Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
この辺りは公式で明かされていない部分を独自設定で補完した感じです。
これは19話「Phantom Night」その後の話であり、前述のとおり、説明回です。
黒服との対峙、そして上位者であるエイスとの会合。
それらの出来事を終わらせてシャーレに帰宅してからの夕食後、先生は考え事があると言って、一人シャーレのオフィスの応接間で緑茶を飲んでいた。
誰もいない静かな部屋に、時計の針の音と湯呑みを置く小さな音だけが響く。
独り言のように考えを口にしたい。だが、観測空間での出来事であるため言葉にできない。
――これが、あの時エイスが言っていた「法則」なのだろうかと考える。
"(一連の出来事を裏から操る敵の上位者、それに敵対するエイスと僕たち……ますます『うみねこのなく頃に』みたいになってきたな。
だけど『うみねこ』や『ひぐらし』のように時間を巻き戻してやり直すことはできない。この世界は、一度きりの舞台であり、勝負の場だ)"
ぬるくなり始めた緑茶を一気に飲み干し、胸の奥で小さく息を整える。
――口にはできないが、愛着が芽生えたこの世界だけでなく、最悪の場合は自分がいた外の世界にも影響が及ぶ。そう思えば、もはや迷う理由はない。
それでも、かろうじて口にできる言葉はあった。
"まるで
決意を固めたその瞬間、世界の色が、再びゆっくりと抜け落ちていった。
時間そのものが凍りつくような静寂の中、シャーレの応接間は音もなく観測空間へと姿を変える。空気が歪み、光が軋む。
そして――あの上位者、エイスが何の前触れもなく、先生の前に現れた。
「先ほどの約束通り、会いに来たわよ。気を利かせて一人でいることに好感を感じるわ」
彼女は軽やかに向かいのソファに腰を下ろす。
その仕草は優雅でありながら、どこか冷たく、支配者めいた威圧を伴っていた。
「さて……質問を受け付けるより先に、あの場所で話せなかった事実を話すわ。便宜上――いえ、都合上、私もあなたのことを先生と呼ぶ。
……いえ、呼ぶしかないの。先生、自分の本名を言える? 必ず『赤き真実』で言ってね」
意味を測りかねながらも、言われるままに『赤き真実』で本名を告げようとした――
"――!? で、出ない……!? そんな、なんで……!?"
「やはりね……
その言葉に、先生は動揺しながらも、今度は普通に名前を言おうとする。だが――
"嘘だ……僕の名前が、いや、
「混乱しているところ悪いけど、以前赴いたアビドス――シャーレオフィスがある地区から、どの方角にあるか答えられる?」
突然の問いに、先生はわずかに眉をひそめた。
しかし口を開こうとした瞬間、言葉が絡まり、思考が霧に沈んでいく。
"確かにあの時は南へ……いや、東だったか? いや待て、地図では……西だったような……?
北側は雪が……いや、無かった? これは、いったい……?"
頭の中で方角がぐるぐると回り、地図が幾重にも重なっては溶け合っていく。
確かに見たはずの風景が、別の形にすり替わっていく――そんな不気味な錯覚。
「――やはりね。簡単に言うと、このキヴォトスという世界は今、曖昧な状態にあるの。
色々なものが混ざり合っている、と言えばいいかしら。キヴォトスという“本”が無数にあって、それぞれが微妙に異なり――それらで埋め尽くされた巨大な本棚のようなものよ」
"そうか……たとえば、ある本ではアビドスが南にあって、別の本では北にある。そんな風に、俺の――いや、
「その通り。原因は分からないけれど、この異常に気づけるのは、
元の世界に戻れば、その違和感は完全に封印され、忘れてしまう。地図が毎日変わっていても、“初めからそうだった”と、世界そのものが書き換えられるのよ。
無論、あなたの名前も、一人称も同じこと。だから――私は便宜上ではなく、都合上あなたを先生と呼ぶ。そう呼ぶ以外に、この世界で“あなた”を指し示す言葉が、もう存在しないのよ」
あまりにも途方もない情報であり、しかも話せないように封印される運命にある事実に、当事者である先生は、ただ頭を抱えて大きなため息をつくしかなかった。
"まるでメアリー・スーにでもなった気分だよ……"
「先生は男性だから、この場合はマーティ・ストゥーかしら?*1
性別も揺らぐことがあるみたいだけど、現在は男性で固定されているようね。
でも本来の意味では、あまりにも完璧すぎるキャラクターに向けられる軽蔑の表現よ。だから、先生は決してそんな存在ではないわ」
そう言われた先生は少し安心した。しかし、ここで新たな疑問が生まれ、思わず問いかけた。
"そうなると、この世界にとってのメアリー・スーはユーリで、送り込んだのがエイス?"
