ホラーかと思ったら異世界召喚だった   作:絵成数基

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初の魔物のボスキャラとの戦闘になります。それでは初投稿です。


地泳巨獣

第13話:地泳巨獣

 

1.フレズナール到着

 

夕刻、乗合馬車はフレズナールの街に到着した。

街の入口には巨大な城壁が聳え立ち、その威圧感は圧倒的だった。特に東側——山に面した側の城壁は異常なまでに高く、分厚い。まるで「何か」を必死に押し留めているかのようだった。

「……すごい城壁ですね」

ファルマが小さく呟いた。

「ここがフレズナールだ」

グレンが窓の外を見ながら言った。

「穀倉地帯の最終防衛線。ここから先は、完全に自己責任の世界だ」

馬車が街の門に近づくと、騎士たちが厳重な検問を行っていた。

「通行証を」

俺は宰相から貰った通行証を差し出した。

騎士はそれを確認すると、表情を変えた。

「……これは、宰相閣下の通行証。失礼いたしました。どうぞお通りください」

検問は一瞬で終わり、馬車は街の中へと入っていった。

「……助かったな」

俺が小さく呟くと、ルーシェンが頷いた。

「宰相の通行証は絶大な効力があります。これがなければ、ここまでスムーズには入れなかったでしょう」

 

2.グレンとの別れ

 

馬車が街の中心部に到着すると、グレンは槍を担いで立ち上がった。

「じゃあな、兄ちゃんたち。俺はここで降りる」

「グレンさん、気をつけてください」

俺が声をかけると、グレンは豪快に笑った。

「心配すんな。俺はそう簡単には死なねえよ」

グレンは馬車を降りると、俺たちに手を振った。

「また会おうぜ。……生きてな」

「はい。グレンさんも」

グレンの背中が、人混みの中に消えていった。

少しだけ寂しさを感じたが、すぐに気を取り直した。

「さて、俺たちも宿を探しましょうか」

 

3.街の様子

 

フレズナールの街は、リノアとは全く違う雰囲気だった。

清潔で整然としたリノアに対し、フレズナールは雑然としていて、活気に満ちていた。

穀物商人の姿はほとんど見えず、代わりに傭兵、猟師、鍛冶師といった「戦う者たち」が目立っていた。

街の至る所で、人々が大声で話し合っている。

「地泳巨獣が出たらしいぞ!」

「マジかよ……あれはヤバいって聞くぞ」

「グレンが行ったって話だ。なら大丈夫だろ」

「いや、でも地泳巨獣だぞ? あれはグレンでも……」

俺たちは街の中を歩きながら、話を聞いていた。

「地泳巨獣……?」

「ええ。シエラディム山系に出現した、強大な魔物です」

ルーシェンが説明した。

「地面を泳ぐように移動し、通常の攻撃がほとんど通じない。非常に厄介な魔物です」

「……それを、グレンさんが討伐しに行ったんですか」

「ええ。彼ほどの戦士なら、勝機はあるでしょう」

街の人々は、グレンの名前が出ると明らかに安堵の表情を見せた。

「グレンが行くなら、大丈夫だ」

「ああ、あいつなら勝てる」

俺は改めて、グレンの強さと信頼がどれほどのものか理解した。

(……本当に、すごい人なんだな)

 

4.宿にて

 

俺たちは街の中心部にある宿に部屋を取った。

清潔で、料金も手頃だった。部屋に荷物を置くと、ルーシェンが地図を広げた。

「アルセインの塔まで、ここから約50キロです」

ルーシェンが地図上の位置を指差した。

「山道ですので、一日に10から15キロ程度しか進めないでしょう。4日から5日かかると見ておいてください」

「結構かかりますね……」

「ええ。しかも、今は寒くなり始める季節です。冬装備を整える必要があります」

「じゃあ、明日の朝まで街で準備しましょう。装備を整えて、山の情報も集めておいた方がいいですね」

「それがいいでしょう。では、夜は酒場で情報収集をしましょうか」

 

5.夜の酒場

 

