Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
1話 この透き通る青空に約束を――
それは、本当に突然だった。
――中学校を狙った破壊テロ。
夕方の時間帯が選ばれたのは、きっと人的被害を最低限に抑える意図があったのだろう。
校舎の外周で立て続けに爆発が起き、続けて校舎内部でも爆発音が響く。
それだけでも、まだ残っていた生徒たちは本能的に学校から逃げ出したはずだ。
だが、どんな状況にも“予想外”はある。
運悪く階段からもっとも遠い位置にいたその生徒は、叫び声をあげることすら忘れ、必死に校舎内を駆けていた。ようやく階段へ飛びつき、下へ降りようと踏み出した──その瞬間だった。
轟音。床が砕け、足元ごと崩れ落ちる。
重力に引きずり込まれるように落下し、瓦礫と一緒に地面へ叩きつけられる。
全身を走る痛みに意識が遠のく中、かろうじて顔を上げた視界の先には――
崩れゆく天井。そして、死神の鎌のように迫り落ちてくる大量の瓦礫。
走馬灯すら流れない。
本当に、ただ“死”だけが目前に迫っていた。
――これが私の、最後に見た光景だった。
混乱の続く学園都市の路地裏を、一つの影が疾走する。
それは可憐さとは程遠く、不良生徒たちを次々と沈めていく、躊躇というものを知らない暴力の化身と呼ぶほかなかった少女だった。
「うわッ、なんだあの子!? 撃てっ! 近づけさせるな!!」
「む、無理よ! あんな速――ひっ……がぶっ!!」
恐怖に震える手でサブマシンガンを乱射していた不良生徒の眼前へ、影は風を裂くように躍りかかった。銃声に紛れて響くのは、少女の靴底が空気を蹴り上げるわずかな衝撃音。相手が反応するよりも早く、跳び上がったその脚が鋭い弧を描き――容赦なく顔面へ叩き込まれた。
鈍い衝突音とともに、不良生徒の身体が後ろへ跳ね飛ぶ。短く悲鳴を上げる間すらなく、指先からサブマシンガンが滑り落ち、乾いた音を立てて地面に転がった。
さらに、近くにいた別の不良生徒の後ろ髪を掴み、そのまま壁へと容赦なく叩きつけた。
轟音と嫌な音を立てて壁がへこみ、不良生徒は崩れ落ちる。
その異常な光景に、周囲の生徒たちがようやく青ざめた顔で気づいた。
「ちょっ……こいつ、『
「ひぃっ、あのトチ狂い少女!? 無理無理無理!!」
「お願いこっち来ないでぇっ!!」
影のように戦場を駆ける少女――
制服を鮮血で真っ赤に染めた、悪名高い『
“銀髪の彼女”は、逃げ散っていく敵たちへ一瞥すら向けなかった。
その瞳はただ一点、闇の向こうにある“導かれた先”だけを見据えている。
まるで見えない光に導かれるように、彼女は硝煙の匂いが漂う路地を迷いなく駆け抜けた。
やがて――目的とする人物の姿が視界に入る。その周囲には、取り囲む数名の少女たち。
銀髪の彼女は速度を緩めることなく、そのまま一直線に駆け寄っていった。
「―――ですから…って、誰!?」
最初に声を上げたのは、ミレニアムサイエンススクールの制服を着た少女だった。
彼女の驚愕に満ちた声に、周囲の少女たちも遅れて銀髪の来訪者へ視線を向ける。
「あ、あなたは……『
黒を基調としたトリニティの制服を着た少女が息を呑む。背に生えた立派な黒い羽根。その堂々とした体躯さえ、今はわずかに硬直している。
驚きではなく――明確な警戒。まるで天敵と遭遇したかのように。
「……な、なんでこんな時に」
銀髪でグレー系のトリニティ制服を着た少女は、思わず一歩退く。
だが視線は逸らせない。逸らしたら何かを失う――そんな直感が体を縛っていた。
「うそ……それ、本当に全部、返り血……!?」
