Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
"いやぁ、あれはすごかったねぇ……書類の山で押し潰されるかと思ったよ"
「そうですわね……本当に、想像以上でしたわ……」
それは“闇銀行壊滅事件”が発生したその日のこと。
ブラックマーケットから戻ったユーリが持ち帰ったのは、後部座席を埋め尽くす大型バッグが複数あり、その中には無数の書類やファイル等が詰め込まれていた。
以降は、書類仕事ができる面々が総出で仕分け作業にあたり――内容を確認しつつ、情報拡散をヴェリタスに委託する分と、ヒフミに手渡す分とに選別していった。
現在、ヒフミはアビドスへと向かっており、シロコとノノミが迎えに駅まで出向いている。ユーリは早々にヴェリタスへと直行し、ホシノはというと――
疲労が溜まっていたのか、今朝から爆睡中だという。
一方、アクア小隊にはご褒美として、柴関ラーメンにご馳走へ行かせた。今回の件では、彼女たちも相応に頑張ってくれたのだから。
「しっかし……アビドスだけじゃないってのは、さすがにショックだよね。他の自治区も、あれだけ腐ってたなんて……。うちだけが異常だと思ってた分、余計にショックだよ」
他自治区の腐敗ぶりを知ってセリカが憂鬱になっていたので、先生はフォローを入れることにした。あくまで慰めではなく、彼女たちに「教育の意味」を考えさせるためでもある。
"子供の頃から悪事に染まったまま大人になると、簡単には立ち直れない。だからこそ教育が必要なんだ。未来の大人を育てること、それが今の大人の責任かもしれない"
「うん……私も、いつか卒業して、そして大人になる。今のうちにちゃんと勉強しておかないとね! それじゃ、そろそろバイトの時間だから行ってくる!」
セリカが前向きに立ち上がったその瞬間――突如、地響きのような轟音が町を揺らした。
時は少しさかのぼり、柴関ラーメンの店内。
「お、美味しい……本当に美味しい……!」
アルとハルカは感激のあまり、目に涙を浮かべつつラーメンをすする。
「大将、腕を上げたね! 味もスピードも前よりずっと良くなってるよ」
ムツキも、油断すると崩れそうになる笑顔を必死で抑えながら舌鼓を打った。
その言葉に柴大将は自慢の
「いやぁ、ユーリの嬢ちゃんにこの包丁を譲ってもらってからな。自分の腕が確実に上がったのがわかる。効率よく調理できるようになったんだ。
ただ、あの神技のチャーハンにはまだ遠いけどな」
カヨコも頷きながら、ユーリが作ったチャーハンのことを思い返していた。
今思い返しても明らかにあの若さで至れる技術ではない。
「ほんと、あのチャーハンは神業よ。瞬時に材料を細かく刻んで、鍋を絶妙なバランスで細かく速く振り続けるなんて……一体どうやってるのかしら…」
「ま、あの嬢ちゃんができて俺にできるわけないさ。精進あるのみだよ」
柴大将の凛々しい姿に、アルは思わず「かっこいい……ッ!」と胸が高鳴ったのだった。
「「「「ごちそうさまでしたー! また来まーす!」」」」
「おう、また来いよ!」
「いやー、本当に満足したよ。このままアビドスに転校しちゃおうかな? ゲヘナにいても、ただ暴れて馬鹿やるくらいしかメリットないし、口座も凍結されているからいる意味なさそうだし」
「駄目よムツキ。確かにアビドスは居心地いいけど、それだけじゃ理想のアウトローにはなれないわ。私は自由と混乱の渦中で颯爽と輝くアウトローになりたいの」
「ふーん、そういうことにしておこうかなー」
食後の帰り道、ムツキの問いかけにアルは答えたが、心は揺れ動いていた。そもそも自分が目指す理想のアウトロー像の意味さえ揺らぎ始めていた。
そんな中、ハルカがふと何かを見つけた。
「あ、アル様、あれ……」
「ちょっと待って、それって風紀委員の迫撃砲!? なんでアビドスにいるのよ!?」
アクア小隊こと便利屋68たちは、ゲヘナの風紀委員に目を付けられていた。
そして、武装した風紀委員たちが狙いを定めているのは――
気づいたアルはすぐさま近くの遮蔽物を探そうとしたが、周囲には閉店した店舗が立ち並び、さらに彼らの進路上には先ほどまで滞在していた柴関ラーメンの店があった。
「ああもうっ!! ちょっと大将に避難勧告してくるっ!!」
「ちょっとアルちゃん!?」
ほぼ無心で店舗に駆け込み、大将に報告しようとしたその直後――
轟音が響き、無数の砲弾が降り注いだ。
「爆発音!? いったいどこから?」
「少々お待ちください……これは砲撃部隊の攻撃です! 敵はさっきアクア小隊が出て行った柴関ラーメンの近くに展開しています!」
「ま、まさか……つまり、柴関ラーメンが攻撃されたってこと!?」
アヤネの報告に、セリカは言葉を失った。もし午前中からバイトに入っていたら、巻き込まれていたかもしれないという恐怖がよぎった。
"アヤネ、アクア小隊と連絡は取れているか?"
