異世界戦争.   作:ロングキャスター

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クダ村攻防戦

 オイローパ中央帝国 首都

 ──ゲルマニア──

 

 鉄筋コンクリート製の大小様々な建物が無数に整然と並ぶその近代的な街並みは帝国が掲げる『中央ヨーロッパ主義』の象徴であった。

 そんな首都ゲルマニアを南北に切り裂くような大通りを走る1台の黒い自動車。後部座席には複数の資料を熟読するマイヤーら姿があった。

 彼は車窓を流れる活気溢れる国民の姿やその威厳を放つ近代的で美しい街並みには目もくれず眼前の資料に集中する。

 

 その集中力は凄まじく車が目的地に着いたことに気付かないほどだ。

 

「マイヤー大佐。到着致しましたよ」

 

 運転手の呼び掛けにハッとして辺りを見渡す。

 

「あ、ああ…そうか…」

 

 マイヤーはそそくさと資料をまとめ制帽を被る。

 

 車が神殿のような外観をした鉄筋コンクリート製の建物の玄関に停車すると守衛が後部座席のドアを開ける。

 

「お待ちしておりました。ヴェルヘルム・マイヤー大佐」

 

「うむ…」

 

 マイヤーは車から降りると軍服の襟を正す。

 乗ってきた車が離れていくのを背中で感じつつ彼は眼前の建物を見上げた。

 

 なぜ彼がこの建物に来たのか。

 それは数日前に遡る…

 

 

 

 敵機を追いかけ広場で迎撃する為に部下を引き連れて走るマイヤー。

 

「敵が空挺降下してくるぞ!迎え撃て!」

 

 マイヤーは走りながら銃の安全装着を確認する。

 

「空挺降下…降下猟兵でありますか?」

 

「そうだ!敵機に武装した兵が乗っているのを見た…間違いないだろう」

 

「左様でございますか…ところで大佐殿!戦闘は我々にお任せください!大佐殿は後方にて指示を…」

 

「構わん!この際一人でも多く兵力が必要だ…それに現場を知らずして現場の指揮が務まるか!」

 

 マイヤーは随伴する兵の言葉に一喝し、彼らは広場に到着した。

 その眼前に広がる光景にマイヤーは絶句する。

 

「なんと…!滑走路もなしに着陸しているだと…!」

 

 兵員を降ろし終えたチヌークがゆっくりと上昇を開始して離陸する。

 

「まさか垂直に離着陸が出来るとは…!…応戦しろ!」

 

 マイヤーはハッと我に返り、降りてきた藤原達敵兵を迎え撃つ。

 また違う場所では敵機が空中で静止して兵員を降下させていた。

 

「空中で静止まで…!敵の航空機は化け物か…!くっ!」

 

 近くに着弾した敵の弾が再び彼を現実に引き戻す。

 マイヤーはモンドラゴンを構えて敵を撃つ。

 

「機関銃手!建物の2階に上がって敵を撃ち下ろせ!」

 

 マイヤーの指示を受けて機関銃手と装填手の2名が駆け出す。

 一心不乱に敵に弾丸を撃ち込むオイローパ兵達。

 

 マイヤーは弾切れしたモンドラゴンの薬室を覗き込みポケットからクリップで束ねられた新しい弾丸を銃に差し込んで再装填する。

 

(モンドラゴンの装弾数は10発…しかし敵の銃は弾切れの様子が殆ど無くその上再装填も素早い…ということはやはり敵は2〜30発の着脱式箱型弾倉の銃を使っている…まさか主力はサブマシンガンなのか?)

 

 両者には銃器一つを取っても大きい技術格差がある。彼はこの格差を埋める最適解を熟考する。

 すると突然彼らに銃弾の雨が振り注ぐ。

 

「くっ!機関銃か!」

 

「大佐殿!ご無事でありますか!?」

 

「私に構わず身を低くしろ!」

 

 マイヤーの安否を心配する部下にそう声をかける。

 やがて機関銃の標的が2階の機関銃手に向けられる。

 

「機銃手が気づかれたか…!ええい!」

 

 マイヤーが銃を構えたその時だった。

 眼前数m先に金属製の球体が転がって来た。

 

「っ!手榴弾!伏せろ!」

 

 マイヤーが叫び地面に伏せると藤原が投げた手榴弾が炸裂した。

 激しい耳鳴りの中マイヤーは周囲を見渡し再び銃を構えようと立ち上がる。

 しかし、間髪入れずに断続的な爆発が大地を揺らす。

 

「なんだ!爆撃…いや擲弾か!このままでは完全に向こうのペースに呑まれる…!」

 

 マイヤーは振り向く。

 

