Paradise of the Disqualified:Rewritten World   作:GameMaster

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18話 FREEDOM WARS

"――戦闘開始(エンゲージ)!"

 

 総攻撃――言葉の響きは勇ましいが、実際には七人対大多数。数字だけ見れば圧倒的不利だ。

 だが、その常識はこの場では通用しない。七人のうち六人は、一騎で千を薙ぎ払う存在――伝説に語られるような力を宿す者たちだった。

 

「「「「メガサンダーッ!!」」」」*1

 

 ホシノ、シロコ、ノノミ、セリカ――四人が詠唱を終えた瞬間、雷鳴が轟き、稲妻が戦場を覆い尽くす。閃光が敵の群れを縫うように走り、直撃を受けた者たちは次々と膝を折り、白煙を上げながら地面に崩れ落ちた。

 敵が弱かったわけではない。ただ、彼女たちの攻撃は規格外で、さらに雷という最悪の相性を突かれた結果、致命的な一撃となったのだ

 

 ユーリとワカモも当然黙ってはいない。矢継ぎ早に援護を加えつつも、あえて撃ち漏らしだけを仕留めていく。あたかも舞台の照明が四人に集まり、自分たちは影の位置に立つかのように、その輝きを際立たせるために。

 

 無数の敵を退けつつ進軍していくと、セリカが足を止め、周囲を見回した。

 

「……ここ、学校? この痕跡……多分、学校だよね?

 

 その言葉にシロコも思い当たる点があった。砂漠に埋もれた残骸のような建物。

 

「もしかして――」

 

 

「――ああ。ここは、本来のアビドス高等学校本館だ」

 

 シロコの言葉を遮るように、残存兵力を伴って現れたカイザーPMC理事が続けた。

 その瞬間、ロボット兵士たちが列をなし、まるで悪役映画の一場面のようにゆっくりと姿を現す。自信たっぷりに口を開こうとした理事の前で、静かなため息が冷たく戦場の空気を震わせた。

 

「なんだ、単なる有象無象か。今の状況を見ていたなら勝ち目が無いのに出て来るなんて、馬鹿なの? それともまたバラバラにされたいの?

 

 ユーリの言葉は的確で、皮肉と冷徹さが混ざった正論だった。魔法を用いたとはいえ、短時間で大半の敵を戦闘不能に追い込み、圧倒的な力を見せつけていた。

 仮に不利な状況になったとしても、最終手段としてユーリが少しだけ手加減を止めれば、容易に制圧できる。だが、その余裕は単なる傲慢ではなく、仲間たちの成長のために敢えて手を緩めている冷徹な配慮の証拠でもあった。

 

「なっ……!? 貴様、ガキの癖に……言いたいことを遮るとは!」

 

「これでも一応20歳だよ。一応大人だけど、見た目で判断した上に思い通りにいかなければ癇癪を起こすなんて、どっちが大人なんだか……面倒だしさっさと話してよ」

 

 カイザー理事の言うことにも一理ある。一同は面倒そうに顔をしかめながらも、仕方なく耳を傾けた。彼の説明によると、ここはかつてアビドスの中心として栄華を誇った場所だった。

 そしてカイザーに協力する「ゲマトリア」と名乗る団体は、ここに実験室を作るよう要求したという。恐らく人体実験だろう――。

 その自信たっぷりな語りぶりは、何も恐れるものがないかのようだった。

 

 その話を聞いたユーリが、微かに笑みを浮かべて呟く。

 

「ねぇ先生、今寝言が聞こえなかった?」

 

"()!? いや、誰も寝ていないけど?"

 

 予想外の質問に先生は眉をひそめた。周囲も困惑する中、ホシノが代弁した。

 

「おじさんもそうだけど、誰も寝てないよ? むしろ何でこんな所で寝られるの?」

 

 ワカモはその言葉を聞くとユーリに軽くアイコンタクトし、頷く。続けて口を開いた。

 

「そうですわね……寝言でなければ――」

 

戯言(たわごと)だね

 

 ユーリは満面のドヤ顔で返し、一同は思わず噴き出した。

 本来なら「寝言は寝て言え」で済むところだが、わざわざ回りくどく言った分その煽りの威力は増している。味方側は腹筋にダメージを受け、敵のカイザー理事にさえ青筋が浮かぶ幻影が見えるほどだった――ロボットであっても、心底煽られた証拠である。

 

「貴様らッ……!! ずっと目障りだった! あらゆる手段を講じていたのに、粘り強く借金を返済しようと躍起になりながらも楽しそうに!!

