Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
「……あれ? ここ、どこ……?」
意識を取り戻したホシノの目に映ったのは、見覚えのない部屋の風景だった。
もし先生や、その手のネタに理解のある人間だったら――間違いなくお約束の「知らない天井だ」というセリフが飛び出していただろう。
だが、残念ながらホシノはそういったネタを知らない。
状況が呑み込めぬまま、意識を失う前の記憶を必死に探るうち、徐々に断片がつながってくる。
(そうだ……たしか、ユーリちゃんに目論見を見抜かれて、逃げられないように……)
そこまで思い出した瞬間、ホシノの顔がみるみる赤く染まっていった。
どういう仕組みなのかは分からないが、あの包帯に淫靡なほど巧みに縛られ、さらにあんな辱めを――しかも、
それも、よりによって……先生の前で。
「う、うわぁぁぁ……」
羞恥のあまり、ホシノは両手で顔を覆い、ぶんぶんと頭を振っていた。
そしてそのとき、ようやく自分がベッドの上に寝かされていることに気づく。あわてて身を起こし、毛布をはねのけると――いつの間にか、裸の上にバスローブ一枚だけになっていた。
周囲を見回す。
窓のない静かな寝室だが、睡眠の妨げにならない程度の常備灯がやわらかく点いており、薄暗いながらも視界はしっかりと確保できる。
電灯をつけてみると、壁にはいつもの制服がハンガーにかけられていた。そのそばのドレッサーには、キャミソールとスポーツブラ、それにショーツが整然と並べられていた。どれも、先ほどまで自分が身につけていた下着だ。
ショーツを手に取り、鼻を近づけて恐る恐る確認する。……どうやら、洗濯されているようだった。おしっこの匂いが残っていないか不安だったが、無香タイプの洗剤が使われたのか、それらしい匂いは残っていない。
制服も調べてみたが、汚れも匂いも、跡形なく消えていた。
愛用のショットガン「Eye of Horus」は、残念ながら見当たらなかった。
とはいえ、正体もわからないこの寝室で、いつまでも寝ているわけにもいかない。ホシノは気を取り直し、着替えることにした。
そのとき、ふと気づく。――あのとき
「いやいや、さすがにそこまでやってもらったのは、ちょっと恥ずかしいな……」
思わず呟いたが、それも無理はない。あの日は砂漠に出たせいで汗をかき、色々と汚れてしまっていたのだから。そしてあの出来事で
そして今さらながら、自分が見知らぬ場所にいることに気づく。慣れ親しんだ寮室ではなく、見慣れない広い一軒家のような場所だ。
危険はなさそうだと感じつつ、警戒を緩めきれないまま部屋を出て、廊下を歩く。薄暗い照明のなか、漏れた明かりが射す室内をこっそり覗くと、台所で洗い物をするユーリと、リビングでのんびりと過ごす先生とワカモが目に入った。
「先生、ホシノちゃんが起きてきたよ」
気配で察したのだろう。ユーリは手を止めることなく視線も向けず、落ち着いた声で二人にホシノの様子を淡々と伝えた。
「あら、ようやくですわね。さすがにあそこまでこっぴどくやられれば、仕方がありませんわね」
"あの技が大技の一つって聞いた時は、正直肝を冷やしたよ。あんな状態は、流石にねぇ……"
どうやらワカモは、あの技を受けた後の惨状を目の当たりにしたようだ。ホシノに同情の視線を向けている。だが先生はそう言いながらも、ユーリが一度全裸になって身軽に動き、乱舞のような技を繰り出し、それに伴うホシノの痴態をしっかり脳裏に刻んでいた。
「まぁ、リリスオルギアでもよかったけど……あれは広い場所向けの大技だからね」
どちらにせよ、
"それと、ホシノがやろうとしていた自己犠牲のことは、みんなに伝えておいたから"
先生のその言葉に、少し赤みを帯びていたホシノの顔は、一気に青ざめた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、おじさん、どれくらい寝てたの?」
ホシノは、気を失っていたとはいえ、せいぜい数時間程度だと思っていた。しかしよく考えてみれば、あの程度で済むはずがない。
「手加減はしたつもりだけど、威力上昇系の効果を付けたのはやりすぎたかもね……ほぼ丸一日、眠り続けていたよ。あ、後始末はしっかりやっておいたから安心して」
おそらくユーリが言う「後始末」とは、あの場所で噴出したり
結果的に、性的な意味で大きなダメージを受けたホシノは、体も心も回復にかなり長い時間を費やしたということだ。
「それって、手加減じゃなくて本気じゃないの……?」
ホシノの嘆きも無理はない。だが本当の実力を知る先生とワカモにとっては、「まだ一応手加減している」という認識だった。
本気を出せば、あの連続絶頂で脳に負荷がかかりすぎてホワイトアウトをおこして廃人になるか、心臓に負担がかかりすぎて急性心筋梗塞をおこすかのどちらか、もしくは両方ともなってしまい、脳死か死亡していただろう。
「まぁ、ホシノちゃんの種族的にあれくらいがちょうどいい塩梅なんだろうね。普通の人間なら死んでるか、廃人になっているはずだから」
ユーリがあっさりと結論づけると、ホシノは疑問を抱き、質問を返した。
「その『種族』って何? 前にも言ってたよね? 私は他の人と違うの?」
「まぁ、その辺の話は明日みんなに説明するから。それにお腹も空いているでしょ?