夜、俺たちは街の酒場に繰り出した。

酒場は活気に満ちていて、傭兵や冒険者たちが大声で話し合っていた。

「おう、兄ちゃんたち! どこから来た?」

陽気な傭兵が俺たちに声をかけてきた。

「リノアからです」

「リノアか! で、どこに行くんだ?」

「アルセインの塔まで」

「アルセインの塔!?」

傭兵は目を丸くして、周囲の仲間たちに声をかけた。

「おい、こいつらアルセインの塔に行くってよ!」

「マジかよ!」

「物好きだなあ!」

冒険者たちが笑いながら、俺たちの席に集まってきた。

だが、その笑いは嫌な感じではなかった。むしろ、親しみを込めた笑いだった。

「兄ちゃん、山は危ねえぞ。今は地泳巨獣が出てるし」

「地泳巨獣って、どんな魔物なんですか?」

俺が尋ねると、傭兵は真剣な顔になった。

「地面を泳ぐように移動する魔物だ。攻撃がほとんど通じねえ。しかも、地面が突然液状化するから、まともに戦えねえ」

「……それは厄介ですね」

「ああ。だが、今は北側で暴れてるらしい。街道は一応安全だ……多分な」

「多分?」

「自己責任ってことだ。あの魔物が来たせいで、逆に他の魔物が逃げ出してる。だから街道は比較的安全……なはずだ」

傭兵は肩をすくめた。

「まあ、何が起こるか分からねえのが山ってもんだ」

俺は頷いた。

「他にはどんな魔物が出るんですか?」

「ゴブリン、コボルト、オークは定番だな。あとは狼、猪、巨大蜘蛛、巨大蟻、巨大カマキリ……」

「巨大系、多いですね……」

「ああ。あとはアンデッドも出る。ゾンビ、スケルトン、ゴースト。だから普通は神官を連れて行くんだが……」

傭兵は俺たちを見て、首を傾げた。

「お前ら、神官連れてないのか?」

「……ええ、今回は」

「マジか。大丈夫か?」

「なんとかします」

俺はそう答えたが、内心では少し不安だった。

(神官を連れて行けばアンデッドは安全になるけど……俺の闇の力がバレるリスクが高い。仕方ない、か)

 

6.人心地

 

酒場での会話は続き、俺たちは様々な情報を得ることができた。

そして何より——。

「……久しぶりに、人らしい雰囲気ですね」

ファルマが小さく笑った。

「そうだな」

リノアでの息が詰まるような秩序だった雰囲気とは違い、ここは雑然としていて、でも温かかった。

人々は大声で笑い、酒を飲み、時には喧嘩もする。

それが——人間らしかった。

「……やっぱり、こういう場所の方が落ち着きますね」

俺が呟くと、ルーシェンも珍しく笑顔を見せた。

「ええ。私もそう思います」

 

7.翌朝、出発

 

翌朝、俺たちは万全の準備を整えて街を出た。

冬装備を整え、食料も十分に確保した。武器も点検し、魔法の準備も万全だった。

「では、行きましょう」

ルーシェンが先頭に立ち、俺たちは東の玄関口である山塞門へと向かった。

山塞門は巨大で、騎士団が詰めていた。

「アルセインの塔へ?」

「はい」

「……気をつけて。魔物の侵入数が増えています」

騎士は真剣な顔で警告した。

「ありがとうございます」

俺たちは門を抜け、灰路街道へと足を踏み入れた。

 

8.灰路街道

 

街道は火山灰質の土で覆われており、歩くたびに靴が汚れた。

「……歩きにくいですね」

ファルマが苦戦しながら歩いている。

「火山灰質の土だからな。仕方ない」

俺も靴が汚れてくっつくのを気にしながら進んだ。

街道は整備されているが、周囲は鬱蒼とした森と岩場が入り混じっている。視界が悪く、いつ魔物が出てきてもおかしくない雰囲気だった。

「……静かすぎますね」

ルーシェンが警戒しながら言った。

「ああ。不気味なくらいだ」

俺も周囲を警戒した。

鳥の声も、虫の音も聞こえない。

ただ、風が木々を揺らす音だけが響いていた。

 

9.野営地

 

夕方、俺たちは街道沿いにある野営地に到着した。

野営地は広場のように整備されており、焚き火の跡や簡易的な柵が設けられていた。

「ここで休みましょう」

ルーシェンが指示を出し、俺たちは野営の準備を始めた。ここまで魔物どころか、野生動物すら見ていない。

焚き火を起こし、食事を作り、見張りの交代を決めた。

「俺が最初に見張りをします」

「では、私が次を」

ルーシェンが頷いた。

「私は……」

「俺もルーシェンも夜は強いんだ。ファルマはゆっくり休んで体調を整えておいてくれ」

「はい……」

そんなやり取りをしながら辺りは暗くなっていく。

夜は冷え込み、焚き火の暖かさが心地よかった。

俺は周囲を警戒し、ルーシェンが結界を張った。

(……何も起きなければいいけど)

 

10.地泳巨獣襲来

 

