Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
「師匠ッ! 是非ともお二人に御指南をお願いします!」
桜花祭から数日後、新しく作るカフェについて話し合いを続ける中、ユーリの事を「師匠」と呼ぶイズナが乗り込んできた。
一緒についてきた二人は、彼女が所属している「忍術研究部」の部員なのだろう。
正直言って、アポイントメントが来た時点で断りたかった。間違いなく自称弟子は増えるだろうが、あのぽんこつ具合である。
思わず脳内で、コラで有名な
様々な事で頭を悩ませつつも、ユーリはラウンジに三人を通す事にした。
「……それで、そのお二人がイズナちゃんが入った所の?」
イズナの後ろにいた二人を見ると、自信なさげな大柄な少女と小柄な少女がいた。
失礼な話だが、二人して左足に包帯を巻いているのは、やはり
「は、初めまして……一年生の
「三年で忍術研究部部長、
どうやら、小柄な方が年上だったらしい。
(あんまり乗り気じゃないけど、嫌な予感がする……確認するか)
ユーリはため息をつきつつも、彼女達の
(太字が現在の種族・職業)
・
種族 人間・妖狐・天使
職業 遊び人・技師・無職・ガンナー
・
種族 人間・魔獣・天使・巨人
職業 遊び人・技師・無職・ガンナー
・
種族 人間・魔獣・妖狐・天使*2
職業 遊び人・技師・無職・ガンナー
この時ばかりは、ユーリも「見なければよかった」と内心後悔する。忍者の前提となるシーフすら取得していなければ、ミチルに至っては遊び人のままだ。
こうなると二つに一つだ。諦めて放逐するか――地獄の特訓で本物にさせるか。
「どうしました? 師匠?」
この時ばかりは無邪気に聞いてくるイズナの言葉に頭痛を感じるのは、もはや幻肢痛か。一度深呼吸し、決断することにした。
もしうまく行けば常時駐在とはいかないが、新たなシャーレ所属の部隊になるかもしれない。先生も多分、ゲームのセリフをまた引用して「分の悪い賭けは嫌いじゃない」とノリノリで言うだろう。――分が悪すぎるが。
――その時、思考の片隅に何かが引っかかった。
もう一度三人の
・
種族 人間・魔獣・天使・巨人
職業 遊び人・技師・無職・ガンナー
今の所、巨人種族の因子を確認しているのはツクヨだけ。以前出会ったハスミにも可能性はあるが、あくまでも可能性だ。持っていない可能性も否定できない。
勿論異なる転種も可能だが、実はかなりルートが長いのだ。*3
巨人種族が使える専用スキル『巨技』も強力な技が揃っており、それなら今後の為に試してみる価値は――あるかもしれない。
「……三人とも、覚悟はある?」
「ほぇ?」
「……え?」
「何がですか?」
ミチル、ツクヨ、イズナがそれぞれ疑問の声を上げるが、恐らくこの先に待つものが分かっていないのだろう。仕方がない事だが彼女達が考える忍者像と、実際の忍者像は真逆だ。その現実を突きつける。そして、それでもなお理想を求めるのかを問う。
「理想のお遊びを続けるか――現実という地獄を追い求めるか、だよ。本物の忍者を目指すならそれ相応の地獄を見ることになる。理想と現実はまったく違うんだよ」
「あ、遊びじゃない! 私は真剣にやっているの!」
「そう、ですっ……」
「イズナは、まだ無知な所が多いです。
ですから忍術を修めているユーリ殿に指南をお願いしているのです!」
「そう。私を忍者の……いえ、『シャーレの親衛隊隊長』を師と仰ぐなら――」
そこで一度言葉を区切り、目を閉じて深呼吸する。
「――相応の覚悟がいる」
その言葉を紡ぐと同時に、鋭い眼光と共に三人にそれなりの殺気を叩きつける。並みの不良生徒なら即座に腰を抜かし
しかし、イズナは腰を抜かしながらも、なお気丈に視線を返し、ミチルとツクヨは腰を抜かし、
「遊びじゃ、ないもん……遊びじゃ、ないもん!」
「そう、です……っ! ここが、私の居場所、なんです! 諦めたら、ダメ、なんです……!」
ユーリはその様子を見て少しだけ考えを改める。腰を抜かしただけのイズナはギリギリ及第点。ミチルとツクヨは残念ながら耐えられず
殺気を解き、ため息を一つ。
「覚悟、見せてもらったよ。私の負けね」
その言葉と共にスマホを取り出してロードアウトアプリを起動。素早くメイド服へと着替える。
何事かと三人は思うが、掃除用具一式を取り出すとミチルとツクヨは自分たちの
「一応この階にもランドリーとシャワールームがあるから、そこで洗濯とシャワー浴びて来て。もし今日の予定が空いていたら、その後に……まずは座学からだね」