「よく聞け!これより第二防衛ラインまで後退する!そこで体勢を立て直す!」

 

「「Jawohl(了解)!!」」

 

 兵士達のハキハキとした返答が返ってくる。マイヤーの指示を受けた兵士達はクダ村内に設けられた第二防衛ラインに速やかに移動していく。それらを掻き分けるかのように一人の将校がマイヤーの元へ駆けてくる。

 

「大佐!ご無事のようで!」

 

「ウーデット大尉!君も無事のようで何よりだ!」

 

 2人は握手を交わす。

 

「状況はどうなっている?空軍の支援は?」

 

「それが、空軍基地との連絡が取れません…本部によれば本部からの呼びかけにも返答がないと」

 

「なんと…!空軍の支援を受けられんとは…!」

 

「本部からの増援を要請致しましたが…」

 

「ここまで数時間はかかるぞ!」

 

「北方2キロの戦車部隊には出撃を指示しました。戦車隊と連携してなんとか増援到着まで持ち堪えませんと」

 

 マイヤーは言葉が出なかった。

 この戦術的不利な状況下で増援到着までの数時間を持ち堪えることは現実的に不可能な事は目に見えていた。

 

「ぐあっ!」

 

 突如マイヤーの左手側の建物裏から叫び声が聞こえた。

 マイヤーは咄嗟に銃を構えた。

 

「大尉、ここは一旦任せたぞ」

 

 マイヤーは防衛ラインの指揮を託し、3名の部下を連れて建物裏にゆっくりと近づく。

 緊張で銃を握る手がヌルヌルと滑る。部下の一人が建物の角を覗く。

 覗いた部下が敵兵が居ないことを確認しマイヤー達は角を曲がった。だがそれは罠だった。

 あえて姿を隠していた藤原が対する建物の角から上半身を乗り出して正面の2人の部下に発砲、2人は倒れ込む。

 

「くっ!」

 

 マイヤーは構えたモンドラゴンで藤原を撃つがしかし、彼は建物の裏に身を隠して弾を避けた。

 

「詰めるぞ!」

 

 マイヤー達は一気に距離を詰めていく。

 角越しの見えない睨み合い…

 

 マイヤーはツバを飲む。

 しかしこの状況においては、専門的な訓練を積んでいる藤原達の方が有利だった。

 藤原とイムレイの2人は『カッティングパイ』と呼ばれる戦法でジワジワと距離を詰める。

 藤原は息を整えるとCクランプでM4をガッシリと構え、角を飛び出す。

 同時にフラッシュライトのスイッチを入れてマイヤーと部下の二人を眩い光で照らす。

 

 マイヤーは光に目を細め後退りしながら一心不乱に発光源に乱射する。弾を受けて崩れ落ちる部下を視界の片隅にとらえつつ一目散に後退し命からがらもう一度建物の裏手に身を隠せたマイヤーは空になった弾倉に弾を込める。

 

 バクバクとなる心臓を押し殺し、角から身を乗り出して銃を構える。

 しかし再び彼の顔を眩い光が照らす。咄嗟に身を引いたマイヤーは空を見上げた。

 

(日が昇って…!まさか!)

 

 マイヤーは急いでウーデットの元へと駆け出した。

 日が昇り赤々とした明かりがオイローパ兵達を照らす…

 

(やはり!これでは逆光で敵位置なぞ確認出来んぞ…!)

 

 オイローパ兵は東を向いて交戦している。

 朝日が昇れば彼らは太陽を直視する形となるが、その状態で敵味方を正確に判別する事など困難だ。

 

「ウーデット大尉!」

 

「大佐!ご無事でしたか」

 

「大尉…これ以上は危険だ…撤退しよう」

 

 マイヤーの提案にウーデットは目を丸くする。

 

「なんと?!」

 

「このような状況では交戦は不可能だ!ここを放棄する」

 

「もう増援を呼んでおります!日差しも昇ればじきに落ち着くはずです。ここは死守すべきかと思われますが!」

 

「その間に戦力の半数以上を失っては元も子もない!」

 

 両者の言い争いがヒートアップする。

 

「ですが、それではまるで敗走ではありませんか」

 

「違う!これは戦略的撤退である!帝国勝利の為、今は戦力が惜しいのだ…!分かってくれ」

 

「彼らは私の部下です…そしてここの指揮は私に一任されております。ですから…」

 

「今ここにおける最上位階級者は私だ。私の指示に従ってもらうぞ」

 

 ウーデットはマイヤーの目を睨みつける。しばらくの沈黙の後ウーデットが口を開く。

 

「いいでしょう…全軍!撤退だ!」

 

 ウーデットの怒号が響き、兵士達がゆっくり後退し始める。 マイヤーは少しの安堵を 覚え深く息を吐いた。

 

 

 ──────────────────────ー

 

(敵の動きが変わった…?撤退する気か?)