大きなカバンを抱えた少女が、蒼白のまま呟いた。恐怖、困惑、そして理解が追いつかないという感情が混ざり合い、声が震えている。
彼女たちの視線の先にいる銀髪の少女――その姿は、まさに噂される二つ名が具現化したものだった。彼女が着ている制服は、元から赤と黒を基調としたものだ。
だがそれすら判別困難になるほど、乾ききらない赤黒い血が全面にこびりついていた。
露出した肌には、事故で負った古傷が焼き付いたように残っている。その痕跡をさらに覆い隠すように、返り血がまだ滴り落ちていた。
その姿は彼女の二つ名――「
"洗っても落ちないほど染みついた返り血……だから『
静かにそう呟いたのは、少女たちに囲まれていた人物――件の“大人”だった。
ただし、実際に目にすると「大人」というよりは“落ち着いた青年”と表現した方がしっくりくるような柔らかい雰囲気をまとっていた。
その青年の呟きを皮切りに、少女たちは一斉に口を開いた。
まるで恐怖を押し出すように、噂話が次々と飛び交う。
「気をつけてください! 彼女は容赦もなく、殺しもするって言われてるんです!」
「噂じゃ、帯刀した刀で首を跳ね飛ばしたこともあるって……」
「夜に『
どれも声を潜めるべき内容だったが、恐怖ゆえに小声にはならなかった。
ただ――それらは全て、出どころ不明の噂。憶測。尾ひれのついた怪談に過ぎない。
噂の渦中にいる当の本人は、その言葉を聞くたびに眉を寄せ、露骨にうんざりした気配を漂わせていた。ひとつ息を吐き、ようやく口を開く。
もし最初から挨拶でもしていれば、ここまで混乱は広がらなかったかもしれない。
……いや、むしろ逆だろう。
“返り血まみれの少女”が穏やかに挨拶してきたところで、混乱は倍増していたに違いない。
「……まだ殺しはしてないけど、そこまで言われるなんて」
血の気の引いた周囲の視線の中、少女は肩をすくめた。
"ところで、君は?"
穏やかな声音。血まみれの惨状とは対照的な、落ち着いた青年の声だった。
「初めまして、外から来た先生。私は
こんな姿だから信頼なんてされないって分かってるけど、それでも、こう答えるね」
"―――!! それは!!"
青年――先生は、反射的に声を上げた。ただの自己弁護ではなかった。
その言葉は、彼らの世界で広く知られる“外”のネットミームだった。*1
――つまりこの少女は、外の文化を知っている。
その事実が、先生の胸に静かに衝撃を走らせた。
「通じないと思ったけど、意外と通じるもんだね。犯罪者まがいのレッテルが付いてるけど……わたしも同行していい?」
"うん、いいよ。よろしくね"
「先生、本気ですか!?」
即座に反対の声を上げたのは、ミレニアムの制服を着た少女だった。
目を大きく見開き、完全に“危険人物を招き入れるな”という顔をしている。
だが先生は、その不安をやわらげるように微笑み、短く首を振った。
"うん。なんとなくだけど……彼女は大丈夫だと思ったから"
その声音に、嘘や強がりはなかった。確信に近い“直感”だった。
そして、先生は微かに悟っていた。
この出会いは偶然ではない。この少女は、必ず連れて行くべきだ。
反対意見があっても、それを上回る“価値”が彼女にはある。
そう思わせる何かが、ユーリには確かに存在していた。
そうこうしているうちに、連邦生徒会の七神リンが移動を提案し、各所へ連絡を取っていた。
だが目的地はすでに暴徒が押し寄せ、今にも占拠されそうな状況らしい。
通信の向こうの相手は、その事実を淡々と告げるだけだった。危機感はなく、緊張感もない。
まるで自分には何の責任もないと言わんばかりに、「対応はそちらで」とでも言いたげな口調で、職務を放棄するかのように一方的に通信を切ってしまった。
