Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
翌日の午前。シャーレオフィスが入っている高層ビルの自宅にて。
転移でアビドスへと向かう先生とワカモを見送ったユーリは、スマホを取り出した。
ミレニアムにいるユウカへとコンタクトを取る。
『もしもし、早瀬です。どうしたんですか?』
「真神です。ちょっと聞きたいんだけど、ミレニアムに情報戦に強い人、知ってる?」
『……ユーリさん、あなた何するつもり? 最近、先生が出張してシャーレにいないって噂だけど……それと関係あるの?』
「残念だけど、今のところは最上級機密。……下手に探ろうとしたら――最悪、死ぬよ」
言葉に冷ややかな殺気を込めて脅すと、流石のユウカも黙り込むしかなかった。
出張先で、ただ事ではない異常な状況が刻一刻と進行していることを察しつつも――ユウカはなおも頑なに紹介を渋っていた。
『……できれば紹介したくないのよ。そこに問題児がいるから。下手にあなたの逆鱗に触れたら……間違いなく人死にが出るわ』
「……ぐうの音も出ない」
数時間後、ユーリはミレニアムの広大な敷地内に足を踏み入れていた。
時折、遠くで爆発音や銃撃音が響き渡るものの、校舎の周辺は普通の科学技術系学校と変わらない雰囲気を保っている。
制服は主に白を基調としており、連邦生徒会の制服を着ていても特に目立つことはない。
周囲から怪しまれることもなかった。
事前に教えられていた教室の扉を開けると、そこでは少女たちがパソコンの画面に集中しながら黙々と作業を進めていた。
「ようこそ、『
私は副部長の
チヒロの問いかけにユーリは、一つのメモリを取り出して手渡した。
「これは独自に入手したもので、カイザーが闇に葬った機密情報。まだ中身は詳しく確認していないけど、安全のため合図を出すまでは絶対に中を見ないで。
合図が出たら、まずネットに全て拡散してから中身を精査しても構わない」
「なるほど、本題はこれか……確かに私たちの専門分野向けの仕事だね。
どうやって入手したのか気になるけど、おそらくブラックマーケットなどの独自のコネクションを使ったんだろう。ウイルスチェックはしておくべきかしら?」
「一応ウイルスチェックは済ませているけれど、合図があるまでは物理的に完全に封印しておいてほしい。どんなにわずかな情報でも命を狙われる可能性は十分にあるし、もし全て流出させてしまえば……それは間違いなくカイザーグループに対して一撃必殺級の破壊力を持つことになる。
しばらくはインフラや社会のあちこちで混乱が起きるだろうから、そのための準備もきちんとしておくことを強くおすすめするよ」
「やれやれ……何があったかは知らないが、カイザーグループを叩き潰すとはな。それなら電子錠だけでなく物理錠も必要だ。三人とも、カイザーもしくは『
それに、真神が合図を出した後も、しばらくはラグがあるはずだから、その間に部屋の片づけや準備を少しずつ進めておきなさい。もちろん、これらの話は一切他言厳禁だ。もし漏れたら、彼女から命を狙われても文句は言えないぞ」
その言葉に、部室内の三人は「うへー」「うわー」といった驚きの声をあげながらも、約束は守るつもりでいるようだった。
何しろユーリが持ち寄ったメモリに興味津々な面々に、ユーリは笑顔のまま、三人に向けて打刀の鯉口をちゃきちゃきと鳴らし、しっかりと脅していたのだから。
「その代わり、報酬には期待してほしい。金銭だけでなく、可能な限りあらゆる要望に応えるつもりだから、具体的な相談は別途ね」
その言葉が終わると、白髪のロングヘアの少女――
「盗聴器を仕掛けさせてほしい」
もちろん、そんな要求を即座に許可するわけがない。
ユーリは素早く抜刀し、冷ややかな刃先を彼女の首筋に添えた。
「却下。もし警告なしにその首と胴体を泣き別れさせたいなら話は別だけどね?」
