Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
敵兵を蹴散らしながら、廃墟と化した街中を疾駆する一同。無数の銃声と爆発がまだ遠くで響く中、息ひとつ乱さず走り抜けていく。
キヴォトス出身――生まれながらにして高い身体能力を備えた者たちだ。軽く10km走る程度、彼女たちにとっては散歩と変わらない。
――だが、先生だけは違う。普通の人間である以上、脚は確実に限界へ近づいていた。
これ以上の突破には、もはや車両が不可欠だった。
市街地の外に戦闘車両を仕込んでおく――そんな策も一度は考えた。だが、罠を悟られれば全てが水泡に帰す。ゆえに何も残せなかった。
ならば選ぶ道はひとつ。敵の牙を、己の牙として利用する。
幸い、戦場という名の混沌は、あらゆる規律を呑み込み、隙を生む。
装甲車両の一台や二台が無人のまま置き去りにされていようと、誰も気づかない――いや、気づいたとしても、もはや気に留める余裕すらない。
状態のよい車両を二台確保し、それぞれの部隊が素早く乗り込む。エンジンが唸りを上げた――その瞬間。ユーリは天へと舞い上がった。
その背に、柔らかな光の翼が広がる――天使としての彼女が、戦場を照らす。
「少し、加減を止めて……一掃するよ。――準備は、いいね?」
その声音に、皆の心が熱を帯びる。戦士たちの顔が笑みを帯びるのは、戦意の証。
ユーリの一挙手一投足は、仲間には希望を、敵には地獄をもたらす――それはもはや、おとぎ話における"奇跡"そのものだった。
砂に埋もれた旧市街が、やがて眼下に広がる。
この先にあるのは、敵の牙城。――決戦の地だ。
「海技――
ユーリが大きく腕を広げて宣言すると、前方180度全域に、高さ数メートルの大波が生じた。困惑の叫びと悲鳴を巻き込み、有象無象のロボット兵士たちを押し流し、呑み込み、蹂躙する。
それだけでも十分すぎるほどの破壊だというのに、大波へと電撃が伝わった瞬間、押し流される兵士たちは絶叫と共に沈黙した。
残ったのは――水浸しの街中。機能を失ったロボット兵士。波の力で押し流され無用の長物と化した兵器群。崩れ落ちた建物。そして、街の上に堆積した大量の砂。
「……うわぁ。敵に回したら、終わりじゃん、これ」
セリカのドン引き混じりの言葉に、一同、同意するしかなかった。
「天使なのに人魚の技が使えるのって、すごいですね☆」
ノノミは無邪気な笑顔で感心している。
だが、ホシノやシロコといった人外技能持ちにとっては、修練を重ねれば別種族でも類似の技術を扱える――そう理解できてしまう分、なおさら静かな戦慄を覚える。
後詰めの兵士は、いまの一撃で一掃済み。残るは本拠地を固める防御部隊と、アビドス市街に攻め込んで返り討ちに遭っている攻撃部隊のみだ。
周囲の警戒は、空を飛ぶユーリに任せ、全員は拝借した戦闘車両へと乗り込み、砂漠の先――敵の牙城へ向けて、移動を開始した。
その時、後方で雷が落ちた。
「―――天の雷。見られていたよ」*2
"……ミレニアムの索敵にも引っかからなかったドローンか"
準備段階でレーダーに感知されなかったということは――戦闘が始まってから、ずっと監視されていたということになる。
つまり、この先、相手はすでに万全の態勢で待ち構えている。
嫌な予感が胸の奥を冷たく撫でたその時、ホシノが口を開いた。
「多分、黒服が私たちの戦いを“見物”するために飛ばしたんだと思う。――でも、ユーリちゃんが落としてくれたから、もう安心かな? まったく、頭が痛い話だよ……」
そしてほんのわずか間を置き、ホシノは短く、しかしはっきりと告げた。
「――行こう」
その言葉が合図となり、一行は再び、敵の牙城へ向けて進軍を開始した。
「まさか、ここまで読まれていたとは!!」
深夜二時前、不意打ちをするはずが逆に不意打ちを受け、予想外の展開に驚きと興奮を隠せず、彼はモニターに釘付けになった。
ドローン越しではあるものの、暗視カメラの映像は鮮明で、予想以上に生徒たちの動きが機敏かつ精巧なのが分かる。それは興味深くもあり、同時に不可解な光景でもあった。
突如生じた水流や雷撃で画面が白く染まる。その光景だけでも驚愕に値するが、さらに目を凝らすと、一部の生徒たちの挙動が常軌を逸していることに気づいた。
やがて町中に明かりが戻り、暗視から通常カメラに切り替えると、その理由が明確になった――近接武器を駆使していたのだ。
例えば狙撃銃を持つ
ハンドガンを持つ
マシンガンを持つ
「まさか、そんな…彼女以上に神秘を使いこなしているとは…!!」
一番驚いたのが、ショットガンを手にした
噂に過ぎないはずの神秘――「魔法」を、彼女は確実に行使している。ショットガンで攻撃を仕掛ける合間に、ロボット兵士に有効な雷属性の魔法を繰り出す――それらを交互に使い分ける戦法に、黒服は息を呑んだ。モニター越しでも、その速さと正確さに背筋が凍る思いだった。
