Paradise of the Disqualified:Rewritten World   作:GameMaster

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16話 先生と踊れ!

 ゲヘナとの協力を取り付けることに成功した瞬間から、ユーリは風紀委員長代理としての職務をスタートさせた。まるで嵐のような速さで、混沌に秩序をもたらしていった。

 着任初日、彼女は書類に目を通すなり改善案を次々と提示し、現場へ直接出向いては指揮を執る。その鮮やかな手際は、まさに“自由と混沌の学園”ゲヘナですら従わせるほどの勢いだった。その速さと大胆さに、周囲はただ唖然とするしかなかった。

 先生も「彼女に任せておけば問題ない」と判断し、アビドスへと戻った――

 

"マコトをぶっ殺してもいいですか……って、いや早すぎるだろう。確かゲヘナ政治のトップじゃなかったか? ユーリ、初日から戦争吹っかける気か?"

 

 半日も経たないうちに、チャットアプリ(モモトーク)に通知が届いた。

 理由も書かれていたが、要は“嫌がらせを受けて逆鱗に触れかけた”ということらしい。理性が完全に吹き飛んでいたなら、今ごろ届くのは「処理完了」の報告になっていたはずだ。

 ヒナからマコトの概略は聞いていたが、あのまま放置すれば、ゲヘナという火薬庫にさらに火をくべるようなものだ。悪化する未来しか見えない。

 

 そう判断した先生は、簡潔に指示を送った。「とりあえず心を折って」

 メッセージを送信したあと、ふと頭をよぎった。

 

"そういえば……自宅の漫画スペースにドラゴンボールが全巻そろってたな……"

 

 思えば、自宅の本棚や図書室の漫画エリアには集英社や角川の看板タイトルから、誰も知らないようなマイナー作品まで、所狭しと並んでいた。あれは失踪した生徒会長の趣味なのか、それとも男性である先生に合わせて用意されていたのか……真相は誰にもわからない。*1

 

 そして、十分ほど経過してから、再びチャットアプリ(モモトーク)に通知が届いた。

 内容は――先生ですらドン引きするレベルだった。

 

 それは、バラムツを無理矢理食べさせる提案だった。しかも全員に。

 

 先生も聞きかじり程度の知識しかないが、バラムツという魚は消化できない動物性の油を持っているため、肛門括約筋の意味がな(おしりのあなが、ゆる)くなってしまうのだ。

 もし実行されたら「万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)」が汚い文字に変換されてしまうだろう。

 

 当然、周囲は女性の威厳を守るために全員がマコトを裏切り、ユーリの前へと差し出していた。

 そして、遠慮なく――マコトの口に調理されたバラムツを投入されたのだった。

 間違いなく、しばらくの間は表に出てこれないオムツ生活になるだろう。

 

 ……いろんな意味で頭を抱えたくなる報告だ。だが、そもそもの原因は「万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)」がまともに職務を果たさず、大半の問題を風紀委員会に丸投げしていることにある。

 そう思うことにした。そっとしておこう。

 

 もしゲヘナ学園の自治区問題に手をつけるなら、長期的な計画が必要になる。仕方がないとはいえ、現状では対処療法として後回しにするほかない――。

 

 そして一週間の任期を終え、ユーリが戻ってくると後日、チャットアプリ(モモトーク)でヒナから多大な感謝のメッセージが届いた。

 内容を読むと、意図的に減らされたわけではなく、横領されていた予算をユーリがすべて取り返したらしい。その手際は実に鮮やかで、誰もが唖然とするほどの効率と判断力を発揮したようだ。

 これでアビドス総力戦に向け、部隊編成も兵站も万全の体制で臨めるとのことだった。

 ……ヒナ嫌いだけでここまでやるマコトのやり方に、思わず頭を抱えた。

 いや、正直、常識の範囲を完全に逸脱しており、思わず笑いがこみ上げた。

 思わずマコトにバラムツを追加で食べさせようかと思ったが、さすがに思いとどまった。

 

 

 

 そして、黒服を通じて宣戦布告をする時がやって来た。時刻は夕方。対策室には全員が集まり、息を潜めながらその瞬間を見守る。

 ホシノは黒服に電話をかけた。下手に悟られぬようスピーカーはオフ。

 誰一人として言葉を発さない。大まかな台本は用意してあり、最悪の場合は先生に電話を代わってもらう手順まで組んでいた。

 

「……黒服? うん、条件付きで協力するよ。……このまま何もしなくても、一応私たちの不利だからさ。……どうせ、通じてるんでしょ?

