Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
戦いの後片付けが終わり、迎えたのは先勝の宴。柴大将とユーリを中心に、生徒総出で作られた料理が並び、豪華な昼食がテーブルを彩った。
それぞれが思い思いに舌鼓を打ち、違う学校の生徒同士でも、お互いの健闘をねぎらい、称え合う。笑い声と箸の音が、戦場の緊張を忘れさせるひとときだった。
昼食会が終わると、生徒たちは疲れた身体を引きずりながら、それぞれの居場所へと戻っていく。日が変わる前から作戦準備を行い、深夜から戦闘に臨んでいたのだから、いくら若いとはいえ、その疲労は計り知れない。
ノノミとセリカは既に寮に戻り、今ごろは夢の中で静かにまどろんでいることだろう。
文字通り大暴れしたワカモは、先にシャーレへ転移して帰還しており、自室で達成感に浸りながら、力の抜けた身体を休めている。
対策室に残ったアヤネは、大まかな事後処理を終えたあと、机に突っ伏して眠り込む。その隣ではシロコが椅子を並べて横になり、戦いの余韻を伴った静かな眠りに落ちていた。
戦いの余韻が、少しずつ、しかし確実に空間を包んでいく――そんな午後だった。
そんな中、残りの戦後処理をしているのは先生とユーリ。そしてシロコの近くに座るホシノは、書類仕事で疲れたのか、以前に目論見を先生たちに暴露された仕返しとばかりに、シロコのスカートをめくり、軽く肩をすくめてにやりと笑い「白だね~」と呟いた。
その言葉に、書類仕事を止めずにユーリがクールに返す。
「ちなみに、私のパンツは普通のピンクだよ」
"そんなことは聞いていません"
「ワカモちゃんは黒がお気に入りだよ……って知ってるか」
"だから聞いてないってば"
ホシノはあくびをしながら、その
「ホシノちゃんはピンクのしまぱんだよ」
「なんで知ってんのよユーリちゃん!?」
想定外のフレンドリーファイアに顔を赤くしながら思わず立ち上がった時、机の上に置かれていたホシノのスマホがけたたましく鳴り響いた。
思わず眉をひそめ、耳を澄ませる。
着信用の楽曲でもなく、いつも聞く着信音でもない。どこか警告音に近い、一昔前の電子音――不穏さを帯びた音色に、身体の奥がざわりと反応した。
日が沈み、アビドスから離れた別の自治区にあるやや大きめのビルに、緊張した面持ちで先生は一人で入っていった。
指定されたのは先生一人だけ。ユーリが霊体化して同行する案もあったが、先生はそれをやんわりと断り、仕方なユーリとワカモはビルの近くで待機することになった。二人の視線は自然とビルの出入口に釘付けになる。
「大丈夫、ですわよね……」
「そう信じたいわね。どんな方法かはわからないけど、『一緒に行ってはいけない』っていう不思議な忌避感を放つ結界っぽいものがある……私でも破れない、別の
「――そんなっ!? それならなおのこと!」
「この先に行けるのは、私が持つ
どちらにしろ、間に合わないことだけは確か。祈るしかないね……」
ユーリの言葉に、ワカモは顔をしかめ、眉間に皺を寄せた。
「何に祈ればよろしいのでしょうか? 私、神なんて信じていませんので」*1
「先生か私に? 『天元突破グレンラガン』っていうアニメからの引用だけど、『俺を信じろ。お前を信じる俺を信じろ』って言葉通り、ワカモちゃんを信頼する先生か、先生を信頼する私に祈ってくれればいいのよ」
ワカモは一瞬、考え込むように唇をかみしめた。やがて小さく頷き、今度三人でそのアニメを視聴しようと心に決めつつ、そっと先生が入ったビルを見上げた。空は深い藍色に沈み、夜の静寂が辺りを包む中、彼女の胸に期待と不安が入り混じる。
エレベーターでビルの最上階に着いた先生は、そのまま近くのドアを開ける。そこは会社の重役が使うような重厚で広々とした部屋だった。
そして部屋に立っていたのは、漆黒のスーツを身にまとい、ネクタイや手袋まで真っ黒に統一された人物。ワイシャツの胸ポケットやスーツのポケットから出ているハンカチだけが白く、冷たい光を放っている。まるで不気味なマネキンのように直立し、静かに先生を見つめていた。
スーツの表面には無数のひび割れが入り、そこから淡く冷たい光が漏れ出す。その光は、角度によって微かに笑っているようにも見え、見る者に不気味な印象を与える。まるで内部から意思が宿っているかのように、立っているだけで空気を張り詰めさせる。
顔のひび割れは表情を作るように精巧で、人間の感情を模しているかのように見えるが、同時にどこか非人間的で不気味な感覚を抱かせる。それこそ、黒服と呼ばれる者の正体そのものだった。
「……お待ちしておりました、先生。
あなたとは一度こうして、顔を合わせてお話ししてみたかったのですよ」
こうして、外の世界から来た先生と、異なる世界から来た黒服の初めての対峙となった。
黒服は部屋のデスクに腰を下ろし、先生は応接スペースのソファに静かに座った。
到着時に監視カメラで確認されていたのだろう。すでに用意されたコーヒーの香りが、微かに部屋を満たしている。
口に含むと、選び抜かれた豆の香ばしさが広がる。とはいえ庶民舌の先生には、「美味しい」と「香りがいい」程度の感想しか口にできなかった。