ミチルとツクヨの二人がランドリーに移動し、汚れた制服や下着を洗濯しつつシャワーを浴びている間に、イズナはエンジェル24で予備の制服と下着を買ってきて届けてくれていた。
ラウンジではユーリが既に後片付けを終え、服装を戻してスマホで今後の予定を組み立てていた。三人のことを考えつつ、次にやるべきことや指導内容を整理しながら。
「イズナちゃんありがとう。試すとはいえ、あそこまでやりすぎちゃってごめんね」
「いえ、いいんです。イズナ達の事を考えてくれたのですね。流石師匠です」
「とは言え、イズナちゃんが漏らさなかったのは少しだけ予想外だったね。並みの相手なら、あれくらいで漏らして戦意喪失するから」
「そ、そうなんですか……?」
「……イズナちゃん、もしかして、私の二つ名……知らない?」
その言葉にイズナは首を傾げた。その時ユーリは、出会った時や相対していた時は今と同じ連邦生徒会の制服だったことに気づき、ロードアウトアプリで本来の服装に変更した。
驚くイズナの表情には脅えが見えるのも仕方がない。普段はメイク等で隠しているはずの傷が、今は露わになっているからだ。
「先生直属親衛隊『キュベレー』隊長、真神ユーリ。
二つ名は『
「師匠、そんな二つ名があったんですね……と言うか早着替えの術ですね、すごいです!」
「知らなかったのね……。よくよく考えればその名で震え上がるのはゲヘナか不良生徒だけだからなぁ……想定外というか、想定内というか……」
そう言いつつ、ロードアウトを元に戻す。一応スマホアプリにしているが、本来は特殊な技術なのだ。装備セットの保存や呼び出しなど、キヴォトスでも存在していない。
「でも本当に座学からだよ。これについて行けないなら容赦なく斬り捨てるから、相応の覚悟を持って臨んでね。甘い考えは捨てておいて、それでも来るなら歓迎するよ」
「お任せください! 漫画やアニメのような忍者になってみせます!」
……その言葉に、ユーリは軽く頭を抱えた。
やがてシャワーと着替えを終え、濡れた髪を拭きながら戻ってきた二人を連れて、三人でエレベーターへと歩いていった。
「基本的に一般開放されているのは一階だけ。それより上や下の階になると、許可なくは入れないから、下手に歩き回らないでね。やる事は無いと思うけど、不法侵入したら駐在部隊か外部部隊に緊急招集かかるし、最悪
その言葉に、興味津々でふらふらと周囲を見回していたミチルが、青い顔をしてぴしっと背筋を伸ばして歩くようになった。
もしかしなくても、やるつもりだったんじゃないかとユーリは思った。
ため息をつきつつもエレベーターで上階へ上がり、近くの小規模教室へと案内した。三人を席に座らせて、電子ホワイトボードの前へと立ち、講義を始めることにした。
とはいえキヴォトスは基本的に映像による自習が基本。一応外部の人間による講義などもあるが、講義に関する教科書もマニュアルもない。
つまり完全にアドリブだが、それなりの知識があれば、大抵は事足りる。
「さて、三人が思う忍者像についてだけど、どんなものが思いつくかな?」
初めに三人が共通する
三人とも、良くも悪くも子供心を失わずに夢を追い求めていた。
だが、創作物と現実は違う。ここからは彼女達の「覚悟」を確認するのだ。
「なるほど……大体わかった。みんなが思い浮かべるのは「虚像・偶像」としての忍者なんだね」
「虚像に、偶像……つまり、偽物、という事ですか……?」
三人の中で一番頭がいいツクヨが即座に意図を読み取った。*4
「そう。書籍・映像・ゲームとしての忍者っていうのは素早い動きと多種多様な術を使いこなす、英雄としての象徴。だけど本当の忍者って言うのはその真逆なの。みんなが追い求めているのは、ヒーローやヒロインのような英雄。
だけどそれは作られた人工の光。本当の忍者っていうのは今でいうスパイよ。暗闇に紛れて目立たず、人知れず仕事をこなす裏方なの」
「そ、そうなの!? じゃあ『かまぼこ突風伝』に出て来るあの忍術とか、全部できないの!?」
「それじゃあ参考として聞くけど、ミチルちゃんが思い浮かべる
「えーと、印を結んで「はぁっ!」ってやると水がどかーんって出る感じ?」
間違いなくそれはゲームやアニメなどで出てくる攻撃用の術だろう。一応ユーリも攻撃用の忍法・水遁を使えるが、本来の用途は真逆なのだ。
「正しくは水を利用した
「そ、そうなの!? そうしたらアニメやゲームの忍者ってどこから来たの?」
ミチルの質問ももっともだった。とは言えさすがのユーリでもそこまで詳しくない。
だが、こんな時に役に立つのがネット環境だ。
「アニメか漫画でしか忍者像を知らないなら、自分で調べてみましょうか。話を聞く限り三人とも忍者について詳しく調べて無いでしょ?」