「いえ、まだ応答はありません……!」
アヤネの返答を聞き、先生はすぐに指示を出した。
"総員、第一種戦闘態勢に移行! ワカモはユーリに緊急連絡を取り、すぐに小隊を編成して即出撃! セリカも小隊を編成し、即座に出発! アヤネはホシノ、シロコ、ノノミに連絡を入れ、彼女たちの小隊を編成して待機!
残る部隊は半分を防衛に回し、残りはアヤネの指揮下で小隊を編成せよ!"
命令は明確かつ迅速に伝わり、校舎中に非常サイレンが鳴り響く。緊張に満ちた空気が一気に張り詰め、隊員たちは慌ただしく動き出した。
その慌ただしい動きの中、焦った表情でワカモが駆け寄ってくる。
「先生、ユーリさんに緊急連絡を入れたんですが……すぐに通話を切られてしまって。普段とはまるで違う様子で、とにかく急いで出発します」
"そうか……こちらもすぐに動く。時間がない"
ちょうどセリカは小隊をトラックに乗せて、現場に向かうべく準備を終えていた。先生とワカモもそれぞれの小隊をまとめ、すぐに出発の合図を送った。
二人の胸中には、言葉にはできないが確かな不安が重くのしかかっていた。何かが、いつもと違う──そんな嫌な予感が確実に現実のものとなりつつあったのだ。
柴関ラーメンだった場所は、今や無残な瓦礫の山と化していた。
ハルカとカヨコは懸命に倒壊した店舗の残骸を撤去しようと試みていたが、素手での作業には限界があり、何よりも風紀委員たちの砲撃が断続的に襲い掛かる。
ムツキが迎撃に回るものの、それは焼け石に水に等しく、三人は次第に疲弊し、ついには瓦礫の山の中で沈黙せざるを得なかった。
少し離れた場所で作戦を指揮していた前衛指揮官が現状報告を受け、部隊の前進を決定した。
「しかし、よろしいのでしょうか……アビドス側に何も言わず自治区内で戦闘なんて……」
「構わん、説明なんて不要だ。校則違反者たちを捕まえる労力が惜しい。仮にどうこう言ってきたら問答無用で叩き潰せば問題ない」
「もしそれが問題になったらどうするんですか……」
その時、風紀委員の中にはかつてシャーレ奪還戦で先生と共に戦ったチナツの姿があった。彼女は褐色肌のツインテールの少女に問い詰めている。
突然、偵察隊から緊急の報告が届く。
「報告です! 新たな敵影を確認しました!」
倒れた便利屋68たちの近くに、一人の銀髪の少女が黒い制服姿で佇んでいるというのだ。
ツインテールの少女は双眼鏡を手にし、目標をじっと見つめながらつぶやく。
「一体誰だ、あの銀髪で黒い制服の少女は……
キヴォトスの住人は、外の世界とは異なり、多様な髪色を持つ者が多い。金髪や銀髪はもちろん、赤や青、緑の髪も珍しくはない。
つまり、髪色だけで敵味方を判断することはできない。
しかし、なぜかチナツはその報告を聞いた瞬間、不吉な予感と共に深い恐怖を感じていた。
「……どうして」
ワカモからの緊急連絡を受けたユーリは、迷いなくドラゴン種へ一時転種し、その高速軌道を駆け抜けて辿り着いた。
かつて柴関ラーメンがあった場所は、今や無数の瓦礫の山と化していた。その前に倒れている三人の姿を見て、ユーリの胸は張り裂けそうになる。
アルがそこにいないことは明白だった。瓦礫の中に埋まっているに違いない。
倒れている三人は、救出に向かった直後に追撃を受けたのだろう。
「……どうして?」
便利屋68たちは確かにゲヘナの校則違反者であり、いつかはこうした危険な事態が起きることはある程度に予測していた。
だからこそ彼女たちはブラックマーケットに拠点を置き、身を隠していた。
「どうして……どうして……」
彼女たちが勝手に手出しされぬよう、勝手に行動されぬように、シャーレは庇護を与え、小隊の権利も与えていた。
「……何で? ……何で? ……何で? ……何で?」
なぜ、こんな悲劇が起こったのか。ユーリには全く理解できなかった。
冷静さは消え失せ、ユーリの胸の内を激しい怒りと混乱が激流のように駆け巡る。