 それなら勝負しようよ。そっちは全部出しても構わない。

 ……うん、全部。どうせ実験するなら、検体が多い方がいいでしょ? 私たち全員の身柄と、アビドス自治区全部。まだ明らかになっていない繋がりも、あるんでしょ? うん、いいよ」

 

 電話を切り、ホシノが伝えたのは三日後だった。予想通り、カイザーグループは戦力を集めて潜伏していた。ただ、攻め落とす機会に恵まれなかっただけだ。

 こちらも、あらかじめ準備は完了しており、外部協力者に連絡を入れればあとは待つだけだ。

 

 意外にもヒフミはトリニティで協力者を見つけることに成功し、例の書類を提出したところ、快く協力を取り付けられたという。

 ミレニアムも実験で色々と利用するらしく、ユウカが呆れ笑いを浮かべながら教えてくれた。

 さらに、ゲヘナ風紀委員会も万全の戦力で駆けつけてくれるという。

 

 あとは作戦の再確認だ――とはいえ、内容自体は単純だ。

 まず初めに攻め込ませて防戦させ、敵戦力を一箇所に集める。その後、一気に反攻し、その動きを目くらましとして本隊を敵本拠地に突入させる――というカウンター作戦だ。

 ただし、追加目標として「敵全滅」が設定されているだけである。

 

"当日の最終確認を行う。第一小隊はユーリ、ホシノ、シロコ。第二小隊はワカモ、セリカ、ノノミで構成する。この二部隊は、僕の指揮下で敵本体への攻撃を担当する。

 第三部隊はアルとムツキ。第四部隊はカヨコとハルカ。この二つは中隊長として部隊を率い、防衛にあたる。オペレーターのアヤネはゲヘナのアコと連携。

 ミレニアムとトリニティは都合上、僕の指揮下には入らず、自由行動とする"

 

 先生は全員に指示を出し終えると、ユーリの方を見た。

 彼女は何も言わず、ノートパソコンの画面を無機質な目で見つめ続けている。

 無機質な表情のまま、ゆっくりと口を開いた。

 

「やっと連絡した。相手は約束を守る気なんてない。一日早く攻撃するつもりで息巻いている。相手側のサーバーに潜入成功。本社へのリンク確認、借金と土地に関する情報確認、バックアップ確認。時限破壊プログラム潜伏成功。アビドス土地権利のダウンロード……完了。隠し財産の移行とダミー情報の書き換え……完了」

 

 パソコンを使っているのはあくまでカモフラージュだ。

 実際にはロイド系に転種し、電脳世界に入り込んでいる。淡々と報告を続けるその姿は、計算と効率のみで動くまさにプロそのものだった。

 先生は、あの時の裏情報をこうやって手に入れたのか、と納得した。

 

"聞いての通り、相手は一日早く不意打ちすることで有利に進めようとしている。しかし、それも想定内だ。だから、こちらはそれを利用する。総員、第二種戦闘配置"

 

 その言葉と共に一部の人間を残して全員が対策室を後にし、戦いに向けて最終確認を行いに向かった。宣戦布告前から様々な想定を考慮しており、不意打ちを受けても問題ないように準備は整っている。

 一番の懸念点だった隠匿サーバーのハッキングも完了していた。ホシノと通話した黒服の電話からカイザー理事の電話にアクセスし、そこから隠匿サーバーに潜り込んだのだ。

 ユーリも初めから、あの奪ったスマホから入り込めばもっと簡単に済んでいたはずだ。しかし、あの時は全員が怒り心頭でつい脅しを込めて目の前でスマホを握り潰してしまった。

 過ぎたことは仕方がない。覆水盆に返らず、急いては事を仕損じる――これぞ教訓だ。

 

 

 

反抗作戦当日 午前零時

 

 

 

 普段なら寝静まっている時間帯、対策室には主要メンバー全員が全員揃っていた。窓には暗幕がかけられ、外からは全員が眠っているように見える。

 他の生徒たちも教室で仮眠を取りつつ、装備を確認したり静かに打ち合わせをしたりして、同じように準備を進めていた。

 眠気と緊張が交錯する空気の中、全員が戦いに備えて動いている。

 なぜこんな夜中、しかも人知れず集まっているのか――理由は簡単だ。カイザーグループが夜襲をかけてくることを事前に把握していたからだ。

 相手が卑怯な手段を取るのは承知の上だ。しかし、期日を早めるだけでなく夜襲まで仕掛けてくるとは――そこまで追い詰められているのか、あるいは元々そこまで堕ちているのか。

