ホラーかと思ったら異世界召喚だった   作:絵成数基

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やっと研究所から出ます。という訳で初投稿です。


星詠からの招待

第4話:星詠の招待

 

1. 研究の進歩

 

研究所での生活が始まって、更に二ヶ月が経過していた。来た時は春だった季節も、夏を越え、秋になろうとしていた。

「榊さん、あなたの世界では、どのような交通手段があるんですか?」

ルーシェンは目を輝かせて聞いてくる。

「交通手段ですか?そうですね、電車とか、車とか、飛行機とか……」

「飛行機!空を飛ぶ乗り物ですか!どのような原理で!?」

俺は溜息をついた。また始まった。

この二ヶ月、闇の力の研究よりも、俺の世界の話をしている時間の方が長かった気がする。

「いや、それを説明するのは難しいんですけど……」

「ぜひ教えてください!異世界の技術体系を研究することは、魔法学の発展にも繋がるかもしれません!」

結局、その日も闇の力の研究はほとんど進まず、俺が元の世界の飛行機について延々と説明することになった。

「なるほど、強い推力で翼に風を受けて飛ぶ...風の魔法では自分しか飛べませんし、召喚獣の飛龍はたしかに人を乗せて飛びますがそれは数人が精々...数百人もの人を乗せて飛ぶには...翼の角度が...耐久性も...」

こうなるとなかなか帰ってこない。俺は一人で剣の訓練をするのだった。

だが、その一方で、俺の闇の力の制御は着実に上達していた。

毎日の訓練を通じて、俺は闇の力をほぼ完璧に制御できるようになっていた。

体から闇の力を漏らさずに、最大限の力を引き出すこともできる。

剣の訓練も続けており、今では土のゴーレム二十体を同時に相手にしても、余裕で勝てるレベルになっていた。

「榊さん、あなたの成長は目覚ましいですね」

ルーシェンは感心したように言った。

「闇の力の制御は、もはや完璧と言っていいでしょう。私もお墨付きを与えます」

「ありがとうございます」

俺は素直に礼を言った。

ルーシェンの質問攻めに付き合いながらも、確実に強くなっていた自分を実感していた。

「では、次の研究テーマをどうしましょうか」

ルーシェンは顎に手を当てて考え込んだ。

「闇の力の応用的な使い方を調べるのも良いですし、あるいは闇の力と他の魔法の相互作用を……いや、待ってください。その前に、あなたの世界の通信技術について教えていただけますか?電話というものが非常に興味深くて……」

「ルーシェンさん、研究はどうしたんですか」

俺は呆れて言った。

「研究ですよ。異世界技術の研究です」

「闇の力の研究は?」

「それも大事ですが、今は異世界技術の方が……」

もう、この人には何を言っても無駄だ、と俺は悟った。

 

2. 召喚獣の来訪

 