翌朝、俺たちは早めに出発した。

街道を進むこと数時間——。

突然、地面が揺れた。

「!?」

俺は反射的に剣を抜いた。

「地震……?」

ファルマが不安そうに呟いた。

その時——。

地面が波打った。

まるで水面のように、土が液状化し、波紋が広がっていく。

「……これは!」

ルーシェンが叫んだ。

「地泳巨獣です!」

次の瞬間、地面から巨大な黒褐色の塊が浮上した。

全長は20メートル以上。体表は岩盤のようで、ところどころが液状化した土に溶け込んでいる。

明確な目や口は見えない。

闇の力で感知した俺には——

体の奥で、不規則に脈打つ“核”の存在が感じ取れた。

(あれを壊さない限り、恐らく倒せない。しかし……)

「……でかい」

思わず呟いた。

(……あの城壁は、こいつを想定していたのか)

地泳巨獣は地面を泳ぐように移動し、俺たちに襲いかかってきた。

「逃げろ!」

俺は叫んだが——地面が液状化し、足場が崩れた。

「きゃあ!」

ファルマが転びそうになり、俺が咄嗟に脇に抱きかかえた。

「掴まってろ!」

「は、はい!」

ルーシェンが魔法を展開する。

「土よ、硬化せよ!」

地面が一瞬だけ固まり、俺たちは足場を確保した。

だが——地泳巨獣は硬化した土を突き進み、容赦なく襲いかかってくる。

土が飛び散り、弾丸のように俺たちを襲った。

「くそっ!」

俺は剣で土弾を弾きながら、ファルマを抱えて走った。ルーシェンは風魔法で浮かび上がって避けている。

(このままじゃ……!)

そして地泳巨獣はトプン、と音を立てて土の中に潜り込んだ。

(どこだ!?)

しばらく静けさが支配する。

次の瞬間、足元に“死”の気配を感じた。

「下からか!」

全速力でそこから退避する。

まるで天を昇る竜のように、地面の下から飛び出す地泳巨獣。

何とか回避に成功するも、飛び出した時、水のように弾けた土が散弾のように襲いかかって来る。

それを剣でいなすが衝撃が強い。

「ぐうっ!?」

「榊さん!?」

抱えられたファルマが悲鳴をあげる。

「爆炎槍」

空中に浮かんだ巨獣に、ルーシェン単体最高威力の魔法が突き刺さる。

しかし巨獣は僅かに吹き飛ばされるだけで、傷は浅い。

そのまま、土の中に飛び込む。

高い位置から飛び込んだことで、土に大きな波が立ち、水しぶきのように土の散弾が来る。

僅かな沈黙後また真下に殺気。咄嗟に避けるも、同時に飛び散る土塊の散弾を防ぐので手一杯になる。

まるで鯉の滝登りのように、何度も真下から襲いかかる襲撃が来る。

ルーシェンが空中からも飛び出した隙に、炎だけでなく土の槍や風の刃、高圧の水などをぶつけるが効いてない。撒き散らされる土の弾丸で反撃もままならない。ファルマを守るだけで精一杯だ。

(このままじゃ……削り殺される)

何度目かも分からない跳躍の後――

不意に、巨獣の動きが鈍った。

完全には沈まず、背中を土の上に晒したまま、のたうつ。

「……?」

「……避けた時、毒を」

腕の中で、ファルマが息を切らして言う。

「飲み込ませました。……効いてる、はずです」

(なるほど……)

胸の奥で、ようやく糸が繋がった。

(ファルマがいなければ――)

俺たちは、ここで終わっていた。

巨獣が、こちらを向く。

今度は、逃げの一手じゃない。

「――行くぞ」

俺たちは、地泳巨獣と真正面から向き合った。

 

11.戦闘

 

俺は剣を振るい、地泳巨獣に斬りかかった。

だが——。

「!?」

剣が表皮に当たった瞬間、火花が散っただけで、まともな傷にはならなかった。

「硬い……!」

ルーシェンも再度、爆炎槍を放つが、効果は薄い。

「属性魔法が拡散されています……!」

「どうすれば……!」

ファルマが震えながら叫んだ。

毒で動きは鈍くなったものの、決定打がない。

大きく振るわれる尾を避け、同時に来る土の散弾を防ぐ。ファルマを抱えている以上無茶はできない。

俺は必死に考える。

(闇の力を抑えず使えば……いや、でも)

俺は闇の力を内部に留めていた。

バレれば、粛清される。誰の目があるか分からない。

だが——。

(ここで死ぬわけにはいかない!)