 

 だが……こちらもまた、ある意味でなりふり構わぬ状態だ。利用させてもらおう。

 

 反抗作戦前の休息に見せかけ、町全体は灯を落として暗くしてある。

 布陣は既に整えられており、アビドスの部隊だけでなく、ゲヘナ風紀委員会も街中の空きビルや裏路地に潜伏していた。

 

"あと二時間ほどで、カイザーが不意打ちを仕掛ける作戦時刻だ。丑三つ時を狙うとは――ゲン担ぎか、それとも相当自信があるのだろう"

 

 先生は対策室内を見回し、それぞれの表情を確認した。

 不敵に微笑む者、落ち着いた表情を崩さない者、カイザーに対して敵意を隠せない者。

 全員が、決着をつけるための決意をあらわにしていた。

 

 視線を巡らせながら、先生は心の中で確信した――準備は完璧だ。

 目の前の全員が息を潜めながらも一瞬も気を緩めず、この瞬間を逃すつもりなど微塵もないことを。空気が張り詰め、時間がまるでゆっくり流れているかのように感じられた。

 

"だが、我々も黙っているわけにはいかない。むしろ、騙す側に回るのだ。

 散々卑怯な手段で苦渋を舐めさせられてきたからこそ、今までの恨みをすべて晴らす時が来た。

 土地の権利も、これまで支払った金額も、秘密裏に奪い返した。

 あとは、その怒りを徹底的にぶつけるだけだ"

 

 借金や土地の権利は、不意打ちによってすでに解決済みだった。

 だが、それだけで今まで受けた仕打ちを許せるかと問われれば、答えは間違いなく否だ。

 

 そう――これは、正当な報復なのだ

 今まで押し付けられた屈辱、奪われた権利、無視され続けた努力――全てを一度に取り返す瞬間が、ついに来たのだ。

 

"目標は、攻め込んでくるカイザーグループの全滅だ。

 だが、意図的にロボット種族の頭脳ユニット破壊や人間相手の殺害は禁止する。

 作戦開始の目標時刻は、相手の準備が整う直前――午前一時三十分を目途にする。

 残念ながら朝食はない。各自、余裕ができ次第、携帯食を取ること。あるいは、今からでも一足早いモーニングでも構わない"

 

 ちょっとした冗談で場を和ませつつも、最低限の緊迫感は維持する。

 

"時間目標を立てるなら昼前……十一時前だな。

 そうすれば、撤収後に全員でラーメンを食べる楽しみも残せる。

 総員、第一種戦闘配置! 性根の腐った奴らに、僕たちの怒りを叩き込んでやれ!"

 

了解ッ!

 

 全員が力強く返事を返すと、アクア小隊は戦いに向けた準備のため対策室を後にした。

 残ったのはアビドス組とキュベレー隊、そして先生を含む七人だけ。

 全員がそれぞれ頷き、アヤネを残して退出していった。

 

 校舎内は必要最低限の照明しかなく、暗幕も下ろされているため一層暗く感じられる。

 しかしその中には戦いを前にした熱気と覚悟が混じり合い、まるで静かに燃え上がる炎のように、全員の緊張が張り詰めているのを感じ取ることができた。

 

 インカムの向こうでは、アヤネとアコが作戦の最終確認を行っている。

 校庭に目を向ければ、わずかな照明の傍にアビドスに編入した生徒やゲヘナ風紀委員会の影がひそやかに潜み、戦いの気配を漂わせているのが見える。

 通信にはミレニアムやゲヘナの偵察兵、偵察機によるカイザーの動向が逐一報告されており、市内には部隊がゆっくりと展開していた。

 だがこちらも既に指定位置についており、相手の奇襲に合わせて逆に仕掛ける準備は万全だ。

 

 お互いがゆっくりと布陣を整える中、刻一刻と時間が過ぎていく。

 アビドス側の布陣はほぼ完成し、後は作戦開始の合図を伝えるだけだった。

 カイザー側は状況を把握しておらず、完全に勝利したつもりで油断しきっている。

 

 先生は報告を聞き終えると、インカムのスイッチを入れ、全隊に通達した。

 

"みんな、聞いてくれ。アビドスのために集まってくれてありがとう。後は、全員が無事に帰ってくるまでが任務だ。気の利いたことはあまり言えないから、シンプルに済ませよう"