その言葉は、裏を返せば「重要機密を無断で聞き出そうとしたら、問答無用で処刑する」という明確な警告でもあった。
「……ち、違うの。先生の声が欲しいだけ」
「あー、声フェチってやつか」
「彼女は盗聴が趣味でね。普段からあちこちでいろんな会話や音をこっそり拾い集めて楽しんでいるんだ。だから、その話もまんざら間違いじゃないと思うよ」
ユーリの指摘にチヒロが軽く補足を入れたその瞬間、ユーリの中に悪戯心がふと芽生えた。
「それじゃあ、先生の吐息とか声とかで我慢してもらおうか?」
「ぜひぜひ!」
そして後に、先生の
次にリクエストを出したのは、鮮やかな赤髪をお団子にまとめた少女、
「シャーレにグラフィティを書きたい」
初めは意味が理解できなかったが、彼女にはグラフィティが好きなあまり、所構わず絵を描こうとする悪癖があるとのことだった。後日、先生たちと時間をかけてじっくり相談した結果、場所や内容に問題がなければ正式に許可を出すことに決めた。
しかし、念のため彼女のグラフィティ衝動を抑えるべく、ユーリは厳しく言い渡した。
「もし勝手にやったら、チェーンソーで両手の人差し指をゆっくりと切り落とすからね」
その言葉に、マキは青ざめた顔を何度も震えながらうなずいていた。
そして最後にリクエストを出したのは、
「何か武装を作らせて」
「いや、それは可能ならこっちがリクエストする側なんだけど…いいの? 本当にいいの?」
「噂に名高い『
(……なら、アレかな)
「それなら、こっちが納得するまで何度でもリテイクやリメイクを繰り返すけど、それでいい?」
「むしろやりがいがある」
後日、エンジニア部も巻き込んで議論を重ね、ドローンへの変形や合体、その他多彩な機能を組み合わせたシールド『シンデレラ』を製作することとなった。
このシールドは彼女の武装『フェアリーテイルズ』に組み込まれ、戦闘力を大幅に高める重要な役割を果たすことになる。*1
ミレニアムを出るころに気がつけば、もう昼を過ぎていた。
スマホのモモトークには、学校の食堂で食事を作り、それを楽しそうに食べている元ヘルメット団や元傭兵たちの写真付きメッセージが届いていた。
その中にはアビドスの制服を着ていない便利屋68の四人もおり、少しだけ周囲から浮いている様子がうかがえた。
「やっぱりユーリさんの料理が恋しい」との一言も添えられていて、ユーリは何人かを本当に非戦闘系の職業に転向させたほうがいいのではと、真剣に考え始めていた。
さらに、違法機種の手がかりを求めてブラックマーケットの探索計画を練っている様子も記されていたため、こちらからはまだ準備段階なので勝手に動かないようにとメッセージを送り返した。
まあ、先生がもし暴走しそうになっても、ワカモが一応のストッパー役を担ってくれるだろう。
その後、ユーリはアビドスに戻り、食料班の設立準備を進めるために、夕食の準備を手伝ってくれる希望者を集めるよう追加のメッセージを送信してから、動き出した。
アビドスの対策室に戻ると、ホシノがのんびりと机に突っ伏して眠っていた。
思わずその柔らかな頭を撫でてしまい、声をかけた。
「ただいまー。アルちゃんたちはどこにいる?」
「うへー……。うんー……。むみゃ」
うたた寝している状態で、まだ起きる気配はまったくなかった。
ちょっとした悪戯心から、彼女の髪をツインテールの三つ編みにしておいた。*2
外に出ると、校庭では何人もの生徒たちが自主的に走り込みを行ったり、木陰で模擬戦闘の訓練に励んだりしていた。その真剣な表情に、少しだけ安心感を覚える。
(早いうちに教室の整備や、せめて基本的な学習機器の導入くらいは考えておかないと……)
もともと廃校寸前だったこのアビドスに、いま「学校」としての体裁を求めるのは無理があるかもしれない。教室も設備もろくに整っておらず、生徒たちはほとんど避難所のような簡易空間で日々を過ごしている。