その言葉に三人とも視線をそらした。イズナの成績の悪さから他の二人も成績はそんなに良くないと予想していたが、嬉しくない正解だった。
スマホを使用して検索をかけると、色々と出てきたがツクヨはまじめに読み込み、イズナもいろいろと驚きつつも真剣に調べていた。
そしてミチルは理解が追いつかなくなっていた。
その様子を見たユーリは、彼女が本当は高校三年生ではなく、中学三年生なのではないかと、思わず疑問を抱いたのはいうまでもない。
しばらくすると、三人に疲れが見え始めてきたので休憩を取ることにした。
勉強の基本は、詰め込みすぎないこと、適度に休息を取ること、そして心身ともにしっかり休める時間を作ることだ。焦って詰め込むよりも、理解と定着を優先する方が結果的に効率はいい。
極論から言うと勉強はダウンロード、休息はインストールなのだ。
そのため、膨大な量をダウンロードしてもすべてをインストールしきれない。だからこそ、こまめな休息やしっかりとした睡眠が必要になる。
一階の食堂へ三人を案内すると、席に座らせてからユーリはメイド服に着替えて、プリンとパフェを手早く作り上げて、コーヒーを入れようと……思いとどまった。
「三人ともコーヒーは大丈夫?」
ユーリの見立てではツクヨとイズナは微糖カフェオレくらいまでならギリギリいけると思うが、ミチルは確実に無理だろう。
「えっと……できれば甘いのでお願いします」
「イズナも……そんなに好きではありません。できれば緑茶で」
「しょ、しょの……甘いので」
ツクヨとイズナに関してはまぁわかる。見栄を張ると思ったミチルも素直に言えるのは利点だ。
「うん、自分の得意不得意を理解するのは忍者としても大切だよ。その点で言えば、ミチルちゃんとツクヨちゃんは正解。イズナちゃんは別案を出すと言う所では正解だけど、プリンとパフェに緑茶を頼むのはちょっとイマイチかな?」
ユーリはそう言いつつも、苦みや酸味のバランスがいい焙煎豆を選び、少しだけ温度を落としたお湯でコーヒーを入れると同時に抹茶を立てる。
今回は仕入れてあった豆を選んだが、本格的にやるならこちらで焙煎することも考えた方がいいかもしれない。焙煎度合いひとつで、香りもコクも大きく変わる。
そして手際よくブレンドして甘めの抹茶コーヒーラテを作り上げ、作ったデザートと共に配膳すると、三人は目に見えて喜んだ。
「三人とも調べてわかったかもしれないけど、私も初めに言ったけど本当の忍者は今でいうスパイ。基本は裏方。でもその裏方の仕事があるからこそ、私たちは安心して仕事ができる。
例えるならこのコーヒーは確かに甘さもあるけど、苦さもある。だけどこのデザートと一緒にするとそのコーヒーも美味しく感じるでしょう? それと一緒よ。
だからこのコーヒーとデザートのように、裏と表、両方とも出来るように鍛え上げるよ。
三人の理想を追い求めるなら、ここから先は後戻りはできない。それでもいい?」
その言葉に三人は顔を見合わせて、静かに頷いた。確かに彼女達が追い求めていたのは、偶像としての忍者――憧れに過ぎなかった。
本来ならば偶像を追い求めるだけの虚像でしかないが、ユーリの提案に乗れば厳しい訓練があったとしても偶像として、そして本物としての忍者になることができる。
ユーリの言葉通り先ほど味わった抹茶コーヒーの味を思い出した。決して強い苦さではないが、それでも確かに苦さはあった。その苦さがあるからこそデザートの甘みがより一層味わえたのだ。
訓練は決して甘くはないだろう。それでも理想を追い求めるのならば、これは最初で最後のチャンスになる。三人の答えは決まっていた。
「「「よろしくお願いいたします!」」」
今、彼女達は重い一歩を踏み出した。道化と言われようと理想を追い求める光の道、そして人知れず仕事をこなす影の道。二つの道を両方修めるには、文字通りいばらの道だろう。
だがそのその一歩一歩は、とても重いだろう。修練の厳しさも、責任を負う重さも。
それでも彼女達はまだ見ぬ輝きへと向けて歩き出していく。
抹茶コーヒー、実は普通に売っています。
少し前までは紅茶コーヒーもありましたが、最近はあまり見かけません。調べてみると香港の
コーヒーについて少し調べましたが、焙煎度合いひとつで本当に奥が深い。
今回は中煎り程度のものを使い、さらに抹茶ラテを混ぜているので、忍術研究部の三人でもおいしく飲めるようにしています。
そしてタイトルの元ネタはご存じ「チルノのパーフェクトさんすう教室」です。
いや、「教室」という単語が出たらこれしかないな、と。