Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
ユーリの暴走。そしてゲヘナ風紀委員会壊滅の翌日。
先生、アヤネ、セリカの三人は見舞いの為にアビドスの病院へと向かっていた。
しかし病室には、すでに退院準備を終えた親衛隊の二人――ユーリとワカモ。
そして
「えっ……大将? もうそんなに回復してるの? 本当に大丈夫なの?」
セリカの驚きは無理もなかった。何せ彼は、アルと共に生き埋めになっていたのだ。
せいぜい一週間ほどの入院を覚悟していたに違いない。
「意外と大丈夫だったんだ。あのアルちゃんが切磋をかばってくれたおかげもあるが、目覚めたユーリちゃんの治療が的確かつ効果抜群でね。
この通り、一日寝ただけで全員がすっかり回復したよ」
アヤネとセリカは、またもや思う。――また
まあ実際、僧侶系の「白魔法」と医者系の使う「医術」の合わせ技によるものだ。
どちらも攻撃に転用は可能だが、本分は回復と補助。命に関わる魔法と技術である。
最上級職のスキルを使えば、一日での回復など造作も無い。
「再度敵対するのはもう勘弁ね……頼むからもう暴走しないで……」
そう呟いたアルの表情は、まるで心底疲れ果てたように見えた。
その呟きは、まさしくこの場にいる誰もが抱える共通の思いだったのだ。
「ごめんね……トラウマが急に蘇っちゃって……気がついたら、もう病院のベッドの上だった」
ユーリは詳細を濁したが、その言葉だけで一個大隊を壊滅させるほどの暴走を説明できるはずもなかった。つまり、それに匹敵する何か――もっと根深い理由が確かに存在していたのだ。
先生とワカモは、ユーリからある程度話を聞いていた。だからこそ、その背景を把握している。
だが他の面々には、それがどれほど凄まじく重い過去なのか想像もつかない。
重い空気を変えようと、セリカは無理に明るさを作る。
彼女は柴大将の隣に近づき、明るく声をかける。
「後はお店を再建するだけね、大将」
しかし返ってきたのは、意外な言葉だった。
「いや、店をたたむ予定が早くなっただけだ。ちょっと前から退去通知を受け取っていてな」
「え? ちょっと待って。そんな話、全く知らなかったんだけど?」
話を整理するとこうだ。
アビドス自治区は借金の返済が滞り、土地や建物の所有権はすでにカイザーコーポレーションへ移っていた。その事実をアヤネもセリカも知らなかった。
事態の全貌を掴むため、現地へ調査に向かうことが決まる。
"とりあえず、全員退院するとして……大将はこれからどうするつもり?"
「うーん……店を畳んだあとのことは、正直まだ何も考えてなかったんだよなぁ」
"それなら少しの間、アビドス高校の食堂で働いてくれないかな? 生徒数が増えて作り手が足りなくてさ。最悪ユーリがヘルプに入っているけど、いつまでも頼るわけにもいかない"
「なるほど、その話なら喜んで引き受けるぜ。ついでに、ユーリの嬢ちゃんから技術を盗めるいい機会でもあるしな」
その言葉に場の空気が一気に明るくなった。
するとユーリは、不敵な笑みを浮かべてこう告げる。
「それじゃあ――キヴォトスの人間を味で殺せる腕前まで上げるしかないね」
「はっはっは! よろしく頼むぜ嬢ちゃん!」
だが先生は内心で思う。
(味で殺すって、本気でやりかねないな……)
その懸念もあって、先生はユーリに軽く釘を刺す。
"ユーリ、やりすぎて本当に味だけで死人が出ないようにね?"
