Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
イズナのやらかしと擁護してしまった事実に一同は気づいたが、あの時は知らなかった以上、仕方がないと半ば無理やり納得するしかなかった。
彼女の言動と依頼内容から次もあると踏み、その時に事態を解決すればいいかと結論付ける事にしたが、今はひとまず様子を見るしかない。
気を取り直して一同は百夜堂へ向かう事にした。道中、道を尋ねるたびに評判は上々で、なかでもシズコの評価がやたらと高かった。自称ではなく、本当に看板娘らしい。
"シズコ「たん」って……日本の一昔前の萌えネタじゃあるまいし…"
「……何かちょっと気持ち悪い」
評判はいいけど、愛でる態度が気持ち悪かったのか、セリカは嫌悪感をあらわにしている。無理もない、ああいう目を何度も見せられれば誰だってそうなる。
ハルカだって何度も首を縦に振っていた。
一同色々な会話を交わしながら進んでいき、目的の百夜堂へとたどり着くとワカモが扉を開けて中を一瞥し、安全を確認してから先生を先に通す。続いて入ろうとした、その時――
奥の方から金髪碧眼かつ大胆な着物姿の少女が躍り出て高らかに叫んだ。
「お頭ァァ! ようこそいらっしゃいマシタッ!!
わざわざシャーレ組からいらっしゃると聞いて、このフィーナ!
心よりお待ちしておりマシタァッッッ!!!」
"しゃ、シャーレ組!?"
「……先生、申し訳ないけど少しだけ横に移動してくれないかしら?」
突然の場違いなセリフに先生も困惑していると、アルが中に入った先生を少し横に移動してもらい、入り口の前に立つと、軽い会釈のままに言葉を続けた。
「ご当家、軒先の仁義、失礼ですがお控えなすって――」
「――え、えっト……これは、たしか、ええっト……? な、なんだったっけ……?
オ、お控え……なすっ……テ?」
相手が逆に困惑してしまい、その様子を見たアルは姿勢を戻してから彼女に注意をした。
「不勉強ね。まあ仕方がない事だとは言え、そのような所作は生半可な知識で使う物じゃないわ」
(おおお思わずやっちゃったけど、相手が不勉強で助かった!!
一応こっそり練習していたけど、まさか本当に使う機会があるなんて思わなかった! とりあえず身に着けておいてよかったあぁぁ……)
一同にはよくわからないが、何らかのしきたりなのだろう。見た限りではアルはそれを習得しており、目の前の少女は中途半端な知識しかなかったという事だ。ムツキもアルがこっそり練習しているのは知っていたが、いきなりの本番で成功した事に素直に感心していた。
後にこの事について聞いてみると、正しくは「仁義を切る」と言い、外の昔……つまり日本でかつて行われていた、そっち系の人間が行う、一種の自己紹介や名刺交換のようなものだ。
だが所作や言葉遣いは非常に厳しく、わずかでも間違えれば「偽物」や「
ちなみに任侠映画や極道映画、それに関連書籍はキヴォトスでは生徒に多大な悪影響を及ぼすため禁止されており、外から入って来た違法商品をブラックマーケットで入手するしかない状況だ。
真面目なアルは、そうした分野も結構勉強しているらしい。
余談だが、何故か『龍が如く』シリーズは禁止されてないので、年齢制限さえクリアできれば普通に手に入るらしい。
「ちょっとフィーナ、先生が困ってるでしょ!」
奥からもう一人の少女が出てきて、フィーナと呼ばれる少女に注意していた。話を聞く限り、第一印象をよくしようとして空回りしたらしい。さすがにアルの返しは予想外だったらしいが。
そしてもう一人の少女が電話をかけてくれたシズコみたいだ。こちらの視線に気づいたらしく、軽く咳払いを一つすると先ほどとは声色を変え、笑顔で挨拶してくれた。
しかも語尾に「にゃんにゃん」とつけて、だ。
一同は中へ通され、それぞれ席に着くと自己紹介をする事になり、ワカモに関しては少々ゴタついたが、シャーレ所属と知るとすぐに収まった。
先ほどの間違った古い言葉遣いをアルに指摘されたのが、
喫茶店「百夜堂」のオーナー兼看板娘であり、お祭り運営委員会委員長でもある
自己紹介が終わると百鬼夜行の紹介も行われ、それと同時に「百代ノ春ノ桜花祭」を純粋に楽しんでもらうために招待したのだが、邪魔者が現れて荒らし行為を繰り返しているそうだ。
その時、轟音と共に周囲が揺れた。話を聞く限り、先ほどの邪魔者が荒らしを行っているそうだが、先生はとてつもなく嫌な予感がした。周囲を見渡すと――
虚ろな表情で刀の鯉口を切りながら立ち上がる、ユーリの姿があった。
"総員出撃。このままだとユーリが勝手に動いて、まずい状況になる。