俺は覚悟を決めた。

「ファルマ、俺に掴まってろ!」

「は、はい!」

ファルマに背中にしがみついてもらい、俺は闇の力を開放した。

黒い霧が俺の体を包み、剣に纏わりついた。

「……これで!」

俺は地泳巨獣に斬りかかった。

だが——それでもまだ、深手には至らない。大きく暴れられる。

「くそっ……!」

その時——。

「兄ちゃん、そいつじゃ足りねえ!」

聞き覚えのある声が響いた。

 

12.グレン参戦

 

空から、槍が降ってきた。

地泳巨獣の体表に突き刺さり——深く、えぐった。

地泳巨獣が声なき咆哮をあげる。

「その声は!?」

俺が驚いて振り返ると——。

「よう、間に合ったか」

グレンが豪快に笑いながら、地面に降り立った。

「グレンさん!?」

「話は後だ。今はこいつを倒すぞ」

グレンは身を捩る地泳巨獣から槍を引き抜き、再び構えた。

その槍身には——魔力が纏わりついていた。

「……魔力を、纏わせてる?」

「闇も魔力も、人の中にある力であることは変わらねえ。怖がるか、使いこなすか——違いはそれだけだ」

グレンは俺を見て、ニヤリと笑った。

「兄ちゃん、お前もやってみろ。闇を”出す”んじゃねえ。“纏わせる”んだ」

「纏わせる……?」

「ああ。剣に、意識を集中しろ。闇はお前の力だ。お前が命じれば、従う」

俺は剣に意識を集中した。

闇の力を、剣に纏わせる。

「……!」

地泳巨獣が襲いかかって来る。

剣が黒く染まり、刃が鋭く輝いた。

「それだ! 行け!」

グレンが叫び、俺は地泳巨獣に斬りかかった。

今度は——やつの突進の勢いも手伝って、深く切り裂いた。

「……やった!」

 

13.決着

 

だが、地泳巨獣はまだ倒れない。身を翻している。このままでは逃げられる。

「毒だ! ファルマ!ルーシェン!少しでいい!動きを封じてくれ!」

俺が叫ぶと、ファルマは震えながらも頷いた。

「……わかりました!」

ファルマは俺から降りると、毒を瓶ごとぶつける。

毒は地泳巨獣の傷口から浸透し——動きがさらに鈍くなった。

「あんまり持ちませんよ」

ルーシェンも厳しい表情をしながら、土魔法で動きを封じる。

地泳巨獣の動きが、一瞬完全に止まった。

『今だ!』

グレンと俺が同時に攻撃を放ち——。

地泳巨獣の核を貫いた。

「……ッ!」

地泳巨獣は断末魔の叫びを上げ——そのまま地の中に沈んでいった。

 

14.戦闘終了

 

戦闘が終わり、俺たちは息を整えた。

「……勝った、のか?」

「ああ。よくやったぜ、兄ちゃん」

グレンが俺の肩を叩いた。

「お前がいなければ、勝てなかった」

「……俺が?」

「ああ。お前の闇の力は、公にはできねえかもしれねえ。だが、それは間違いなく”力”だ。自信を持て」

グレンの言葉に、俺は胸が熱くなった。

「……ありがとうございます、グレンさん」

「礼なんざ要らねえよ」

グレンは豪快に笑い、槍を担いだ。

「じゃあ、俺は街に報告に戻る。お前たちも、気をつけろよ」

「はい」

グレンは手を振り、街へと戻っていった。

 

15.心の救済

 

グレンが去った後、俺は剣を鞘に収めた。

(……バレれば粛清される)

そんな恐怖が、いつの間にか心に重いストレスとなっていた。

だが、グレンの言葉で——。

(自信を持て、か)

俺は少しだけ、心が軽くなった。

「……行こう」

俺は歩き出し、ファルマとルーシェンも後に続いた。

アルセインの塔まであと30キロ。あと少しだ。

 




地泳巨獣(ちえいきょじゅう)

通称:陸泳の災厄

体長20メートルにも及ぶ巨大な魔獣。
体表は黒褐色の岩盤のようで、ところどころが液状化した土と溶け合っている。
形状はシャチに似ているが、明確な目や口は確認されていない。

この魔物の最大の脅威は、大地を“泳ぐ”ように移動し、周囲の地形を破壊する点にある。
移動時には土砂を水飛沫のように撒き散らし、その一つ一つが散弾のように襲いかかる。
地泳巨獣が激しく動くほど被害は拡大し、対処だけで手一杯になることも多い。

本体の防御力も極めて高く、その装甲を突破するだけでも困難を極める。
フレズナールの高い城壁は、この魔物から穀倉地帯を守るために築かれたものである。

これまでに何度か討伐例はあるものの、一定期間を経て再び出現しており、
同一個体なのか、別個体なのかについては現在も議論が分かれている。
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