 

 藤原は防衛線をどんどん下げていく敵の戦法にそう心中で呟いた。

 朝日が昇り、明るく照らせれるクダ村の奥深くへと侵攻を続ける藤原達。

 

《おっと、どうやら撤収を始めたようだ…車両に乗り込み始めたぞ》

 

 アパッチからの無線報告が届く。

 

《ちょい待ち!戦車を出してきたぞ?ようやく戦車のお出ましか!》

 

 続けて報告が届く。

 

「アパッチ01、今俺達が持ってる対戦車兵器はあんたしか居ない。戦車は任せたぞ」

 

 藤原はアパッチに告げる。

 

《あいよ…ついでにビビらせてやるか》

 

 少し離れた上空から火力支援していたアパッチが高度を下げてクダ村の敵兵上空を高速で通過する。

 敵の銃声に紛れて、広場に繋がる一本道を地響きを轟かせながら勇ましくゆっくりと前進する『Ⅲ号戦車 H型』3両。

 

「マジで来やがった…!」

 

 藤原は物陰からその戦車の登場にそう呟いた。

 敵戦車は容赦なく彼らに向けて主砲の5cm砲の榴弾を撃ち込む。

 着弾と同時に土砂が宙を舞い雨のように振り注ぐ。

 

「クソ…!」

 

《敵戦車3両…照準OK!Fire!》

 

 毒づく藤原の元にアパッチからの無線が届きそのすぐ後、アパッチの翼下に下げられたヘルファイアが3発発射され、3両のⅢ号戦車の天板に吸い込まれるように着弾した。

 全ての戦車が炎上し、うち1両のⅢ号が弾薬庫に引火してけたたましい爆発と共に砲塔が宙を舞った。

 

「よし!」

 

 藤原はガッツポーズを取った。

 勢いに乗った藤原達はより内部に侵入していく。

 次第に銃声が落ち着き始め、敵の数が見に見えて減っているのが分かった。

 

 道中合流したミゲルと共に藤原とイムレイがゆっくりと進んでいく。突如物陰から敵兵が斧を振りかぶり藤原に襲いかかる。

 

「くっ!」

 

 藤原は咄嗟にM4を掲げて振り下ろされた斧を受け止める。2人はそのまま地面に倒れ込む。

 

「ケイ!」

 

 ミゲルが敵兵に銃を向けるが、彼とイムレイにも敵兵が飛び掛かる。

 

「グッ…!」

 

 地面に倒れ込み鬼の形相で斧を押し付ける敵兵を全力で押し返す藤原。両手が塞がり身動き取れない状況で藤原は敵の腹に膝蹴りを入れる。

 一瞬力が緩んだのを見逃さず、全力で敵を横に押し飛ばし藤原は体勢を立て直してしゃがむと腰に下げた『ガバメント(コルト Mk.Ⅳ Series 80)』を抜いてよろける敵兵に撃ち込む。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 藤原は立ち上がり同じように苦戦するミゲルを助けるためにM4を撃つ。しかし、銃は一発発砲しただけですぐに沈黙してしまった。藤原は銃を傾けて薬室とマガジンに目を向ける。

 

「クソ…!」

 

 先ほど斧を受け止めた衝撃でマガジンが真っ二つに割れたことで弾が全てなくなっていたのだ。仕方なく彼は再びガバメントを取ると敵兵に撃ち込んだ。

 

「大丈夫か?」

 

「なんとかな。イムレイは…大丈夫そうだな」

 

 ミゲルはイムレイの方を振り向くが、彼は自力で敵を倒していた。

 

「さ、行くぞ」

 

《こちらアパッチ01、聞こえるか》

 

 藤原が歩み出そうとした直後、アパッチからの呼び掛けが届いた。

 

《どうも敵さんは建物に火をつけたようだぞ?》

 

「なんでそんな事…」

 

 藤原は眉をひそめる。

 

《意図は分からんが…一軒だけ火をつけて行きやがった》

 

「敵の状況は?」

 

《もう現状、空から見える敵の散兵は確認できない…》

 

 アパッチが頭上を駆け抜けると同時に翼下のロケット弾を斉射して脱出する最後のトラックを吹き飛ばす。

 

《最後のトラックを攻撃した…3台ほど逃してしまったが…》

 

「上出来だ…感謝する。…よし、行くぞ」

 

 藤原はヘリに謝意を伝えた後ミゲル達を向いて再び前進を始めた。

 

 

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