「……そ、そんな、まさか……!?」
周囲を観察すると、アビドス側にも魔法のような攻撃を繰り出す者たちがいる。何かを投げつけると、着弾地点で水や雷の爆発が巻き起こる。間違いなく魔法を仕込んだ道具だ。
黒服はその光景に目を見張る。もしこの道具を取引で手に入れれば、一つでも最低十万は超えるはずだ。それを、まるで湯水のようにばら撒いて戦場で使っている……。
この戦闘だけで、想像を絶する何千万もの価値が消費されていることになる。
だが、黒服はそんな取引先の存在を聞いたこともなく、理解が追い付かない。混乱を一旦意識の片隅へ押しやり、画面に映る情報を余すところなく確認しようと努めた。
最初に視界に飛び込んできたのは、セリカと呼ばれる生徒だった。
信じられないことに壁を走りながら銃弾をばら撒き、壁から壁へ飛び移る際には両手の爪でロボット兵士を切り裂いていく。その身のこなしはもはや人間の域を超えていた。
次に目を奪われたのは、ノノミという生徒だ。
トリニティの者かと勘違いするほどの白い羽根を持ち、低空飛行しながらガトリングガンを乱射していた。一部の生徒は羽根を持っているが、それで空を飛ぶには神秘の力が極めて強くなければならない。しかも、最新情報では彼女に羽根は存在していなかった。
つまり、わずかな期間で空を飛べる力を獲得したことになる――到底理解できなかった。
ホシノの次に注目していたシロコに関しては、さらに理解の及ばない異様さがあった。
何故大鎌を携えているのか? 何故突如姿を消すのか?
いつの間にか、彼女は紛れもない化け物となっていた。
アビドスの生徒たちが、知らぬ間に強力な神秘を自在に操っている事実に、黒服は戦慄を覚えた。少なくとも神秘を行使している生徒は全員、ホシノ以上の力を発揮している。
――では、肝心のホシノはどうなのか?
その疑問に導かれるように、黒服はドローンカメラを操作して彼女を探し出した。すると、モニターに映し出された光景はあまりにも現実離れしていた。
包帯を両腕の延長のように扱い、ショットガンや大槌を自在に操るその姿。その動きは精密で、まるで一つの武器が自ら意志を持っているかのようだった。
一瞬、思考が凍りつくほど非現実的な光景だった。
それでも黒服は理性を取り戻し、再び視線をモニターに釘付けにした。
「素晴らしい……素晴らしい……! まさか、ここまで神秘を使いこなすとは――!!」
次元が違う──その一言に尽きる。包帯でショットガンを操作するホシノは、まるで蛇のように縦横無尽に動き、相手の死角を縫うように正確に撃ち込んでいく。銃弾が空気を切る音が断続的に響き、防御の隙間をかすめるたびに、ロボット兵士たちは思わぬ方向に吹き飛ぶ。
接近戦では包帯を伸ばして相手の足に絡め巧みに転倒させる。続けて大槌を包帯で持って振り下ろし、倒れた相手の胴体を粉砕する。
その衝撃は地鳴りのように周囲に響き渡り、砂や瓦礫が勢いよく跳ね上がった。
さらに、魔法も自在に操るホシノに立ちはだかる相手は存在しない。一連の攻撃は連鎖し、戦場全体を圧倒するかのように支配している。
生き残る者はおらず、ただ混沌と破壊が渦巻く──まさに圧倒的な戦闘芸術だった。
歓喜に震えながらも戦場を俯瞰していると、ホシノを含めた部隊が敵陣を突破するように前進しているのに気づいた。
ドローンを部隊に追従させると、その光景は想像以上の衝撃を黒服に与えた。
砂漠を滑るように進む人魚の姿があった。それも水場ではなく、乾いた地面の上を――。
人魚など、この世界に存在するはずがない。
それなのに、その存在はさらに常識を踏み越えていた。人魚が陸上にいるだけでも信じがたいが、地面を滑るように動くなど、常識では考えられない。だが、モニター越しでも明らかなほどの膨大な神秘量を放っている。
もし水辺で彼女を見ればその圧倒的な美しさに目を奪われただろう。しかし、ここは市街地。所々に砂が積もった場所で、魔法を駆使しながらロボット兵士を蹴散らすその姿は、異質さと畏怖の混ざった光景だった。
――捕獲できれば、どれほど素晴らしい研究材料になるだろうか。
「もしかしたら彼女が鍵かもしれません……」
モニター越しでも分かる――あれは、危険ではなく“奇跡”だ。
「欲しい、暁のホルス以上の神秘を持つ彼女が欲しい!」
既にカイザー側の敗北は決まっている。それでも、黒服は諦めるわけにはいかなかった。チャンスは一度きりではない。後の展開を見据えつつ、ドローンカメラで彼女たちの動向を追従させる。
「なるほど……攻撃部隊を誘い込み、本拠地への電撃戦。理にかなっていますね……そして、彼女たちなら間違いなく勝利できるでしょう」
