Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
ユーリはシャーレのオフィスで、一人黙々と書類の仕分けをしていた。ちなみに部屋の本来の主とその従者は、シャワールームで絶賛過酷中だ。焚きつけたとはいえ、相性は良かったらしい。
書類仕事は、思った以上に体力を削る。30分ほど経ち、小休止がてらユーリは席を立ち、シャーレの内部をざっと見回すことにした。
目の前には二つの大きな事務机が並んでおり、それぞれの席には山積みの書類が無秩序に置かれている。軽く仕分けしてみると、明らかに畑違いや部署違いのものが混じっていた。確かに何でもやるような部署だが、何でもこなせるわけではない。
先生が冗談めかして、「シティーハンターや銀魂みたいに?」と言ったが、あながち間違いでもないのかもしれない。
ユーリは小さく笑みを浮かべながら、あの作品のように依頼に巻き込まれることの多い日常と、自分の今の状況をぼんやり重ね合わせた。
まあ、漫画やアニメでは、依頼をえり好みしたり、予期せぬ騒動に巻き込まれたりすることの方が多かった気もする。それもまた、作品らしい味わい深さの一部なのだろう。
「流石に一人じゃ限度があるな…休憩がてらシャーレの確認しよ」
応接間に置いてあるホワイトボードに、ユーリは冗談めかしてシティーハンターのネタとして有名な『XYZ』と落書きした。その後、伝言を書き残して入り口を出ると、探索に出た。
その探索は、失ったものが多くても、子供の頃の好奇心だけはまだ色濃く残っていることをユーリに思い出させ、胸の奥でひそかな期待が静かに膨らんでいた。
オフィスに隣接する形で専用の居住区があり、ユーリは一瞬、あからさまなブラック施設っぽい――いや、徹夜続きの作業が常態化していそうな、どこか過密で息が詰まりそうな建物だと思った。しかし、一階、また一階と丁寧に探索を続けると、意外にも広く、施設がぎっしりと詰め込まれている印象だった。
軽く見ただけでも、学校が一通りそろった各種の部屋が存在し、学生寮としての機能も兼ね備えている。娯楽施設に訓練施設、運動施設まで揃っており、軍隊のような格納庫や地下施設まで備えられている。屋上にはヘリポートまであり、ここはまるで一つの小さな自治区のようだった。
「なるほど……シャーレ自体が運営組織であり、学校であり、住居というわけね。
一つの組織と言うより、一つの自治区と言った方が正しいかもね。これを知ったら、シャーレに所属を移す学生が一定数いるに違いないね。下手すると、居心地が良すぎるよ」
清掃業者が入っているかどうかは、後で確認することにした。最悪の場合、毎日自分たちで清掃しなければならない――という考えは、今は後回しにする。それを現実逃避と言うのだろう。
改めて、ここを作り上げた連邦生徒会長の凄さと、それに対抗する敵の大きさを実感しながら、ユーリはゆっくりオフィスへ戻ることにした。
しかし、オフィスに戻ってみると誰もいなかった。ホワイトボードを見ると、先ほど書き込んだ伝言はすでに消されており、代わりに『二人はそのまま住居区へ向かいます』と記されていた。
「少なくとも二回、三回ってところかな? それともまだ絶賛過酷中なのかな……」
一体何ラウンド過酷したのか。ユーリはそう思いつつも、念のため着替えを取りに一度元の住居へ戻ることを、ホワイトボードに記載しておいた。
その前に一度装備を確認する。
「スノーホワイト、メインマガジン装填フル──オールグリーン」
50口径自動拳銃をベースに艶消しを施し、白く塗装した『
「レッドフード、チャンバークリア、弾倉フル──こっちも問題なし」
50口径回転式拳銃をベースに艶消しを施し、紅く塗装した『
「12ゲージシェル、残量チェック……在庫OK、即応可能」
紅色の柄に、黒染めの鞘へ納刀された打刀『月下美人』
それに、ショルダーホルスターに備え付けられたナイフホルスターに収められている『紅蓮』
これらが、彼女が状況に応じて使い分ける武具――『フェアリーテイルズ』
『勝利の女神:
打刀だけは、とある理由で銘付きの一振りを入手したため、特に愛着のある一本だった。
「サブマグとスピードローダーは……少なめ。継戦能力やや不安、要
スタンユニット、チャージ100%──正常稼働。
最後に打刀を抜き、刃の状態を入念に確かめる。
問題がないことを確認すると、彼女は静かに納刀した。
「――よし、下の
一度、補給と予備の下着を購入するために配置されているコンビニへ向かうことにした。
看板には「エンジェル24」と書かれており、おそらく24時間営業で、年中無休だろう。
「い、いらっしゃいませっ!」
そこには小さな店員が立っており、話してみると、なんと中学生だった。事情があって住み込みかつワンオペで働いているという。
