Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
「ん、銀行を襲う。大事なことだから、もう一回言った」
シロコは、まるで遊園地にでも行くような顔で、とても楽しそうに再度その言葉を口にした。
「いやいやいやいや、なんでそうなるの!? いくらなんでもハジけすぎでしょ、この子!?」
その提案にアルは白目を向きながら、いつものギャグ顔で叫んでいた。
「……ぽんこつに突っ込まれた」
「だからぽんこつって言わないで。気にしてるんだから」
ぼそりと呟くシロコの顔には、不満というより、むしろ不服そうな色が浮かんでいた。
脊髄反射でツッコミを入れたアルは、別に悪くない。だが実際、言っていることは正しい。
銀行強盗という選択肢は、どう考えても問題外。
非合法な手段を取るにしても、いざというときはユーリに盗ませれば済む。
そう結論づけた先生は、全員で話し合うため、再び便利屋事務所へ向かった。
「結論から言うと、私が盗むにもリスクはあるよ。一度
ユーリが金庫室でスマホを使えたのは、霊体化する前から身に着けていたからだ。
だから内部でも、普通に操作できた。
だが、金庫室の中身を盗むとなれば、霊体化をいったん解除しなければならない。
その瞬間、室内が安全である保証はないし、外の警備にも神経を使う。
銀行内の動体センサーに反応するリスクもある以上、やはり簡単にはいかない。
"本音を言えば、ここまでユーリに頼り切ってしまうのは危険だ。いざという時、彼女がいなければ何もできない――そんな状況に甘んじていたら、いつか必ず破綻する"
「それは同意するわ。助けてくれるのはありがたいけど、いつまでも頼ってばかりじゃ、来年以降に入ってくる後輩たちに、情けないところを見せてしまうわね」
「そうですね☆ アビドスが、ただシャーレに“おんぶにだっこ”されるだけの学校になってしまうなんて、絶対に嫌です☆」
先生の意見に、セリカもノノミも深くうなずいた。
他の案もいくつか出してみたが、どれも決め手に欠けた。
結局、残されたのは――シロコが口にした“銀行強盗”、ただひとつの案だけだった。
「ところで……私は、どうすればいいのでしょうか?」
問題はヒフミだった。ここまで一緒に行動してきた以上、一人だけ帰すのはかえって危険だ。
とはいえ、銀行強盗に同行させるのも、さすがに気が引ける。
そう思っていると、シロコがヒフミの肩に手を置いてドヤ顔でサムズアップしながら宣言した。
「ん、問題ない。一緒に銀行を襲おう」
「えええーっ!? そんな……捕まったら、いろんな人に迷惑がかかっちゃいますよ!」
「大丈夫。一蓮托生」
あまりにもあっさりと、同行が決定された。
ヒフミの未来を案じた者たちは、心の中でそっと手を合わせたり、胸元で静かに十字を切ったりしていた。あまりにも自然で真剣なその仕草は、もはや追悼にすら見えた。
"そうなると……その覆面だけじゃ不安だな。全員分は揃ってないし、最低でもヘルメット団みたいにフルフェイスが必要だよな……"
―――その時先生に天啓が走る。*1
"確か制服専門店がいくつかあったはずだ! そこで変装用の制服を全員分確保して、さらにヘルメット団御用達の店でフルフェイスを買えば……完璧だッ!"
先生の思考は、もはや計画犯罪の域に達していた。
そもそも制服という商品は、今日も明日もブラックマーケットで密かに流通しており、誰が買っても足がつかない。身分証明? 不要だ。金さえ払えば、それが誰の手に渡ろうと、用途が何であろうと、ナニかに使用されて闇へと消えるのがこの世界のルール。
しかも装備品がヘルメット団由来であれば、万が一の時でも彼らに責任を擦りつけられる。
最低最悪の保険としては、申し分ない。
「な、なんてアウトローなの……ッ」
そのあまりにも外道(でも合理的)な発想に、
……何かが明らかにずれている気がするが――そっとしておこう。
「おじさんの提案なんだけど、どうせならトリニティの制服にしようよ。
そうすればヒフミちゃんの着替える手間も省けるし、もしトリニティに似た組織があったとしてもスケープゴートにできる。
捜査の初動で混乱させて、人手を分散させれば、多少は時間も稼げるよ」
「なるほどね。利点を挙げるなら、マーケットガードはトリニティに入りづらい。
犯行を押し付けるにしても、囮役にはうってつけだ」
先生の悪だくみは、ホシノとカヨコの助言でより具体的になり――
「それなら、それらしい名前も必要ですね☆ 先生、何かいい案はありますか?」
"大赤字強盗団なんてどうかな?"