それでも――いや、だからこそ。ここを拠点として活動していく以上、ただの仮設施設では終わらせたくない。教育の場として、そして未来の拠点として、最低限の学習環境を整えることは避けて通れない課題だ。
これから始まる支援と再建の取り組み。それが成功するか否かが、今後のシャーレの命運を大きく左右していくことになる。
そんなことをぼんやりと思いながら、ゆっくりとグラウンドの端を歩いていた時――ふと、見慣れた顔ぶれが視界に入った。便利屋68の面々だ。
彼女たちはどうやら少し前まで走り込みをしていたらしく、制服の袖をたくし上げながら、額の汗を拭っている。疲労の色を浮かべつつも、どこか楽しそうな笑みを見せていた。
「走り込みの後?」
「そうよ。これでも立派なアウトローになる為に訓練も悪くないと思ってね」
本当に“アウトロー”の意味が分かってるんだろうか、このぽんこつ……。内心でそんなツッコミを入れつつも、作戦の説明に移ることにした。
今回の目的は、ブラックマーケットへの潜入作戦。そのためには、アビドスの制服だけでは周囲と浮いてしまい動きが限られてしまう。
現地で目立たず動くために、全員分のゲヘナ制服を新調する方針となった。だから彼女たちも制服を仕立てる必要があり、サイズ採寸の許可を取りに来たというわけだ。
「ん? ユーリちゃんって、服も作れるの?」
ふとした疑問を投げかけたムツキに、ユーリはごく自然に肩をすくめてみせる。
「というか、大抵の生徒は自分で制服を改造してるでしょ? アレンジくらい当たり前」
「あー、言われてみれば確かに」
返ってきた答えにムツキは納得したように頷いた。
ユーリにとって、服を仕立てることはごく当たり前のことだったのだろう。
「自分に似合う装いを整えるのも、メイドとしての嗜み」と、ユーリは思っている節がある。
そして、彼女はふと皆の姿を見渡し、ぽつりと呟いた。
「アルちゃんが一番スタイルいいね。他のみんなも、素材は悪くないし……ドレスでも、他校の制服でも似合いそう。……いや、作るか。マジで」
その独り言に、なぜかハルカが素直に反応してしまった。
「そ、そんなの似合いません……っ」
――その一言が、地雷だった。
ユーリの目が、キラリと鋭く輝く。まるで狩人が獲物を見つけた瞬間のように。
「ちょっと本気出してくる」
言い残すと同時に、彼女はどこかへ駆けていった。
そして翌日、ハルカのためにわざわざ仕立てたトリニティ風の制服が完成する。
それは天使の羽があしらわれた、どこからどう見ても本気の一着だった。
結果――なぜかとても好評だったという。
そして数日後。奇しくも、利子の返済とブラックマーケット調査の準備日が重なった日――
シャーレの面々は、アビドスの片隅で現金輸送車の到着を見届けていた。それは予定通り現れ、予定通り現金を回収し、何事もなく――
「……え?」
その場に居合わせた一同は、しばし言葉を失った。
誰も異常に気づけなかったし、気づいた時にはすべてが終わっていた。
静かすぎる光景に、逆に鳥肌が立つ。
「も、もう何でもありですね、あの人……」
「常識が壊れますね☆」
「うへぇ……本気で“人間やめてる”よ……。流石のおじさんでも、その勇気はないわ……」
「ん、泥棒に最適」
「いや、泥棒しちゃ駄目でしょう」
"((知ってた))"
一同、盛大にドン引きである。
普段からユーリの奇行に慣れているつもりだったが、今回ばかりは話が違った。
ある程度の予想をしていた先生とワカモですら、表情を引きつらせていたのだから重症だった。
少し離れて見ていたアルとハルカは、信じがたい光景にショックで気絶。
カヨコが慌てて駆け寄り、介抱。ムツキは「傑作だ」と笑っていた。
――では、なぜそんな“離れ業”が可能だったのか。
理由は単純で、そして理不尽だった。
ユーリが“転種”した種族――それは、ゴースト系最上級種マスターシャドウ。
つまり、正真正銘の幽霊だったのだ。