「これと、50口径弾を二箱と、
「はっ、はい! レジで学生証のスキャンをお願いします!」
ユーリは懐から『休学中』の学生証を取り出し、レジのスキャナーにかざした。
スキャンが完了すると、ソラはお礼を言いながら、ユーリが出した予備の下着と弾薬のバーコードを次々にスキャンしていった。
「お支払いはどうされますか?」
「学生証から引き落としでお願いします」
「はい、ありがとうございます。またお越しくださいませ!」
商品を手にコンビニを出たユーリは、ラウンジへ移動し、適当な席に腰を下ろした。
ポーチからマガジンとラピッドローダーを取り出し、丁寧に装填する。最後に全弾がしっかり装填されているか確認してからポーチに収納し、残った弾薬は鞄に入れた。
準備を終え、ユーリは駅へ向かって歩き始める。
彼女が寝床にしていたのは、小さなアパートだった。記憶を失ってしまったが、元々無趣味な人間だったのかもしれない。
リハビリを終えて寮に戻ってみても、残っているのは最低限の着替えと下着、そして何冊かの学習書だけだった。恐らく、ゲヘナから出るために勉強漬けの毎日を送っていたのだろう。
あの日から、自分は変わってしまった。
結果として今残っているのは、普通に洗っても赤黒く染まってしまう制服の予備と、この小さなアパートに引っ越してから買った、敷きっぱなしの布団だけだ。
着替えなどを鞄に入れ、鍵を閉めた後、そのまま管理している不動産屋へ向かい、解約手続きを行った。敷きっぱなしの布団は処理をお願いし、残りは学園で転入手続きをするだけだった。
「あら……? ユーリさん?」
「えっと、確かチナツちゃん、ですよね?」
「はい、さっきぶりですね。復学するつもりですか?」
そう、ユーリはゲヘナの出身だった。尻尾や羽、角や尖った耳は無いけれど、紛れもなく彼女はゲヘナ自治区の出身だ。
「知っていたの? 私がこの場所で育ったことを?」
「救急医学部では有名です、眠り姫、そして眠りから覚めた修羅として」
「あー、セナちゃんがいつも頻繁に世話焼きに来てくれてたからなぁ……本当にありがたかった。
だけど残念だけど、私はゲヘナには戻らない。シャーレに移籍するよ」
「……そうですか。あなたが風紀委員会に入ってくれれば委員長も少しは楽になると思ったのですが…やはりゲヘナが嫌いですか?」
その言葉に、ユーリは夕日に染まりかけた空を見上げ、しばらく考え込んでいた。
「……うん、嫌い。あの事件のせいで、時間も、記憶も、体も、羽も、尻尾も、全部ぐちゃぐちゃになってしまった。犯人はまだ特定されていなくて、捕まってもいない。そんなのを生み出したゲヘナが、私は嫌い」
「……ユーリさんは、一体何を目指しているのですか…?」
その問いかけに、何も言葉が出なかった。文字通り、ユーリは一度全てを失ってしまったのだ。
「わからない。私は、あの事件が原因で何もかも狂ってしまった……だけど、望むのなら、『平穏』かな? そのために、この力を使い振るうつもり。たとえ堕ちることがあっても…」
ユーリは静かに歩き出した。これ以上、何を語ればいいのか分からなかったからだ。
「―――あのっ!!」
チナツの呼びかけに、ユーリは足を止めて振り返った。
「いつか、セナさんとも会ってください。あの人も、あなたのことをずっと心配していました」
「……ありがとう。また」
その言葉に、ユーリは微笑みを浮かべ、軽く手を上げて歩き去っていった。
黄昏時、紅く染まったシャーレには、やはり誰もいなかった。伝言もそのままだ。
居住区へ向かうと、先に来ていた先生とワカモは既に寝静まっているらしく、気配は感じられるものの声はしなかった。相当お楽しみだったようだ。
とりあえず風呂かシャワーを浴びようと脱衣所を探すと、意外と広く、洗濯機を確認すると、なんとコインランドリーで見かけるレベルの乾燥機と一体化した業務用の高性能大型ドラム式だった。そこには二人分の汚れた洗濯物が乱雑に入っていたため、洗濯しやすいように一度取り出して確認する。先生のスーツも混ざっていたが、意外にも洗濯機で洗えるタイプだった。
しかし、乾燥機には対応していないタイプだったため、傍らにある縦型の洗濯機を使用することにした。ワカモは意外にも下着をちゃんとネットに入れており、ユーリも自分の服を脱いで下着などをネットに入れてから、洗剤などを確認し、洗濯機を回すことにした。
「思い返せば、慌ただしくて色々あった一日だったな……」
広々とした風呂に入ると、疲れがじわりと溜まっていることを実感した。風呂場の湿り具合から、二人が一度体を流したあとであることが分かる。長湯すると、そのまま寝てしまいそうだったので、手早く髪と体を洗い、シャワーで流してから風呂場を出た。
予備の服に着替え、乾燥機が使えない先生のスーツは干して、それ以外の洗濯物は洗濯機の乾燥モードに任せることにした。これなら次の日には終わっているだろう。
