Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
二台のトラックは、砂に埋もれた街中を抜け、広大な砂漠へと向かっていた。砂漠に差し掛かろうとしたその時、アヤネから通信が入る。
話を聞くと、この地域は砂に埋もれる以前から危険な場所で、普段から暴走したドローンやロボットが徘徊しているらしい。
一同が戦闘準備をしている中、ふとセリカが口を開いた。それは、なぜゲヘナの風紀委員長がアビドスの情報を持っていたのか、ということだった。
その問いに対しては、単純に情報収集能力の差が理由だろう。
人数が百人近くに膨れ上がったとはいえ、以前のアビドスは、わずか五人しかいなかった。
しかも、風紀委員会はゲヘナでも屈指の精鋭組織だ。
情報収集や諜報活動も日常の任務に含まれている以上、アビドス周辺の情報を、気づかれないうちに抜き取っていたとしても何ら不思議ではない。
……とはいえ、あの不幸な事故でユーリの手によって、しばらく壊滅状態となってしまった。だが、退院した者たちは間もなく戻ってくるだろう。
アヤネはゲヘナの襲撃に疑問を抱き、機会があれば詳しい情報を探ろうと考え始めていた。
どんなに考えても、確証を得るには直接現場を確認するほかないのだから。
途中、暴徒の一団が群がってきたが、ユーリが一歩前に出たのを見た瞬間、連中は蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
どうやらブラックマーケットやゲヘナ周辺から流れてきた輩らしい。
アビドス組もアクア小隊も、その反応には怪訝そうな顔を浮かべていたが、実際に敵に回した際の“恐怖”を体験した者としては、納得せざるを得なかった。
やがて一同は、砂漠に差しかかる手前でトラックの一台を建物の陰に停めた。
万一に備えて発信機を仕込み、さらにユーリ直筆の警告文も残した。
それを盗もうとする者がいれば、次に目覚める場所は病院のベッドか、それとも……。
残りの一台に乗り込む際、ホシノがふと思い出したように口を開いた。
「昔ね、この辺には“湖”って言ってもいいくらいの大きなオアシスがあったんだって。観光地としても有名だったらしいよ」
それは彼女たちが生まれる遥か以前の話。あまりにも巨大なそのオアシスは、ただの水源地にとどまらず、かつてはこの地域の誇りとも言える存在だったという。
まだ道のりは長い。
一同は再びトラックに乗り込み、警戒を強めながら砂漠地帯を進みはじめた。
ユーリは何も言わずにトラックの屋根へと跳び乗り、前方警戒のために身を伏せる。
彼女の視線は常に砂嵐の向こうを見据えていた。
走行中、何体かの暴走ロボットやドローンが進路を塞ごうと現れたが――
そのたびにユーリが素早く反応し、トラックから跳躍しては敵機に斬撃を浴びせていく。
まさに“狩り”だった。
金属音と舞い上がる砂、そして残骸が、彼女の通った軌跡を物語っている。
しばらく進むと、アヤネから通信が入った。
「前方に大きな構造物があるようですが、砂埃がひどくて映像が不鮮明です」
一同は安全を優先し、トラックを一度停車させて降車する。
だが、肉眼でもその全容は確認できなかった。
ただ、砂嵐の向こうで、確かに“何かがある”――その気配だけは、確かに感じられた。
"ユーリ、偵察行ける? 何か確認できたら、緊急時以外は自己判断で頼む"
先生は、最も信頼を置く戦力に静かに命を下す。
そして誰にも聞かれないよう、ユーリの耳元でさらに低く指示を付け加えた。
