戦乙女は死線を乗り越えて   作:濁酒三十六

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後戻りの出来ない世界…

 そして吐き気を催す光景は其れだけではなく、ナチス兵がロンドン市民を捕まえてはその首に“牙”を突き立ててその血を浴びる様に飲み干した。打ち捨てられた死体は起き上がり更なる獲物を求めて練り歩いた。

 地獄絵図が画面から消え、またインテグラの顔が現れた時にはあかね、やよい、なお、れいかは蒼白になっており…椅子から立てず身を強ばらせ、キャンディはみゆきの背に隠れブルブルと震えていた。

 映像を流している最中にインテグラが状況を説明してはいたが恐らく聞く事など出来てはいないだろう。

 そしてみゆきもまた蒼白な顔を俯かせ、口を噤みながら立ち上がるが…直ぐに床に膝を付いてその場で嘔吐してしまう。

 ほむらは直ぐに彼女に駆け寄って背を優しくさする。

 

「大丈夫、星空さん?」

「あ…、ありがとう…

暁美さん…。」

 

 青い顔色ながら今日初めて出逢ったほむらに笑いかけるみゆきだったが…、その笑顔は直ぐに崩れ、目尻に涙を溢れさせていた。

 

「どうして…、あんな恐ろしいものをわたし達に見せるんですか!?」

 

 みゆきはほむらに肩を借りて立ち上がり、インテグラを睨みつける。画面の向こうにいる彼女は毅然とした態度と冷徹な視線をみゆきに向けて答えた。

 

《お前達がどの様な反応をするのかを見ておきたかったのと…この三十年前の惨劇が近い未来、お前達の国で起こるやも知れぬと言ったら…

お前達はどうするのかを聞きたかった?》

 

 アーカードとキュゥべえを除く全員が戦慄し、愕然となる。炎に照らされた暗闇の中を歩く死体と駆け抜ける吸血鬼の群、阿鼻叫喚に打ち震える生者達、今見た映像の後では嫌でもその悪夢が脳内に映像化されてしまい、やよいとなおもまた涙を我慢出来ずに溢れさせ…あかねとれいかが二人に寄り添う。

 

「何を根拠に貴女はその様な事を口にするのですか!?」

 

 そんな彼女達を見かね、ほむらもまたインテグラを睨みながら彼女に問いかける。

 

《根拠ではなく、事実を述べよう。

三十年前に押収した人造吸血鬼の研究資料の一部と…、

敵将であった男の“残骸”が我が英国から秘密裏に持ち出された。

犯人は日本古来より闇の中を暗躍し、人ならざる物を御してきた秘密組織…【塔】だ。》

 

 みゆき達もほむらも聴いた事のない組織の名…。いや、秘密組織などがこの日本に存在する事自体知る術などない。

 しかしインテグラは少女達の戸惑いを無視して話を続ける。

 

《現在我々が手に入れている情報ではこの【塔】と云う組織は半年前にかなり面立って動いている。

…何らかの目的の為に数百人の人間を集め、隔離された小さな町の中で始めた不可思議な実験。

しかしその実験と結果までは探り切れず、末路は集められた人間は全員口封じの為に悉く虐殺され…実験は終了となっている。》

 

 更に目を背けたくなる映像は続く。先程までと違い静止画像のみだがやはり彼方此方に死体が転がる画像…、だが明らかに違う違和感があった。そしてそれにいち早く気付いたのはほむらであった。

 

「此処…、日本…なの!?」

 

 ほむらは映像にある町の雰囲気や建物…死体が着る服装からそう推測をし、インテグラは凄惨な映像を見て尚冷静に分析をする彼女を見据える。

 

(あの娘…、随分と“死”を見慣れている様だな?)

《そうだ、此はある筋より貰い受けた情報…。

今話した半年前に行われた実験後の映像だ。》

 

 みゆきはほむらに支えられて立ち上がりながらインテグラの話と残忍極まりない映像を昨晩経験した人間が人間の命を奪う光景を重ね合わせた。

 自分達が戦っている人ではない闇の者…バッドエンド王国の怪物や怪人達。

 彼等は卑怯極まりない手で彼女達プリキュアを苦しめては来るが、命を奪う様な行為は今まで一度たりともなかった。

 しかし人間は…、同じ人である筈なのにいとも簡単に銃口を相手に向け、無慈悲に引き金を引いてその命を奪い去る。

 今思えば人の歴史は弾圧…革命…戦争…その繰り返しであり、現在はその痛ましい歴史を土壌にして平和が成り立っているのだ。

 

「…どうしてクル?

みゆきもあかねも…、やよいもなおも、れいかも…

スゴく仲良しなのに…、どうして他のみんなは仲良く出来ないクル!?」

 

 みゆきの背からひょっこりと顔を出したキャンディがほむらに尋ねた。…偶々隣にいたから聞きやすかったのか、初めて会った彼女だから聞いたのか、ほむらは戸惑うが…暫し考えてキャンディの疑問に答えてあげた。

 

「…解り合えないからよ。

時に人は人を疑い…信用せず、裏切り、そして憎み、挙げ句に傷つけ合う。

それが人間の本質の一部なの…。」

 

 ほむらは節目がちではあったが、それでも彼女は人を信じる。

 

「…でも人間は悪意のみで生きている訳ではない。強い意志と優しさが同居してこそが人間だわ。

だからこそ、“あの子”は自らを捨てて希望となり…わたしは今も戦い続ける事が出来るの。」

 

 みゆき達には彼女の言っている話を分からないが、その心にある強く堅い覚悟があるのだけは理解出来た。

 しかし、だからと言って其れを真似出来る訳ではない。あの酷たらしい惨劇の映像を見せられたあかね達は完全に心が折れてしまっていた。

 

「ウチは…無理や。

…あんな戦い出来へん、人が死ぬのなんて見とうない!」

 

 あかねはうずくまるやよいの肩を抱き締め、語尾を強めて言った。

 

「わたしも、やだ…っ!

目の前で人が死ぬなんてやだ!!」

 

 顔を見せず泣きながら叫ぶやよい。なおはれいかにしがみついたまま涙で言葉が出ず、れいかは彼女を抱き締めて無言を通した。

 

「みゆき、帰ろ。

もう結論出たやん、ウチらには荷が重すぎる。…みゆきだって、ウチらよりも酷い有り様や。

不思議図書館を通って、家に帰ろ?」

 

 あかねがみゆきの手を取り、ほむらもまた、あかねの言葉に同意する。

 

「その方が良いわ。

まだ戦いになるかどうかも分からないけど、恐らく貴女達が入り込める話ではないと思うの。

貴女達のいる世界とは…確実に“違う世界”の出来事なのよ。」

 

 みゆきはほむらに支えてもらっていた体に力を入れ、自分の足で立つと画面に映るインテグラを見た。

 

「インテグラさん、わたしは…、わたしはもう戻れない筈だよね?

だから此処にいるんだよね?」

 

 みゆきの強い眼差しにインテグラは笑みを浮かべる。

 

《そうだ、星空みゆき。お前は彼奴等に…【塔】に100%顔がわれている。

其処から現住所、親兄弟、交友関係に至るまで調べ尽くされるだろう。

…我々ならばそうする。》

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