その能力体系に含まれる特殊技能「屍技」の中に、「霊体化」というとんでもないスキルが存在する。それは物質をすり抜け、姿も気配も掴ませない完全な霊体化。
センサーも物理ロックも全て無力化され、守りなど無いも同然。
そして彼女はその状態のまま、輸送車に“入り込み”、一言も発することなく支払いを完了させてしまったのだった。
セキュリティもへったくれも無い、もはや反則級の能力。
もしかすると、彼女は本気で「別におかしなことはしてないけど?」とでも言い張るつもりなのかもしれない。悪びれる様子もなく、あくまで自分の行動を正当なものとして振る舞う姿には、もはや図太さすら感じる。
常識という枠組みが、彼女にとっては最初から存在していないかのようだった。
……だが、その常識の破壊力に、関係者全員が震えたのは言うまでもなかった。
"まぁ、あちら側はユーリに任せるとして、こちらもそろそろ準備をしておこうか"
先生のひと言で、一行は学校へと戻り、それぞれゲヘナ風の制服に着替え始めた。
それは前日にユーリが寸法を取り、徹夜で仕立てたという代物で、デザインも質も申し分ない。何より、ブラックマーケットの雰囲気に溶け込むにはうってつけだった。
もしアビドスの制服のまま乗り込んでいれば、目立つどころか、それだけでトラブルを招きかねない。そういう意味でも、ゲヘナの姿に変装するのは最善の選択だった。
さらに先生は慎重を期して、銃器も個人所有のものではなく、以前の戦闘で鹵獲した装備を使わせた。製造番号の追跡リスクや、特徴的なカスタムを避けるためだ。
ちなみに先生自身は、ダークカラーのゲヘナ風スーツをしっかりと着こなし、どこからどう見ても只者ではない雰囲気を放っていた。
こうしてアビドスの生徒たちに、シャーレの二人と便利屋68――通称アクア小隊も合流し、いよいよブラックマーケットへの潜入が始まろうとしていた。
"……意外と広いな"
先生は思わずそう呟いた。
雑然としながらも活気に満ち、建物の密集具合も尋常ではない。薄暗い通路と怪しげな光の中を行き交う人々の姿――まさに「スラム」と呼ばれる空間そのものだ。
「日本でもこのような場所、あったのですか?」
と、カヨコが静かに尋ねた。
"まあ、小さなスラム街ならいくつかはね。昔、大阪に“あいりん地区”って呼ばれた、日雇い労働者が集まる街があった。今はだいぶ様子が変わったって聞くけど"
「へぇ……」
"でもね、日本とここのスケール感は全然違う。これはもう“街”じゃなくて、ひとつの“世界”だ"
カヨコがふと納得したように頷いた。
「そういえば――外とキヴォトスって、時間の流れが違いますよね。先生にとっては10年でも、キヴォトスじゃ何十年も経ってる可能性があるって」
「うん、それね」
ムツキがひょいと会話に割り込んでくる。
「門が閉じてる間は、キヴォトスの時間のほうが速いんだよ。しかもその速さも一定じゃなくて変動するから、まさに“浦島太郎”状態ってやつね」*3
"……そう考えると、文明や文化の差が出るのも当然だよな。
……もっと昔の日本では、暴力団同士が街中で銃を撃ち合う時代もあったんだ"
先生の声がいつになく静かだった。
"人が死んで、子供が巻き込まれることもあった。
日常の延長で、無関係の命が失われるのが珍しくない時代だった"
そう言いながら、彼は視線を遠くに向けた。
そうした時代を経て、暴力団対策法が整備されていった。
"……それでも、誰かが立ち上がって、変えようとした。
法律も整備されて、少しずつだけど、時代は変わったんだ。
だからさ……いつか、こういう場所を無くそうとするのも、きっと正しいことなんだと思う"
ふと、セリカがぽつりとつぶやいた。
「先生が前に言ってたよね。『大人が悪いんじゃない。悪い大人がいるだけだ』って。……あの時はよく分からなかったけど、今は少し分かる気がする。
ブラックマーケットを作るのも、使うのも……子供も大人も関係ない。
ただ“必要だから”できたんだよね。でも、必要だからって“犠牲”を出していいわけじゃない」
