クダ村の陥落から2日後…
異世界の空を切り裂く一機のヘリ。
藤原を含めた第2小隊の12名とクダ村で救出した13名の民間人を乗せたチヌークがラーフ社の異世界戦線本部基地の一角にゆっくりと降り立つ。
前哨基地とは違い、コンクリートとアスファルトでしっかりと地盤が固められ、まだ建設中の建物も多くあるが、丈夫な鉄筋コンクリート製の建物や倉庫群が立つその姿は異世界で戦う彼ら兵士にとって前線から最も遠く戦いから離れて安心できる場所である。
藤原は機体が地面に近づいて行くのを機内から見つめていた。着地の瞬間、機体が揺れ同時に浮遊感が無くなり貨物室のハッチが開かれる。
「よし…到着だ!準備しろ」
開かれたハッチから挿し込む眩い日差しに目を細めつつ、藤原は立ち上がり隊員達に言う。
「忘れ物するなよ?」
リックが言う。第2小隊の面々は安堵の声と表情でヘリを降りていく。
重いリュックを背負い歩いて行く藤原は傍らに停められたバスに目を向ける。
「民間人の皆様には、これからあの車両に乗っていただき診察室で精密検査を受けていただきます!」
地上の誘導員が共に乗ってきた民間人を誘導する。この2日間、どれだけ丁重に接しても彼女達の顔から不安の表情は消えなかった。
──そして今もそうである。
藤原は気を取り直して再び歩き始めた。しかし、彼の視界の端に一人の男が写った。
男はこちらに近づいてくる。
「4か月の任期ご苦労だったな」
男が藤原に話しかける。しかし藤原はまるでその男が存在しないかのように無視する。
「おいおい…無視するなよ」
男が両手を広げてアピールするように言う。
「…なんで帰隊早々お前に会わないと行けないんだよ。サントス」
藤原は呆れたような表情でその男 ──『ウィルズ・サントス少佐』を睨む。
「お出迎えしてあげてるのになんだ?その言い草は…感謝してほしいね」
「誰も頼んでねぇよ」
藤原はため息をつく。
「全くつれないねぇ…それにしても、民間人の移送先が見つかるまで本部で面倒見ろって…お前が大佐には発破かけたのか?」
サントスはバスに誘導される民間人を見て尋ねる。
「それがどれくらい軍の中で問題視されてるかによって責任の所在が変わる」
「大問題だとしたら?」
「全部俺が指示した事だ」
藤原の言葉にサントスはニヤリと笑う。
「なるほどね…まぁ大した問題じゃない…無問題ではないけどな。…どうせお前んとこの甘ちゃんが発案者だろ?」
「甘ちゃん?」
藤原は眉をピクリとさせる。
「おっと失礼…フィアンセだったか」
「お前マジでぶっ飛ばすぞ?」
「はは、悪かった。冗談だよ…誰が発案者でも、ハリー大佐は頭がキレる。もっともらしい理由で上を黙らせたからな」
サントスは笑う。
「で?結局本当の目的はなんだ?」
藤原が尋ねる。
「だから出迎えに来たって言ったろ?…そうだ、あと装具管理部のおやっさんから伝言を預かってる」
「伝言?」
「ブツが届いたってさ」
藤原は思い出した表情で彼を見る。
「ああ…」
「ま、それだけだ…ついでに今夜1杯どうだ?」
「お前と飲むぐらいなら死んだほうがましだ」
藤原は蔑むような目を向ける。
「全く…泣けるね…じゃ、失礼するよ」
サントスはそう言うと背を向けて歩き出した。
「隊長?あれ、サントス少佐ですよね?」
篠原が問い掛ける。
「ああ…」
「あの人…仲悪いんですか?」
「いや?別に?」
「じゃあ嫌いとか?」
「いや…まぁいけ好かない奴ではあるな…で、どうした?」
藤原は問う。
「いや…おやっさんからの伝言のブツって?」
「お前、そう言う事はよく聞いてるな…気になるなら一緒に来るか?」
藤原の誘いに篠原の顔がより明るくなる。
「いいですか?気になります!」
「なら装具を片付けて11時に管理部に集合だ」
「りょーかい!」
2人は兵舎に向けて再び歩き出した。
──────────────────ー
時刻は11時前。