――連邦の看板を背負っていながら、この有様か。
そんな皮肉が脳裏をよぎるほどの対応だった。
結果として七神リンは、先生と、ここに集まった面々と共に、直接目的地へ向かう判断を下す。
"……まずは七神さんの言う通り、移動しようか"
目的地までの道のりは、まさしく戦場だった。断続的に響く銃声。跳ね返る弾丸。弾がかすめるたびに、誰かが「痛っ!」と短く声を上げる。
それでも少女たちは足を止めず、不満や悪態を吐きながら撃ち返し、前へ進んでいく。
その最中、先生はふと気づく。銃弾を受けても「痛い」で済ませる少女たちの感覚は、先生にとっては理解の外にあるものだった。
そして、自分が知る『外』の常識とは、根本から噛み合わない世界に立っているのだという事実を、改めて実感していた。
"(……これが、ここが、蓬莱島学園都市『キヴォトス』……『外』との隔絶があるとは知っていたけど、まさかここまでとは)"*2
彼は元々、日本の地方大学に通っていた、ごく普通の大学生だった。代わり映えのしない学生生活を送っていたある日、一通の
差出人の欄に記されていたのは、
その内容は、たった一文だった。
幼い頃から胸の奥に引っかかっていた、言語化できない違和感。その葉書を手に取り、文面を目にした瞬間――それらが一本の線で繋がるような、奇妙な確信が走った。
彼は大学に休学届を提出し、最低限の私物だけを携えて、蓬莱島へと向かった。
外部ターミナルに到着すると、まるで最初から待っていたかのように、『門』は静かに開かれていた――彼の到来を疑いもしない様子で。*4
必要な手続きを済ませた彼は、一瞬の躊躇すら見せず、『門』の内側へと足を踏み入れた。
――だが、そこから先の記憶は曖昧だった。
なぜ自分が連邦生徒会にいたのか。
なぜ行方不明の生徒会長が、自分のことを知っていたのか。
そして、『門』からここまで、どうやってたどり着いたのか。
それでも、彼は確信していた。
まるで
導かれるままに、彼は前へと踏み出していく。
"みんなの戦い方を教えて。今から僕が指揮をとる"
一人ひとりと対話を重ねながら、先生は頭の中で最適解を組み立てていく。
前衛兼タンク役の
中衛でかく乱を担う
後衛アタッカーの
そして、後方から治療と支援を行う
最後に、先生はユーリへと視線を向け、対話を始めた――
"ユーリ、君の戦い方は?"
「多種多様かな。
ナイフはスタンガン内蔵。刀は手加減すれば服だけを斬れるし、本気を出せば斬鉄もできる。
リボルバーは主にファニングショット専用で、ソードオフショットガンは特殊弾用。
それに、ハンドガンとCQB、格闘戦も一通りこなせるよ」
"それ、銃撃戦というより……接近戦だね。
とりあえず銃撃には注意しつつ、遊撃として動いて。周囲の状況を活かして立ち回ってくれ"
「了解。とりあえず半殺しは日常的にやってるけど、まだ殺しはしてないから安心して」
「……安心できるわけないでしょ」
ユーリのあまりにも不穏な言葉に、ユウカが思わずぽつりとこぼす。
それは彼女だけでなく、その場にいた全員が胸中で抱いた率直な感想だった。
「まったく、どうして私が……邪魔よ! さっさと道を開けなさい!」
ユウカは迷いなく前線に立ち、防御フィールドを展開する。
飛び交う銃弾を正面から受け止めつつ、こちらへ意識を向けさせるように銃火をばら撒き、敵の
ただ耐えるだけではない。
状況を見極めると、フィールドを一時的に解除し、腰からもう一丁のサブマシンガンを引き抜く。両手に銃を構え、躊躇なくフルオートで掃射し、前方一帯を力で押し潰していった。
