Paradise of the Disqualified:Rewritten World 作:GameMaster
01話 陽だまりの陰で
太陽が沈み、夕方から夜へと変わっていく時間帯。陽だまりにゆっくりと影が落ちて行く時、シャーレのオフィスビルに二人の女性が入って行った。
入り口からエントランスを抜け、エレベーターホールへと二人の女性が歩いて行くと、一人の少女が待ち構えていた。
「――定刻通りですね」
「大したトラブルも起きなかったから当然よ」
当たり前だが、シャーレオフィスがあるD.U.シトラリ地区にも一応
だが今日はフラスコで発注している巡回依頼の他にもアクア小隊とリビング小隊、そしてアビドス高校にも巡回を依頼していたのだ。
多少過剰かもしれないが、その辺りをマスゴミに嗅ぎ付けられても後処理が面倒な為、保険は少々過剰が丁度いい。そして、連邦生徒会の制服を着た銀髪の女生徒――真神ユーリが出迎える人物は自然と大物待遇となる。
「失礼しました。改めてこちらの自己紹介とそちらの身分を確認させていただきます。
直属親衛隊『キュベレー』隊長、真神ユーリです」
「ミレニアムサイエンススクール生徒会長の
「護衛の
ミレニアムサイエンススクール。
先のアビドスでの出来事で様々な支援を行ってくれた学校だ。しかも生徒会であるセミナーのトップである彼女が直接出向くとなると、かなり大事な依頼となるだろう。
二人から渡された学生証をスマホの機能を使って読み込んで確認すると、本人認証も通り、二人とも本人であると確認された。
流石に無いと思いたいが、偽物を使った偽依頼だった場合でも確認の為にユーリを出すしかない。それで偽物だったら……ご愁傷様としか言えない出来事になるだろう。
「はい、確認しました。それでは案内します。こちらへどうぞ」
ユーリがエレベーターへと案内すると、いつの間にかワカモが近くに佇んでいた。万が一の為に離れた場所で待機していたのだ。
ワカモも連邦生徒会の制服を着ていた為にトキの方は気づかなかったが、リオの方はその顔を覚えていたのか、僅かに緊張した表情をしていた。
(何者かによって消された七囚人の情報……数少ない情報の中で判明しているのが『厄災の狐』と呼ばれるワカモが、シャーレに在籍しているって噂は本当だったみたいね……。
ブラックマーケットで悪名高い『
オフィスに通されると、先生との挨拶もそこそこに、リオと先生はそれぞれソファに座る。
するといつの間にかメイド服に着替えたユーリがお茶を出し、ワカモと共に先生の後ろに立った。トキもリオの後ろに立っていたが、無表情を装いながらも内心驚愕していた。
"それで、この時間帯を指定したという事は公にしたくない依頼、という事でいいのかな?"
先生の質問にリオは少し目を伏せていた。恐らくは失敗できない類の内容なのだろう。
「そうね……下手をすると大事になってしまうから、内密にお願いしたい依頼ね。
ミレニアムの廃墟に眠っているとされている『G.Bible』の確認、そして管理か破棄」
"……その『G.Bible』というのは? 名前からして何らかの本だと思うんだけど?"
「前々から連邦生徒会からセミナーに『G.Bible』と呼ばれる謎の危険遺物があるとだけ伝えられているの。誰が残したかが謎。
だけど、月光洞……最悪を想定するならば満月光洞から流れ着いた可能性も否定できない。最悪、ミレニアムだけでなくキヴォトス全土に厄災をもたらす可能性があると思っている」
この話を聞いたシャーレの三人は「また月光洞絡みか……」と内心うんざりしていたのは言うまでも無い。何しろアビドスでの出来事も元はと言えば、月光洞から遺物が流れて来たという曖昧な情報から始まったのだ。そして流れ着いてきた遺物も未だに見つからず、情報も無い。警戒するのは仕方がないのだ。
"『G.Bible』の詳細確認。安全と判断したなら管理、危険と判断したら破壊、か。まぁ妥当と言えば妥当な判断だね……。話を聞く限りは前々から手を出さないようにしていたみたいだけど、どうして今更的な話を?"