「……あ、ああ。……やだ、やだ、死ぬの、やだ、やだ……やだ……死にたく、ない……」
目の前の光景が何度も何度も揺らぎ、過去の記憶や苦痛が断片的にフラッシュバックする。
ユーリは崩れ落ち、頭を抱えてもなお見定めた先にあるのは――
倒れ伏した便利屋68たちの姿と――
「あ……ああ……あああああああ―――
――――ああああああああああああああああああ!!!!」
硝煙と砂煙が立ち込める中、魂の叫びは轟音となって空にこだました。
「新手、こちらに接近中です!」
ツインテールの少女は、観測者の報告を即座に敵の接近と判断し、ためらいなく叩き潰せとの命令を下す。だがチナツはその安易な判断に眉をひそめ、異論を唱えようとした矢先だった。
突如轟音が響き渡り、近くで報告していた観測者が勢いよく吹き飛ばされた。
煙と砂塵が舞い上がる中、その場には血塗れで、まるで血の涙を流しているかのような少女が膝をつき、嗚咽を漏らしていた。
常識の枠を超えたその存在に反応できた風紀委員は数名に過ぎず、彼らの戸惑いと恐怖の反応は、逆に状況を悪化させることとなる。
「――――ああああああああああああああああああ!!!!」
少女は力強く無造作に周囲の風紀委員を掴み上げると、まるで使い古しのゴミのように迫撃砲の砲身へと叩きつける。迫撃砲を破壊し風紀委員を蹂躙し、異様な力で敵を粉砕していくその光景は、まさに狂気の暴走そのものだった。
手足が不自然な方向へと折れ、血反吐を吐き倒れる者。
破壊された迫撃砲の破片に巻き込まれる者。
建物の壁に叩きつけられ、呻き声を上げる者。
刻一刻と増えていく重傷者の惨状に、現場はもはや修羅場と化していた。
そこはまさに、絶望の淵だった。
瓦礫と血煙が立ち込める中、痛ましい叫び声が響き渡る。
「なっ…な…なんだよ、これ…!」
「――――ああああああああああああああああああ!!!!」
叫びを上げたのは、血の涙を流しながら我武者羅に暴れ狂う少女だった。
少女が後方部隊へ攻撃を仕掛けたことで、運良くツインテールの少女は難を逃れた。
しかし、現場の惨状は悪化の一途をたどっていた。
刻々と増す重傷者、砕け散る武器、崩れゆく建物。
空気は悲鳴と怒号に満ち、まさに地獄のような光景が広がっていた。
「ユーリ、さん…?」
周囲の負傷者の中で、唯一ユーリを知るチナツだけが恐怖に押し潰されながらも冷静に現状を把握していた。辺りはまさに死屍累々と言うべき惨状で、負傷者ばかりが倒れている。
救護班の到着を望むも、人手は圧倒的に足りず、さらには救護班自身までもが攻撃の対象となっていた。これ以上犠牲者を出さぬためにも、最悪の死者発生も覚悟しなければならなかった。
「イオリ、なりふり構ってられません。私は救急医学部に連絡します」
「まっ、待て! 今そんなことしたらセナ先輩に何言われるか―――」
「イオリは解っていません!! 今この惨状を作っているのは暴走している『
イオリと呼ばれたツインテールの少女はようやく気付いた。ゲヘナでも悪名高い『
その間にチナツは電話で緊急連絡を行っているが、悪化している状況に焦っていた。
(周囲を軽く見る限りトリアージはほぼ赤色…! 運よく黄色もいるけど、負傷者が生まれるペースがあまりにも早すぎる…! 最悪、黒が必要になる可能性も…!)*1
幸か不幸か、ユーリはまだ武器を使っていない。だが、そうであってこの有様なのだ。
逆に言えば――武器など使う必要が無いのだろう。
今の彼女にとっては、素手で十分すぎる。この惨状は、その事実を何より雄弁に物語っている。
つまり、ユーリは――素手でキヴォトスの人間を殺せる。
その“可能性”ではなく、“現実”として。
「とにかくイオリ、撤退命令を出しなさい。死者が出るま――――――」
その言葉が終わるよりも早く、チナツの体が激しく吹き飛ばされた。
ユーリの放った蹴りは、容赦のない弾丸のようにチナツの腹部を捉え、空気を裂いて彼女の身体を建物に叩きつけられた。