「閃光弾、投擲します!」
スズミは先生の指示に即座に応え、戦場を縫うように駆け巡る。
移動しながら銃弾をばら撒き、敵の注意を散らした直後――計算し尽くした位置へと閃光弾を投擲。白い光が炸裂し、制圧の流れを確実なものへと変えていく。
「―――そこ」
それでもなお数で押し寄せる敵を、ハスミが逃さない。
二人が打ち漏らした相手を、落ち着いた照準で正確に撃ち抜いていく。
その集中力は際立っており、一撃ごとに敵は昏倒し、確実に戦線から排除されていった。
そしてユーリは、混戦によって生じた一瞬の隙を逃さず、銃火が交差する死角を縫うようにして、数人が固まっている地点へと一気に駆け込んだ。
「馬鹿が! 銃も撃たずに突っ込んで……え?」
不良生徒たちが反射的に照準を合わせ、次々と引き金を引く。
だが、放たれた銃弾は一発たりとも彼女を捉えなかった。
何かに弾かれたように、キン、キン、キン――甲高い金属音だけが喧騒の中に響き渡る。
「嘘でしょ……銃弾を全部、斬り捨ててる……」
誰かの呆然とした声が、戦場に漏れた。
その言葉の通り、彼女は絶えず動き続け、的を定めさせない。
被弾するはずだった弾丸はすべて、閃く刀身によって空中で断たれ、無力化されていく。
それは偶然でも、まぐれでもない。
紛れもなく、積み重ねられた技と経験が成せる――達人の剣技だった。
「くっ、来るな!!」
「
神速の踏み込み。
右下から左上へと斬り上げる逆袈裟が、相手のアサルトライフルを正確に弾き飛ばす。
そのまま間合いを詰め、さらに一歩、懐へと踏み込んだ。
続けざまに、敵の脇腹から肩口へ。
左下から右上へと斬り上げる一太刀――左逆袈裟。
肉を断つ鈍い音と共に血飛沫が高く舞い、ユーリの顔と銀髪を紅に染め上げる。
「―――い、痛い痛い痛い痛い痛い!! やだ、血が、血がっ……助けて、誰か助けて!!」
手加減していたとはいえ、丈夫な服は容易く切り裂かれ、その下の肉体にも刃は届いていた。
鮮血が溢れ出すその惨状に、周囲の不良生徒たちは一斉にたじろぐ。
――だが、その隙をユーリが見逃すはずもない。
素早く一歩踏み出し、また一人。
さらに二人、三人と、同じ動きで不良生徒たちを次々と斬り伏せていく。
そして最後。
奥で腰を抜かし、その場に崩れ落ちていた四人目へと、血糊がべったりと付着した刀を逆手に構え、突き立てるように振りかぶった。
"―――ユーリ、駄目だっ!!"
突き立てられた刃は、脇の下の地面すれすれで止まった。
傷はつかない――それでも、恐怖は限界を超えていた。
スカートの下から、ゆっくりと
自分でも止められない――ただ恐怖に震える体の反応だった。
―――す、『
―――なんで、こんな所に……
―――もしかして、あいつら……殺されるのか……?
恐怖は、言葉よりも早く伝染する。
ユーリの姿を正しく認識した瞬間、不良生徒たちは我先にと背を向け、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
その場に残されたのは―――
「ごめんなさい……ごめんなさい……痛いよぉ……死にたくないよぉ……」
「やだぁ……やだぁ……血が、血が……」
「もう悪いことしません……真面目に勉強します……だから、だから殺さないで……」
「うっ……うっ……ひっぐ……もぅ……許して……」
"ユーリ、やりすぎ"
「……ごめんなさい」
その場にいたのは、彼女に斬られ、恐怖に打ち震える生徒たちと――
彼女を静かに叱る、先生だけだった。
先生はすぐさまチナツを呼び寄せ、怪我人の治療を指示する。
また、
"チナツ、ユーリに斬られた人の症状は?"