"僕たちの存在がカイザーに発見された時、奴らは必ず過剰なリアクションを返してくるはず。だから、よほどのことがない限りは直接の接触を避けて。
今後こちらが有利になるように立ち回ってほしい"
――つまり、自分たちを囮に使うということだ。
その覚悟を読み取ったユーリは、一瞬だけ表情を引き締め、すぐにワカモへと視線を送った。
二人の間に言葉は要らない。小さな頷き一つで意思は通じ合った。
そして次の瞬間、ユーリは砂塵を切り裂くように地を蹴り、疾風のような加速で前方へと駆け出した。跳躍した彼女の姿は、「屍技:霊体化」によって半透明の輪郭だけを数秒間視界に残し、やがて砂嵐の中へと音もなく溶けていった。
その様子を見届けながら、先生は改めて実感していた。
――霊体化、異種族間転種による強化。そして、何より彼女自身の判断力。
"(やっぱり、ユーリ関連の能力は……恐ろしく便利だな)"
"今、ユーリを先行させた。僕たちも前進するよ。
それと――万が一の場合は、ユーリとワカモを即時後退させて隠す。
二人はこの作戦における最重要戦力だ。敵にその存在を察知された瞬間、こちらの優位が崩れる。使うのは勝負を決める一瞬だけだ。だから安心して"
先生の静かだが明確な指示に、一同は無言で頷き、再びトラックへと乗り込んだ。エンジン音とともにトラックが砂地を走り抜け、やがて砂嵐を抜けたその先に――それはあった。
視界の先に現れたのは、砂漠のど真ん中に建てられたとは思えないほど巨大で重厚な複合施設。まるで軍事要塞か、あるいは研究都市のようにも見える。
その威圧的な姿に誰もが息を呑んだ瞬間――
――銃声。
警告射撃などではない。明らかにこちらを狙い撃つ、正確無比な攻撃だった。
施設からは装甲をまとったロボット兵が次々と出撃し、迎撃態勢に入る。こちらもすぐさま応戦へと切り替わった。
だが、アビドス組にアクア小隊、そして指揮を執る先生とワカモの布陣で、怯む理由などない。
ノノミ、シロコ、セリカ、ムツキが形成する前衛の火線が敵の進行を封じ、後方ではワカモとアルが精密射撃で次々にロボット兵を撃ち落としていく。
接近を許したとしても、ホシノ、カヨコ、ハルカがショットガンとハンドガンを駆使して、正確に敵の急所を撃ち抜いていく。
だが――この時、ワカモとアルは異変に気づいていた。
(……首が、飛んでる)
(今撃とうとしたやつ、もう倒されてる。気配だけは残ってるけど、誰も見てない……?)
そう、それは味方の誰もが手を出す前に、既に“狩られて”いた。
いつの間にか霊体化していたユーリは、気配すら感じさせずに敵陣へと先行し、音も無く背後を取り――そして、迷いなく急所を突き、静かに、確実に仕留めていた。
(……躊躇いなく首を刈るその精度。さすがですわね)
(卑怯を通り越して、もうホラーでしょ……見えないってだけで、余計に怖いわよ)
霊体化したユーリの気配は、わずかな殺気と残留思念でしか察知できない。
視界に入らず、音も無く、そして痕跡も残さない。
この時点で、すでに“異世界の暗殺者”と評されてもおかしくなかった。
攻撃がひと段落し、警戒態勢が解かれ始めたその時――ホシノとアヤネが、施設外壁の一部に印刷されたロゴマークを発見した。
それは、カイザーPMCのエンブレム。カイザーグループの中でも、とりわけ武装組織として知られる
その意味を理解した瞬間、基地全体に緊急警報が鳴り響く。サイレンと共に格納庫の扉が開き、軍用ヘリや装甲車が次々と展開。アヤネの悲鳴じみた警告が響く。
"包囲される! 全員撤退準備!"