「大丈夫だよ、やりすぎても料理漫画みたいな表現になるだけだから」
実際ユーリは、『天使をも魅了する味』という
これらを柴大将に覚えさせれば、多くの人間は味だけで幸せになってしまうに違いない。
"駄目。『解せぬ』じゃなくて『駄目』だからね"
それはそれで洒落にならないので、しっかり止めるしかなかった。
料理を食べたあとに服が脱げたり、目や口からビームを撃ったり、巨大化したり背景が変わったりするのは、外から見ても完全に異常だからだ。
しかも料理漫画みたいな表現となると、その後何事も無かったように元に戻るのだろう。
そんなやり取りをしているうちに全員の退院準備が整い、そのまま学校へ戻ることになった。
校門の前では、ノノミが掃除をしていた。
こちらに気づくと、ぱっと笑顔を輝かせて出迎えてくれる。
「あれ? 先生、皆さんもう退院されたんですか?」
"うん。ユーリの治療が効果てきめんで、あっという間に全員回復した"
ノノミは少し眉をひそめて問いかける。
「でも、それ以外に何か問題があったんですか? 一緒に行ったはずのセリカちゃんとアヤネちゃんがいないってことは、何か理由があるのかなって」
"その辺りは後でちゃんと話すよ。今はまだ整理しないといけないことがあってね。それと大将もここでしばらくお世話になることになったから、よろしく"
「わぁ☆ 大将が食堂に来てくれるなんてすごいですね! これでみんなきっと喜びますね☆」
とりあえず一同が学校に入ろうとしたその時、自転車に乗ったシロコが颯爽とやって来た。
一同と軽く挨拶を交わすと、真っ先にホシノの居場所を尋ね、そのまま校舎へ入っていく。
しかし、何とも説明し難い違和感がその場を包んだ。皆は顔を見合わせ、自然とその後を追うように学校へ足を踏み入れる。
校内で二人の姿を探していると、突然大きな音が響いた。
慌てて音のした教室へ駆けつける。そこには剣呑な空気の中、ホシノを問い詰めるシロコと、のらりくらりと言い逃れを試みるホシノの姿があった。
教室を出ようとするホシノに、ユーリはじっと視線を合わせる。だがホシノは無言のまま立ち去っていった。ユーリはその背中を見つめながら、素早く先生に耳打ちをした。
(今、快楽系の瞳術を仕掛けたけど、かなり強い
その報告に、先生も困惑の色を隠せなかった。
キヴォトス全土の生徒たちは、概ね人間と天使の転種ルートにあたる種族因子を持っている。
それ以外にも、ユーリの報告で確認できているのは妖魔・亜人・エルフ・魔獣・妖狐の五種類。
さらに、ユーリが闇銀行に潜入した際に使ったゴースト。
そして初めてアビドスへ赴く際に教えてもらった“飛べる種族”――
だが、ホシノの種族因子にゾンビ系列が含まれていたのは、あまりにも予想外だった。
先生とユーリが困惑している間に、シロコは何事もなかったかのように教室を後にして対策委員会室へ向かっていた。残されたノノミは、ため息を一つつき、弱音を漏らした。
それを聞いたワカモは明るく声をかけ、場の空気を和らげようとした。
「大丈夫ですよ、ノノミさん。いざとなればカイザーなんてまとめて潰せばいいんです。そうすれば借金なんて無かったことになります。完璧でしょ?」
その言葉にユーリはうんうんと頷き、ノノミは乾いた笑いを返した。
その様子を見て、先生は小さく呟いた。
"それ最終手段だから……しかも脳筋思考……"
対策委員会室の扉を開けると、中には険しい空気が流れていた。
何かを問い詰めようとするシロコと、それを徹底的に無視するホシノ。
そんな異様な空気の中へ、先ほど別行動を取っていたセリカとアヤネが駆け込んできた。
二人が持ち帰ったのは、アビドス自治区の土地台帳――いわゆる「地籍図」と呼ばれる重要書類だった。その内容に、一同は愕然とする。
自治区内の広大な土地の大半が、すでにカイザーコーポレーション名義になっていたのだ。
"……やっぱり、カイザーグループか"
呟いた先生の声が、部屋の緊張をいっそう深める。
現在アビドスが所有しているのは、今いる校舎とそのごく周辺のみ。
そして問題の土地を売却していたのは、かつてのアビドス生徒会だった。
なぜ彼らはこんな愚行を犯したのか。売らざるを得なかったのか。
それとも――売るよう仕向けられたのか。
――ホシノ、最後の生徒会役員。
彼女の口から語られたのは、苦しみに満ちた独白だった。
すべてを背負いながら何も語れなかった少女の、せめてもの答え。
それを静かに聞き終えた先生が、口を開いた。
"これは推測だけど……土地を売った過去の役員も、生徒会長の職を押し付けた人間も最初からカイザーのスパイだった可能性がある。
もしその後カイザー系列の部署に進んでいたなら、限りなく黒に近い。
……あるいは利用され、用済みになって口封じに始末されたかもしれない"
場に、再び重い沈黙が落ちた。
そんな中、アルが疑問を口にする。
「でもさ……カイザーが世界征服の足掛かりにアビドスを選ぶ理由って何? 正直この辺りって砂漠しかないし、軍事基地を作るには目立ちすぎる場所でしょ?