モニター越しに映るのは放棄されたカイザー側の戦闘車両を物色する彼女たちの姿。
しかし、戦車でさえ突破が容易ではない戦闘車両で、敵陣を一気に突破するのはそう簡単ではない。黒服は直感的に、何かがあると感じた。
そして次の瞬間、想像を超える光景が目に飛び込んできた――。
先頭を進む人魚の少女が、突如として羽根の生えた人間の姿に変わった。
「――は?」
理解が追いつかない。なぜ人魚がトリニティの生徒のような姿になるのか。黒服は言葉を失い、モニターに映る情報をただ呆然と眺めるしかなかった。
さらに驚愕すべき光景が続く。少女はまるで天使のように空を舞い、足元の大波を生み出す。その大波に雷撃を流し、カイザー側の兵力を一瞬で押し流していくのだ。
大規模攻撃の結果、残ったのはアビドスの生徒たちと、空を飛ぶその少女だけ。生徒たちは戦闘車両に乗り込み、本拠地へ向かおうとしていた――
その時、カメラ越しに、彼女と視線が合った。
慌ててドローンを退避させようとしたが間に合わなかった。彼女が手をかざした瞬間、映像は途切れた。恐らく神秘か、あるいは魔法によって落とされたのだろう。
黒服は初めて、戦況に心底から恐怖を覚えた。
「ここら辺が潮時ですか……ですが、あまりにも興味深い。
暁のホルス、そして同じく神秘に目覚めた生徒たち……それ以上の力を持つ使い手、先生と呼ばれる人物……クックックッ……嗚呼、この後が忙しく、そして楽しみになりました」
この戦いは間違いなくアビドス側の大勝利に終わるだろう。
その後、どこまで取り返すことができるかは想像できない。しかし、付け入る隙は必ずある。
薄暗い部屋に佇む黒服は、録画された戦闘映像を何度も見返しながら思考を止めることはなかった。「面白い……いや、面白すぎる……」と低く呟き、指先でテーブルを軽く叩く。心の奥底で沸き上がる興奮と計画への期待が、微かな笑みとなって口元に浮かぶ。
彼にとって、この戦いは単なる敗北や勝利の問題ではない。神秘を極めた者たちの動向を把握し、次なる機会を狙うための貴重なデータ収集の場でもあった。
"アヤネ、そちらの状況はどう?"
『皆さんの奮闘ぶりが凄く、敵残存勢力はほとんど残っていません。後は掃討戦に移ります』
『本当……もっと早く知りたかったわ。あの攻撃用宝石、一体何なの……?
あれさえあれば不良生徒の制圧ももっと楽になるわね』
敵本拠地への移動中、防御部隊の状況を確認すると掃討戦への移行が報告され、一同はほっとした表情を浮かべた。一方でアコは、あの火力に目を見張りつつも冷静に眉をひそめて分析している。期待と呆れが入り混じる現場の空気が、そのまま伝わってくる。
"あー、あれねー……ユーリが独自の能力で手に入れたとしか教えられないんだ。これ以上詳しく知りたいなら、独自の契約を交わさないと教えられないんだ"
『また彼女絡みですか……あの一件でゲヘナでは『
アコの話を聞く限り、あの一件でゲヘナ自治区から完全に
『第一小隊と第二小隊、もうすぐ視認距離です』
"了解、これから攻撃に備える。
敵本拠地が視界に入ると、防御部隊が展開されているとの報告が入った。直ちに車両を停止し、各自が能力全開で突撃態勢に入ろうとしたその瞬間、支援砲撃が防御部隊めがけて降り注いだ。
『お、お待たせしました!』
通信先に映ったのは、紙袋を被ったトリニティの生徒。しかし背負っているリュックで、すぐに誰かが分かる。あんな
『ち、違います! 私はヒフミではなく、ファウストです!』
まぁ、自分で名前を言っていることに関しては、ノノミが突っ込んでしまったが、ここは大人しくそっとしておこう。
だが先生は、紙袋を被った「ファウスト」という名前を聞いて、どうしても
そのうち巨大メスを持たせたり、
流石に
『その、この牽引式榴弾砲ですが、トリニティ総合学園とは一切関係ありません。射撃を担当している皆さんにもそう伝えておきましたので。
すみません、私にはこれくらいしかお役に立てません』
だが、その援護だけでも十分だ。全員が声を揃えて感謝の言葉を伝えると、
"――
そして先生の号令と共に、総攻撃が始まった。
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Blue Dawn ~from BLAZBLUE ALTERNATIVE DARKWAR~
「Blue Dawn」を選んだ理由は、終わってしまった作品でありながらも、未だに根強いファンがいること、そして同じく“青”をタイトルに冠した作品へのリスペクトです。
もともと、この辺りの戦闘シーンで使用する予定でしたし、曲名を直訳すると「青の夜明け」となることから、今回の話にもぴったりだと思い、話のタイトルにも採用しました。
もちろん、ラストバトルでも使う曲は既に決めています。