「廃墟は元々は連邦生徒会が封鎖していた地域だったのよ、当然そこに何かがある噂が出て来るわ。だけど連邦生徒会長の失踪がきっかけで、警備の人間は引き上げ、封鎖は形骸化。そして最悪な事に、その隠すことしかできない情報をヴェリタスが嗅ぎ付けて
そこまで言われればミレニアム関連の知識が乏しい先生でも嫌でもわかる。
ヴェリタスはセミナーに情報を独占させないために発足した、いわば
事実、ヴェリタスの面々をある程度知るユーリとしては、常識人は一人か二人だけで、後は非常識の枠組みに入ると予想している。
そして知るだけで危険な情報をむやみに引っこ抜いた挙句、適当な理由をつけて拡散したならば、場合によっては最悪の展開を考えるしかないのだ。その危険性が今回は現実になってしまった事でリオは内密に依頼する事にしたのだろう。彼女は出されたお茶を一口飲んでから話を続けた。
「――さらにそこからお宝のような噂がくっついて、何人かの生徒が危険を顧みず廃墟に行っては、遭難したり大怪我したりする事態が起きたのよ。
幸いにも全員、命に別状はないけど、今後の為に調査してほしいの。
だけど表立ってやると、それに乗っかってまた勝手に出る生徒がいるとは限らないから、可能なら探査に向かうような生徒と行動を共にして、生徒の安全を確保してほしい」
その言葉に三人とも、内心面倒だけど断れない依頼だと確信した。それでも先の戦いでは大きな貸しを作ってしまったのだ。
それに遺物の内容によっては借りを返せるだけでなく、貸しを作れるかもしれない。
"そうしたらミレニアムから来た適当な依頼を探して、利用するしかないな……"
「そちらがよろしければシャーレかフラスコ宛に表向きの依頼を出すけど?
それとフラスコで思い出したのだけど、前に食べたカツ丼は美味しかったし、コーヒーも悪くなかったわ。また今度注文するわね」
ネタとして提案したカツ丼が意外と好評だったみたいだ。
世の中何が受けるか判断できない物である。そのため後ろに控えていたユーリはカツメニューでも増やしてみようかと真剣に考え始めていた。
セミナーからの表向きの依頼は、下手をするとまたヴェリタスが
翌日、朝食を食べながら三人は依頼について話し合っていた。依頼内容もそうだが、今回は内密にする為に大人数で行ける依頼ではないのだ。
"そうなると今回は少数精鋭かな? キュベレーの二人は当たり前だけど、最低でもあと一人か二人は欲しいな……。主な戦闘を廃墟で行うとしても、ユーリが廃墟を更地にするのは避けたい"
「アクア小隊からは出さない方がいいね。あそこは
「そうなると消去法としてリビング小隊になりますわね。シロコさんはあの猪突猛進な性格、セリカさんは考え事が疎かになりやすいので、逆にトラブルを招き入れる可能性は否定できません。
そうなるとホシノさんかノノミさんかアヤネさんの内から一人だけが妥当ですわね」
"
朝食と片づけを終えて、居住スペースから隣のオフィスへ話し合いながら移動して、ミレニアムの依頼を探しながらも、本題への手は緩めない。
"ひとまずホシノに第三級召集命令を発令するね。まずはシャーレかフラスコに来たミレニアムからの依頼で何か使えそうなのはある?"
色々な依頼が多いが、真面目な物からふざけた物まで千差万別。それでも意外と依頼内容に面倒な物が多いが、ある一通の手紙がユーリの目を引いた。
「……なにこれ? あまりにもふざけてない?」
"なになに……? なにこれ? 切羽詰まったのはわかるけど……勇者ってのは壮大すぎるというか、何と言うか、火力が高すぎるというか、不真面目を真面目にやってると言うか……"
それは、ゲーム開発部から来た手紙。内容は……ゲーム風に壮大に書かれていたが、早い話が『廃部になりそうなので助けてください』とのことだった。
無駄に言い回しが長く、先生もコメントに困っており、ユーリからしたら無駄な言い回しより、さっさと本題と廃部になる理由を書けよと言いたい内容だった。
「勇者ですか……ユーリさん。種族か職業としてはあるのですか?」
ゲーム関連にはそんなに詳しくないワカモでも、お話としての勇者は何となく理解できる。
ドラクエも嗜んでいる先生としても、気になる話だ。
「一般職の見習い勇者、上級職の勇者、最上級職の光の勇者・闇の勇者、封印職の混沌の勇者、禁職で王系統と統合した英雄王だね」
"もしかしてと予想はしていたけど、やっぱり禁職まであるとはな。
それに光と闇って……闇堕ちでもあるの?"
もはや闇落ち光堕ちはお約束の類となっているが、興味はないと言えば嘘になる。その辺りは素直に聞いてみることにしたが、ユーリの答えはその上を飛び越えていた。
「いえ、単純に加護の話。創世の女神か、その対の邪神からの加護ってだけ」
"スケールが一気に大きくなったなぁ……"
「そうですわね……創世……創世の女神ですか……世界を作ったって事ですよね……?」
まさか、ここで神話級の話が出るとは思わなかった為に二人は少しの間遠い目をしていた。
創世の女神と邪神。それは第九世代宇宙にて
まさに神々からの祝福。光と闇の勇者とは神話級から加護を受けた伝説級の存在なのだ。*3
そして先生は気づいてしまった。知ってはいけない知識の門が開いたように、遠い目のまましばし呆然とし、考えていたことが口から漏れてしまった。
それが、大きな衝撃を与えるとは知らずに。
"……まさか、職業か種族にあったりして?"