資源もないし交通の要所でもない。一体何の得があるのかしら?」
先生はうなずき、ヒナから聞いていた情報を静かに共有する。
この砂漠地帯でカイザーが何らかの大規模計画を進めているという事実を。
「……だったら、私たちで実際に現地を確認してみようよ!」
唐突にセリカが前のめりに提案する。
だが普段アルといい勝負のぽんこつムーブのせいで、室内は微妙な沈黙に包まれた。
「な、なによこの雰囲気!? 私がまともな事を言ったらおかしい訳!?」
その言葉に一同は条件反射で“
それを見て、先生は深く息を吸い、全体に向けて静かに命じた。
"これから僕たちはカイザーの支配地域に潜入し、真偽を確かめる。作戦行動を開始する。
オペレーターはアヤネ。第一小隊はアビドス対策委員会。第二小隊はアクア小隊。第三小隊、及び前衛指揮官として僕とキュベレーが随伴する。
移動手段はトラック二台。途中で一台を万が一に備えて後方へ残し、残る一台で突入する。
その他の生徒たちは、学校および周辺地域の警戒と防衛に回ってもらう。
――総員、第三種戦闘配置"
その
すべてはアビドスとキヴォトスを守るために。
「先生、二人とも。準備中だけど相談事」
作戦準備で慌ただしく動いていた中、シロコの真剣な声に呼ばれた三人は、近くの空き教室に入った。扉を閉めると、シロコは迷いのない手つきで一枚の封筒を取り出した。
"……これは"
封筒の表には、簡潔にして衝撃的な文字が記されていた。
"なっ……どうして、君がこれを?"
先生が目を見開いて尋ねると、シロコは少し唇を噛み、ためらいがちに答えた。
シロコは前々からホシノの行動に不安を感じ、鞄を調べたら出て来たとの事。
ユーリが封筒を手に取ると、その手のひらの上で封筒がふわりと赤い炎に包まれた。
炎はゆらゆらと揺れながらも、燃え盛る熱を放ち、そしてユーリはそれを強く握り潰した。
封筒は赤い炎とともに砕け散り、握った手の中で灰となって消え去った。
「……みんなもう気づいてるよね。ホシノちゃんは、何かを隠してる。そして――自分ひとりで、全部終わらせようとしてる」
静かな声の中に、怒りに近い感情が込められていた。
「でもそんなの、ただの自己満足だよ。誰かのために自分を切り捨てるなんて――そんな自己犠牲、私は絶対に認めない」
「そんなの、そんなの認めない!」
声を荒げてそう叫んだのは、真っ先にシロコだった。
その瞳には、強い怒りと悲しみが浮かんでいる。
"……そうだね。助けに来たのに、拒絶されて――その上何もできなかったなんて……僕だって、そんな結末だけは絶対に認めない"
先生が静かに言葉を重ねる。
「狂わない限り、孤独とは耐え難いものですわ。そんな狂気に囚われて、ひとりで壊れていくなんて……私も、そんなのは見たくないありません」
ワカモの声音にも、はっきりと怒りが滲んでいた。
――もう誰も、ひとりで終わらせたりなんかさせない。
教室にいた全員の瞳に、確かな決意の光が宿った。
「シロコちゃん。ホシノちゃんを見ておいて。何かあったら……止めて。どんな手を使ってでも」
そう言ってシロコの肩に手を置いたユーリの表情が、どこか張りつめていることに先生は気づいていた。その違和感は、教室を出た後に先生が問いただしたことで、もう一つの“とんでもない事実”を明らかにすることになる――
「彼女の転種ルートに、ゴースト系列があるなんて……どうなってるの、アビドス高校……。ゾンビだけでも充分異常なのに……」
ユーリが呟くと、先生がすぐに質問を返した。
"と、等級は?"
「まだ一般種だよ。あとはいつも通り、人間と天使、それに魔獣があるよ。人間と魔獣をマスターしていたから、魔獣は上級種のスピードビーストにしておいたよ。状態異常耐性といくつかの属性には弱いけどね」*3
三人は思わず額に手を当てた。ゾンビもゴーストも、基本的には死体や死者に由来する存在だ。
そんな種族因子を持つ生徒がいる高校など、キヴォトス全土を見渡しても聞いたことはない。
“珍しい”どころの話ではない。存在の噂すらなく、仮にあったとしてもせいぜい怪談や都市伝説レベル――そんな領域の話だ。
ユーリは特殊な異種族間転種の能力を持ち、それは自分以外の他者にも施すことができる。だが、転種を行うにはまず前提として一般種をマスターしている必要がある。
例えば、人間からゾンビに転種する際は、人間→亜人→ゾンビの順番を踏む。ゴーストの場合はさらに長く、人間→
"ほ、他のみんなは大丈夫だよ、ね?"
「見たままを言うと、セリカちゃんは魔獣、アヤネちゃんはエルフ、アルちゃんとカヨコちゃんは妖魔。怪しいのはムツキちゃんが淫魔、ノノミちゃんが巨人かな?」
「巨人って……ああ、そういうことかしら。確かに一部分だけ巨人ですわね」
"それは巨人じゃなくて巨乳の間違いでしょ……って、巨人って種族まであるのか!?"
