異世界戦争.   作:ロングキャスター

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技術の希望

 時刻は9:40

 

 日も十分に昇り涼しい風が時折吹き付ける中、藤原は残骸と化した建物の前に立っていた。

 

 その藤原の背後に1台のハンヴィーが停車する。

 

「ご苦労だったな…少尉」

 

「どうも…大佐」

 

 藤原は降りてきたハリーに言う。

 

「ここは?」

 

 ハリーは残骸を見下ろして尋ねる。

 藤原はその問いに手に持っていた燃え残った紙を手渡す

 

「残留物から、恐らく敵の司令室だったのかと」

 

「ふむ…敵機に合わせて資料の焼却を狙ったか…」

 

 ハリーは渡された紙切れを手に取る。

 

「残念ながら、俺たちは消防士ではないので…消火のためにアパッチのロケット弾で家を吹き飛ばすしか方法がありませんでした…」

 

「仕方ない事だ…それに敵も馬鹿ではない。残ってた残留物も大した物は無かったろう…ここは追々調べるとしよう…」

 

 ハリーと藤原はハンヴィーに乗り込み広場に向けて走り出した。

 彼らか降下した広場にはチヌークが鎮座し、その前には十数名が地面に座っていた。ハンヴィーが広場に停車するハリーと藤原は降車してチヌークの方へと歩き出す。 

 

「民間人の数は?」

 

「13名です…全員女性です」

 

「女性?全員?」

 

 歩きながら、藤原の言葉に眉をひそめるハリー。

 

「男も子供も…見当たりません」

 

「ふむ…度しがたいな…彼女等の健康状態は?」

 

 2人はチヌーク前に座る民間人の前に立ち止まる。

 

「ベア、彼女達の健康状態は?」

 

 藤原は彼女等を診察していたベアに問い掛ける。

 

「俺は衛生兵で、医者じゃない」

 

「でも元パラレスキューだろ?」

 

「良くはない。半分は栄誉失調だ…ろくに飯を貰えなかったんだろう…後はご想像の通り」

 

「だそうです」

 

 ベアからの報告をそのままハリーに投げかける

 

「ふむ…」

 

「全く!許せませんよ!アイツ等!」

 

 腹を立てた様子で篠原が二人のもとへ寄ってくる。

 

「まぁお前は特にそうだろうな…」

 

「全員から聞いた話によると、この村の男手は殆ど殺されたか何処かに連れて行かれたかのどちからだそうで…」

 

「敵の上等手段だな他の村でも似たような事例はある」

 

 ハリーが言う。

 

「どうします?」

 

 篠原が問い掛ける。

 

「とりあえず、本部に連絡して彼女達を受け入れ可能な街を探してもらっている…それが見つかるまではしばらくここに居てもらうしか無いだろうな」

 

「せめて捕まった旦那さんやお子さんを助けに…」

 

「気持ちは分かるが、それは出来ないな」

 

 藤原が言う。

 

「なんでですか?!」

 

「救出作戦を取るにしても、場所も分からないし敵の規模も分からない。リスクが大きすぎる」

 

「でも…」

 

「いいか?俺たちはアメコミに出てくるような正義の味方じゃない…でも気持ちはよく分かる…でも今現状俺達が出来るのは彼女達を救う事だけだ」

 

 篠原は落胆し黙り込んだ。

 

「それはそうと、君は何を持ってるんだ?」

 

 ハリーは篠原が左肩に担いでいる銃を見て問い掛ける。

 

「え?ああ…これですか?これ、マニア垂延ものですよ〜」

 

 篠原が2人にライフルを見せる。

 

「なんだそりゃ?レバーアクションライフルか」

 

「そう!ウィンチェスターM1895ですよ」

 

 藤原の問い掛けに篠原が意気揚々と銃を構える。

 

「なんでウエスタンの銃がここにあるんだ?」

 

 ハリーが問う

 

「これ見てください」

 

 篠原はライフルのレバーを操作して中に入っていた弾薬を掴んで見せつける。

 

「ん?」

 

「これ、7.62×54R仕様なんですよ」

 

「それがどうしたんだ?」

 

「54Rはいわゆるモシン・ナガンやドラグノフが使う弾薬です。なのでそのウィンチェスターはロシア帝国向けの個体って事ですね」

 

 意味が分かっていないハリーに藤原が補足解説する。

 

「だからなぜそんなのがここに?」

 

「M1895は第一次世界大戦でロシア帝国が使用していました…結局モンドラゴンも使用されていましたし、オイローパ帝国はパラレル時空のドイツ帝国である可能性が濃厚ですね」

 