その言葉に、先生はゆっくり頷いた。
ホシノも、少しだけ口元を緩めて呟く。
「おじさんも何となく分かるな。こんな場所が生まれる世の中って、やっぱり間違ってる。でも、ただ“仕方ない”で済ませちゃいけないんだよね。……難しいよね、ほんと」
場の空気が、ひととき静かに沈む。
だが、その静けさには確かに“覚悟”が滲んでいた。
ブラックマーケットで先生たちがそれぞれの考えを話していた時、突然銃声が響いた。
一人の少女が、銃撃から必死に逃げていたのが見えたので、即座にワカモが万が一の場合を考えて、先生の前に盾として躍り出た。
――だが、現実は非情だった。
「あいったぁー!」
流れ弾が見事にアルの額へ命中し、「すっか~ん」といい音が鳴った。その光景を見て、ハルカの怒りの沸点は一気に限界を超えた。
「うわわ、退いてくださー……ってえええ!?」
すぐさま逃げてきた少女を横に押しのけ、支給されたポンプ式ショットガンを高速連射した。
「よくもアル様を……許せない! 今死ね! すぐ死ね! 早く死ね!!」
散弾の雨を浴びて不良生徒二人は仰向けに倒れたが、ハルカの追撃は止まらない。
即座にテーザー弾を二発装填し、倒れた不良生徒の下腹部に銃を突き付けて撃ち込んだ。
「おぐっ!?」「ねことうふっ!?」*4
電撃と衝撃で完全に力尽きたのか、不良生徒二人はびくびくと痙攣し、その場に崩れ落ちた。
下腹部から、薄い水たまりが広がっていた。
「お、おもらし……?」
辺りが静まり返る中、ムツキが顔を覗き込み、にやりと笑った。
「ハルカ、ナイス♪ じゃあ記念に、パシャっと……っと!」
懐から取り出したスマホで、気絶した不良のスカートを軽くめくり、
「よし、投稿完了っと……あ、すご、いいね早っ」
さすがにその光景を見て、先生は少し引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
「あ……えっ? えっ?」
あまりにも速い展開と、いともたやすく行われるえげつない行為を、至近距離で目の当たりにした少女は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
追われていた少女の名前は
話を聞くと、限定ペロログッズを求めてここまで来たというが……ペロロに関して一言で言えば、あれは狂気の沙汰だった。
キモカワを通り越し、ネタにした途端呪われそうな雰囲気すら漂っていた。
そしてグッズを求める目的を聞いた瞬間、一同は一様に目を丸くし、あきれ返っていた。
「いやー、おじさんには解らないなー」
ホシノのつぶやきに、先生は落ち着いた声で言った。
"大丈夫だ、問題ない。僕も理解できない"
その言葉は場の空気を締めつつも、どこか諦観の色を帯びていた。
当たり前だが、一同の大半はペロロの可愛さを理解できなかった。*5
もし無理をしてでも理解しようとしたら、間違いなく
それはさておき、ヒフミがトリニティからこっそりここに来ていたことが判明した。
見た目はゲヘナの学生でも、実際は服装を変えただけの変装だ。そう分かると、情報交換は和やかな雰囲気のまま進んだ。
調査の途中、復讐目的で現れた不良生徒たちと交戦し、返り討ちにした。だが独自の治安維持組織に目を付けられる恐れがあり、速やかに撤退を決断した。
とりあえず安全第一で、近くの便利屋68の事務所に身を寄せることにした。
「あー、事務所の解約手続きと引っ越しもしないと…」
アルがげんなりした顔でオフィスへ案内すると、古風な電話が鳴り始めた。
「うげ……」
電話の音だけで、アルの顔が露骨に曇った。どうやら例の“依頼者”からの連絡だろう。
出るべきか迷っている中、先生が静かに指示を出した。
"ムツキ、代わりに出て。
全滅して捕まった、自分だけ逃げた。依頼は遂行不能。今から救出と立て直しを図る――そこまで伝えて。カヨコ、逆探知と録音は?"
