Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
運よくというか、都合よくというか、シャーレオフィスビルのすぐ隣のビルが丁度競売に出されていた。もしかするとあの大暴露の余波を受けて売りに出されたのかもしれない。
シャーレオフィスビルに比べれば規模はそんなに大きくないが、クラフトチェンバーの機能をうまく利用すれば設備の改装はもちろん、その気になれば作り直すことすら可能なので、必要に応じて自由に作り替えたり、施設を追加することもできる。
これには先生も「それなんてデスストのカイラルプリンターだ……」と呟いていた。*1
他に問題があるとすれば、店員の練度。
さすがにアルバイトを雇うこともまだできないため、駐在部隊のアクア小隊や外部部隊のリビング小隊の二部隊によるシフト制と、アビドス高校から希望者を呼ぶしかない。
とはいえ百代堂の経験がある二部隊は即戦力になるし、アビドス高校からの希望者も教育したり、転職させればそれなりの戦力になる。
しかし一つの高校に頼っているのも将来的には問題があるので、職業訓練でそれなりの信頼がある人材を見つけたらスカウトするしかないだろう。
土地と建物、そして人材の問題もある程度解決したら残る問題は一つ。
"カフェの名前、何がいい……?"
そう、店名だ。
連邦捜査部シャーレという、大層な名前がついている組織に相応しい店名を、誰もまったく思いつかなかったのだ。迷走した案ならいくらでもあったが。
ちなみに先生はこっそりアロナにも聞いてみたが、案の定思いつかないだけでなく、考えすぎた影響で昼寝をしている。本当にAIなんだろうか……?
「確かシャーレって名前も正式名称は不明なんだよね」
考え事に関しては一番信頼できるカヨコの質問が飛んできた。
確かに先生は言われるがままに大役をやる事になったが、明確な目的が不明なだけでなく、何故『
"うん、リンちゃんに聞いてもわからないって"
ちなみに先生が言う『リンちゃん』とは連邦生徒会の首席行政官『七神リン』の事であり、生徒会長が不在の現在、代理とはいえ実質連邦生徒会のトップに位置する人物だ。
相当な立場の人間をそんな呼び方でいいのか先生……。
そこで全員が思い思いに悩みぬくしかなかった。
アクア小隊もリビング小隊も身もふたもない言い方をすれば、ほぼ全員学力が低い。そんな面々に立派な名前を考えてくれと言うのも無理もない話だ。
日本で喫茶店や酒場などの名前を、思いつきで『
ちなみにその意味は『石灰光、灰白灯、注目の的、人目につく立場』――響きの華やかさとは裏腹に、意外と渋い意味合いである。
「確かシャーレは、ガラス製で平皿状の実験器具だったわね……安直だけど、実験器具繋がりで名前を選ぶのが一番だと私は思うわ」
アルの意見も確かだ。実は彼女は学力という面では意外なことに上位に位置している。それがなぜぽんこつかつアウトローの道へ進んだのかは、いまだに謎だ。
とはいえ、シャーレに所属している全員が学力が高いわけでもない。
ワカモも業務について行くために学力を上げているが、まだまだといったところだ。
そしてユーリは中学時代猛勉強をしており、その下地は今に生かされている。
だが、それっぽい単語を組み合わせて頭文字で実験器具の名前にする、というのは意外と難しいものだ。アニメやゲームの制作者はよく考えるものだと思う。
「それならネットの相談AIを使ってみましょうか? ブラックマーケットではあまり使う機会がなかったけど、こんな時こそ使えるものは使っておくのに限るわ」
今日のアルは冴えている。何人かは(いつもこんな感じだったらよかったのにな……)と思ったのは言うまでもない。
そして各自スマホでAIサイトを利用すると、ある程度の結果に収束した。*3
確かに実験器具繋がりでは有名な品だ。誰もかも化学実験で思いつくのはこれだろう。セリカなんて「フラスコのスペルってこんなんだったんだ……」と呟いていた。
頭文字案はいろいろ出たが、各自の意見を元にカフェらしい名前が決まった。
つまり、気軽な談話と支援の場、ということだ。これならカフェの体裁もあるし、依頼や支援なども行う事ができる場所でもある。
カフェの名前も決まった。準備もある程度できている。土地や建物の心配もない。
ここまでくれば、あとは駆け足のように物事は進んでいく。
そして、シャーレ直属カフェ『
だが、話題が大きければ、当然トラブルを呼び込むはずだが――