「ヒフミちゃん、何かいい案はありますか?」
ノノミも勢いよく乗ってきて、先生にアイデアを求めたが、先生の意見を華麗に無視してヒフミを巻き込んだ。
スルーされた先生はその後ろで膝から崩れ落ちていた。
「えっ、えぇ……。そういえば時折話す知り合いが『ばに?』『ばーに?』『ばにー?』とか言っていました。よくわかりませんが、外の言葉っぽいですね…?」
そのぼんやりとしたアイデアをムツキが拾い、名前が決まった。
「じゃあ『ばにばにヘルメット団』で決まりね!」
"……なんで僕までトリニティの制服着せられてるの……?"
準備を終え、適当なトラックを盗んで銀行の近くに停車し、最終確認をしていた時だった。
女装させられた上にトリニティ制服を着せられた先生は、しょんぼりと肩を落とす。……にもかかわらず、意外と似合っていたのがまた悲しい。
全員がトリニティの制服に身を包み、うさ耳つきのフルフェイスヘルメットをかぶっている。
誰が誰だか一目ではわからない。完全に、ばにばにヘルメット団だ。うさ耳がついているのは、案の定というか何というか、「ばに」と「バニー」をかけた駄洒落らしい。
ヒフミはペロロリュックの持ち込みをごねたが、「証拠になりかねない」との判断で、泣く泣くトラックに置いていくこととなった。
「まぁまぁ、そんなこと気にしたら負けだよフラッシュ。おじさんなんて、ヘルメットにでっかいほくろ毛描かれてるんだからね」*2
銀行強盗に向けて、全員にはそれぞれコードネームが割り振られていた。
だが――そのセンスがひどい。
・先生→フラッシュ
・ユーリ→フラットライン
・ワカモ→ソックス
・ホシノ→シムラ
・シロコ→ブルー
・ノノミ→クリスティーナ
・セリカ→クルスガワ
・ヒフミ→ファウスト
・アル→プライド
・ムツキ→ラスト
・カヨコ→スロース
・ハルカ→ラース
数名分はユーリの案らしいが、どうして
というか先生よ、ホシノが“自称おじさん”だからって、“志村”はやりすぎじゃないか?
……いや、わざわざホシノのヘルメットにほくろ毛って、どんなセンスしてんの先生……
“変なおじさん”ネタとして完璧だとしても、やる相手間違ってない?*3
"フラットラインは自虐ネタにしては……結構えぐくない?"
「語尾に『ばにばに』を忘れてるよ、ばにばに♪」
そう――ユーリは、胸の薄さをネタにして、
……その潔さは立派と言うべきか、なんというか。
「それでは、
"それじゃあみんな、銀行を襲うよ! ばにばに!"
――その一言を皮切りに、空気が一変した。
最初に動いたのは、
事前に
ビルが震えるほどの爆音と共に、制圧戦の幕が上がった。
光と音を奪われたその瞬間、外部から飛び出した黒影たちが一斉に動き出す。
「GoGoGo!!」
攻撃班が先陣を切り、正面扉を銃撃で破壊。
なだれ込むように突入し、慌てて反撃に出ようとした警備員たちを次々に昏倒させていく。
制圧を確認すると、
不気味な白光が戻ったフロアに、
「全員動くな! ばにばにっ!」
「武器を捨てて伏せなさい! ばにばに!」
「言うこと聞かないとぶっ倒しますよ☆ ばにばに☆」
反応した銀行員が一人、思わず身を起こす。
その瞬間、
「ま、無駄なんだけどね。ばにばに。警備システムはさっき物理的に破壊したから、ばにばに」
内側で震える銀行員を見下ろすように睨みつけ、バッグをカウンター越しに放り投げる。
「金以上になる書類を詰めろ。早くしろ、ばにばに」
「ひぃっ、な、何でもします! 現金でも、金券でも、債k―――」
その瞬間――ユーリはすっとカウンターの上に乗り、淡々とした動作で立ち上がると、見下ろす角度から勢いよく足を振り下ろした。
小柄な少女の足が、悲鳴を上げかけた銀行員の顔面を真っすぐに蹴り抜いたのだ。
男がカウンターの内側で崩れ落ちる。
ユーリは視線すら落とさず、次の銀行員を無言で睨みつけていた。
「おい……ばにばに」
「ひ、ひぃっ!?」
「金になる書類はどこだ。……あと、こいつの処理も頼んだ、ばにばに」
「は、はいぃぃぃっ!!」
奇怪な語尾と徹底された武装。
“ばにばにヘルメット団”の名のもとに、前代未聞の銀行強襲が、着実に進行していた――。