 お前たちのせいで、計画が、私の計画が!! 絶対に許さない!!」

 

 

「うへぇ……うまくいかないからって逆ギレなんて、おじさんこんな大人にはなりたくないなー

 

 カイザー理事の身勝手な言い分に、心底呆れた様子でホシノはため息をついた。

 

「ふん、あんたみたいな下劣で浅はかな奴が何をしようと、私達の心は折れたりしないわよ!!」

 

 セリカの怒りはさらに燃え上がり、こんな奴らにアビドスは渡さないと決意を固める。

 

「ん。終わらせる」

 

 シロコはいつも通りの冷静さを装っているが、内側では激情の波が渦巻いていた。

 

「あなた達みたいな情けない大人には負けません!」

 

 カイザーと自分達の目指す大人像は違う。ノノミは暗にそう宣言した。

 

「ふふ、久しぶりに破壊衝動に身を任せましょうか……無論、対象はあなた達、カイザーですが

 

 ワカモは完全にキレていた。だが周りが完全にキレているため、一周回って冷静となり、わざとらしく狂気を出すフリをしていたのだ。

 

「どうせならもっと煽ろうか。『――小便はすませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタ震えて命ごいをする心の準備はOK?』ってね」

 

 ユーリは名作『HELLSING(ヘルシング)』の名セリフを引用。

 さらに悪戯な笑みを浮かべ、手招きしながら、徹底的に煽る。

 ――敵にとって、屈辱的な挑発の一幕となった。

 

"子どもはいつか成長して大人になる。そんな当たり前の未来を、お前たちの都合で潰すなんて絶対に許さない! 戦闘開始(エンゲージ)"

 

 意外にも、全員初手必殺の雷魔法は封印していた。だが、各自が近接武器を握りしめている様子から、怒りと闘志の高さが見て取れた。

 

「よっこらしょっと☆」

 

 ノノミは両手剣でロボット兵士を袈裟斬りにし、一撃で戦闘不能に。

 その勢いのまま別の敵を逆胴で両断する。そのまま笑顔を絶やさずに敵軍に突撃して残骸を積み上げるその姿は、恐怖そのものだった。

 

 セリカは魔獣上級種『スピードビースト』に昇格しており、獣技と盗賊技を同時に駆使。通り過ぎた後には爪で切り裂かれ、無数の銃弾を受けたロボット兵士が無惨な姿を晒していた。

 

「ばっ、化け物! 化け物め!」

 

 混乱した兵士たちが銃を向ける相手はシロコ。しかし彼女はゴースト系の屍技を駆使して揺らぎ、現れ、消え――気づいた時には銃撃や大鎌で切り裂かれていた。

 まるでホラー映画のワンシーンだ。

 

「――ひぃっ!? やめろ、止めろぉぉぉぉぉ!?

 

「どうかな~? 思うように動けないのはさー?」

 

 ホシノは屍技のゴースト系を持っていないため、屍技のゾンビ系で包帯で敵を操り同士討ちを発生させる。使えなくなれば別の敵を操る徹底ぶりだった。

 ユーリも後にそのことを知り、『魔芸師でもそんな使い方しないよ……』と頭を抱えた。*2

 

「あはっ。あはははは!! 楽しい! とても楽しい!

 思うがまま、邪魔する障害を粉砕するのは何て爽快なのでしょう!!」

 

 戦闘前にユーリに頼み、ワカモは最上級職『ベルセルク』に転職。超凶暴化(ハイバーサク)を発動して暴風のように周囲を薙ぎ倒す。狙撃銃と斧を使い、敵を蹴散らす姿はまさに破壊の嵐だった。

 

 ユーリは、先生のすぐ側で常に最大級の警戒を続けている。この瞬間ばかりは手加減を少し止め、封印種・封印職を解禁する――先生を守るためだけの力として。

 

 それは光と闇を極めた魔神系封印種、超魔神

 それは時魔法を極めた時魔法系封印職、銀河魔導師

 

 その並外れた身体能力と、時の流れを自在に操る魔法は、先生を守るためだけに振るわれる。狙われた銃弾や投擲武器は時の流れに遮られ、煌めく刀閃が斬り裂く。

 

 襲撃者も、飛んでくる斬撃一閃で頭脳ユニット以外は無残にスクラップと化した。

 戦略級の魔法を使わずとも、怒りのまま振るわれる近接武器により残存兵力は無慈悲に蹂躙され、次々と破壊されていった。

 一人また一人と逃げ出すロボット兵士を、怒り心頭のアビドス生徒達は容赦なく銃撃や雷魔法で沈黙させ、さらに逃げ惑う者たちを完璧に制圧していった。

 

 戦闘開始から十数分、カイザーPMCが集めた残存兵力は完全に壊滅し、戦場には静寂だけが残り、残るはカイザー理事だけとなった。

 

「……あいつ、もしかして逃げた?