そんなある日の午後。

俺たちが研究所の庭で、また異世界談義をしていると、空から何かが飛んできた。

「ん?」

ルーシェンが空を見上げた。

俺も視線を向けると、一羽の鳥が研究所に向かって飛んでくるのが見えた。

ハヤブサのような鳥だが、ハヤブサよりも一回り小さく、昔見たチョウゲンボウに近い。

「おや、これは……」

ルーシェンは手を差し出した。すると、その鳥はルーシェンの腕に止まった。

「召喚獣ですね」

「召喚獣?」

「ええ。正確には、伝達鷹(デンタツダカ)という召喚獣です」

ルーシェンは鳥を撫でながら説明した。

「白銀界の生物で、魔力消費が非常に少なく使い勝手が良いんです。この子一羽だけの召喚維持なら、自然回復と消費がほぼ同じくらいですね」

「へえ」

「鷹のような見た目で強そうですが、攻撃力はほぼありません。とにかく飛ぶ速度が早いので、主に手紙の伝達などに使われます」

「どれくらいの早さで飛ぶのですか?」

「時速百キロメートル以上は出ます。そして、術者が魔力でマーキングした場所や相手のところまで、たどり着く能力を持っているんです」

なるほど、便利な生き物だ。いや召喚獣か。

ルーシェンは鳥の足に結ばれた小さな筒を取り外し、中から手紙を取り出した。

「誰からですか?」

「……星詠からですね」

ルーシェンの表情が少し驚いたものになった。

「星詠?あの占い師の?」

「ええ」

ルーシェンは手紙を読み進め、眉をひそめた。

「榊さんについて話したいことがあるから、共に王都に来て欲しいとのことです」

「星詠が、わざわざ?」

「ええ。これは……珍しいですね」

ルーシェンは手紙を読み返した。

「星詠は、基本的に自分から人を呼ぶことはありません。占いを求める者が訪れるのを待つのが彼女のスタイルですから」

「それなのに、わざわざ呼び出すということは……」

「何か重要な用事があるのでしょう」

ルーシェンは少し考え込んでから、ふと気づいたように言った。

「そういえば、この伝達鷹は、私の魔力マーキングを辿ってきたことになりますが……」

ルーシェンは自分の体を調べ始めた。

「確かに、マーキングされていますね。いつの間に……」

「気づかなかったんですか?」

「ええ。本来、魔法使いなら違和感を覚えるはずなのですが……」

ルーシェンは悔しそうな顔をした。

「星詠め……いったいどうやって……これは研究する価値がありますね。魔法使いに気づかれずにマーキングする技術とは……」

ルーシェンの目が研究者のそれになった。

「ちょっと待ってください」

俺は慌てて言った。

「今はそれどころじゃないでしょう。星詠が呼んでるんですよね?」

「ああ、そうでしたね」

ルーシェンは我に返った。

「では、王都に行きましょう。出発しますよ」

「ええ...今から?明日の朝じゃなくて?」

「もちろんそうですよ」

ルーシェンはもうそのまま出かけそうだ。

「もう夕方前ですよ、じきに辺りも暗くなります。危険でしょう」

俺は周りを見回した。

「それに留守にする家の片付けや、結界の強化、出かけるための準備も済ませないといけないのでは?」

「ああ、確かに」

ルーシェンは手をポンと打って頷いた。

「って、そういうの、言われなくても気づいてくださいよ」

「え?言われないと分かりませんよ?」

ルーシェンは本当に不思議そうな顔をした。

俺は溜息をついた。

この人、本当にポンコツだな。

 

3. 出発の準備

 

その日の夕方から夜にかけて、俺たちは出発の準備を進めた。

「王都までは、約三十キロメートルです」

ルーシェンは地図を広げて説明した。

「もちろん、直線距離ではありませんし、途中に小さいですが山もあります。徒歩だと、一日以上かかるでしょう。私1人なら風の魔法で飛んですぐなんですが、今回はあなたもいますからね」