「思ったより深くはありません。重傷ではないですが、軽傷とも言い切れませんね。
消毒して、すぐに縫合します。大人しくしてなさい」
その言葉通り、チナツはやや荒っぽく見える手つきながらも、迷いなく処置を進めていく。
ユーリに斬られた相手へ、的確かつ迅速に消毒と縫合を施し、出血を確実に抑えていった。
説教を受け終えたユーリは、治療される不良生徒を一瞥すると、血糊がまだ付いたままの刀を改めて抜いた。まず、刀を軽く振るい、大まかな血を払い落とす。
続いて肘を折り、袖の内側で残った血を丁寧に拭い取る。その所作は無駄がなく、まるで儀式のように静かで正確だった。
すべて終えると、彼女は深く呼吸をひとつ整え、落ち着いた手つきで刀を納刀した。
その一連の所作を見ていたハスミが、思わず息を呑み、呟く。
「これが、『
斬られた不良たちの治療がひと段落したところで、各自は先生の指示について感想と礼を述べ、再び先へ進むことになった。
道中の進行が予想以上にスムーズだったのは、ひとえに『
―――下手に敵対したら、あの刀で斬られ殺される。
その恐怖を最大限に利用するように、返り血で深紅に染まったユーリを先頭に、戦慄と緊張に包まれた一行は、戦場を駆け抜けていった。
途中で通信が入り、今回の騒動を引き起こした人物についての情報がもたらされた。
それはキヴォトスでも名の知れた存在であり、七囚人とカテゴライズされた厄災。
二つ名は『厄災の狐』。その名も、
その名を耳にした瞬間、ユーリの周囲に、得体の知れない雰囲気が立ちこめた。
"ユーリ、殺しは駄目だよ。何を思っているかは知らないけど、彼女は君を傷つけた人間じゃないでしょ? 無意味に誰かを傷つければ、それは君が嫌う“加害者”になるということなんだ"
「そうです……生きていれば、やり直すことはできます。たとえ罪を犯したとしても、必ず許される時が来るはずですから」
先生の言葉に、チナツが静かに同意の意を示した。
医療者として、重傷者を生み出すユーリのやり方には決して共感できない。しかし、それでもチナツは、彼女がああなった理由を知っていた。
その時、前方を走っていたユーリが突如、腰に装備していたソードオフショットガンを抜き、手早くリロードすると、迷いなく前方へ撃ち放った。
「
ユウカが反射的に声を上げる。
破裂音と同時に、射線の先にいた人物の輪郭が、信号弾の発光を背に浮かび上がった。どうやらユーリは、相手に信号弾を当てるつもりで撃ったらしいが、直撃は避けられたようだ。
「―――っと、あらあら。気づかれてしまいましたか。ここは任せましたわ」
そこに立っていたのは、着物を身にまとった少女。
おそらく、先ほどの通信で伝えられた騒動の主犯――ワカモだ。
三者三様に銃を構えた、その瞬間。
さらに奥から、重厚なエンジン音を響かせて戦闘車両が姿を現した。
"戦車か……銃だけじゃ厳しいな。何か手段はないかな…?"
