第23話:新たなる道
1. 天界の報告
天界。
光に満ちた空間で、セレナは跪いていた。
その前には、光そのものが人の形をしている存在がいた。
光の秩序神──アウレオ・レグルス=ルクス。
神格名「万法照覧の光王」と呼ばれる、神々の中でも中心的存在。
その姿は、まるでマネキンのように、輪郭だけがある顔を持つ光の人型だった。
「報告します」
セレナが頭を下げたまま言う。
「大悪魔バエル=クラウスを討伐しました。榊という人間の協力者がおりました」
光の秩序神は、特に褒めることもなく答える。
「……遅い」
むしろ咎めるような雰囲気だった。
「申し訳ございません」
セレナはただ、頭を下げる。
「次の任務を伝える」
「はい」
「王都ヴァレリアに、悪魔が潜んでいるかもしれない」
「……!」
「調べよ。そして、いるならば討伐せよ」
「承知しました」
セレナは頭を下げ、退出した。
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一人残る光の秩序神。
「榊……」
その名前に、何か引っかかるものを感じる。
だが、すぐに──
「……不要な記録だ」
そう判断し、意識の片隅から切り捨てた。
そして、独り言のように呟く。
「全ての者に秩序を与えられる日は、まだ遠い」
2. 恥じらいと決断
エリシアの胸で泣くだけ泣いた俺は、気恥ずかしさを覚えてエリシアから離れた。
「……すまん。取り乱した」
「いえ」
エリシアが慈愛の目で見つめる。
その視線に、いたたまれなくなった俺は、照れ隠しも含めて話題を変える。
「それで……ここ、どこだ?」
「はい」
エリシアの機能も回復してきたらしく、すぐに答える。
「お父様の塔から北に約70キロの地点。未開の森です」
「70キロ……!」
思った以上に飛ばされたことに驚く。
「座標もある程度分かりますので、南に行けば帰れるでしょう。ただ、未開の森なので道らしい道はありません」
「70キロか……」
俺はため息をつく。
それから、ふと気づいた。
空気が、少し暖かい。
出発した時は冬に入る直前で、寒くなっているはずだ。
(まあ、日本でも冬に入っても暖かい日があったな……そういうことだろうか)
未開の森を70キロ。それも、これから寒くなることを考えると、かなり厳しい道のりになる。
俺はそう覚悟した。
「あの、榊様」
エリシアが口を開く。
「未確認情報ではありますが……」
「ん?」
「ここから5キロほど東に、遺跡があります」
「遺跡?」
「遺跡には時々、白銀界に行くゲートがあります。白銀界を経由すれば、お父様の塔のゲートまで行ける可能性があります」
「それは……!」
「ただし」
エリシアが釘を刺す。
「時空振動があったところです。たとえゲートがあっても、どうなっているか分かりません。そして、魔物が住み着いている可能性もあります」
「……それでも」
俺は決断した。
「その可能性にかけてみよう」
「了解しました」
3. トレントの襲撃
途中、魔物を倒しながら進む二人。
俺は積極的に戦闘していた。身体を動かしていた方が、村のことを考えなくて済む。
エリシアはそれをサポートしながら、進んでいく。
夕方頃、遺跡に到着した。
だが──
「……なんだ、あれ」
遺跡の前には、何本かの木が生えていた。
そして、その木には──人が絶望したような顔がついていた。
「あからさまに怪しいな……」
剣を抜いて警戒する。
「あれはおそらく、トレントです」
エリシアが説明する。
「あんな顔がついてたら、擬態の意味がないような気がするんだが……」
俺がそう呟いた時、トレントが動いた。
枝をしならせ、二人に襲いかかってくる。
「くそっ!」
剣を振るう。枝を片端から切り落とし、顔の部分に剣を突き刺す。
「グギャアアアッ!」
おどろおどろしい叫び声を上げて、顔が消え、トレントがただの木に戻った。
エリシアも横で同じようにトレントを倒している。
だが──
「まだ来るのか!?」
他の森のところからも、トレントが根っこを足のように使って寄ってくる。
「キリがない……! エリシア、中に逃げ込むぞ!」
「はい!」
俺たちは遺跡の中に逃げ込んだ。
遺跡の地面は石でできており、トレントは中まで入ってこれなかった。
4. 遺跡での夜
遺跡の中は、周りにトレントがいるせいか、魔物はいなかった。
形としては、一つ10畳程の大きさの正方形の石でできた家が5×5で規則正しく並んでいる。ほとんどは天井が崩れていたが、中心の3つほどは比較的綺麗に残っていた。