 

 セリカとノノミは種族の特性を最大限に活かし、基地を探し回りながら慎重に確認する。しかし目に映るのは、廃墟となった学校跡地と、スクラップと化したロボット兵士だけ。逃げられたのか、と考え始めたその刹那――

 

貴様らっ! 許さん、許さんぞ! もう実験体確保の話は関係ない! 皆殺しにしてやる!

 

 恐らく乗り込んでいるのだろう――

 カイザー理事の声とともに、大型の二足歩行ロボットが姿を現した。両腕には三連装の大口径ガトリング砲が備えられ、さらに頭部には巨大なキャノン砲が突き出している。

 足は逆関節構造で、地面を蹴るたびに機械特有の鋭い音が響き渡った。その異様なしなやかさに、セリカもノノミも思わず息を飲む。

 

 武装と装甲で過剰に覆われたその姿は、まるで動く要塞そのものだ。だが、コックピットと見える窓はなく、人が乗っている気配は確かではない――内部は深い闇に閉ざされ、微かに震える影すら操作者として見えない。

 

 だが、この場にいる生徒たちは人外能力を覚醒させた規格外の存在。恐れることはない。

 

「ん、遅い

 

「食前の運動にもなりませんね☆」

 

 気付けば、ロボットの背後へ飛んでいたシロコの大鎌とノノミの両手剣によって、肩から両腕を切り落とされ、その両腕が轟音と共に地面へと落ちた。

 

なぁっ!? い、いつのまに!?』

 

「いくら何でもこれはご遠慮願いますね」

 

 いつの間にかキャノン砲の上に立っていたワカモは無造作に斧を振るうと、砲身が斜めに切り落とされ、地面へ落下して完全に使い物にならなくなった。

 

「大きければいいってもんじゃないわ。私たちを甘く見すぎていたのよ

 

 その俊敏さで後ろに回り込んでいたセリカが両手の爪を無造作に振るうと、膝部分のジョイントを見事に切り裂き、脚部を破壊。

 バランスを崩した巨大ロボットは、そのまま前のめりに倒れ込むことになった。

 

う、うおおおおお!? 馬鹿な、こんなあっさりやられるとは……夢でも見ているのか!?』

 

残念無念、夢じゃなくて現実だよ。さぁさぁ大人しくしていてねぇ~」

 

 そう言いながらホシノは倒れた巨大ロボットの側面へと回り、包帯を伸ばして反対側を掴み、「よっこらしょっと~」と気が抜けたセリフを口にしつつ、後ろに下がりながら転がして、倒れたロボットをうつ伏せから仰向け状態へと変えた。

 

な、何なんだ……お前らは一体何なんだ!!

 

 あとはコックピット部分からカイザー理事を引きずり出すだけだ。叫び声を無視しつつ、ノノミとセリカは軽く飛んで慎重にコックピット付近に着地した。

 その手には、いつもの銃器ではなく近接武器が握られている。

 

「さて、出てきてくださいね☆ 何も分からず斬ってしまい、頭脳ユニットを壊してしまわないよう、破壊したくありませんからね~」

 

「それとも、そこの場所以外を、この爪で解体してあげましょうか?」

 

 だが、二人の問いかけに返ってきたのは沈黙のみ。仕方がなく、二人はコックピットのハッチ部分と思しき箇所を、大剣や爪で無理やりこじ開けた。

 すると、物言わぬカイザー理事が鎮座したままだった。

 

 あまりにも静かで、近づいても一切反応がない。

 

まさかっ!?

 

 セリカがカイザー理事の両肩を掴んで揺さぶっても、何も変化はない。まるで初めから動いていなかったかのように、鎮座したままだった。そう、電源すら入っていないように――。

 

「――やられたっ!!」

 

 一同も驚愕したが、先生の判断は迅速だった。

 

"総員、残存兵力に警戒しつつ基地内を捜索! 痕跡を発見したら即座に報告! こちらは協力してくれたミレニアムの生徒に連絡する!"