 藤原の言葉にハリーは腕を組んで軽く頷く。

 

「やはりか…でなければ奴らがドイツ製兵器を使っている事に納得がいかんからな…」

 

「ですね」

 

「よし…とりあえず、もう少しこの村を調べてくれ。彼女達民間人は本部からの折り返しがあったら移動させよう。それまでは診察と治療が済んだら一旦ここに残す。…ところで捕虜は?」

 

 ハリーは問い掛ける

 

「5名います。うち2名は負傷してます」

 

「よし、ならその5名は本部に移送しよう」

 

「待ってください!なら彼女達も移送出来ませんか?」

 

 篠原は割って入る。

 

「たしかに、女性だけここに残しておくのも如何なものかと…」

 

「正直、より専門的な治療は必要です」

 

 藤原の言葉を補足するようにベアも割って入る。

 

「う~む…それも一理あるな…現状、我が社としての人道支援には不足点も多い…リスクを考えるとしょうがないがな…とりあえず、彼女達の件に関しては本部に掛け合っておこう」

 

 ハリーの言葉に篠原は小さくガッツポーズを取り、その様子に藤原は彼女の肩を優しく叩く。

 

「それでは本部からの連絡が来るまでもうしばらく待っててくれ」

 

 ハリーはそう言うとハンヴィーに乗り込み走り出し、広場を去っていくハリーの姿を藤原達は見つめた。

 

 ────────────────────────

 

 オイローパ中央帝国軍部直轄、帝国軍兵器省。

 

 クダ村での戦闘から数日後、マイヤーは帝国首都ゲルマニアにある兵器省を訪れていた。

 

「異界戦線、南部戦線作戦司令本部所属、ヴェルヘルム・マイヤー大佐であります!」

 

 建物の一室の前で声を上げるマイヤー。

 

「入りたまえ」

 

「失礼します!」

 

 マイヤーは返答を受けて扉を開けて入室した。

 その部屋には執務机に腰を下ろし、白髪混じりで優しそうな雰囲気の50代の男がいた。

 

「マイヤー大佐…お会い出来て光栄だよ」

 

「はっ!私もお会い出来て光栄です!兵器省省長、クルト・フォン・ノイマン准将!」

 

 マイヤーは眼前の男に敬礼する。

 

「まぁそうかしこまらなくていい…異界戦線における技術資料を持ってきたのだったな?」

 

「はっ!こちらがその資料であります!」

 

 マイヤーは脇に抱えた資料の束をノイマンに差し出す。

 

「あぁ~いや!それは結構」

 

 ノイマンの言葉にマイヤーは目を丸くする。

 

「は、はぁ…と言いますと?」

 

「所詮私は技術屋が持ってきた報告書や仕様書にサインとハンコを押して総統府に送るだけの役職に過ぎんよ…だから技術の事はよくわからん。君が持ってきたその資料を読むに値する人物はこの建物の3階の局長室に居る」

 

「3階の局長室…でありますか…」

 

「うむ…ゲアハルト・ハンデンベルク博士…マッドサイエンティストだ…気をつけてたまえ」

 

「はぁ…了解いたしました…では失礼します。」

 

 マイヤーは困惑しつつ、省長室を出て3階の局長室に向かった。

 

(資料にハンコを押して総統府に渡すだけ…か。実に羨ましい)

 

 マイヤーは心中で呟く。ノイマンに言われた局長室前に立ったマイヤーは深呼吸する。

 

「ヴェルヘルム・マイヤー大佐であります!資料をお届けに参りました!」

 

「おお!来たか!入りたまえ!」

 

 ドア越しに分かるほどの興奮した声色にマイヤーは嫌な予感がする。

 

「失礼します!」

 

 マイヤーが扉を開けて室内を見渡しすと彼は驚愕した。

 大量の資料が所狭しと乱雑におかれ、足の踏み場もないような状態だった。

 

「おお!これはこれはマイヤー大佐!お会い出来て光栄だ!ささ、座りたまえ!」

 

 片目に拡大鏡を装着し、寂しい頭部に残る白髪をオールバックで固めたハンデンベルクは興奮を隠しきれない様子でマイヤーを資料に埋もれたソファーに座るよう促す。

 

「わ、私も会えて光栄です…ハンデンベルク博士…」

 

 マイヤーは促されるままソファーに座る。

 

「私は前々から敵の兵器に関する資料をずっと求めていたのだぞ?待ちくたびれたわい!」

 

「そ、それは申し訳ありません…こちらが資料です」

 

 ハンデンベルクは差し出された資料の束を奪うように取ると息を荒くして資料を読む。

 

「ほうほう!これは敵戦闘機の資料か!」 

 