僕はユーリと一緒に行く。誰か付いて来て"
先生はその時ユーリの違和感に気づき、彼女の肩を叩いて声をかけた。
"ユーリ、やりすぎないでね"
「――あ、うん。大丈夫、大丈夫。少し脅す程度だから」
しかし、扉の外で周囲に向けて銃を乱射しようとする邪魔者を見かけた瞬間、ユーリの判断は早かった。店の外へ踊りだすと同時に、いつの間にかスマホのロードアウトアプリを起動させており、血染めの制服へと姿を変え、邪魔者二人を瞬時に切り伏せた。
一同もあまりの速さに追いつけず、各々の武器を手に取り素早く店外へと踊り出た。シズコとフィーナは訳が分からず、遅れて店外へと出ると――
あまりの惨状に二人は言葉を失った。
そこには返り血で真っ赤に染まり、虚ろな目をしたユーリと、血の池に倒れている邪魔者二人。そのそばには応急処置を行っているアヤネとハルカ。
先生はその状況に波立つ心を抑えるよう深呼吸を繰り返しながら、必死に思考を巡らせていた。
"(……いつも冷静でいようとするユーリらしくない。そういえば、さっきも不安定な状態だった。
もしかするとアビドスでの暴走がきっかけで、心のコントロールが上手くいかなくなっているのかもしれない。このまま放置すればさらに悪化する恐れもある)"
ユーリはテロリストの所業により長い間昏睡状態となっていた。それが原因でテロリストや不良生徒の行いに憎悪を抱くようになっている。
恐らく破壊活動の衝撃が引き金となり、正気を失い始めている。
それでも不幸中の幸いとして、手加減し即死させない程度の理性は残っているようだ。
ヘイローが消えているため既に事切れていると見間違えても仕方ないが、実際はアヤネとハルカが応急処置として
走り出したユーリを見て、先生は慌てて追いかけた。
"僕はユーリを追いかける! 指揮権は一時的にワカモに預ける!"
「了解いたしましたわ! ユーリさんによる犠牲を抑えるため、回復
「服が染まるほどの返り血に、刀を持つ人物……!?
ま、まさか『
一人の荒くれ者が逃げるため背を向けた、その瞬間。
すでに距離を詰めていたユーリの一太刀が背中を裂き、ヘイローが消え去る。
荒くれ者は膝から崩れ落ち、血の池が広がっていった。
惨劇を起こした当の本人であるユーリは、制服どころか全身が返り血で真っ赤に染まっており、それはすでに何人も切り伏せた証拠だった。
"ユーリッ!!"
「ユーリさん、やりすぎです!」
「……あ」
先生とアヤネの叫び声でユーリはようやく正気を取り戻したようだ。アヤネも何人か治療したようで、制服のあちこちに血が付いていた。
「もうこれは
もう少し冷静になってください……って、そこ!」
魔法で重傷を負った荒くれ者を蘇生魔法で治療し、そのまま回復魔法で回復させようとしたアヤネは敵に気づき、咄嗟に弓を撃ち放った。
「ぶぎゃんっ!?」
アヤネの「弓技:重ね撃ち」は矢を二本放つため、こちらに銃を向けてきた相手の眉間と胸元に直撃した。矢じりの刃は念のため潰しているが、それでも下手なライフル弾よりも威力が高い。*1
そこでようやくユーリとアヤネの元にたどり着いた先生は、射られた人物を確認した。
"って、イズナ!?"
「あれっ、先生!? どうして先生が私たちの邪魔を!?」
荒くれ者たちの中にイズナの姿があり、本人は困惑していたが、先生たちはすでに気づいていた。彼女が
その時、いつの間にか背後に回り込んだムツキが忍び寄り、三人にアイコンタクトを送った。
冷静さを取り戻し、その思惑に乗ったユーリは、時間稼ぎの為に深呼吸してからいまだ血に染まった刀を、ゆっくりと突き付けた。
「イズナちゃん、あの時言ったよね? 忍者の意味を理解しなさい、どんな忍者になりたいかと。今のイズナちゃんはその言葉も理解できず、ただ言われるまま動くお馬鹿さんよ?」
「い、イズナは忍びとして命令に従っているだけです!」
「だからあなたは馬鹿なのよ。頭
その時、荒くれ者が撤退の指示をイズナに出したが、ユーリはそれを許すわけがない。投げナイフを即座に投擲し、指示を出した二人の喉と胸元へ突き刺した。
血を流しながら苦悶の声と共に二人は崩れ落ち、イズナは小さな悲鳴を上げた。
「どうしたの? 忍者は殺しも普通に行うんだよ? そんな事も知らないのなら……死ぬ?」
血塗れの刀を彼女の顔へ突きつけて笑顔で威圧すれば、困惑と恐怖でイズナは動けない。そして背後を取ったムツキは彼女の肩をぽんぽんと叩いて振り向かせ、手に持っていた物を見せた。
「ねぇイズナちゃん。これ、な~んだ?」
それは、生暖かった。
それは、三角形っぽい布だった。
それは、バックプリントに可愛いらしい狐の絵が描かれていた。
