ホラーかと思ったら異世界召喚だった   作:絵成数基

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鬱展開注意です。


ルーシェンの記憶

第45話:ルーシェンの記憶

 

1. 暖かい日々

 

ルーシェンとその家族の生活風景が、流れる。

ごく普通の、一般家庭。

ルーシェンも、普通の子供と変わらない。

おそらく八歳程の姉に、よく、くっついていた。

「ルーシェン、そんなにくっついたら歩けないよ」

姉が、困ったように笑う。

「いいの。お姉ちゃんと一緒がいいの」

今では考えられない、甘えん坊なルーシェンの姿。

(これが……ルーシェンか……)

思わず、微笑みが出る。

雪の降る寒冷な街

生活は厳しそうだったが――

暖かい家庭だった。

ルーシェンの父は、厳しくとも優しい。

母は、ルーシェン姉弟を包み込む包容力があった。

(気候から……ここはカルガリー神聖国かもしれない)

俺は、そう思う。

 

2. 崩れゆく日常

 

しかし――

そんな生活は、姉の体から黒いモヤが出たことで崩れる。

「きゃっ!?」

姉が、驚きの声を上げる。

その手から、黒いモヤが溢れ出ていた。

「これ……何……?」

幸い、家の中での発現だった。

他の人に、見られることはなかった。

だが――

(闇の力が出た人間の通報義務が、全ての国にある)

(特に、カルガリー神聖国なら……その規定も厳しいはずだ)

両親が、顔を見合わせる。

そして――

「……誰にも、言わない」

父が、決断する。

「隠すの!?」

母が、驚く。

「ああ。俺たちの娘だ。見捨てられるか」

(見つかれば、家族全てが罪に問われる)

(それを、覚悟して……)

姉の闇の力を、何とか制御できないか。

四苦八苦する、両親。

ただならぬことはわかるからか――

わがままも言わない、ルーシェン。

姉も頑張るが――

そもそも、どうすればいいのかも分からない。

父親も、働かないと生きていけない。

働きに出て、家にいないことも多い。

一切外出しなくなった、姉。

それに、姉から離れたくないがために付き合う、ルーシェン。

母親は、いざという時逃げる準備も始める。

だが――

いきなり家の外に出なくなった姉やルーシェンを――

近所の人が、怪しみ始める。

「最近、お姉ちゃん見ないけど……大丈夫?」

「体調が悪くて……」

最初は、体調不良で通していた。

だが、それが長引くにつれ――

「何故、神官に見せないの?」

そう言われるようになった。

 

3. 逃亡

 

そして、ある日――

わずかな窓の隙間から、姉の姿が近所の人に見られる。

その手から、黒いモヤが溢れているのを。

「闇の力……!?」

大騒ぎになる、街。

「逃げるわよ!」

ルーシェンの母親は、姉とルーシェンを連れて街の外まで逃げ出す。

だが――

幼い姉弟を連れて、そんなに遠くまで逃げることはできず――

光の秩序神に仕える聖騎士に、郊外に出たところで追いつかれる。

聖騎士の表情には、怒りも憎しみもなかった。

ただ、当然の仕事をこなす者の顔だった。

「闇の力を持つ者とその関係者。 光の秩序神の名において、裁きを受けよ!」

聖騎士が、剣を振り上げる。

「やめて! 子供たちだけは!」

母親が、必死に訴える。

だが――

聖騎士の剣が、母親を斬る。

「母さん!!」

姉が、叫ぶ。

そして――

聖騎士の槍が、姉の胸を貫く。

「お姉ちゃん……!」

ルーシェンが、叫ぶ。

二人の血を浴び、尻もちをつく。

あまりの光景に、喉の奥まで叫びがせり上がってくる。

だが――これは、記憶だ。

俺の声は、どこにも届かない。

「次は、お前だ」

聖騎士の刃が、ルーシェンに届こうとした、その時

「うわあああああああ!!」

ルーシェンの魔力が、暴走した。

暴風が吹き荒れる。

聖騎士たちが、吹き飛ばされる。

同時に、ルーシェンも街の近くの森まで吹き飛び――

大怪我を負う。

「母さん……お姉ちゃん……」

フラフラになりながら、母親や姉の元に戻ろうとするルーシェン。

だが、方向もわからず――

歩き、ついには雪の中に倒れてしまう。

(ルーシェン……!)