「そんなに遠いんですか」

「ええ。ですから、森を出て街道に入ったら、ちょうど中間地点にある街で一泊する予定です」

ルーシェンは地図上の街を指差した。

「ここ、ストークレンという街です」

泊まると言うが俺は1文無しだ。お金は大丈夫なのだろうか。

「一泊する余裕はあるんですか?」

「ええ、問題ありません。実は、私、お金持ちなんですよ」

「え、そうなんですか?」

「ええ。様々な研究成果を売ったり、魔法学校の臨時教師をしたりして、それなりに稼いでいますから」

ルーシェンは少し誇らしげに言った。

「では、明日の装備について説明しますね」

ルーシェンは大きな袋を取り出した。

いや、ただの袋というより、大きめな背負い袋だ。

「これは、マジックバッグです」

「マジックバッグ?」

もしかしてファンタジーの定番のやつか。

「ええ。はるか昔に高位の空間魔法使いと、付与魔法使いが共同で作った魔法道具と言われてます」

ルーシェンは誇らしげに袋を見せた。

「この中には、一部屋分くらいの物を入れることができます。袋の入口より大きなものや、生物は入れれませんけどね」

「すごい……」

「これ一つで、王都に豪邸が建てられるくらいの値段ですよ」

ルーシェンはさらりと言った。

本当に金持ちなんだな、この人。

「私の装備は、もちろんこのローブです」

ルーシェンは普段から着ている自分のローブを示した。

「このローブは、四元素すべてに耐性を持ち、防御力も鉄の鎧と同等です」

「はあ……」

「そして、榊さんの装備ですが……」

ルーシェンは申し訳なさそうに言った。

「すみません、武器の錬成は私の得意分野ではないんです」

「装飾は得意なんですけどね」

ルーシェンはそう言って、一本の剣を取り出した。

銅製の剣だが、形がいびつで、明らかに素人が作ったような代物だった。柄の装飾だけ鳥の羽を模したものでやたら豪華だ。

「これ……」

「すみません。鉄は、鉄鉱石や砂鉄がないと、錬成が難しいんです。銅なら研究所作成時の残りの鉱石があるので、作れるのですが、形を整えるのが...ただし、下手な鉄の剣より丈夫であるのは保証します」

「まあ、木刀よりはマシですね」

俺は苦笑しながら剣を受け取った。

重さは悪くないが、ややバランスが微妙だ。

「服は、鎧が無いので家にあった一番丈夫なものです」

ルーシェンが渡してきたのは、水色の丈夫そうな服だった。青いマントも付いている。

「旅人がよく着る服ですね。問題ないか試着してみてください」

俺は渡された服を着てみた。着心地は問題ないが...

銅の剣と旅人の服。

「まるで、国民的RPGの初期装備みたいだな……」

俺は思わず呟いた。

「RPG?それは何ですか?」

「いや、俺の世界のゲームの話です」

「ゲーム!詳しく教えてください!」

「今はそれどころじゃないでしょう!」

こうして、翌朝の出発に向けた準備が整った。

 

4. 森を抜けて

 

翌朝、俺たちは早くに出発した。

マジックバッグには必要な荷物が全て詰め込まれている。食料、水、着替え、そして様々な研究道具。

「では、行きましょう」

ルーシェンは杖を手に、森の中へと歩き出した。

俺もその後に続く。

森の中は相変わらず薄暗く、木々が生い茂っている。

だが、二ヶ月前とは違い、俺は恐怖を感じなかった。

今の俺なら、この森の魔物など恐れるに足りない。

「ケケケケッ!」

予想通り、すぐにゴブリンが襲ってきた。

だが、俺は落ち着いて銅の剣を振るった。

一瞬で、三体のゴブリンが倒れた。

「相変わらず、速いですね」

ルーシェンが感心したように言った。

「もう、あなたは剣士としても上澄みのレベルですよ」

「ありがとうございます」

俺は短く答えて、前進を続けた。

それから一時間ほど歩いた頃、今度は違う魔物が現れた。

「グルルルルッ!」

低い唸り声とともに、茂みから飛び出してきたのは、狼のような生物だった。

いや、普通の狼というより、ホラー映画に出てくる狼男のようだ。

二本足で立ち、鋭い爪と牙を持っている。

人間よりも大きく、明らかにゴブリンとは格が違う。

「コボルトですね」

ルーシェンが説明した。

「ゴブリンよりも遥かに強力な魔物です。素早く、狡猾で、ハウリングという音波攻撃も使います」

コボルトは俺を睨みつけ、ゆっくりと近づいてきた。

俺は剣を構えた。

コボルトが飛びかかってきた。

速い!