藤原は待ち合わせ場所の管理部前で壁に背をもたれながらスマホをみていた。
本部基地は異世界と現世を繋ぐ境が繋がっている事もあり、通信設備が管理されている。その為電話はもちろんインターネット環境も確保出来ている。
「4か月も外界から離れてれば…色々変わるわな…」
藤原はSNS上のあらゆる情報を一通り見る。
「おいおい…日本はまた総理が代わったのか…」
国際情勢、昨今のトレンドやニュースなど移り変わりが激しい現代において4か月前の事など随分前の事のように感じる。
「お待たせしました〜」
篠原の緊張感のない声が聞こえ藤原は時計を見る。
時刻は11時丁度。
緊張感のない声と裏腹に、指定時間丁度に到着するその様子からしっかりと軍人らしさを持っていた。
「よし、行くぞ」
藤原はそう言うと管理部の扉を開く。
装具管理部という名に相応しく、室内は軍が管理する武器や装備品が金属製の棚にビッシリと整頓されていた。
2人はそこを管理する受付に向かう。
「おやっさん。サントスから伝言聞いたよ」
藤原は背を向けてペン片手にバインダーとにらめっこしていた中年の男に声をかける。
「おお!ケイ、来たか…五体無事みたいだな」
その男 ──『ウィリアム・J・ケンド曹長』は手を差し出す。藤原はサッと握手を交わす。
「お陰様で…ブツが届いたって?」
「おう!…これだ」
ウィリアムは棚から小包を取り出すと受付台に乗せる。藤原はその小包をまるでプレゼントを貰った子供のようにサッと開ける。
するとデカデカと『Kimber』と書かれたグレーの箱が現れた。
「キンバー?ガバでも買ったんですか?」
篠原は問う。
「ちょっと違うな」
藤原は箱を空け、中に入っていた布製のガンケースから銃を取り出す。
「ああ…ハイキャパ…」
「そ!キンバー 2k11…いいねぇ」
藤原は自身が購入した『Kimber 2K11(OR)』をまるで舐めるように見渡す。
スライドを数回引き空のマガジンを刺したり抜いたり…トリガーフィーリングを味わうようにトリガーを引いたりと、銃を仕事道具として扱うプロらしくその銃を品評する。
「うん…噂通り気持ちいいトリガーフィーリングとトリガープルだ…」
一通り操作した藤原は今度はサルーポジションから素早く両手を突き出してサイティングする。
これを何度か繰り返し、満足気な表情で銃を見る。
「うん…いい感じ」
「キンバー…高かったでしょ?」
篠原が問い掛ける。
「まぁ色々込みで3000ドルくらいかな…スタッカートとかウィルソン、アトラスらへんを買うよか全然安いけどね」
「ふぅ〜ん…」
「ほら持ってみるか?」
「なら遠慮なく…」
篠原は受け取った銃を彼と同じように一通り操作して構える。
「フレームも金属製なだけあって重いですねぇ…」
「約50オンス…1.4キロ超えだからな…昨今のポリマーオートと比べたらかなり重いな」
「空撃ち失礼します…流石はシングルアクション…いいトリガーフィーリングですね。ホント競技銃みたい…」
「待った甲斐があったな?…で?サイトはどうすんだ?」
ウィリアムが尋ねる。
「なんかいいのある?」
「在庫があるやつなら何でも買っていいぞ?」
藤原は少し考える。
「なら、Holosunは?」
「507compならあったはず…ほら」
ウィリアムはドットサイトを取り出す。
「ならそれと、X300を」
「はいよ」
ウィリアムは別の棚からフラッシュライトを取り出し決済機、書類と共に藤原に渡す。藤原はカード支払いを済ませ書類にサインしていく。
そんな彼を尻目にウィリアムは新品の9mm弾を台に置いた。
「この後行くんだろ?サービスしとくよ」
「お!気が利くね〜おやっさん…じゃ、ありがとな!」
「おう…俺も買おうか考えてたんだ。感想待ってるぜ」
ウィリアムとの会話を終えて篠原と共に管理部を後にする。
「ならこのまま行きますか?」
「ああ…行くか」
そのまま2人は射撃場に向かった。