中心には、地下に行く入口があった。
「あそこの奥に、ゲートがある可能性が高いな」
「はい。ですが、もう夜が近いです。暗い中行くのは危険かと」
「そうだな。今日はここに泊まろう」
俺は崩れていない家の天井を確かめる。意外と丈夫だ。
「これ、ただの石じゃないな」
「はい」
エリシアが説明する。
「昔使われていた、金属に近い丈夫な特殊な石です。魔力石灰岩と呼ばれています」
「魔力石灰岩……」
「崩れていたのは、時間が経ちすぎたからでしょう」
俺たちは軽く掃除をして、泊まることにした。
扉には鍵も簡易的ながらかかり、魔物でもすぐには入ってこれない。
同じ部屋で、携帯食を食べる。
だが、じっとしていると──村のことを思い出してしまう。
子供たちの笑顔。石を投げつける村人たち。灰のように崩れるバエル。そして残った村人達は、生き残れないであろう事。
「……っ」
苦しそうにしている俺を、エリシアがまた抱きしめた。
「エリシア……」
恥ずかしながらも、つい甘えてしまう。
そして、抱きしめられつつ、一緒に寝袋で──安心して眠ることができた。
5. 遺跡の地下
何事もなく朝になった。
地下への探索を開始する俺たち。
明かりはないが、エリシアが指先より光を出し、地下に入っていく。
地下は通路に、左右にいくつもの部屋がある構造だった。
一つずつ、慎重に確認していく。
部屋には、本や食料を入れたツボだったであろうものの残骸などが、各部屋にあった。倉庫として使われていたようだ。
空気は淀んでいるので、開けるたびに換気は必要だが、特に新しい発見もなく進む。
「上の住居のような建物も考えると、過去の時代での居住地ではないかな?」
俺が推察する。
「可能性は高いですね」
そして、最奥の部屋に──ゲートらしきものを発見した。
「これは……!」
だが、その部屋には、ゲート以外に壁に走り書きがいくつもあった。
『神の尖兵に追い詰められた』
『食料もなくなった』
『白銀界へ避難しようにも、結界が張れない』
『もう、終わりだ』
絶望した走り書きばかりだった。
「……一体、ここで何が起こったんだ」
俺がそう呟く。
「分かりません。ですが……」
「ああ。ルーシェンと合流できたら、連れてきて見せれば研究して何か解明してくれるだろう」
「まずは、帰ることが先決ですね」
「ああ」
俺たちは頷き、ゲートに入った。
そして、くぐった先は──
遠くにアウレリアがみえる、見慣れた白銀界だった。
光の秩序神
神名
アウレオ・レグルス=ルクス(Aureo Regulus Lux)
神格名
「万法照覧の光王」
教義
• 法と秩序こそが幸福への唯一の道
• 神の光はすべてを正しく導く
• 邪悪(悪魔・魔物・死霊・闇)は存在そのものが罪
• 教義を守れば、死後は「光明界」へ迎えられる
信者・組織
• 五大神中、最も清廉・禁欲・規律重視
• 浄化魔法に特化
• 神殿騎士団が最大勢力
• 「疑うこと」自体が罪
トレント
一見すると普通の木に擬態している魔物。
……のはずだが、幹の中央に刻まれたように浮かぶ苦悶の表情をした顔の存在によって、経験のある者であれば容易に見分けがつく。
この顔は樹皮の模様とは明らかに異なり、
まるで内側から押し出されるように形作られていると語られている。
トレントを討伐すると、その身体は完全に活動を停止し、ただの木へと変化する。
このことから、トレントは生まれながらの魔物ではなく、後天的に何らかの存在が木に取り憑くことで成立する魔物ではないか、という説が広く信じられている。
戦闘時には枝を自在に振り回して打撃を与え、根を足のように使って地面を這うように移動する。ただし、土や地面と接していない場所では力を発揮できず、石畳や岩盤の上、水上ではほとんど移動できない。
弱点は幹に浮かぶその“顔”であり、そこを的確に攻撃すれば比較的容易に討ち倒すことが可能とされる。逆に言えば、顔を避けて攻撃を続けた場合、枝や根による反撃で長期戦に持ち込まれる危険が高い。
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冒険者の間で語られる注意点(噂)
1,夜明け前、霧の濃い森でよく動き出す
2,伐採跡の近くに現れることが多い
3,倒した後の木材は燃えにくく、加工に向かない
これらが事実かどうかは定かではないが、「顔のある木を見たら、まず距離を取れ」という教えだけは、多くの冒険者が共有している。