こうして彼女たち“ばにばにヘルメット団”は、素早く目的を達成すると、間髪入れずに次の段階――撤収フェイズへと速やかに移行していった。
残された銀行員たちがようやく事態を飲み込んで「追え!」と叫ぼうとした、その直前――
殿として待機していた
トラックの荷台に全員が飛び乗ったのを確認すると、エンジンが轟音を上げて現場を離脱する。
「それではごきげんよう~☆ ばにばにー☆」
「さよならですっ、ばにばにっ!」
「これ、お土産ねー♪ ばにばに!」
別れ際の悪ノリとともに、
その直後、
爆音と煙が街中を揺らした。
あとは、封鎖網が完成する前に突破するだけ。
その背には、誰にも気づかれないまま、白く儚い“羽根”がふわりと揺れていた。
「前方、封鎖準備中。後方からも追撃」
冷静な声と同時に、前方で封鎖を図るマーケットガードに向けてユーリが射撃を開始。
荷台にいる仲間たちは火炎瓶や爆発物を投げつけ、迫る追跡車両を次々と撃破していく。
"封鎖地点突破確認。全員、降車して"
ブラックマーケットから十分に距離を取った場所で全員がトラックを降り、証拠隠滅のため、車両とヘルメットは容赦なく爆破処分された。
なお制服については、トリニティには専用の回収業者が存在する。クリーニング後、匿名で複数回・複数箇所へ配送すれば、表の流通に紛れて再利用されるのだ。
こうして彼女たちは、標的の機密文書と、ついでに様々な闇情報までをも入手した。
「うへぇ……これ本当に持ってて大丈夫? おじさん、心配だなぁ~」
「大丈夫大丈夫。そのうちヴェリタスに持ち込んで、拡散するから」
"……それはそれで大事になりそうだけど……まあ、相手の自業自得ってことで"
こうして一行は徒歩でアビドスへと戻ることにした。
近くもないが、遠すぎもしない。
何より、彼女たちにとってはその距離すらも笑い話のネタに過ぎない。
本日の一連の騒動を振り返りながら、彼女たちは今日もアビドスの校門へと歩いていく――。
アビドスに戻った彼女たちは、まず身支度を整え、手に入れた書類の詳細な確認に取りかかった。その結果、カイザーの黒い影は疑いようもなく“確定”だった。
しかも厄介なことに、関連企業や他の自治区に関わる黒い証拠も含まれていた。これらは巧妙に利用すれば、相手への強力な恫喝材料としても使えるものであった。
"予想はしていたけど……的中すると、やっぱり堪えるね"
「先生の話だけ聞くと、アビドスの問題に見えますけど……最悪、トリニティも関与している可能性がありますよね……?」
ヒフミは、カイザーが生徒会にスパイを潜り込ませ、キヴォトス征服の野望を持つという話を聞いた時、正直半信半疑だった。
だが、目の前にそれを裏付ける証拠が積み上げられているのを見て、あまりの規模の大きさに現実逃避したくなる気持ちを抑えきれなかった。
「ヒフミちゃん、これを見て」
ノノミが差し出した数枚の書類は、一部のトリニティ企業がカイザーと密接に繋がっていることを示す決定的な証拠だった。
ヒフミは、本気で逃げ出したい気持ちを抱えながらも、その現実の重さに押しつぶされそうになっていた。そんな彼女を見て、ホシノは静かに、しかし力強く助言を告げる。
「ヒフミちゃん……これを持ってトリニティの上層部に訴えても、意味はないと思う。通じることはまずないし、握りつぶされるか、そのどちらかだろうね。証拠の重みも、まだ決定的とは言えない。それより、中途半端に報告をしてしまうほうが、かえって身を危険に晒すことになると思う」
"アビドス関連の証拠はある程度揃っているけれど、それ以外となると難しい。せめて金庫室の書類が手に入れば、他の動きを誘発させられるはずなんだけど……"
そんな話の流れで、ムツキが一瞬場を和ませる“炎上覚悟”のアイデアをぽつりと提案した。
「それじゃ、匿名で温泉開発部に情報を流せば、全部解決だね」
しかしその発言が出た途端、アルとカヨコ、ハルカは顔色を変え、ドン引きの表情を浮かべる。ユーリは苦い顔をして唇を噛んだ。
"えっと……その温泉開発部って……? リアクションを見るに、やっぱりゲヘナの連中かな?"