胃に優しい食事も用意してあるし、テレビでも見ながら食べていて」
先ほどまで洗い物をしていたはずのユーリが、いつの間にか両腕いっぱいに料理を抱え、メイド服姿でテーブルへと配膳していく。
その瞬間、ホシノの胃が空腹を告げ、頬を赤らめながら席に着き、料理に手を伸ばした。
胃に優しい料理を味わいながら、ふとつけたテレビに目をやると、つまらない当たり障りのない番組ばかりか、あまり見慣れないCMが次々と流れていることに気づく。
ホシノが違和感を覚えたのに気づいた先生は、苦笑しながらリモコンを手渡した。
どのチャンネルに変えても、同じCMばかりが流れている。
やがて番組表を表示すると、大半が再放送だった。アビドスでは受信が難しいミレニアムやトリニティの放送局の番組表もあり、覗いてみると――
「緊急特番……? これってもしかして!?」
チャンネルを変えて確認すると、予想通り、あの書類とユーリが入手した情報が拡散された結果、大混乱が起きている様子を中継し、討論し、まとめている番組だった。
特にカイザーグループは、一斉無断退職や暴動、内部告発などで混乱の渦中にある。
その最中、カイザーローンに温泉開発部が何故か乗り込んでいく様子が映し出されていた。おそらく資金稼ぎの強盗ついでに、温泉開発という名の破壊行為を企んでいるのだろう。
今後、カイザーローンから連絡があったとしても、巧みに難癖をつけて時間を稼ぎ、その間に万全の準備を整えることができるはずだ。
特番をぼんやり眺めていても面白くない。まだ蚊帳の外だと感じ、適当にチャンネルを変えてみると、再放送の古いロボットアニメが流れていた。
"『
こちらでは実現していたのかッ!?"
意外にも先生はそのタイトルに食いつき、真剣に見入っていた。そっとしておこう……。
ロボットアニメに夢中な先生をよそに、ホシノは残りの食事を平らげる。食事を終えたユーリが食器を片付けにやって来て、そこでホシノはようやくユーリのメイド服姿に気づいた。驚きつつも、前から気になっていたことを口にした。
「なんでユーリちゃんがメイド服なのかは気になるけど、それは後回しにして、ここってどこ? 明らかにアビドスじゃないよね?」
「ご明察。ここはアビドスじゃなくて、連邦捜査部シャーレが入っているビルの居住区よ。本当はアビドスの寮にしようかとも考えたけど、万が一目を覚ましてカイザーに身売りされたら困るから、こっちに連れてきたの」
ユーリはそう言いつつも、あの後保険として黒魔法のスリープを追加でかけておいた。普段なら聞きづらいけど、睡眠状態なら追撃でさらに眠りを深くできるのだ。*1
「用意周到すぎるよユーリちゃん。そんなに信頼してないの?」
「うん。昼行燈を演じつつ、肝心な時は誰にも相談せず自己完結で最悪の手段を選ぶ人だからね」
食器を片付けながらのユーリの即答かつ追撃は的確すぎて、誰も否定しなかった。言葉の刃にぶった斬られたホシノは、「うへぇ…」と嘆いて肩を落とした。
片づけを終え、流しに食器を入れたユーリは、先生に確認を取りに行った。
「そこで枷を付けることにしたの。先生、例のアレはクラフトできてる?」
"実験してみてできたことにびっくりしてるよ。自分でアイデアを出しておいてなんだけど、よくこんな手段を使う気になったね"
ロボットアニメの視聴を中断し、先生が感心した様子で差し出したのは、独特の雰囲気を纏った一枚の紙だった。それを見たワカモが首をかしげ、疑問を投げかける。
その問いに答えたのはユーリ。先生のクラフトチェンバーを使って羊皮紙を作れないか試してもらったのだ。結果は見ての通り成功し、高品質な羊皮紙が誕生した。
なぜ外の世界でも時代遅れの羊皮紙をキヴォトスで使うのか、先生は説明した。