(このままじゃ、死ぬ……!)

だが――

「くくく、この魔力は興味深い」

通りかかった一人の男が、ルーシェンを拾い――

どこかに連れていく。

 

4. 地獄の始まり

 

ルーシェンが気がつくと――

怪我の治療はされており、どこかの洞窟の中のような――

それでいて、人が住むように様々な生活用品がある場所に寝かされていた。

足には、枷がつけられており――

自由に動けない。

「目が覚めたか」

一人の、清潔な服装をしたメガネの男――

その目だけが、妙に感情を欠いていた。

「ここは、街から遠く離れた洞窟だ」

男が、メガネを押し上げる。

「私は、旅の研究者。お前の魔力の暴走を、たまたま見ていた」

「面白い実験材料として、お前を連れてきた」

「実験……?」

ルーシェンの声は、震えている。

「母さん……! お姉ちゃん……!」

泣き叫ぶ、ルーシェン。

だが――

男がとった行動は――

暴力だった。

バキィッ!

「うぐっ!?」

「うるさい。泣き止まない限り、殴り続けるぞ」

男が、冷酷に言う。

(やめろ……! 何をしてる……!)

俺は、怒りが込み上げる。

だが――

これは、記憶。

俺には、何もできない。

ルーシェンは――

泣き止むしかなかった。

 

5. 実験という名の虐待

 

そして、次の日から――

いつ死んでもおかしくないレベルの実験が、開始される。

「今日は、魔力の限界を調べる」

男が、ルーシェンに魔力を使わせ続ける。

ルーシェンが倒れても、魔力回復薬を飲ませて――

また使わせる。

「やめて……お願い……」

泣いて訴える、ルーシェン。

だが――

男は、全く止める様子がない。

むしろ、暴力でルーシェンを黙らせる。

(くそっ……! やめろ……!)

(これは、実験じゃない……! 虐待だ……!)

俺は、嫌悪感が込み上げる。

次の日は――

「今日は、痛覚の限界を調べる」

男が、ルーシェンの体に針を刺す。

「いたっ……! やめて……!」

「静かにしろ」

バキィッ!

暴力。

(やめろ……! 子供に何をしてる……!)

次の日は――

「今日は、魔力と感情の関係を調べる」

男が、ルーシェンに恐怖を与え続ける。

魔物の絵を見せる。

暗闇に閉じ込める。

「怖い……! やめて……!」

「データが取れるまで、続ける」

(畜生……! 畜生……!)

俺は、拳を握りしめる。

だが――

何もできない。

そんな虐待ですら生ぬるい、実験の数々。

それを受けることで――

徐々に、ルーシェンは感情を失っていった。

泣かなくなった。

訴えなくなった。

ただ――

無表情で、実験を受け続ける。

(ルーシェン……)

俺は――

涙が出そうになる。

(こんなことが……許されるのか……!)

だが――

記憶は、まだ続く。




カルガリー神聖国
ムステル王国の北に位置する、光の秩序神を主神とし、その教えを政治の中心に据えた宗教国家。政治は教皇と、配下の神々を司る神官長たちの合議によって行われる。
規律は厳しく、特に悪魔や邪神に関わる存在に対する姿勢は周辺国の中でも最も苛烈である。
北の過酷な大地に位置するため、民の多くは貧しい暮らしを強いられているが、信仰の代価として神官による治療を最優先で受けることができ、病や怪我で命を落とす者は少ない。
他国の神殿に対する影響力も強く、領土的野心は持たないものの、どの国も神聖国の意向を完全に無視することはできないだけの影響力を有している。
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