重くなった空気を変えるためにユーリがボケると、ワカモも続け、先生がツッコミを入れた。もし本当にノノミに巨人の種族因子があったら、まさに人外魔境である。
ただ先生は、一人だけそうかもしれない人物を思い浮かべていた――*4
"まぁ、とりあえず……この先、戦闘が激化する可能性もあるから、可能な限り全員を上の段階に引き上げておくしかないな。念には念を入れて、万全にしておきたい"
「それなら先生も、既に人間をマスターしているはずだよ。
たぶん、あの時暴走した私を止めた分の経験値が入ってる」
もしユーリの言葉が正しければ、あの一戦は意図せず全体の戦力強化につながったということになる。誰にとっても最悪の出来事だったが、それでも“怪我の功名”という結果が残ったのだ。
"確か……人間から派生するのが、触手を操る『ワームサマナー』と、闇の力を宿す『魔人』だったよね? それぞれの条件、今一度確認しておきたいんだけど"
「うん。まずワームサマナーは、魔力生命体――つまり“神秘”の手で調整された触手を体内に取り込むことが条件。でも、そこは全部私が
そう言いながらユーリは軽くウィンクをした。まるで「安心して任せて」と言わんばかりだ。
「そしてもう一つの魔人は、妖魔系・亜人系・吸血鬼系――この三系列の中でも、指定された“最上級種族”をすべてマスターしている必要がある。これはちょっと大変かもね」*5
"それは……魔人って、前提条件がかなり厳しいんだね。今は全体の底上げを優先したいし、別の種族への転種よりも、ワームサマナーの方が良さそうかな"
その判断にユーリはうなずき、先生はその場で人間系上級種――ワームサマナーへと転種した。
意識を集中すると、先生の右腕は肘から先がぬめるように蠢き始め、筋繊維がねじれるような動きを経て、大小さまざまな触手の束へと変貌を遂げた。
まるで生き物そのもののように、それぞれの触手は微かに震え、呼吸をするように膨張と収縮を繰り返している――その光景に空気が一瞬凍りついた。
先生はそれらを一本ずつ動かし、形状を変えたり巻きつかせたりといったテストを一通りこなすと、再び腕を元の人間の形に戻した。
それを見ていたワカモは、ほんの少しだけ後ずさっていた。
"……これは想像以上だな。触手一本一本が独立して制御できるうえに、変形箇所の自由度も高い。展開速度も悪くないし、制圧・拘束・牽制の用途に即応できる。
今は筋力依存だが、鍛えれば高所への立体展開や複数目標への同時干渉も視野に入る。戦術級の柔軟戦力として、十分に戦場に投入できる性能だ"
「一応、触覚だけじゃなくて、味覚と嗅覚もちゃんとあるよ。必要に応じて
(……とはいえ、“捕食系”のスキルだけは情報ごと封印した方がいいわね)*6
"なるほど……って、味覚と嗅覚ってことは、それ経由で“食べる”こともできるの? 臓器の構造とかどうなってるんだろう……
「ううん、あれとはちょっと違うよ。こっちは“非実在器官”っていう感じ。神秘の技術で一時的に臓器を構築して、触手の根元から胃まで直通する構造にしてるの。だから、暴飲暴食すればちゃんと胃も破裂するし、消化器官にもダメージは入る。変な物は絶対に食べないでね」
"わかった、気をつけるよ……いや、ほんと気をつけるよ。で、そろそろみんなの準備も整ってきた頃かな。こっちも急がないとね"
予定外の転種テストに少し時間は取られたが、それもまた必要な確認だったと、三人は互いにうなずき合い、校庭へと向かった。そこには出発準備を整えたトラックが待機していた。
この作品でホシノにゾンビ系列、シロコにゴースト系列の種族因子を持たせているのには、しっかりとした理由があります。物語の展開や設定上の必然としての選択ですので、その点ご理解いただければ幸いです。
また、本作では「捕食」描写は一切登場しません。あれは扱いが非常に難しく、出すと作品がR18G指定になってしまうためです。私自身の作風とは合わないため、本作では扱う予定はありません。
さらに、世間一般で忌避されやすい要素(リョナや停止状態等の異常嗜好など)も本作には含まれておらず、本作では扱う予定はありません。
おもらしやおしっこは理解していますが、大きい方については、作品中では可能な限り控える方向で進めています。とはいえ、あまりにも過酷な状況や恐怖描写が必要な場合には、描写が踏み込んだものになる可能性もありますが、計画に含まれていることをご了承ください。
今後も安心してお楽しみいただけるよう、こうした線引きはしっかりと守っていくつもりです。
本話のタイトル「