即座に一同は脱出用のトラックへと向かうが、機銃掃射で無残に吹き飛ばされた車両を見た次の瞬間、全員が凍りつく。逃走経路が潰された。
だが、その時ワカモは迷いなく動いていた。予め伝えられていた「非常時の対応」――切り札であるワカモとユーリの存在は、決して敵に知られてはならない。
だからこそワカモは身を潜め、誰の目にも触れぬよう静かに基地の奥深くへと潜入していった。まるで影の如く、その存在も気配も消し去りながら。
包囲網が張り巡らされる中、インカムから緊迫した報告が届いた。
『こちら
『こちら
ワカモが狙撃地点から確認したのは明らかに普通ではない装甲車両。確認のためにアヤネに通信を入れるが、返って来たのはノイズしかなかった。
恐らく先生達の方でも通信は不可能だろう。
『アヤネちゃん……通信がジャミングされている。相手も本気のようだね』
『……なぜジャミング下でも通じるのですか? あなたの通信方法は?』
(言えるわけないよね。カイラル通信に着想を得て、神秘を使った
『それより何が起きた? こちらはそろそろデータ抜き出しも終わる。爆薬のセットに入るけど』
『先生のインカムから音声を拾います。皆様、余計なことは言わないでください』
包囲された一同の前に、カイザーPMCの理事が悠然と姿を現した。ワカモはその場で引導を渡したい衝動に駆られたが、もし行動すれば全員が捕縛される危険性が高いため、己の感情を必死に押し殺し、冷静さを保ち続けていた。
理事の理屈に対して、アビドス組やアクア小隊の面々は怒りと非難の声を上げた。
しかしその声が渦巻く中でも、ワカモは何度も「撃ち抜いていいですか?」と問いかけ、ユーリが「駄目」「まだ駄目」「私だって我慢してる」と冷静にたしなめることで、一同は激しい感情を抑え込み、決して一線を越えることなく耐え続けていた。
そんな中、ユーリはアビドス砂漠のどこかに眠るという「宝物」を狙っているという理事の言葉に、アビドス組の怒りの声を冷静に聞き流しつつ、一つの仮説を口にした。
『軍事施設を築いてまで探し求める宝物って……。
もしかすると……「月光洞」から流れ着いたものなの!?*2
もしそれが軍事兵器だとしたらいくらでも辻褄は合うが、いくら何でも危険すぎる!』
そうこうしているうちに理事はスマホを取り出し、不当な言いがかりをつけて借金の利子を跳ね上げた。あまりにも卑怯なやり方に我慢が限界を超えたのはワカモだった。
衝動のまま引き金を引き、理事の背後にいた兵士を撃ち抜いた。
『潰す』
冷酷なまま限界を超えたユーリの宣言が合図となり、基地内に仕掛けた爆薬を起動。ワカモも再び理事の近くにいた護衛を攻撃し、アビドス組とアクア小隊も即座に反撃を開始した。
混乱の中、即座にユーリは包囲網の一角を切り裂き、敵の陣形を崩して先生の護衛に回った。
ほとんど不意打ちのように形勢は逆転。ユーリの殲滅速度は圧倒的で、ロボット兵士たちは二つ三つに分断されるが、頭脳ユニットだけは意図的に残されていた。わずかな慈悲か、それとも下手に殺害すれば問題になると判断したのか。
女性兵士には気絶のみで済ませ、重傷を負わせないよう配慮する。基地の主要施設を破壊してしまったため、重傷者の治療は間に合わず死に至る可能性が高いからだ。
「きっ、貴様ら……こんなことして、ただで済むと思うのか! この私に逆らうなら――」
「借金でも増やすの? さっきみたいに難癖付けて?」
理事だけが残され、周囲は全滅させられた混乱の中、彼は借金を盾に脅そうとするが、ユーリはすでに懐からスマホを盗み取っていた。*3
驚愕に顔を歪める理事を尻目に、ユーリは冷徹な瞳で左手のひらに握ったスマホを弄びながら、氷のように静かな声で告げた。
「もうどうでもいいのよ。あんたは卑怯な手段で超えてはならない一線を越えた。
それならば私たちだって卑怯な手段を使っても文句を言われる筋合いはない。あなた達カイザーグループは――」
ユーリはその言葉を切り、理事が持っていたスマホを凄味を込めて目の高さまで掲げる。
「――潰す」
その宣言通り、ユーリはスマホを握り潰した。
その瞬間、理事は目の前に佇む少女の正体にようやく気づいた。連邦生徒会の制服に身を包み、メイクで傷を隠しているが、刀を振るう修羅のような少女。その二つ名は―――
「ま、まさか『
理事の叫びが空間を切り裂く。
だが返答は冷酷だった。ユーリは抜刀一閃――刹那、空気が凍りつく。
ゆるやかに刀を一振り。そして鞘へと収まる音が響いて――
理事の首が離れ地面へと転がり、その体もバラバラとなった。辺りを完全な静寂が支配した。
"……こ、殺したの?"