それでも黒服は、その控えめな反応に満足したのか、静かに口を開いた。
情報は到着前から綿密に収集していたらしく、先生を過小評価せず、敵として扱うべきでない存在と判断していたらしい。協力の意思も示している。
さらに、黒服自身も先生とは別の「外側」から来た存在であることを明かし、仲間たちのことを「ゲマトリア」と呼ぶと、自らの名を改めて告げた。
「そして私の事は「黒服」とでも。この名前が気に入っていましてね。
黒服は提案する。ゲマトリアと協力する気はないか、と。
しかし先生は一瞬の間も置かず、毅然と断った。黒服の問いかけは止まらないが、先生は揺るがず、その誘いを拒絶する。
「大人とは、望む通りに社会を改造して、法則を決め、規則を決め、日常と非日常とを決め、平凡と非凡を決める者です。権力によって権力の無い者を、知識によって知識の無い者を、力によって力の無い者を支配する、それが大人です」
黒服の説明が静かに終わると、部屋の空気を切り裂くように、凛とした声が響いた。
その瞬間、周囲の色彩がゆっくりと抜け落ち、窓の向こうに広がる装飾品や夜景までもがセピア色に変わり、光や影の境界すら曖昧になった。空気はひんやりと静まり返り、わずかな香りや遠くの音までも遠ざかる。まるで時間が止まり、この場所だけが現実から切り離され、異界の空気に包まれたかのように感じられる。
空間は微かに歪み、一筋の光に包まれるようにして、ふわりと少女が姿を現した。
水色のワンピースを纏い、頭には同色のリボンがそっと結ばれて揺れる。腰までの金髪は柔らかく光を受け、淡く輝き、赤い瞳は鋭く光を反射して周囲を射抜く。その瞳には人間のそれとは異なる、冷たくも深い異質の輝きが宿り、周囲には人外のオーラが静かに漂っている。
白いエプロンや靴の可憐なデザインは少女らしさを残すが、その立ち姿からは常人には感じ取れない威圧感と異界の気配が滲み出る。動くたびにワンピースの裾がふわりと舞い、まるで幻想と現実の境界を揺るがすかのようだ。
「初めまして。私のことは……そうですね『エイス』とでもお呼びください」
突如現れた彼女は、静かにカーテシーをしながら自己紹介を行った。その動作一つひとつに、空間が微かに歪むような感覚が伴い、黒服の瞳には好奇心よりも恐怖が勝った。先生もユーリでさえ太刀打ちできない相手であることを、直感で理解する。二人とも、下手な行為をすれば瞬時に消されるという現実を痛感していた。
「それで? 駒風情が何をほざいているのでしょうか? まるで自分は生まれた時から大人という、いかにも『完成されています』みたいな都合のいい幻想でも見ているのかしら?
誰だって子供時代があったはずよね? そんな当たり前のことも忘れたのかしら?」
エイスの声は柔らかく、しかし床や壁に反響する低い余韻が、聞く者の胸に重くのしかかるようだった。微かな光の揺らぎと風の流れも、彼女の存在によって自然と操作されているかのように感じられる。その視線は鋭く、黒服の全身を隅々まで測るようで、まるで上位者が義務を放棄した者に説明を要求しているかのような威圧感が漂っていた。
「確かに力を持つ者は法よ。だけどそれは、無法を許可されたわけではない。法を放棄して無法に走れば、より強い法や無法に打ち倒されるのが世の常。
ふふふ……そう言っても作られた駒風情には理解できないのも仕方がないかもしれないわね」
その声の余韻が消えた後も、空間の重さと不気味な静けさは残り、黒服は無意識に背筋を震わせた。エイスの存在が、現実と幻想の境界をわずかに揺らし続けているかのようだった。
"駒……つまり黒服たち、ゲマトリアは敵が作った手札……ユニットという訳か。そう例えるなら、この世界は戦略シミュレーションみたいなものか。
そう考えると、第三者であるエイスさんの立場は観測者……つまり、今この場所はゲームと現実の境目ってところかな? 確か昔読んだ漫画に、観測者と論戦を交わす話があったな"
エイスが黒服のことを『作られた駒』と呼び、先生はそこでこの世界がゲームのように設定されているだろうと無意識に言葉が漏れ出た。その独り言に、エイスは上機嫌で答えた。
「この世界で見た『うみねこのなく頃に』ね。中々聡明じゃない。それでは元ネタどおり、『赤き真実』でお答えしましょう。
敵はこの世界をゲーム盤として見ており、差し手の目的……つまり勝利条件は世界の破滅よ。
お礼として条件付きだけど、『青き真実』を使わせてあげるわ。ただし、質問の内容によっては拒否権を行使するわ。これは単純に答えられないこと、そして知るだけで危険な情報等様々よ」
その報酬に、先生はより慎重にならざるを得なかった。
『赤き真実』とは、観測者たちが論戦を繰り広げる『メタ空間』という場所で、千日手を避けるために作られたルール。それは観測した場所での『真実』を示す。
そして、『青き真実』とは、その青を使った質問は必ず『赤き真実』で答えるルールだ。
これが論戦であれば、単発の質問よりも無数の疑問を含めた、銃で言えば散弾や連射のような面攻撃が基本だ。
だが、ここは論戦の場ではない。故に質問するだけにした。
"エイスさん、君は僕の敵? 味方?"
