Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
「確かにこれは便利だねぇ……これさえあれば寮室から直結できて、楽できるね」
翌日、シャーレからアビドスへ――転移アプリで一瞬の移動を果たしたホシノは、足を踏み出すや否やそう口にした。感心とも感嘆ともつかない声音に、先生とユーリは顔を見合わせ、念のため「他言無用」と「存在が露呈する行為の禁止」を伝える。
さらに、あの誓約書がそれらを確実に縛る効力を持つことも念押しした。
今回は学校の屋上を転移先に設定していた。青空の下、金網越しの砂漠が一瞬揺らぎ、すぐに日常の景色へと戻った。そのまま校舎内へ入り、階段を降りると――そこには、まるで待ち伏せでもしていたかのようにシロコが立っていた。
軽く手を挙げて挨拶を交わす一行。しかし、ホシノだけは視線を逸らし、どこかバツの悪そうに眉を寄せている。その理由については後ほど改めて全員で話し合うことにし、今は互いに気を配りながら、足並みを揃えて静かに対策室へと向かった。
対策室に集まった面々は、まず最初にホシノに謝罪を促した。
非難の声が飛び交う中、ホシノはまるで身体がさらに小さくなるかのように縮こまり、その存在が一層小さく感じられたのも無理はなかった。
この件については、ユーリがお仕置きの内容やその詳細をあえて曖昧に伝えたことで、場の緊張が和らぎ、議論はひとまず収束を見た。
続いて、なぜカイザーの背後に潜む謎の存在がホシノの身柄を求めているのか、その真意を巡る議論が静かに始まった。ムツキは何か思い当たることがあるのか、鋭い眼差しで問いかけた。
「アビドスって生産局、来てる? もし来ているなら黒服の奴は生産局を利用しているはずだから、ホシノの身柄は必要ないと思うけど……違う?」
"……生産、局? ムツキの言葉から察するに、もしかして……文字通り、人口を生産する場所!? 確かに……
先生はこれ以上深く問いただそうとせず、大まかな推測だけにして打ち切った。
何人か顔が少し赤いのは決して気のせいではない。あまりにも生々しいからだ。それでも今後のため、生産局についてはいずれ知る必要があるだろう。
本題に戻ると、ムツキが問いただしたのは、生産局が定期的にアビドス高校へ「専用のゴミ箱に冷蔵保管された使用済みの生理用品」を回収しに来ているかどうか、ということだった。
話を聞く限り、アビドスには生産局は来ていない……。いや、正確にはそのものが存在していない。かつては無数に点在していたはずだが、砂漠に飲み込まれ消え去り、現在では最も近い生産局でもアビドス自治区の外にある別の自治区にあるという。
「話を聞く限りホシノの血統だと思うんだけど……心当たりはある?」
「私にはまったくないんだけど、あの黒服の奴は何かに気づいているみたいだし、ユーリちゃんもそれらしい何かに気づいていたんだよね……」
ムツキが問いかけると、ホシノは首をかしげながらも心当たりはほとんどないと答えた。
あるのは、ごく一部が気づいたらしいという曖昧な話だけだ。そして、その気づいた人物こそ、この場にいる一人――ユーリだった。
ユーリが先生の傍らにいるワカモへ目配せすると、ワカモは鞄から紙束を取り出した。
それは、ホシノにも制約させた「
アビドスへ来る前に、主要人物の人数分を予め作成しており、まだ乾いたばかりで、微かに血の匂いが漂っている。そのため、何人かは少し引いてしまっていた。
説明をしながら、各自に同意を求めて順に制約を結ばせていく。指を噛み切る者、所持していた刃物で血を垂らす者――それぞれが自分の意思で署した。
「ん、どうして私にこんな制約が?」
シロコの疑問は当然だった。なにせ彼女の誓約書だけは「基本的に銀行強盗に関与しない」という一文が追加されているのだから。
仕方がないことだが、シロコは他の面々よりも荒事を求めている節があり、発散できないフラストレーションを銀行強盗のシミュレーションで発散しており、先日の闇銀行襲撃時には一番喜んでいたのだ。このままでは荒事のためだけに銀行強盗を行う犯罪者へと走ってしまう。
そのため、全員で説得し、シロコも渋々ながら誓約書に血を垂らすことを受け入れた。
先生とワカモ、そしてユーリは、全員分の誓約書をしっかりと確認してから鞄にしまい、続けてユーリの能力について説明を始めた。
その説明に、全員は化け物のような……いや、化け物そのものの強さの秘密を知り、修練次第で誰もがその頂点を目指せるという現実に戦慄した。
そしてユーリは、一人ずつ種族と職業を確認していったが、なぜかホシノとシロコだけは後回しにされていることに気づいた。
「アヤネちゃんは人間、エルフ、そして天使。セリカちゃんは人間、魔獣、天使。アルちゃんとカヨコちゃんは人間、妖魔、天使。そしてノノミちゃん、ハルカちゃん、ムツキちゃんは人間と天使ね。全員の職業は上級職のガンナーだよ」