「ある程度は正解よ。あの時、死にゆくユーリを見つけたのは偶然だけれど、ある意味運命だったのかもしれないわ。キヴォトスの外から条件に合う魂を選び出し、能力や知識、そして私たちの戦いの記録を植え付けた後は、ほとんど干渉していないの」
"そうなると、転職・転種やあのアイテム等は第九世代由来の物か……って、戦いの記録!?"
「その通りよ。あの実験が原因で起きた、長く果てしない戦いの記録も知っているわ。
そして、ユーリが使っている刀も私からの送り物よ。銘は『月下美人』。覚醒させれば『月下美人・花吹雪』になる。まるで『
"いや、確かにそう思ったけどさ……でもいいの? 素人目から見ても相当な業物だと思うけど?"
あの刀が
手にしたその刀が、単なる道具ではなく、異次元からの思惑を背負った“証”であることを直感したのだ。思わず『
「影打ではない真打だけど、複製量産できるから大丈夫よ」*3
"もう何でもありだな、第九世代……"
エイスの冷静な声が部屋に響くたび、先生の頭の中で情報が整理されていく。目の前にいる存在は、単なる知識の提供者ではなく、世界の秩序と異常を見極める、上位者そのものだ。
視線の先で微かに笑みを浮かべる彼女の存在は、無言の圧力として先生に迫っていた。
「私に言わせれば、どの世代の宇宙もありとあらゆる可能性を秘めているわ。例えば、物語だけの存在が実在していたりとかね。先生は世界の修正力によって記憶を書き換えられているから忘れているけど、あるゲームが元になった学校も存在しているわ。例えばメタルギアね」
"――!! そうか、だからあの時、捕虜を仲間にする方法をようやく思い出したのか!!"
思い出した瞬間、先生の頭の中にピースがはまる音がした。メタルギアシリーズの『ピースウォーカー』や『ファントムペイン』で採用されていた敵兵士を捕らえて仲間にするシステム。
本来なら知っていたはずの情報が、目の前の出来事で鮮明に蘇る。
ユーリがカタカタヘルメット団を捕虜として人員補充に回す提案を受け、やっと思い出したことは、この世界の仕組みを把握する重要な鍵となる。
"つまり、メタルギアサーガがベースとなった学校がある、というわけか……下手すると、他の作品が元になった学校が存在する可能性もあるわけか……"
頭の中で思考が渦巻く一方、視線を上げると、エイスの瞳がじっとこちらを見据えていた。
その赤い光は、世界の真実を映し出すかのように鋭く、同時に穏やかな慈愛の色も含んでいた。
先生は深く息を整え、頭の中で情報の渦が落ち着くのを感じながら、現実に引き戻される感覚に襲われた。それでも、目の前に広がる世界の重みと、これから向き合う戦いの責任を胸に刻み、再び自分の意思でこの世界と向き合う覚悟を固めた。
「その通りよ。まだこの世界には私でも確認していない、物語がベースになった学校があるはずよ。でも、この観測空間が無くなれば、その情報は封印されて忘れるわ……。
さて、そろそろお
エイスはそう言い残すと、来た時と同じように空間を静かに歪ませて、淡い残光を残して姿を消した。その瞬間、止まっていた時が再び動き出すように、部屋の色がゆっくりと戻ってくる。
現実が――返ってきたのだ。
先生はソファに腰を下ろしたまま、ぼんやりと視線を前に向けていた。
先ほどまでの会話を思い出そうとするが、ところどころが靄のように薄れている。
それもまたこの世界の修正力によるものだと、自分に言い聞かせるしかなかった。
そして最後に、彼女の去り際の言葉だけが鮮明に浮かび上がる。
思わず、小さく呟いた。
"エイス、結婚していたのか……"
不思議と、その言葉だけは、確かに口にすることができた。
名前や学園の位置関係が公式で明かされていないため、こうした設定になりました。
先生の名前を考えるのが面倒だったことも理由の一つですが、原作と同じく曖昧にしておくことで、読者の想像の余地を残せます。
タイトルの元ネタは、19話のタイトル元ネタ作品「ファントムナイト 夢幻の迷宮2」の主題歌「Around the mind」そのままです。直訳すると「心の周り」ですが、「心を巡る思考」や「心の中を巡るもの」といったニュアンスになります。