それは、男性が見たり手に取ったり嗅いだり舐めたりしたらとっっっても嬉しいものだった。
イズナは何かに気づき、恐る恐るスカート越しに下腹部を触り、顔が真っ赤に染まった。
そう、それは。
イズナが直前まで履いていた、
「うわあぁぁぁっ!? かかかかか、返してくださいぃっ!!!」
それは忍者(自称)なのに
思わずかがんでしまい、左手でスカートがめくれて秘部が見えないように必死に押さえながら、右手を伸ばして取り返そうとしていた。
「降参して投降する? しなければこれはブラックマーケットで、写真付きで売りに出すよ?」
この時先生は内心「譲ってくれ! 頼む!」と思っていたが、盗られた本人を目の前にして言えなかった。結局イズナは投降。ユーリに
ちなみに、ちゃんと
いくつかの手続きで時間を取られてしまったが、イズナは重要参考人としてシャーレが預かる事になり百夜堂に戻って事情の続きを聞くことにした。
シズコが荒くれ者達に対して不満を漏らしながら聞くと、あの荒くれ者達は「
「なるほど。つまり、全員殺せばいいんだね?」
"駄目"
既にユーリの中では
「そういえば先ほど、商店街の会長さんがいらっしゃって、何とかしないとお祭りが中止になってしまうとおっしゃっていました。
……別の意味でも中止になりかねませんが」
シズコはその言葉と共に、いつの間にか連邦生徒会の制服姿に戻っているユーリを見た。それで一同察してしまった。さすがに大量の死者や重傷者が出れば最悪お祭りどころではなくなる。
「ん、先輩やりすぎ」
「そうですよ、私とハルカさんは治療で結構血が付いていますし…」
「私たちも店を出た瞬間、血の池が広がっていると思いませんでしたよ」
シロコ、アヤネ、シズコから責められてユーリはただ謝るしかなかった。事情が事情とは言え、注意する部分はしっかりとしないといけない。
「でもゲヘナ風紀委員会の時に起きた暴走に比べれば遥かにマシですけどね。
本当に勘弁していただきたいものです」
ワカモの言葉にシズコとフィーナは戦慄した。あの悪名高い厄災の狐が「もう勘弁してほしい」と言わしめたほどだからだ。
"そうなると、グループ分けした方がいいな。
一つは協力者探し。こんな状況でも、手伝ってくれる人は少なからずいるはずだ。
もう一つはパトロール。
「……ま、まぁ仕方が無いか。所で
その言葉にイズナの顔が青ざめた。あまりにもわかりやすいリアクションに一同は察した。
『ユーリさんの
"……
見事な赤点である。
ちなみに百鬼夜行連合学院の赤点ラインは教科によってまちまちだが、おおよそ30点~40点。
つまり、最悪すべて赤点と言う可能性もあるのだ。
あんまりな事実に一同哀れみの目を向けたのは言うまでもない。
余談だが、フィーナの方は得意不得意がはっきりしており、古文が間違った意味で壊滅的であり、それ以外が普通で英語系が得意となっている。*2
その後、話し合いでグループ分けをする事になった。
協力者に関しては先生の存在が必要不可欠なので、先生を中心に交渉事が得意そうなノノミ、アヤネ、ムツキの四人に、案内役のシズコ。
パトロールはワカモを小隊長としてホシノ、シロコ、セリカ、カヨコ、ハルカの六人。
イズナの尋問とユーリの監視についてはアルとフィーナの二人が請け負う事になった。
本来は百花繚乱紛争調停委員会という治安維持組織に頼むのが最善なのだが、どうやら全員不在らしく、生徒会的な陰陽部の所へ赴く事となるが……。
赴いた所でシズコから聞いた話では、基本的にお役所仕事というか、事態が集結してからようやく後始末をするというか、とにかく遅いのだ。
案の定、言ってみるとチセと言う少女がのんびりとした口調で部長は
仁義を切るの所ですが今の世の中では、まず使われていません。意外にも龍が如くシリーズでも使われるシーンは覚えている場面でもありませんでした。その作品内ですらほとんど使われていないほど、古いしきたりです。
現実でも使ってはいけない類ですし、資料も少し見つけにくいので真似するのはやめましょう。最悪警察のお世話になってそっち系と判断される危険性もあります。
百害あって一利なし、ということです。
そしてイズナ早々に捕縛。まぁ、そりゃ人数いれば押さえられます。というか、ユーリの脅しが一番の要素ですが……いや本当はここまで暴走させるつもりはなかったんですよ。
でも見直すとどうしても
そしてイズナのテストが赤点だらけの設定は……ああまで簡単に騙された挙句思い込みも間違った方向で突っ走ってますし、こんな感じかなぁと……。
今回は餓狼伝説SPECIAL、ダック・キングのステージ曲「Duck Dub Dub [ダックよおまえもか]」が元ネタです。