その後、軽く食事を済ませてから適当な寝室を見つけ、ユーリは就寝した。
翌日、ユーリはキッチンで軽食を作っていた。起きてから一度シャワーを浴びたのだろう、再び制服に袖を通したワカモがリビングに入って来た。
「おはよ。満足した?」
「い、いきなりなんて、慎みってものはないのですか…?」
「どうせ遅かれ早かれヤるなら、結果は同じでしょ。食べる?」
「…調子が狂いますわね。いただきます」
リビングのテーブルに向かい合って座り、ユーリはサンドイッチを差し出した。ワカモがゆっくりと食事をしている間に、ユーリは昨日探索したシャーレの内部構造や設備について説明し、今後の維持管理に関する話し合いを始めた。しかし、ワカモは基本的に自分と先生のために動く人間であり、それ以外のことにはあまり関心を持っていないようだった。
とはいえ、親衛隊という立場上、問題があれば一定の理解を示し、協力もするつもりである。
「それで、この後私は移籍手続きするけど、ワカモちゃんもやっておくんだよね?」
「私は停学中なので、自主退学しても執行期間が残っていますから…」
「そうなると、シャーレの権限を使って特例的に二重所属にするしかないなー」
「でも、意外でしたわ。ユーリさんがゲヘナ出身だったなんて」
"それは興味深いな"
その時、先生がリビングにやって来た。どうやら私服の類は一切持ってきておらず、風呂場に置かれていたバスローブ姿だった。
「あなた様、おはようございます」
「先生おはよう。一応洗濯はしてあるから着替えて来て」
"はは……そうさせてもらうよ。それと先ほどの話は改めて聞かせてね"
その言葉に手をひらひらと振り、ユーリはワカモとの話を続けることにした。
それは今後の予定だ。まずは、ワカモが私物を取りに一度戻ること。コンビニだけでは揃えられない服や生活雑貨、予備の服の購入。そして、先生の携帯電話の新規契約。
仕分けした畑違い・部署違いの書類データの返送。
シャーレが優先的に行う業務の再確認、ビルの清掃業者や食堂の食材納品に関する確認。
格納庫に搭載されている車両やヘリの確認。はっきり言って、やることが多すぎる。
「……三人で回すって、無茶すぎませんか…?」
"ワカモの意見に激しく同意。略して禿同だね"
いつの間にか、先生は着替えを終え、サンドイッチを手にしながら会話に加わっていた。その後も話は途切れることなく続き―――
"ではここから二手で行動だね"
「すぐに終わらせて戻ってきます」
「あ、そうだワカモちゃん。携帯出して」
言われるがままに携帯を取り出すと、ユーリが手をかざす。すると“ぽこん”という電子音とともに、新規アプリがインストールされ、ワカモは思わず目を見張った。
「何なんですか、これ? 『
「簡単に言えば、これは私の能力で作った特殊なアプリ。『
その説明を聞いた先生は、
俗に言うファストトラベル――移動短縮、あるいは転移と呼ばれる技術は、人類が長年夢見てきた空想科学の象徴の一つなのだから。
"な、なんだってーーー!?
キヴォトスにそんなチートが……いや、しかし……ありえるのか!?"
「……そんな転移能力が、キヴォトスに存在するはずがありません! それに、アプリという形すら取れないはずです、これは!」
"これじゃ、まんまゲームのファストトラベルじゃないか……ユーリを引き入れて正解だったな"
「悪用されないように、最終的な使用権限は私にあるから。追跡機能もつけてあるし、裏切ったら遠隔操作で呼び寄せるよ」
その言葉に、ワカモと先生はそろってため息をついた。
これほど便利なものを手にしてしまった以上、もはや過去の不便な暮らしには戻れない――二人は、それがどれほど危うく、そして魅力的なことかを実感していた。
先生は、キヴォトスにはあるだろうと思った技術が実は存在しないことに改めて驚愕し、ワカモは目の前の実力者が想像より上であることを実感した。
そして同時に、二人は思った。
『……ユーリのその力、一体どこまでが可能なんだ?』
彼女の能力について、きちんと問いただす必要がある――そう感じずにはいられなかった。
元々説明回だったのですが、大幅に削りました。
今回使用したスピードローダーことラピッドローダーの説明動画は、こちらのリンクからご覧いただけます。
また、イラストはChatGPTの画像生成機能を利用して作成しました。
単色でややシンプルですが、イメージとして参考にしていただければ幸いです。
今回の第三話のタイトル「Link Revolution」は、昔の美少女ゲーム(Studio e.go!作品)の楽曲名そのままを使いました。
「Link(繋がり)」と「Revolution(変革)」という言葉の組み合わせが、ぴったり合うと思い、選ばせてもらいました。