「命以外は全部奪い取ってもいいくらいの存在」
「……ユーリの意見に賛成ね。あそこは問題児集団の中でも群を抜いてる」
ユーリとカヨコが口火を切ると、次々と関連情報が溢れ出した。
ゲヘナで一、二を争う問題児集団、七囚人の八人目・九人目、ゲヘナが産み落とした最悪のテロリスト……など、枚挙に暇がない。
「テロリストでさえも関わりを避けるほどの、破壊・撤去・採掘のエキスパート。
関わった土地は、無残な開発跡地になったり、更地にされることもあれば、立派な温泉施設として生まれ変わることもある。まさに生きた厄災集団。それが“温泉開発部”という連中よ」
アルの言葉で締めくくられた会話。その場にいた全員の心が一致していた。
だが、そう簡単に再び銀行強盗に踏み切ることはできなかった。ブラックマーケットの周辺では、すでにガードたちが探索活動に動いている。
しかも場合によっては、トリニティの捜査機関にも動きがある可能性が高かった。
書類の量次第では、車両を使った脱出も視野に入れなければならない。まさにまたしても、思わぬ難題を突き付けられていたのだ。
"(切り札であるユーリを安易に使うのは避けたい……。霊体化の力は確かに強力で汎用性も高いけれど、何度も簡単に使えるものではない。それに今回はヒフミが一緒にいる。彼女の目の前で存在をあらわにするのは、あまりにもリスクが大きい……)"
「しかし――先生に電流が走る…!」*5
"走ってません。ていうか、そのネタ、知ってんのかい"
「うん。完結済みの漫画なら、外部から出版権利を購入しているらしいよ。*6
今回は仕方ないケースだから、私が出る。万が一に備えて書類の量も確認済みだよ」
結局のところ、今回もユーリに頼らざるを得なかったことに先生はどこか不甲斐なさを感じていた。だが、そもそも予想以上に多くの証拠を集める状況を作ってしまったのだから、仕方のないこととも言えるのだった。
「それじゃムツキちゃん、明日情報提供をお願いね。私はこれから準備に向かうから」
「了解! 任せておいて。いってらっしゃーい」
ユーリが準備のため校舎を後にしたのを合図に、その日の集まりは解散となった。
ヒフミは後日また訪れる予定なので、アビドスの仲間たちが駅まで見送ってくれた。便利屋68の面々はその後、夕食の準備に取りかかる。
先生とワカモは今日はシャーレへは戻らず、借りている寮の空き部屋に一度荷物を置いてから、夕食の手伝いに向かうことにした。
翌日――まるで狙ったかのように、闇銀行が温泉開発部の襲撃を受けた。
それをきっかけに火事場泥棒たちが押し寄せ、預けられていた現金や貴重品が根こそぎ奪われることとなった。しかし、誰が重要書類を手に入れたのかは、いまだ不明だった。
リンクした楽曲
TRUTH~A Great Detective of Love~ ~from 名探偵コナン~
ある意味、今回の選曲は完全にネタ枠です。曲そのものはYouTubeオススメ欄に出てきて、TWO-MIXも知っていましたし、「コナン」の主題歌だというのも当然知っていました。
――知っていたからこそ使ったw
だって、事件を“解決する側”の主題歌で“犯罪”をやるって、あまりにも皮肉が効きすぎてて。
自分で思いついた時には、思わず爆笑してしまいました。頭おかしい(褒め言葉)
今回の話のタイトルの元ネタは、1992年にネオジオから出た『クイズ迷探偵NEO&GEO クイズ大捜査線パート2』です。うわ、古っ……。
間違いなく、作者と理解できる読者の年齢がバレるネタですね。
このタイトルが頭に浮かんだのは、「名探偵コナン」の曲を使うと決めたその時でした。
“名探偵”と“迷探偵”、読みは同じでも意味は違う。そして「名探偵コナン」自体も、なかなかストーリーが進展せず、“連載終了困難”という皮肉もバッチリ刺さる。
サンデーの大幅再編の時に、なんでコナンを終わらせなかったんだろう……。
他にも残しておくべき作品、あったはずなのに。
大赤字強盗団のネタ知ってる人いるかなぁ…初出は2013年と結構古いし。