「ご名答。禁種の創世の女神と邪神ね。
前提条件が非常に厳しいから流石の私でも満たしてないけどね」*4 *5
この時点ですでに先生とワカモの二人は、口から魂が抜けたように放心していた。
無理もない話であろう。自分達は学校などの自治区で起きている問題を解決し始めた立場なのに、急にスケールが大きすぎる話を投げかけられれば誰だってそうなる。
"いや、本当にあったなんて……"
「……そうですわね。もしユーリさんがどちらかの神になったら、神頼みの時に祈りましょう」
「せめて先生にして」
"いや僕を神にしないで"
頭の中を再起動しつつ、しょうもない話で精神の安定を行っていると、「来たよ~」と気の抜けた声と共にホシノがオフィスに入ってきた。三人が入り口の方へ視線を向けると、ホシノは軽く咳払いをしてから敬礼と共に着任の報告を行った。
「シャーレ外部部隊『リビング小隊』隊長、小鳥遊ホシノ。第三級召集命令によって来ました。これより任務に合流します、っと」
"だいぶ貫禄が出て来たね"
「うへへ~。まぁそりゃ生徒会長やって、部隊長やって、将来はここに就職だからね~。今まで勉強できなかった分大変だけど、やりがいあるからね」
先生の言う通り、ホシノは初めて会った時よりも雰囲気が変わっていた。
気怠そうな表情は相変わらずだが、何かを諦めたような不穏な空気は持っておらず、以前まで抱えていた悩みに一つの区切りをつけたことで、どこか余裕のある雰囲気を醸し出していた。それは、戦いを重ねた者だけが持つ強者としての風格にも感じられる。
実際、人外能力としてはユーリを除いて誰も保持していないゾンビ系統を持っており、今回の任務で大きな経験を積む機会があれば、最上級種のイシスへと昇格できるだろう。
ホシノが空いている席に着いたのを確認してから、ミーティングを始める事にした。
"ではミーティングを始めようか。
今回の依頼はミレニアムの自治区にある廃墟の探索がメインです。まずは潜入任務のカバーとして適当な依頼……この場合はゲーム開発部の廃部に対する救援として移動"
ホシノはそこで先生からゲーム開発部から送られた手紙を渡されて閲覧すると、みるみるうちにものすごく嫌そうな表情を浮かべた。先生は苦笑を抑えつつ、話を続けた。
"依頼を適当に切り上げるか、完了した後は廃墟に眠る謎の遺物『G.Bible』の探索と確認。発見次第危険度の確認とその対処です。今回は誤った情報が拡散されて、ミレニアムの生徒が廃墟探索を行い、遭難したり大怪我を負った生徒が出て来る事態に陥りました。
その為今回は他の生徒が大勢付いてくることを避け、少数精鋭での任務になります。大人数での対処では怪しまれる可能性もありますからね。消去法の結果、ホシノが選ばれました"
「それは重大だね。しかし、Gな
何気なく口に出たホシノの疑問もごもっともだ。頭文字がGで、危険な物として真っ先に思いつくのは、
仮にローマ字読みで黒光りするアレな虫だったら確かに危険すぎる。誰もが想像してしまい全員青い顔をしているのは仕方ない事だ。
ホシノは自分で言った事を後悔したが、その事を忘れるように話題を変えた。
「潜入任務と言えば、前に面倒を見始めたイズナちゃんたちは? あれは一応
「無理。何と言うかまだまだ英雄願望が抜けきれないから、ランニングの時に「影走りの術ぅ~」と言いながら走って、追走訓練では「追いかけの術です~」とか、スニーキングの訓練でも足音を消しているのに「さささっ!」って口にしている時点で失格。
でも意欲も高いし、今後に期待だね」
ちなみに、この時監督をしていたユーリによる一喝が飛んだのは言うまでもない話だ。
話もまとまった事で、ユーリは先生に最終確認を取った。
「では、先生。今回の
"これより――連邦捜査部シャーレは、
その為今回は少数精鋭での出撃となる。危険度は未知数。総員、第三種戦闘配置!"
新たな物語が動き出す。舞台はミレニアムサイエンススクール。
しかし誰も想像できなかった。月光洞から流れ着く物は何処まで不可思議なものだという事を。
先生の記憶は封印されている為に思い出せない。月光洞は何処に繋がっているのかと。
本当に長らくお待たせしました。新章開幕です。
今回から、各話のタイトルにはゲーム開発部のメンバー、それぞれの元ネタとなったブランドの作品名を抜粋して使用していく予定です。
今回のサブタイトルは、TinkerBellの「陽だまりの陰で」からです。