 

 そこからの展開も迅速だった。万が一に備え、先生の護衛と近距離の探索はユーリに任せ、各自は基地内を散開して細かく調べていく。

 その間に先生は、協力してくれたミレニアムの生徒とアヤネに連絡。ミレニアム側は即座に移動することを約束し、アヤネからは掃討戦がすでに終了していると報告された。現在は後片付け中とのことで、現場の安全確認も進められているようだった。

 十数分後、セリカからカイザー理事を発見したとの通信が届いた。言葉にはわずかな躊躇があった。一同は違和感を覚えつつ、基地の一室に足を踏み入れると、そこには物言わぬまま鎮座したカイザー理事がもう一体、静かに佇んでいた。

 

"初めから負ける想定も考えていた訳か……"

 

 あの時、ユーリによって全滅させられた後から大敗のシナリオを想定していたのだろう。その点ではシャーレ側の落ち度も否めない。しかし、過去を悔やんでも仕方がない。

 結局ミレニアムの生徒が到着し、スクラップや兵士の頭脳ユニットの回収を手伝いながら、解析結果を待つことになった。

 報告によれば、一体は遠隔操作、もう一体は頭脳ユニットが回収済みだった。

 そこから導かれる結論は、あの時現れたのは身代わりで本体は別の体から大型ロボット「ゴリアテ」を遠隔操作していた、ということだ。

 やるせなさは募るが、これ以上の行動は不可能。致し方なく撤収を決定した。

 

 先生は付いて来てくれた生徒たちを一瞥し、柔らかく言葉を紡いだ。

 

"ひとまず、大まかな回収も終わったみたいだし、帰投しようか……状況終了(Situation End)"

 

 一区切りの安堵を胸に、アビドスへの帰還が始まる。無事に帰るまでが、あくまで作戦だ。

 

 車内では生徒たちが微かに安堵の吐息を漏らしつつ、通信で当たり障りのない会話を交わす。戦いは勝利で終わったが、心の実感はまだ追いつかない。

 夢から覚めるかのように、車窓の景色が砂漠から廃墟へ、さらに市街地へと変わり、車内の会話は徐々に減り、静寂が少しずつ広がっていった。

 アビドス高校に戻ると、多くの仲間たちが笑顔で出迎えてくれる。

 

"本当はこういう時「作戦終了(Mission Complete)」で締めるのが理想だけど、今回はあれかな……?"

 

「そうですね、帰って来たんですし、あれですね☆」

 

「あれでいいんじゃない?」

 

 先生の言葉に、ノノミとセリカも頷き、シロコも微笑む。ホシノは「うへー、何でおじさんなのー?」と冗談交じりに嘆いたが、やがて集まった仲間たちへ向けて声を張った。

 

みんなっ、ただいまー!!

 

おかえりなさい!

 

 こうして、たった五人から始まったアビドスを巡る戦いに、一区切りがついた。長く厳しい戦いの果て、仲間たちと共に勝利の余韻をかみしめながら、静かに次の時を待つのであった。

*1
威力C 雷属性全体攻撃

*2
ゾンビ術・降霊術・人形師の三魔芸を扱う為の一般職。むしろこの使い方はモンスターハンターライズの操竜に近い。




 寝言じゃなければ「戯言(たわごと)」という言い回しは、『エストポリス伝記2』という古いゲームで登場したものでした。一体どれだけの方が覚えているでしょうか。
 改めて、シナリオを書かれた宮田正英さんの力量には驚かされます。
 今、何をされているのか気になるところです。

 原作では、ゴリアテの起動シーンは描かれず、ただ姿を現すのみです。ですが、他の方々のブルアカ二次創作を見ると、ゴリアテの登場を巧みに描いており、感心せずにはいられません。

 今回リンクした楽曲
 メリッサ ~from 鋼の錬金術師~
 ラストバトルに似合う曲と歌詞をいくつか候補に挙げましたが、実は17話の執筆直前まで最終候補が決まっていませんでした。最終候補曲は別のシナリオで使うと決め、今回はメリッサを選択しました。

 今回の話のタイトル「FREEDOM WARS」は、2014年に発売され、2025年にリマスター版が発売されたゲームです。過程や結果が違うとは言え、自由を求めて戦う共通点もあるので、採用しました。
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