ユーリの視線が静かにシロコとホシノへ向けられた。場の空気が張りつめる中、一瞬の間を置いてから慎重に二人の種族が告げられた。
「シロコちゃんは人間と魔獣と天使、そして……ゴースト。
ホシノちゃんは人間と天使、そして……ゾンビ」
その言葉が放たれると、場の空気は一気にざわめいた。
魔獣や妖魔といった聞き慣れない種族名ですら驚きだったのに、二人の種族はそれを遥かに超える異形――ゴーストとゾンビという存在だった。
その疑問を代弁するように、ホシノは思わず問いかけた。
「待って、私は生きているよ? 心臓だってちゃんと動いているよ? なんで私がゾンビなの?」
「正確にはゾンビ系の上級種、マミーだよ。理由はまだわかっていないけど、ホシノちゃんはその素質を持ち、すでに上位段階に到達している。
おそらくそれが狙われる理由なんじゃないかと思う」
「マミーってミイラのことだよね……ちょっと待って! それってつまり私もユーリちゃんみたいに包帯であんなことやこんなことができるってこと!?」
ようやくホシノは、ユーリが操っていた包帯のギミックに気づいた。よく考えれば、包帯を自在に操り拘束するなんて常人には不可能だ。ホシノ自身もその素質を持っているということは、同じ技が使えるということになる。
「正解。正しくはゾンビ・ゴースト系列の種族と、ネクロ系の職業が扱える屍技って能力。後で習得可能な能力を色々と覚えさせてあげるけど、危険なのは教えないから安心して」
その言葉を聞いて、セリカがもしかしてと不安げに問いかけた。
「危険なのって、もしかして映画でよくあるゾンビ感染とか……?」
その問いにユーリは静かに頷いた。
ホシノは一瞬青ざめたものの、ユーリはすぐに優しい口調で安心させるように言葉を続けた。
「そういう能力は習得させないから心配しないで。治療用アイテムは作れるし、そうなるリスクはできる限りゼロに近づけるよう注意しているからね」
ユーリがそう語るものの、種族や職業はいわば別次元の
だが、扱いを誤れば何らかの
「そうなると…習得させるのは任意で、ゾンビ化と解除の『ゾンビ体質』、ブレス系の『毒の息』『冷たい息』『甘い息』と、そして意図的に身体のリミッターを外して拘束する『しがみつき』や踊り系列の『誘う踊り』……それに黒魔法でしょ。ゾンビ感染するスキルは封印だね」
ユーリが習得させるスキルを考え込みながら色々と呟いている。その豊富なバリエーションにホシノは驚いていた。そこで気になったことを尋ねた。
「あれ? あの時使った包帯で拘束していたアレは?」
「種族レベルが足りないよ」
「それって現実的すぎる問題だよ!」
あまりにも現実的な壁にショックを受けつつも、思わず叫んでしまった。ちなみに現在の種族レベルは2で、あの時の屍技『ミイラバンデージ』はマミーLv6で習得可能だという。
そんなやり取りの最中、シロコが自分の番だとばかりにユーリに声をかけてきた。
「ん、ユーリ先輩。私はどうなるの? できればあの通り抜ける能力が欲しいんだけど」
その声に反応して、他の面々も次々とリクエストを出してくる。
狭い対策室で全員が詰め寄るのは大変なので、結局グラウンドに移動し、それぞれ戦闘スタイルの確定と転職・転種の手続き、そして模擬戦を行うことになった。
グラウンドに轟音が鳴り響いた。中心で繰り広げられているのはユーリと数人との模擬戦だ。
姿を消したり現したりしながら、訓練用の木製大鎌を振り回し、距離が離れればアサルトライフルの銃撃と魔法で吹雪を放つシロコ。
毒・睡眠・氷属性の多彩なブレス攻撃とショットガンによる波状攻撃を繰り出すホシノ。
ユーリは文字通り人外となった二人の強さに頼もしさを感じつつも、人外の先達としてとして負けるわけにはいかなかった。
「はい、聖光波。当たり前だけどゴーストとゾンビは聖属性に弱いからね。実際に使ってくる相手はいないと思うけど、念のため気を付けて」*1
「ん、わかった」
「いやいや、普通はそんな聖属性の攻撃を使う人はいないと思うけど……いや、トリニティのシスターフッドならその可能性も十分あるかもしれないけど……」
弱点を突いた攻撃で二人はあっさりとダウンし後退する。すぐさまセリカ、ノノミ、アヤネが入れ替わりに攻撃を仕掛けてきた。
最初に飛んできたのは銃弾ではなく、アヤネが放つ鋭く重い矢だった。エルフに転種し、魔法使いへ転職したアヤネは、オペレーターとしても一定の前線参加が可能となったのだ。
セリカは魔獣としての身体能力を駆使し、爪とアサルトライフルを使って巧みに撹乱し、天使化したノノミは羽根を使ったホバー移動で自在に動きながら、ガトリングガンを連射する。
並の相手ならこれで十分だが、相手は多彩な戦術と対抗知識を持つユーリ。
セリカとノノミの間をすり抜けるように移動すると、二人は一瞬硬直し、胸をかばうように腕を交差させ、膝から崩れ落ちた。
「覚えておいて。私の多彩な属性攻撃には『快楽』も含まれている。戦闘中の痛みには耐えられても、突如襲う快楽には対応できないでしょ?