「それなら、私がやります。こんな時のために、徹甲弾を持っていますので」
先生の問いに答えたのはハスミだった。
徹甲弾なら撃ち抜ける。しかし、正面からの突破は難しい。
その補助に名乗りを上げたのが、他でもないユーリだ。
「あれくらい、普通に斬り捨てられるよ」
結果は、一瞬だった。ユーリの刀が閃く。鋭い刃が砲身に深く食い込み、金属が火花を散らして砕ける。続けて足回りに刀が走るたび、金属とゴムが裂ける音が戦場に響き渡った。
砲身は切断され、履帯は断裂。戦闘車両は完全に機能を失い、もはや抵抗のしようもなかった。
ハスミが銃を突き付け、徹甲弾が装填されていることを告げると、搭乗者たちは観念し、揃って投降するのだった。
シャーレ前に到着すると、ユウカが思わず喜びの声を上げた。
「ようやく着いたー!」
同時にリンから通信が入り、安全を確認次第こちらへ到着するとのことだった。本来なら先生が先に内部へ入る予定だったが、ユーリからのクリアリング提案と警戒の必要性を考慮し、三部隊に分かれることになる。
シャーレ前の防衛にハスミとスズミ。シャーレ上層部へ入れないため、周囲のクリアリングにユウカとチナツ。地下の確認は、先生とユーリが向かうこととなった。
なお、先生はまだキヴォトスの携帯端末を所持していないため、連絡はユーリの端末を経由する形となり、指示や状況確認もすべて依存することになる。
――地下。
呟きながら何かの作業を行っている和装の少女。その姿を見て、先生が状況を把握するよりも早く、ユーリは動いた。一瞬で距離を詰め、ワカモの背後を取る。
首筋にスタンナイフを添え、警告もなくスイッチを入れた。
「あがっ!?」
高出力の電撃が弾ける。
次の瞬間、ショック状態に陥った彼女を蹴り飛ばし、ユーリは即座に居合の構えへ移行した。不穏な動きを見せた瞬間、斬鉄で重傷を負わせられる――そう理解できる位置と間合いだ。
十分に制圧したのを確認してから、低く声をかける。
「動くな。ゆっくりとうつ伏せになり、両手を頭に乗せろ。少しでも怪しい行動をしたら、即座に斬り捨てる。例外はない」
それでも彼女は、何かを装うような雰囲気をまとい、起き上がろうとしたのだろう。
その瞬間――警告代わりの居合。
次の瞬間、狐の仮面が縦に割れ、床に音を立てて落ちた。
そこでようやく、先生はワカモの存在をはっきりと認識する。
――思っていたよりも、美人だ。そんな感想が一瞬、脳裏をよぎった。
「次は無いからね」
「―――ッ!?」
――次は手加減しない。
無言の警告を正確に理解し、ワカモは抵抗をやめ、大人しく手錠をかけられるのだった。
「貴方が噂の『
「何が目的でここに来たかは、おいおい聞くとして……手錠だけじゃ不安ね。念のため、動けないよう追加で拘束しよう」
ユーリはそう呟くと、どこからともなく荒縄を取り出し、ためらいのない手つきでワカモの身体を縛り上げていく。その動きは無駄がなく、どこか官能的ですらあった。
「ちょ、ちょっと! 殿方の前で、なんて縛り方を……」
"うわぁ……生で亀甲縛りなんて、初めて見た"
その通り、亀甲縛り――女性の肉体を強調する縛り方だ。
スカートはめくられたまま、下着や胸部のラインが際立つように縄を回し、身体の柔らかさと曲線を見せつつ、確実に動きを封じていく。
ワカモは股間や胸元に触れる荒縄の感触に頬を赤らめつつ必死に抵抗するが、それもむなしい努力だった。体を必死に動かす最中、先生と視線が交わる。
その瞬間、意志に反して顔も体も熱を帯び、荒縄がもたらす官能を身体が受け入れ始めていることに気づき、声を荒げるしかなかった。
「あら…あら………あ、あああああ! 見ないで、見ないでください!!」
「……羞恥じゃないね、この反応」
ワカモの様子を見て、ユーリはナニかに気づいた。
仕込みを兼ねて、さらに念入りに縄を回し縛る。多少の悲鳴や喘ぎ声は意に介さず、思いついたように話しかける。
「ねぇ、ワカモちゃん」