ゴブリンとは比べ物にならない速度だ。

俺は咄嗟に剣で防いだ。

剣と爪が激しくぶつかり、甲高い金属音が響いた。

連続して攻撃してくるコボルトの爪が、俺の剣と激しくぶつかり合う。

攻防が続き攻めきれないと思ったか、コボルトは一度後退し、再び飛びかかってきた。

今度はフェイントだ。

右から来ると見せかけて、左から爪を振るってくる。

だが、俺はそれを読んでいた。

闇の力を足に集中させ、横に飛ぶ。

そして、コボルトの側面に回り込み、剣を振るった。

コボルトの体が真っ二つになり、土塊になって崩れた。

「……土のゴーレム?」

俺は訓練でも見た、倒した後の姿を見て、息をついた。

「ええ。本物のコボルトではありません」

ルーシェンが説明した。

「このエルドウィンの深森には、本物の魔物はほとんどいません。古の魔法使いであるエルドウィンが作ったと言われるゴーレムが徘徊しているんです」

「じゃあ、もし最初に襲われたのがあのコボルトだったら……」

「あなたは死んでいたでしょうね」

ルーシェンはあっさりと言った。

俺は背筋が寒くなった。

確かに、もし以前の俺だったら、剣を構えた瞬間に足が竦んでいただろうし、このコボルトに瞬殺されていただろう。

それから、さらに二時間ほど森を進んだ。

何度かゴブリンやコボルトに襲われたが、どれも俺にとっては敵ではなかった。

やがて、森が開けた。

「ああ、やっと森を抜けました。やっぱり歩くと面倒ですね」

ルーシェンは安堵したように言った。

「あそこに、サクレイアの街が見えますよ」

ルーシェンが指差す方向を見ると、確かに遠くに街が見えた。

壁に囲まれた、中世ヨーロッパ風の街だ。

「あの街には、時々買い出しに行っていました。まあ1人でしたから風の魔法で空を飛んで行き来してましたが」

「そうなんですか」

「ええ。では、行きましょう」

俺たちは街に向かって歩き出した。

 

5. サクレイアの街

 

街までは特にトラブルもなく、三十分ほどで到着した。

街の入口には門があり、軽鎧と槍で武装した衛兵が立っている。

「止まれ。身分証を見せろ」

衛兵が言った。

「私はルーシェン、魔法使いです」

ルーシェンはそう言って、何かの札を見せた。

衛兵はそれを確認すると、表情を変えた。

「これは失礼しました、ルーシェン様。どうぞお通りください」

「ありがとうございます。彼は私の同行者です」

「承知しました」

衛兵は俺にも会釈をして、門を開けた。

「有名なんですね」

俺が言うと、ルーシェンは少し照れくさそうに笑った。

「この辺りでは、それなりに知られていますからね」

街の中に入ると、活気に満ちた光景が広がっていた。

石畳の道を人々が行き交い、両脇には様々な店が並んでいる。

武器屋、防具屋、雑貨屋、食料品店。

まるで、RPGの街そのものだ。

俺は興味津々で周りを見回した。

リアル中世の街!

これは、じっくり見て回りたい!

「榊さん、こちらですよ」

ルーシェンが先を急ぐ。

「え、ちょっと待ってください。せっかくだから、ちょっとだけでも街を見てみたいんですけど」

「いえ、ここはあくまで通過点です。時間がもったいないので、さっさと抜けましょう」

「そんな……」

俺は名残惜しそうに街を振り返りながら、ルーシェンに引っ張られるように街を抜けた。

 

6. 襲撃

 