扱い方を誤らなければ快楽攻撃はれっきとした戦術だよ」*2
「そ、それはっ、そうだけどっ!?」
「い、いきなり意表を突かれて…これは想定外というか…」
二人は顔を赤らめながらも、トンデモ理論に思わず反論を試みた。しかし、その効果を身をもって体験してしまうと、さすがに強く言えなかった。
キヴォトスという超銃社会では、銃撃戦が喧嘩のように日常的に繰り返され、痛みには慣れている者が多い一方で、快楽に対する耐性を持つ者は非常に少ない。
しかもそれは娯楽の快楽ではなく、戦闘で相手を戦闘不能に追い込むための快楽であり、あまりに想定外の攻撃手段だった。だが、「攻撃として使え」と言われても、普通は実行できない。同性に対して行うとなればなおさらだ。ちなみにキヴォトスでは、外の世界より女性同士の同性愛に対して理解はあるものの、それでも忌避感を抱く者は多い。
これは男女比の不均衡が背景にあり、普通の男性と恋愛できない事情が背景にある。
セリカとノノミが一歩下がり、アヤネが後衛兼オペレーターとして残る中、アクア小隊が前線に出た。アヤネの弓と魔法による援護射撃。その合間を縫うように、カヨコの投げナイフとムツキのブーメランが襲いかかる。さらに、シーフに転職したカヨコが素早さを活かしてナイフとハンドガンで激しく攻め立ててくる。
「ねぇねぇ、ちょーっと私とお話しなーい?」
情報屋に転職したムツキは、多彩な話術で相手の注意をそらしつつ、マシンガンを乱射する。
しかし一般職の話術で発動する状態異常はスタン、敏感、麻痺、沈黙、
「ファイアッ! ブリザードッ! サンダーッ!」
魔法使いに転職したハルカはショットガンのリロードを行いながら、魔法を連発する連続攻撃を仕掛ける。前衛の三人とアヤネの援護を受けた波状攻撃に、さすがのユーリも必死に回避に専念せざるを得なかった。
「トライジャッド!!」*3
アルは波状攻撃を囮にし、本命の攻撃へと移る。妖魔から上級妖魔へ転種し、さらに貴族へ転職した。近接戦にも対応できるようになったアルは、訓練用の尖剣による連撃で確実にユーリを捉え、勢いよく吹き飛ばした。
「驚いたね。最上級種の魔神相手に、ここまでやれるとは思わなかったよ」
「……あれだけやって余裕なんて……改めて力の差を思い知らされるわ……」
しかし、ようやく攻撃を当てても平然としているユーリに対し、アクア小隊は攻撃疲れを起こしていた。力の差は明白だった。
まだ全員には明かしていないが、ユーリは最上級までの職業と種族をすべて極めている。しかも、現在の種族は魔人よりもさらに厳しい条件の魔神。
それは上級種の魔人を極めるだけでは辿り着けない領域であり、
そこまで到達して初めて分かる。ユーリがどれほど化け物級の実力を抑えているかが。簡単に言えば、ステータスが一桁、いや二桁違う。
「仕方ありませんわ。ユーリさんを他の人と一緒にするのは余りにも失礼です。むしろ五体満足でいられることを幸運に思いましょう」
そう言いながら歩み寄ってきたのはワカモ。愛用の銃だけでなく、訓練用の斧も携えていた。
「最上級職の修練をお願いしたいのですが。ご指南お願い致しますね」
「ベルセルクの修練だね、了解したよ」
そしてアクア小隊が下がったグラウンドに、暴威が吹き荒れた。
結果として、二人は先生にこっぴどく叱られ、後片付けを命じられる羽目になった。
オリジナル設定の「生産局」についてですが、原作では明かされていない人口増加の仕組みを独自に解釈しました。何しろこの世界には人間の男性がほぼ存在しないため、どのように人口を増やしているのか疑問だったからです。
そこで考え付いたのが、冷凍保存された精子と卵子を用い、人工子宮のような装置で新たな命を「生産」するという形にしました。
詳しい設定も作っていますので、その辺の説明は幕間で説明します。
タイトルの元ネタはカプコンのゲーム作品「Dead Rising」です。
同じゾンビものではありますが、一般的な世間のゾンビ物と、もんぱらにおけるゾンビの扱いは大きく異なっています。とはいえ今回は、ゾンビとゴーストという一般的に忌避されがちな存在をテーマに、その因子を持つホシノとシロコの能力向上と結びつけて描いてみました。
リンクした楽曲
Mass Destruction -Reload- ~from Persona 3 Reload~
ペルソナの戦闘曲は以前から使いたいと思っていました。ただ、訓練シーンではノリの良い曲より、やや落ち着いた戦闘曲の方が合うと感じ、こちらを選びました。
It's Going Down Nowも候補に挙がりましたが、別の機会に使う予定です。