ゲヘナでも悪名高いテロリストの美食研究会がSNSで「行かない」と宣言すると、その波紋は瞬く間に広がり、周囲を観察していた不良生徒が激減することになった。
ただでさえ、ヴァルキューレ警察学校からの委託業務も、このカフェを通じて受けられるのだ。もし何か不埒な事を行おうと偵察に出れば、ゲーム序盤に出てくる雑魚敵のように、即座に狩られて資金と経験値にされてしまうだろう。
不良たちが集まるネットの掲示板ではよほどのことがない限り関わってはいけない、危険地域として認知されることになった。
そうして、シャーレから仕事を受けられるカフェ――フラスコは、その知名度を着実に上げていき、確かな評価とともに広く認知されていった。
「ねぇねぇナギちゃん。新しくできたカフェは行ってみた? あそこのロールケーキも美味しいみたいだし、今度一緒に行かない?」
「別に構いませんが……でも、あそこは角持ちの生徒も通うそうですよ?」
華やかな学校のテラスにて桃色の長髪を持つ少女が、優雅に紅茶を味わっているナギちゃんと呼ばれた少女に誘いをかけるが、返って来た言葉に露骨な嫌悪を示した。
「――やっぱりいいや。角持ちだなんて、気味が悪い」
その言葉に、紅茶を味わっている少女は内心で苦い表情を浮かべていた。
(ゲヘナだけでなく百鬼夜行連合学院の生徒もひとくくりにされている……もしこれが向こうの組織に聞かれたらと思うと気が気ではありませんね……。
いまだに続いている差別教育の撤廃、そしてあの血統を定期的に取り入れているのを、何としても阻止しなければ……)
「はい、フラスコのスペシャルメニュー『気まぐれBigRemixプリン』ですよ」
「わーい! イブキこのプリン食べたかったんだー!」
ゲヘナにある
もともとは仲間内のためにユーリが試しに作った、通常よりも大きなプリンで、いくつもの味に分けられた、いわば“ビッグ”で“ビックリ”なリミックスの一品だ。*4
それが好評だったために販売する事にした。しかし気まぐれで作るため、毎回味も変わるし、作る数も一定しない。だがそのボリュームと美味しさ、そして安さに惹かれる人は多い。
「マコトがでないと本当に平和ですよね。再びバラムツ料理をユーリさんに頼みましょうか?」
「えー、でもずっとオムツは可哀そうだよ? ずっと臭いのはイブキもいやだよ」
哀れマコト。いまだにバラムツを無理やり食べさせられた影響は残っており、自主的な自宅待機状態となっている。無論本人もオムツ状態で外に出るのは屈辱だろう。
今日もゲヘナ風紀委員会が平和に動けているのは、ユーリのおかげである。
「お待たせしました。テイクアウトの――カツ丼です」
「私は偵察と軽食のテイクアウトを頼んだはずなのよね……? どうしてカツ丼なのかしら?」
少し薄暗い室内、メイド服の女性がスーツ姿の女性にテイクアウトのカツ丼を差し出した。
「外の作品で、コーヒーが美味しい喫茶店に何故かあるカツ丼に惹かれまして。私も食べてみたのですが美味しかったですよ」*5
その悪びれない言葉に、スーツ姿の女性はため息をつきつつもカツ丼に手を出した。
「それならカツサンドもしくはカツカレーでも良かったと思うんだけど……あ、美味しい。
それはそうとして、シャーレの方はどう? 先生とコンタクトを取りたいのだけれどアポイントメントは取れたかしら?」
「それは勿論。不在でしたので代理として一番地位が高い人に伝言を頼んでおきました」
「……噂の『
スーツ姿の女性は意外にもカツ丼を食べる手を休めずに、そう呟いた。
次はカツカレーを買ってきてもらおう、などと思いながら。
ゲームでもあったカフェを取り入れてみました。時間経過でAPとクレジットが入手できる仕様を、経営と仕事の
色々と次への伏線も最後に書きましたが、この後は大まかなプロットしか出来ていませんので、次の章は少しお時間をいただきます。ご了承ください。
タイトルの元ネタは、ユニゾンシフトから2001年に発売されたR18PCゲーム「胸キュン! はぁとふるCafe」です。うーん、古い。
実は初期案では美食研究会がやってきて、全員斬り倒すシーンを書いていたのですが、流石に店前でも客たちの前で斬殺はやばいと思い、即座に書き直しました。
ユーリはテロ行為に関しては本当に容赦ありませんので……。
今回リンクした楽曲
銀河を独り揺蕩う ~from 崩壊:スターレイル~
実はスタレはやっていません。というか時間と懐が足りません。この辺の楽曲は有名なのでよく聴いていました。他の楽曲も今後使う予定ですので、ぜひ期待していただければと思います。
喫茶店に合いそうな曲をチョイスしてみました。