「呼び捨てで結構よ。敵か味方か分けるとしたら、味方」
"僕も、生徒達も、エイスの駒?"
「一部の例外を除いて、違うわ。例外としてユーリには道筋を示す程度だから……遠回しの意味で言えばユーリも一応駒ね。」
"敵の目的がこの世界の破滅ならば、君の目的は?"
「相手がバットエンドを作って、それを見て楽しむのが気に入らないから、殺す。
悪趣味過ぎませんか? 不幸をプロデュースしてその通りに動かすって? そうされた者が一体どんな思いで過ごすのを、見て楽しむなんて……絶対に許さない」
そこで先生は否応なく理解した。彼女はかつて逃れられないバットエンドをプロデュースされた存在であり、何らかの方法でそれを回避したのだ。そして、逃れたその瞬間から、同じようなことを行う存在を狂おしいほど憎むようになったのだ。
『赤き真実』を使ってまで宣言するということは、それが彼女の真実であり、本気度合いが明確に伝わってくる。
その圧力は空気を震わせ、部屋の隅に立つ黒服さえも思わず縮み上がらせるほどだった。
その時、蚊帳の外に置かれていた黒服が、わずかに肩をすくめ、遠慮がちに挙手した。目には明らかな緊張が浮かび、声を出すのもためらわれるかのようだ。エイスはあふれ出る憎悪の圧を霧散させ、一息ついて低く、しかし毅然と告げた。
「――発言を許可するわ」
「その……差し支えなければ、あなた様の詳細を教えていただければ……」
黒服の疑問はもっともだった。現在判明していることは、彼女がいわゆる『上位者』で、この世界をゲーム盤に見立て、敵と勝負している程度に過ぎないということだった。黒服の声が小さく震えたのも、圧倒的な存在感を前にすれば当然のことだろう。
「そうね、簡単に言うと私はタルタロス……ここで言う月光洞の一番大きい場所、確か満月光洞や大月光洞と呼ばれているところね。そこから繋がっている第九世代宇宙からやって来たのよ」
"第九世代……"
「少し前に私たちの宇宙で実験事故が起きてしまってね、次元を貫くほどの大穴が空いてしまったの。それが私たちの宇宙で言う『タルタロス』。
第八世代宇宙のここで言えば、先ほど言った通り満月光洞や大月光洞から繋がっているの」
"つまり、エイスは未来からの来訪者?"