「はい…敵戦闘機は我が軍の戦闘機を遙かに凌駕する高速性を持ち、火力も比になりません…ガンカメラの映像もありますが…」

 

「なんと!それを早く言わんか!」

 

 ハンデンベルクは差し出されたフィルムを映写機にセットし、帝国軍戦闘機が撮影した敵戦闘機の映像を映写する。

 

「ほうほう!」

 

「ご覧の通り…照準を捉えてもすぐに射程外に脱してしまいます」

 

「プロペラが無いように見えるな?」

 

「やはり、博士もそう思われますか…これら航空機には我が帝国軍のBf-109でも追いつくことは困難なのであります」

 

「ふむ…これは恐らくロケット推進か…いや、まさか!ジェット推進か?!」

 

 ハンデンベルクは興奮の声を上げる。

 

「ジェット…推進でありますか…」

 

「そう!簡単に言えばタービンを回し、そのタービンが空気を圧縮する事で推進力を得るという構造だ!我が帝国でも最近この構造が提唱されて研究が始まったところである!」

 

 ハンデンベルクは執務机の上の紙の束から資料を抜き出すとマイヤーに渡した。

 マイヤーはそれを一通り目を通すと博士の方を見た。

 

「なんと!では、それが完成すれば…!」

 

「うむ!完成すれば我が帝国軍も敵に追いつけるぞ!」

 

 マイヤーは胸が湧いた。

 今まで帝国の勝利など遙か遠くの存在のように感じられたのが、大きく近づいたように思えたからだ。

 

「この空対空誘導ロケット弾とは?」

 

 映写機を切り、ソファに座ったハンデンベルクは別の資料を見ながら問い掛ける。

 

「それは恐らくですが、我が軍で使用が始まった地対地ロケット弾の発展型であると予想しているのですが…航空機から発射されるロケット弾で、航空機にほぼ百発百中の精度で直撃するようです」

 

 ハンデンベルクが持つ資料にはラーフ社で使用される『AIM-9 サイドワインダー』や『AIM-120 AMRAM』について書かれていた。

 

「ほう!その誘導装着の残骸等は回収出来ているのかね?」

 

「申し訳ありません…そちらはまだ…」

 

「そうか…回収出来たらすぐに渡してくれ!」

 

 ハンデンベルクは再び資料に目を通す。

 

「むむ!これは?!」

 

 ハンデンベルクは資料の一つに注目した。

 

「ああ…そちらは敵航空機で、垂直離着陸が出来るようで…」

 

「むむ!なんと!!」

 

 ハンデンベルクは付属の写真を見て興奮の声を上げた。

 

「まさか!敵はジャイロコプターを完成させたか!…いや…寧ろこれはヘリコプターに近い!実に素晴らしい!」

 

 興奮するハンデンベルクにマイヤーは目を丸くする。

 

「博士はその兵器をご存じなのですか!」

 

 ハンデンベルクは棚の中の資料からジャイロコプターに関する資料を抜き出すとマイヤーに渡す。

 

「恐らくこれはシエルバ博士が開発したC.19を発展させたものだろう!寧ろこの形状はフォッケウルフ博士が研究しているヘリコプターに近しい…!」

 

「まさか…!帝国でもこれら航空機の原型が存在しているとは!」

 

 マイヤーは興奮した。

 

「うむ…C.19は数年前に軍の『上空偵察、弾着観測、連絡機構想』を受けて帝国軍に売り込みを掛けていたのだが、実用性に劣るとしてシュトルヒにその座を譲っていたのだ。確かにあれは軍での実用には耐えれん代物だったが…まさか敵はこの兵器を実用レベルで完成させているとは!」

 

「博士!この兵器は戦術を大きく変える素晴らしい発明です!是非その実験機を見たい…可能でしょうか!?」

 

 マイヤーは問う

 

「うむ!問い合わせてみよう!」

 

 ハンデンベルクは執務机上の電話に手を伸ばし何処かにかけ始める。

 

「やあやあ!ハンデンベルクだ!フォッケウルフ博士は居られるかな?…そうか…代わってくれ」

 

 ハンデンベルクは何者かと通話を始めた。

 

「これはこれは!久しいな!フォッケウルフ博士!実は以前帝国軍に落とされたC.19を見学したいという者がおるのだが…そうか!可能か!よろしい、すぐに向かうよ!では」

 

 ハンデンベルクは受話器を置いた。

 

「見学は可能だということだ!さぁすぐに行くぞ!」

 

「ありがとうございます!博士!では行きましょう!」

 

 2人は飛び出すように部屋を後にした。

 

 

 

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