サクレイアの街を抜け、俺たちは次の街に向かう街道を歩いていた。

街道の両脇には森が広がっており、木々の間から時折、野生動物の姿が見える。

「この先、しばらく森の中の街道が続きます」

ルーシェンが説明した。

「魔物は少ないはずですが、盗賊がいる事もありますし油断は禁物ですよ」

「分かりました」

俺は周囲を警戒しながら歩いた。

それから一時間ほど歩いた頃。

「……待ってください」

俺は足を止めた。

「どうしましたか?」

「何か、聞こえます」

俺は耳を澄ました。

確かに、前方から声が聞こえる。

……もう諦め……。黄金の剣も……た。後は……だけだ

男の声だ。

そして、その声には、何か冷たいものが含まれていた。

「まずい!」

俺は直感した。

「ルーシェンさん、急ぎましょう!」

「ええ...」

俺は全速力で走り出した。

闇の力を足に集中させ、一気に加速する。

木々の間を縫うように駆け抜け、声のする方へと向かった。

そして、開けた場所に出た瞬間、俺は目の前の光景に息を呑んだ。

三人の男が、一人の少年を取り囲んでいた。

いや、少年は既に地面に倒れており、血を流している。

そして、一人の剣士が、剣を振り上げて、少年にトドメを刺そうとしていた。

「悪いな。これも命令なんでな」

剣士がそう言いながら、剣を振り下ろそうとした。

「させるか!」

俺は反射的に動いていた。

銅の剣を振るい、剣士の剣を弾いた。

激しい金属音が響き、剣士の剣が弾かれた。

「なっ!?」

剣士は驚いて後ろに飛び退いた。

俺は少年の前に立ち、三人の男を睨みつけた。

「何をしている!子供を殺そうとしていたのか!」

俺は怒りを込めて叫んだ。

剣士は驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「邪魔するなら、容赦しないぜ」

剣士は剣を構えた。

その背後には、弓を持った弓使いと、ローブを着た魔法使いらしき男が控えている。

「ルーシェンさん!」

俺は後ろを振り返らず呼びかける。

ルーシェンは少し遅れて到着し、状況を把握していた。

「……面倒なことになりましたね」

ルーシェンは溜息をついた。

「榊さん、戦うんですか?」

「やるしかないでしょう」

俺は銅の剣を構えた。

「後悔するなよ?」

剣士が動いた。

速い!

ゴブリンやコボルトとは比べ物にならない速度だ。

視界の端が、鋭く閃いた。

咄嗟に剣を立てる。

金属が噛み合う甲高い音が耳を刺した。

重い。

腕が軋む。

次の瞬間、衝撃が脇腹をかすめた。

防いだはずの剣が、いつの間にか外されている。

「遅い」

剣士の声と同時に、背後から風を裂く音。

俺は地面を蹴り、転がるように間合いを外した。

強い……。このままではやられる。

俺は歯を食いしばり、踏み込んだ。

剣を振る。

だが、手応えがない。

空を斬った瞬間、手首に走る衝撃。

剣が弾かれ、指が痺れる。

視界が反転した。

足元を払われ、背中から地面に叩きつけられる。

息が詰まる。

剣が喉元に迫る。

皮膚が冷える感覚。

——間に合え。

俺は体を捻り、刃を紙一重で躱した。

「今のを避けるか。やるな」

剣士は笑いながら言った。

「だが、まだまだだな。お前は殺すには惜しい。降参しろ。これ以上やっても無駄だ」

剣士の技量は、明らかに俺を上回っていた。

ルーシェンから「剣士としても上澄み」と言われた俺だが、この剣士はさらにその上を行く。

俺は素早く起き上がるが、剣士は追撃するでもなくそれを見ている。

くそ、このままじゃ……。しかしここで諦めるのは子供を見捨てることだ。それだけはできない。

俺は構え直し、斬りかかる。

「諦めるの悪い奴だ。早死にするぜ」

火花が散った。

二本の剣が、真正面から噛み合う。

闇の力を腕に限界まで込め俺は押し返した。

初めて、剣士の足が半歩下がる。

「……ほう」

その声は、わずかに楽しげだった。

剣士はその力ずくの動きに逆らわず、後ろに跳びニヤリと笑う。

「へえ、やるじゃないか」

そうは言うが、さっきは俺の動きに合わせてカウンター取れたはずだ。ここまで技量に差があるとは...。

「お、おい、そこの魔法使い!」

突然、様子を見ていた相手方の魔法使いが声をかけてくる。

そちらに油断なく視線を向けると、ルーシェンを信じられないものを見た顔で指さす。

「お、お前、ルーシェンって言ったな!?」

「ええ、そうですが」

ルーシェンは平然と答えた。

「て、撤退しよう!い、今すぐだ!」

魔法使いが、半ば悲鳴のような声を上げた。

「は?何言ってんだよ」

剣士が眉をひそめる。

「い、いいから聞いて!あ、あいつ……本物のルーシェンだ!」

「本物?」

「お、王都の一角を“実験だ”って言って吹き飛ばした張本人だぞ!?