「その通りよ。約1500億年先、宇宙の破壊と再生を経た第九世代宇宙からやって来たの」
「すると、宇宙の寿命は大体1500億年ということですね……想像もつきません」
その途方もないタイムスケールに、黒服は思わず小さく呟いた。
それも当然だろう。創作物の生き物だって一万年生きることは早々ない。例え一万年だとしても、1500億年という時間から見れば、ほんの一瞬に過ぎない。
「確認しているだけでも第七世代まで貫いているから、最低でも第六世代、最悪第五世代まで次元の穴が貫通している状態よ。第九世代の問題は一応解決しているから、私は観光を兼ねて問題解決の旅に出ているの」
黒服は、言葉の一つひとつが頭の中で跳ね返るように響き、血の気が引いた。
一体どんな実験で失敗すれば、こんな途方もない破壊が起きるのか。1500億年、3000億年、いや最悪の場合6000億年――現実感を失った桁外れの時間が、頭の中で渦巻く。
しかし、恐怖だけでなく、黒服は同時に理解していた。
仮に彼女が詳細を語ったとしても、それは余計に恐ろしいものに違いない。大穴どころか、最悪の場合は存在そのものが消滅する可能性さえあるのだ。
外法の研究者として知識と経験を持つ黒服でさえ、触れてよい領域と絶対に触れてはならない領域の線引きを理解せざるを得なかった。今、目の前に立つ彼女の存在は、ただの上位者ではなく、絶対的な「法」にすら等しい恐怖そのものだった。
実験の話を頭の奥底へ押し込み、封をしようと考えていると、先生が次の質問を述べた。
"敵はいったい何者なの? エイスと同じ上位者ってのはわかるんだけど……"
「腹立たしいことに、正体はわからないわ。推測するに、初めから高みの見物ではなく、
何しろ、ゲームの中に入り、物語を体験しながら最後の美味しいところだけ味わって逃げる――そんな真似、よほど悪辣でなければ考えつかない。
どうせ死ぬのは、ゲームの中で生きる“駒”としか見ていないのでしょう。ふざけた話ね。
上から見ればただの物語やゲームかもしれない。けれど降りた世界は紛れもない現実よ。
世界は生きているし、そこに生まれた命は、それぞれが独自の意思を持ち、喜びも痛みも経験する。決して、誰かの単なる創造物ではないの。
でもタルタロスが空いたことで、私のような上位者が来ると思い、逃げたみたい。
まるで、自分に危機が迫っていると悟ったように、正体を隠してね……本当に、腹立たしいわ」
ここで黒服が恐る恐る挙手をし、エイスの了承を得ると、慎重に疑問を口にした。
「私があなた様と対峙している敵の駒と知りましたが、何故この話を?」
「簡単に言えば、自分自身の行動に疑問を持ってほしいだけ。そうすれば、相手の思惑に微細なひずみが生まれるの。まるで弱い毒のように、じわじわと心の奥底を侵食し、気づかぬうちに影響を与えていくように、ね。
そして、
さて、先生には他にも話したいことがあるけれど、この場で語るべきことではないわ」
エイスはそこまで話すと、相手の枷にひびを入れたかのように、軽く顔を背けた。まるで興味を失ったかのように涼やかに。その圧倒的な存在感が、黒服の胸に小さな恐怖の波を立たせる。
だが黒服は、恐る恐る挙手を続けたため、多少面倒と感じつつもエイスは質問を許可した。
「この世界で言う神秘。それは他の時間軸では、何と呼ばれているのですか?」
「……神秘……ああ、マナのことね。言い忘れていたわね。
第八世代では、宇宙が生まれる際に
では、どうして第八世代に
さらに言えば、マナに関する研究は第九世代でも現在進行形で続いている分野よ」
ここまで話したエイスは「疲れたわ」と告げると、黒服に対する興味を完全に失い、来た時と同じように空間を歪ませながら、先生に向かって「また会いに行くわ」と告げて去っていった。すると部屋の色彩と、窓の向こうに広がる夜景の輝きが徐々に戻り、まるで止まっていた時間が再び動き始めたかのようだった。
とんでもない情報を一気に投げ込まれ、口にはしなかったが、互いの頭の中は整理の必要に迫られた。先生は軽く一言断って、黒服も静かに頷く。そのまま別れる……はずだった。
「ああ、そうそう。このようなことが起きた為に、私はともかく……他のゲマトリアは先生を見ています。一応、お気をつけて」
黒服の言葉に、先生は軽く頷き、静かに息を整える。今度こそ、迷いなく足音を最小限に抑えながら、先生はビルの出口へと歩を進め、闇に溶けるように立ち去っていった。
この説明回が書きたかった……! 原作を読んでいると、生まれついての「大人」という存在が不可解で仕方ないんですよ。だからこそ、「あなた達だって子供時代があったでしょう?」と言わせたかったのです。
エイスと自称した彼女は……はい、もんぱらの彼女です。無論、絵師は瀬戸内さんです。
原作の2章16話のパートですが、話の展開上この位置になりましたけど、説明回です。
本当は幕間に回したかったのですが、黒服との対峙は原作においても重要な場面の為に、必要な部分だけです。本当はもう少し長かったのですが、その部分は幕間にて。
さて、それはさておき、もんぱらで使われている「宇宙の世代」と「実験事故による次元の大穴」の設定は、本当に使いやすいです。
第八世代や第七世代まで貫通しているというのは、もんぱらのコラボ作品からの推測です。そのため、「最低でもこれくらいはぶち抜いているだろう」と想像して設定しました。
一応、中章と終章に出てくる設定ですが、シナリオを読まなければわからないレベルなので、そこまで進んでいない方や購入を検討している方も安心です。
今回のタイトル候補も悩ましかったです。
最終的に、『ファントムナイト~夢幻の迷宮2』をオマージュしたタイトルにしています。
訳を騎士(knight)から夜(Night)にしたのは、不穏なイメージと場面の雰囲気、そして夜の時間帯に合わせて「Night」にしました。