「ロボット種族は基本的に頭脳ユニットさえ残しておけば再生可能だから、破壊してないよ。意図的に頭脳ユニットを破壊すれば殺人になるけどね」
――それは言い換えれば、簡単には死なないからこそ、やりすぎても構わないということだ。
先生は何か胸の奥に引っかかるものを感じながらも、ユーリの強硬策がなければ最悪の事態――映画で描かれるようなロボットによる人類支配が現実になるかもしれないと考えた。*4
"しかし、にわかには信じられないけどロボットが人権持ってるのはなぁ……日本、いや世界各国でも信じられないよ。外じゃロボット種族なんてドラえもんみたいな創作の中の存在でしかないからね。ましてや知的生命体としての扱いなんて、キヴォトス以外じゃ一切無いし"*5
「そっか。私達は映像授業で、ロボット種族が生まれたいきさつは知ってるから普通だと思っていたけど……外の人からすれば、そもそも“種族”扱いされてること自体、異常だったんだね。
その辺は時間があれば復習も兼ねて教えてあげるよ」
――そして、一同は帰路に着いた。だが、ユーリが携帯電話を操作していること、ホシノの表情がわずかに曇っていたことに、誰も気づかなかった。
ミレニアムの薄暗い一室で、無機質な通知音が鳴り響いた。
眼鏡をかけた少女――
メッセージは、たった一文だけ。
それを見たチヒロは何も言わず立ち上がり、近くに置かれていた金属製の箱に懐から取り出した鍵を差し込んで解錠する。箱の中には、ロック付きのキーボードが収められていた。
続いてチヒロは、別の鍵を取り出し、慎重にキーボード側の鍵穴へと差し込んで回す。するとモニターに、静かに問いかけが浮かび上がった。
まるで子供向けアニメか何かのような問いかけに、チヒロは皮肉げに口元を歪めた。
そして、あえて子供が好みそうな模範解答をタイプする。
彼女曰く、この質問の応答は「皮肉」らしい。
ただ夢見がちな馬鹿が馬鹿なりに足掻いただけの安易で陳腐な作品に出てくるらしい。
『実力も覚悟も足りない馬鹿が振りかざした、安直な理想にすがる夢物語の作品。打ち切られた後に残ったのは、報われない犠牲者と冷笑だけだった』
「理想はあっても、それを実現するには自分ひとりの力では足りない。必要なのは――理想に賭けるだけの覚悟と、それに共鳴する“仲間”だ」
静かにそう呟いてエンターキーを叩くと、機械の内部が静かに駆動を始める。
隔離されたメモリユニットが自動で接続され、そこから抽出された極秘データが、暗号化通信経由でネットワーク上へと拡散されていく。
所要時間は約一分。すべての転送が終わると、装置は自動的に停止し、メモリが排出される。
チヒロはそれを手に取り、自身のパソコンへと接続した。
「さて――今度は私の番だ。どれだけ興味深い“遺産”が眠ってるかな?」
その顔には、いつもの冷静さとは違う、どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。
今回のパスワードとその元ネタに関してですが、あからさまな皮肉とアンチ要素を含んでいるため、作品名はあえて伏せています。
万が一わかっても、コメントなどに書かないようご配慮ください。
元々はその作品のファンでした。しかし、あまりにも期待を裏切る展開や雑に振りかざされた理想の数々。掲げるだけ掲げて責任を放棄したままシナリオが破綻し、気づけばアンチ側に回っていました。
……まぁ、振り返ってみれば、そういった作品に過度な期待をしてしまった自分にも責任はあるのでしょうけど。実際、過去にはその作品を題材に皆殺し系の悪意全開な二次創作を書いたものの、流石にボツにしたくらいには病んでました。
今となっては苦笑いできる話ですが、こうした過去も自分の創作姿勢に少なからず影響を与えているのだと思います。
今回のタイトル「揺れる天秤」は、スーパーロボット大戦Zのリ・ブラスタから取っています。