甦り、バッドエンドハッピーとなったのである。

 

「御父様の霊力が途切れ、清浄な光の中にいればこの身体も持たない。……出来るなら死ぬ前に戻って、みゆきと出会いたかった。」

 

 彼女がそう言うとまどかが彼女に寄り添い、手を取る。この少女は魔法少女ではないがある意味では魔女と呼べる存在…、なら“円環の理”の導きを受ける条件を満たしていた。

 

「まどかちゃん、その娘を連れていくの?」

「うん、彼女は充分に苦しんだ。……だから…、安らげる場所に行くの。其所ならもう一人ではなくなるから。」

 

 みゆきの瞳は溢れ出る涙で一杯になり、少女に問う。

 

「もう、会えないの?」

 

 少女は頷く。

 

「名前…、まだ聞いてない。教えて?」

 

 少女も涙を溢れさせ、答えた。

 

「わたしの名前は……」

 

 其処でまたもや光が溢れてみゆき達を包み込み、少女の声はかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みゆきはゆっくりと瞼を上げると、其所にいたのは妖刀関孫六を上段に振り上げた魔人の姿であった。

 

「死ねえ、小娘!!」

 

 みゆきは何かを守る様に抱き締め、加藤保憲の凶刃が彼女を真っ二つにしてしまわんとしたその時、勇ましい掛け声と共にプリンセスサニーの駆る天馬が加藤に体当たりを仕掛けた。だが加藤は即座に反応し、此を回避。サニーが割って入る形になった。

 

「みゆき大丈…夫、て…、泣いとったん…か?

それにその綺麗でおっきな宝石……?」

 

 未だ涙の止まないみゆきを心配するサニー。そして彼女の手にある宝石を見つめる。

 

「この宝石はキャンディだよ。そして、まどかちゃんの力がキャンディを通じてわたしをもう一度変身させてくれる!!」

 

 次の瞬間、宝石はまたも眩い…虹色の輝きを発しみゆきを包む。サニーは自分にはない力を感じ取って固まってしまい、その輝きを目にしたピース、マーチ、ビューティも思わず戦う手を止めてしまった。しかし魔獣や古きものもその輝きに怯み、加藤までがマントで光を遮ろうと顔を隠してたじろいだ。

 輝きが引いていき、まるでその中から羽ばたくかの様に二対の大きな白い翼が現れ、白い羽に被われた臼ピンクのワンピースの様なドレスを身に纏ったみゆき…キュアハッピーが現れた。その煌めいた姿に魔法少女達もプリキュア達も目を輝かせ、その女神めいた抱擁感を感じたと思いきや、プリキュア達は体力とダメージが回復し、魔法少女達は何と其れだけでなくソウルジェムの穢れが全て浄化されていきイソイソと穢れを回収していたキュウべえの度胆を抜いた。

 

「有り得ない、こんなのは奇跡なんかじゃない、最早神の領域…人では絶対に為し得ない宇宙の真理だ!!」

 

 そしてアーカードはキュアハッピーが放つ輝きを不快と感じながらもほくそ笑み、怯み混乱した魔獣と古きものを打ち倒す。

 

「正に女神とでも言うべきか、その力を持ってすればこの私をも滅ぼせるやも知れんぞ、星空みゆき!!」

 

 彼と行動を共にしていたポップは元の姿でアーカードの肩に乗っており、キュアハッピーの姿を見て複雑な思いを募らせていた。

 

(キャンディがミラクルジュエルの姿に戻ったでござる。ミラクルジュエルはどんな願いでもたった一つ叶える事が出来る伝説のアイテム…、しかしそれは……。)

 

 彼の心配を余所に乱戦は嵐の如く広がり、人工島内に収まらなくなっていた。そして加藤は巨大な古きものである野鎚の額に再び舞い戻り、関孫六を縦に構えた。

 

「我が娘よ、汝が絶望を今こそ全て解き放てっ!魔獣達でかつて“帝都”と呼ばれた魔都を禍々しく染め上げるのだ!!」

 

 加藤は野鎚の生け贄となった暁美ほむらの“血”に訴えかけ、妖刀を突き立てた。…しかしほむらは応えず、野鎚にも何の変化も起きずその動きは静止してしまった。

 

 ……まどか。……まどかあ!!

 

 加藤保憲は妖刀を伝い、自我を取り戻し始めた暁美ほむらの魂を確かに感じ取った。眉間に皺を刻み、ギリギリと聴こえる程の歯軋りをし、逆手に関孫六の柄を握った両手に力が隠った。

 

「お…の……れぇ……、何処までも邪魔な小娘ども。

後少し、後少しなのだ、滅びるのだ……。滅びよ帝都東京おおおっ!!!!」

 

 加藤は自身の霊力を全て解放し、ほむらではなく野鎚に直接与え始めた。すると野鎚の四つの巨大な目が凶暴な光を灯し、二度凄まじい咆哮を上げた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。