「ちゃ、ちゃん!? 年下のあなたにそう呼ばれるなんて!!」
確かに、ユーリとワカモの身長差を見ると、その呼称も不自然ではない。
先生も年齢は聞いていなかったため、15歳か、下手すると14歳、もしかすると13歳以下かもしれないと予想していた。だが、その予想は、次のユーリの言葉であっさりと覆されることになる。
「―――これでも20だよ?」
「嘘!?」
"は、
「四年前にテロで死にかけてね。その時に色々損傷した影響で、一切成長しなくなったんだ」
その言葉と同時に、ユーリは制服の上を脱ぎ下着姿になる。おびただしい傷跡が、無防備に露わになった。二人は想像以上の傷の多さに、言葉を失う。
スカートやソックスで隠れている部分もあるが、両足には隠し切れない大きな傷跡がいくつも刻まれ、見る者に圧迫感を与えた。
"……酷い"
「こんな事が……なんて事なの」
「うん。目覚めたのは一年前。それから私は、あのテロを起こした奴らに、これからテロを起こす奴らに復讐するため、死に物狂いでリハビリして、修羅になったの」
"それでも……それでも、人殺しは良くないと思うよ。それと、早く服を着て"
ユーリは先生の言葉に従い、制服を整えながら、言葉を続けた。
「まだ殺しはしてないって。重傷を負わせたことはあるけど。それで先生、このワカモちゃんと一緒に雇ってくれない?」
「ええっ!? な、ななな……何でですかっ!?」
ワカモとしては、今回は顔見せ程度、あわよくば何か壊せればいい――その程度の認識だった。
捕縛されたのも想定外だったが、まさか雇用の話まで持ち出されるとは思っていなかったのだ。
「一目惚れしたでしょ? 初手は譲ってあげるから、遠慮なくどうぞ。
私は必要とあれば、遠慮なく先生に体を売るから、早めに決めちゃって」
しかも、自分が一目で惹かれてしまったことまで見抜かれていたのは、不覚としか言いようがない。それでもワカモは、何とか言葉を絞り出そうとしていた。
"いや、一応先生だから……生徒に手を出すのはちょっと……"
「そ、そそそれはそれは……」
「その事は追々後にして……お待たせしました、首席行政官殿」
ユーリの言葉に、先生が振り向くと――そこには、何とも言えない表情の七神リンが佇んでいた。ちなみにワカモは先に気づいていたため、顔は真っ赤になっている。
「……言いたい事は色々とありましたが、シャーレ周辺の制圧とワカモの捕縛、お疲れさまでした。ここに連邦生徒会長が残した物があります。幸いにも、傷一つありませんね」
そう言って差し出されたのは、変哲もないタブレット端末。彼女曰く『シッテムの箱』だという。正体不明、先生しか使えないオーパーツである。
リンは邪魔にならないよう少し離れた場所の椅子に座り、先生は椅子に腰を下ろして操作を始める。ユーリは隣に座り、先生の手元を覗き込んでいた。
画面は消えたままだが、ユーリがふと先生の顔を見ると、気づいた。
(瞳に、端末の画面が映っている……!?)
すぐに端末の画面を確認しても、消えたまま。
どうやら、やはり先生しか扱えない一品のようだ。
"我々は望む、七つの嘆きを。我々は覚えている、ジェリコの
先生がそう呟くと、ユーリの視界が唐突に変化した。
主人公は『Teaching Feeling』のシルヴィをイメージしています。
ただ髪の色はグレー系よりも銀系に見えたので銀髪にしています。
タイトルは戯画の「この青空に約束を――」をオマージュしました。
リンクした楽曲
Face of Fact ~from BALDR FORCE EXE~
選定理由としては、元々「オープニングに使うならバルドシリーズの四作目以降!」と自分の中で決めていたのが一番の理由ですが、歌詞も外とキヴォトスとの違いなど、色々な点でマッチしているからです。
ブルーアーカイブの物語としても合っていると思いますし、一度流して聴いただけなら、ぜひ歌詞を確認してから改めて聴き直してみてください。