 

 そして先生は深く息を吸い込み、静かに、しかし力強く指令を下した。

 

命令は唯ひとつ(Order Only One)見敵必殺(Search and Destroy)

 

 命令を聞いた全員の目に、戦闘への覚悟と火花のような闘志が一瞬で宿った。

 ちなみに命令を下した本人は、心の奥で温めていた『一度は言ってみたかった台詞』をついに口にでき、内心で密かにガッツポーズをしていたほど大いに満足していた。

 後に、HELLSING(ヘルシング)を読んだ面々から揶揄われることになるとも知らずに……。

 

 

 

午前二時前

 

 

 

 カイザー側の布陣はほぼ整い、最終確認を余裕たっぷりに行っていた。

 完全に勝利を確信し、油断しきっていた。

 

 一方、アビドス側は真逆だった。

 誰一人として気を緩めず、勝利を確信するまでは表情一つ変えない。

 各自の準備完了報告を聞き、先生は静かに息を整えて命令を下した。

 

「―――開戦(オープンコンバット)攻撃開始(エンゲージ)

 

 その瞬間全員の目に鋭い光が宿り、息を合わせるかのように武器や装備に手が伸びた。

 街中の建物や影に潜む隊員たちの姿が一斉に動き出し、空気が張り詰め、戦闘開始の緊迫した気配が街全体に広がった。

 

 命令が下されると、属性攻撃を使える面々が魔法や技で雷を落とし、ユーリは人魚系最上級種・クイーンマーメイドとして「海技」を駆使し、攻撃を開始した。*2

 

 カイザー側の主戦力はロボット種族の兵士、つまりロイド系であり属性特攻は雷と水。音波属性も有効だが、攻撃用の音波属性アイテムは存在しない。

 一応攻撃用の歌や話術に音波属性があるが、ユーリを除いて誰も取得していない。

 

 さらに、空きビルや高所に潜んでいた生徒やゲヘナ風紀委員会も攻撃に参加。銃撃に加え、前もって渡しておいた「属性石」と呼ばれる攻撃用宝石を投げつけた。

 雷の魔力を秘めた「雷石」と上位版の「黄雷石」、水の魔力を秘めた「水石」と上位版の「青水石」が、空中で光を弾き、カイザーの兵士たちに直撃。小さな爆発や水流の衝撃が次々と生じ、ロボット兵士たちは次々に戦闘不能に追い込まれた。

 

 一応、ヒナとイオリにはさらに上位版の「電光黄雷石」と「激流青水石」を一つずつ渡しているが、これは緊急時および最終手段用

 安易に使用すればカイザー側に死者が出る可能性が高いことも、念を押して伝えてある。

 

 浮足立っていたカイザー部隊に総攻撃をかけると、街中に意図的に消されていた電気の明かりが戻り、敵は混乱の最中にようやく自分たちが罠に誘われたことに気づいた。

 慌てて連絡を試みても、水と電気の攻撃で通信機器は不調。ロボット兵士たちも思うように動けず、混乱はさらに拡大する。

 

 数時間のうちにカイザー側の戦力は半分以上を失い、後詰めしていたミレニアムの生徒たちによって頭脳ユニットは大切に保管され、その他のパーツはすべて徴収された。

 これによりミレニアムの経費削減にもつながり、会計担当のユウカは複雑な胸中ながらも、自然と笑みがこぼれたことだろう。

 

 頃合いを見計らった先生は掃討戦を仲間に任せ、ゆっくりと明るくなっていく空の下、先生は相手の本拠地へ向け進軍を開始した。

*1
当たり前だが完結済みしか入っていない。

*2
基本的に威力Dの水撃しか使用していない。




 ようやくここまで漕ぎ着けました。オリジナル展開に悩まされ、物語の流れが変わってしまうこともありましたが、書きたい場面はすべて書き切るつもりです。
 場面の前後が入れ替わることがあっても、原作の流れはなるべく変えないように気を付けていますが……正直、難しいです。

 今回のタイトルの元ネタは、R18PCゲームブランドのcatwalk/NERO様から発売されている「魔王と踊れ!」シリーズです。
 当初はソフトウェアハウスぱせり様の「デザートタイム 夢幻の迷宮」を考えていましたが、良い改変ネタが思いつかず、作品の発売も1998年と古すぎるため、ネタについていける人がほとんどいないだろうと断念しました。

 「魔王と踊れ!」も古い? ……まぁ、そうですよね。
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