 し、しかも先代の王国騎士団長を決闘で半殺しにして引退させた……!」

魔法使いは早口になり、指先が震えている。

「じょ、冗談じゃない!あんなのに喧嘩売ったら、

 俺たちが“実験結果”にされるだけだって!」

俺は思わずルーシェンを見た。

当人は「そんなこともありましたね」と言いたげな顔で頷いている。

いや実験ってレベルじゃねえだろ...思わず心の中でツッコミを入れる。

「マジかよ……」

魔法使いの言葉に、剣士の顔色が変わった。

剣士は俺から跳んで離れ、仲間のもとへと後退した。

「悪いな。今日のところは引かせてもらう。次に会った時は、もっと強くなってることを期待してるぜ?」

剣士はそう言って、他の2人と共に森の中へと消えていった。

俺は呆然と立ち尽くした。

何が起こったんだ?え?ルーシェンってそんなやばいことしていたの?

「榊さん、大丈夫ですか?」

ルーシェンが近づいてきた。

「ええ、何とか……」

俺は息を整えた。

そして、地面に倒れている少年のもとへと駆け寄った。

「大丈夫か!」

少年は意識があり、俺を見上げた。

その瞬間、俺は気づいた。

「あれ、女の子?」

少年だと思っていたが、よく見るとショートカットの女の子だった。

体の凹凸もほとんどなく、遠目からは分からなかったが、確かに女の子だ。少年だと思っていた存在が、血にまみれた少女だと分かった瞬間、胸の奥がひどく冷えた。

「この子は……」

ルーシェンが少し驚いた声を上げた。

「まさか、ファルマ?ファルマ・アストンですか?」

「ルー……シェンさん……?」

女の子は弱々しく答えた。

「なぜ、こんなところに?君は確か、兄とデンヴァールに住んでいたはずでは?」

ルーシェンは困惑した表情をしていた。

俺も困惑していた。

知り合いなのか?

そして、この女の子は、なぜ襲われていたんだ?

俺は、自分のせいでもあるが、厄介事に巻き込まれたことを実感した。

だが、後悔はしていなかった。

女子供を見殺しにすることなど、できるはずがない。

「まあとにかく、治療しましょう」

ルーシェンがマジックバッグを漁りながら治療の準備を始めた。

俺は女の子の手を握り、声をかけた。

「大丈夫だ。もう安全だ」

女の子は小さく頷いた。

こうして、俺たちの旅は、予想外の展開を迎えたのだった。

 




召喚魔法の説明

召喚魔法は、使用者が持つ最大魔力(いわば最大MP)を代償として、召喚獣を自らの身体、あるいは魔力回路に寄生させる魔法であり、本来は使役魔法というべきものである(通常の魔物を使役する魔物使いがいるため差別化として名付けられた)。そのため、召喚魔法使いにとって「どの召喚獣を寄生させるか」は、最も重要な選択となる。
また最大魔力は鍛えれば、伸びるため、他の魔法使いより最大魔力を伸ばす鍛錬を重点的にする傾向がある。そのため、他の魔法使いには必要な魔力制御などの力量は低いことが多い。
召喚獣が倒された場合、その召喚獣は再生のための待機状態へと移行する。その間、召喚魔法使いからは通常時よりも多くの最大魔力――おおよそ通常の二倍――が失われ続ける。最大魔力がマイナスになることは、すなわち精神の死を意味する。そのため、最大魔力を限界まで使って召喚獣を運用している場合、召喚獣の敗北が致命的な結果を招くこともある。
低位の召喚獣は代償となる最大魔力も少なく、その卵も一般市民が多少の無理をすれば購入できる価格帯にある。汎用性にも優れていることから、1〜2体程度保持してる市民も多い。それらを労働に出し、副業として報酬を得る事で労働力の確保と、経済への貢献への役割が最も大きい魔法と言える。
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