崩れ落ちて鈍く湿った音と共に、彼女の後頭部が地面に打ちつけられた。動きは止まり、ゆっくりと血の染みが広がっていく。
「ち、チナツ……!? う、あ、あああああああっ!!」
イオリは絶叫しながら、手にした愛銃を乱射した。
だが――命中した弾丸が、相手の動きを止めることはなかった。
理性を吹き飛ばす激情に突き動かされ、ユーリは涙と血で濡れた顔のまま、呻き声を漏らしながら地を踏みしめていた。
そして、腕を振りかぶった次の瞬間――鉄塊のように重い拳がイオリの胸にめり込んだ。
「がはっ……!!」
肺を圧迫されたのか、喉から血が噴き出す。
まるで砲弾のような勢いと共に吹き飛ばされたと理解した時には、轟音と共に建物に叩きつけられ、跳ね返されて地面に叩きつけられたイオリは、朦朧としていた。
(息が……できない……多分、肺を……潰された……)
キヴォトスの人間としては強靭な肉体を持つ彼女でさえ、一撃でこの有様だった。
外の世界の人間であれば、今の一撃で即死していてもおかしくない。いや、壁に叩きつけられた時点で、原形をとどめているのかさえ怪しい。
意識を失う前、イオリの瞳に焼きついたのは――
血の涙と返り血に染まったまま、ひとり嘆き叫び続ける、少女の姿だった。
『戦闘、終了……ユーリさんの、圧勝です。ですが……』
"こちらも今到着した…だけど、あれは一体……"
「……仮に暴走しているのなら、私が食い止めます。
セリカさんは小隊と共に救助を最優先。救助が完了したら、隙を見て小隊を率いて攻撃。あなた様はアクア小隊の救助を最優先してください」
『こちらの分隊は先生の救助支援をお願いします。もし攻撃が飛んできた場合は防御を優先し、安全確認が取れ次第、全員降車してください』
風紀委員が壊滅してからほどなく、アビドスの面々がようやく現地に到着した。
だが、目の前に広がる光景は、もはや「戦場」などという言葉では到底語れない。
破壊され尽くした迫撃砲や兵器の残骸。地面に倒れ伏したまま動けない重傷者たち。
息も絶え絶えの風紀委員が散らばるその場所は、まるで地獄そのものだった。
そして、その惨状の中心で、ひときわ異様な存在感を放っていたのは――
血の涙を流し、返り血に真っ赤に染まりながらも、慟哭をあげ続ける一人の少女。
まるで世界に拒絶されるかのように、彼女の嗚咽は周囲の音を呑み込んでいた
ワカモはその姿を見据えながら、スマホを取り出して呟いた。
「……ロードアウト、セット」
それと同時に、制服がアビドス高等学校の制服から、いつもの着物を模した制服へと変化する。
「ユーリさん……」
願いを込めたその呼びかけに、返ってきたのは言葉ではなかった。
嗚咽。喉を裂くような、悲鳴にも似た慟哭。それは、感情を制御できなくなった誰かが、ただ自分の内側を引き裂かれているだけの声だった。
ワカモは地を蹴った。修羅と化した少女を――ユーリを止めるために。
リンクした楽曲
THE BEAST Ⅱ ~from 新世紀エヴァンゲリオン~
元々、プロットで「主人公が暴走する時がある」と決めていたので、暴走シーンには間違いなくこの曲しかないと最初から決めていました。
タイトルはかなり迷いました。最初はエヴァンゲリオン関連のタイトルや曲名を探していたのですが、最終的にR18PCゲームブランド「スタジオメビウス」から発売した『悪夢 -青い果実の散花-』から拝借しました(メビウス暗黒BOXは色々な理由で手が出ませんでした)
また、このために便利屋68の面々はあらかじめ仲間に引き入れておきました。
原作通りに進めると、ユーリはトラウマ暴走で絶対に四人殺しちゃう未来しか見えなかったので。やらかしとは言え、そんな未来は避けたいですからね。
ちなみにアコはあまりにも無残な惨状を目の当たりにし、死人が出たと思い込んでトイレで吐いています。同じ部屋の風紀委員もショックで吐いたり、気絶したりしています。