「どちらも無理」
"…仕方ない。話を伸ばして怪しまれるのも危険だから、可能な限り簡潔にお願い"
「りょーかーい」
それだけ告げた直後、通話はぶつりと切れた。
……向こうも、長話をする気はないらしい。もちろん、本当の状況は伏せたままだ。
「じゃ、ヒフミの着替え買いに行こっか」
そうしてムツキとカヨコは外へ出た。
ヒフミにはゲヘナの制服を用意し、まずは“溶け込む”ことを優先する。
残った一同は、ブラックマーケットの喧騒へと戻った。雑多な屋台、奇妙な店、怪しげな客――視線を走らせながら、手掛かりを求めて歩き回る。
その中で、制服専門の大規模店舗が目に入った。
先生は思わず足を止め、店内をじっくりと見渡していた。
"しかし、ここまで探しても情報が無いとはね…"
「ええ。ブラックマーケットに出品している企業は、基本的に開き直って堂々としてますけど……ここまで徹底的に隠しているのは、やはり普通じゃありません」
先生の言葉に、ヒフミも小さく頷いた。だが、その声音とは裏腹に、先生の胸中ではすでにある種の確信が芽生えつつあった。
"(やはりカイザーの影が濃い……。だが今のところ、決定的な証拠は掴めていない。
ユーリからの報告もまだ届かない。現場はかなり遠く、状況把握が難しいのか……?)"
『お取込み中失礼します! そちらに武装集団が接近しています!』
その瞬間、アヤネの緊急通信が飛び込んできた。内容を聞いた一同は、反射的に物陰へと散る。
そして視界の先――マーケットガードと現金輸送車が、闇銀行へと入っていくのが見えた。
「見て! あれって……カイザーローン!」
"ようやく点と点が繋がってきた……。やはりカイザーグループは、アビドスを足掛かりにキヴォトス全土の支配を狙っている可能性が高い"
通信機から、ユーリの携帯を使って現金輸送車のルートを追跡した結果が報告される。
『現金輸送車のルートはオフラインでは検索できません。ですがユーリさんの携帯を利用すれば……出ました! 遠回りや迂回はあるものの、寄り道せずに闇銀行へ向かっています!』
"支払いは現金のみ、闇銀行へ向かう現金輸送車、カイザーローン。そして……"
【こちら
この全てが世に知れ渡れば、とんでもない騒ぎになるよ】
"ユーリからの
その言葉を待っていたかのように、シロコが懐から覆面を取り出して被り――
「ん。それなら銀行を襲う」
とっても嬉しそうに宣言した。
今回のお話のタイトル「BLACK / MATRIX」は、セガサターン、ドリームキャスト、初代プレイステーションで発売されたSRPG『ブラックマトリクス』に由来しています。
「BLACK」の部分は、今回の物語で描いた様々な闇深いテーマや問題に踏み込んだことから思いつきました。
また「MATRIX」には「複雑に絡み合った仕組みや構造」という意味があり、物語の中で絡み合う陰謀や関係性を象徴しているようで、非常にしっくりきています。