"ユーリから相談を受けて思い出したんだけど、外の作品、TYPE-MOONってゲームブランドの中に「
「簡単に言えば、ファンタジー的な誓約書を作るため。電子の誓約書や紙の誓約書よりも強力な力を使えると考えたの」
ここまで説明されれば、ホシノにも理解できる。つまり、
「そこまで厳しい制約はつけないよ。あくまで、裏切らないこと、カイザーグループ関連に身売りしないこと、私の能力について知る者以外に漏らさないこと、それだけね」
用意していた中皿と筆を置いて席についたユーリは、牙を大きく肥大させ、ためらうことなく左手首に噛みついて穴をあける。血液を中皿に流し込むと、傷ついた手首をひと舐めして瞬時に傷を癒し、その吸血鬼らしい力強さに周囲も息を呑んだ。
その光景にホシノはたじろぎ、ワカモは少し引きつつも「吸血鬼の能力ですね」と思い当たる。先生は「鬼滅の刃に出てくる血鬼術みたいだ」と連想していた。
先ほど述べた制約を、血液を含ませた筆で羊皮紙に箇条書きにしていく。
そして簡潔ながら重みのある文面を加え、一枚の誓約書が完成した。
「はい、できたよ。サインは血液で書くのは難しいから、血を垂らすだけでいいよ」
その言葉を聞くと、ホシノは少し考えてから右手をユーリに差し出した。
「今は刃物を持ってないし、ユーリちゃんにお願いするよ。さっきの様子を見ると、すぐに傷を治せるんでしょ? でも、痛くしないでね」
そのお願いにユーリは苦笑しながらも、人差し指の爪を伸ばしてホシノの人差し指を軽く傷つける。血液を誓約書に垂らし、傷ついた指を両手で優しく包んで回復魔法で癒した。
「はい、完了。これでこの誓約書はオフィスの金庫にしまってくるね」
そう言い、ユーリはメイド服のスカートを翻して部屋を出て行った。
ホシノはシャーレオフィスがすぐ近くにあることにふと疑問を覚え、先生とワカモに質問した。まさか同じビル内の隣にあるとは思わず、その事実に言葉を失った。
ビル内の施設について尋ねた際、ホシノの表情は驚きを通り越し、完全に消えていた。
一方、先生はロボットアニメの続きを見ており、テレビから流れる音声が部屋の静けさを一層際立たせ、彼の集中力を高めていた。
ちょうどクライマックスで、どこかで見たような独裁者が乗る戦艦を破壊するシーンだった。
先生は満面の笑みを浮かべ、あとでネットでプラモデルを探すと心に決めた。
その後、適当にアニメチャンネルを探しているとなぜか「ギャグマンガ日和」が放送されており、ちょうどクマ吉が毎回逮捕される回だったため、ネットミームにもなった有名セリフで全員を苦笑させていた。*2
翌日、ユーリの能力で作られた転移アプリを使ってアビドスに戻った際、詳細を知らされたホシノの表情が消えたことは、改めて語るまでもない。
「攻強皇國機甲」は完全にネタです。先生がロボットネタ好きなので使ってみました。
多分こちらのブルアカ世界では、大決戦や総力戦で「グレートありがとウサギ」や「キングさよなライオン」などと戦えるかもしれません……やってみたいですね。
一番苦労しそうなのは「ギガンティックただいマンボウ」かもしれません。
初めて世に出たのが2011年か……もうそんな昔になったんだな、と感慨深いです。
それから、今回のタイトルの元ネタは、イチリ氏の成人男性向け同人誌『ボクの理想の異世界生活』からです。
タイトルの元ネタを探している時にこの作品を見つけて、「ああ、先生もいろいろ大変だけど、平穏を求めてるのは同じかもなあ」と思ったので、そこから拝借しました。実際はトラブルがどんどんやってくるんですけどね!
「生活」の字が違う? そこは他の人に頼みましょうw